フレディ・マーキュリーのソロ・ベスト・ビデオ10選:フレディや関係者の証言で振り返る映像大作
フレディ・マーキュリーはアルバム『Mr. Bad Guy』と『Barcelona』でソロ活動を始めるずっと以前から、ミュージック・ビデオが持つ力を熟知していた。彼のクイーンでの作品には、革新的な2作のプロモーション・ビデオ(「Bohemian Rhapsody」と「I Want To Break Free」)が含まれていたが、フレディ・マーキュリーのベスト・ビデオ10選を観れば、彼が自身のソロ作品の波及効果を高めるために、いかに視覚的要素を巧みに活用していたかがおわかりいただけるはずだ。
フレディはかつて、ミュージック・ビデオがファンにとって有効なのは、それが「曲をただ聴いた時よりも、格段にその内容に対する洞察を喚起してくれるから」だと語っていた。また彼は、それが「アーティストの求めるところに多分に近い感覚」を聴き手にもたらしてくれるものだとも発言していた。
彼は自らのビデオ作品の中で徹底してオリジナリティを追求した。これからご紹介するフレディ・マーキュリーのベスト・ビデオは、いずれも先頃35mmのオリジナルから高品位ウルトラHD4Kヴァージョンにリマスタリングが施され、カメラの前でも彼がいかにカリスマ性を持ったスターだったかを偲ばせてくれるものである。
フレディ・マーキュリーのベスト・ビデオ:ポップの大作10選
10:「Love Kills」
「Love Kills」はフレディ・マーキュリーのソロ曲で、元々はジョルジオ・モローダーが大ファンだった1927年のサイレント映画『メトロポリス』をジョルジオ自身が再編集した1984年のジョルジオ・モロダー版に使用された。シンセサイザー奏者のラインハルト・マックをフィーチャーしたこの曲は、1984年に全英シングル・チャートで10位を記録している。2019年には曲の歌詞がビジュアル化されたオフィシャル・リリック・ビデオが制作された。
9:「Living On My Own」
「僕の曲 ‘Living On My Own’を聴いてもらえればわかる通り、あれはまさしく僕そのものなんです。ひとりぼっちで暮らしていますが、楽しくやっているんです」とフレディ・マーキュリーは語っていた。1985年9月、クイーンの“ライヴ・エイド”での輝かしい大復活パフォーマンスから僅か数ヶ月後に、彼は自身39回目の誕生日を祝うワイルドなパーティーを開き、奇抜で常軌を逸脱したスタイルでお楽しみに耽った。
「フレディが電話をかけて来てこう言いました、“ミュンヘンの誕生パーティーに来てくれ!みんな女装して来るんだ。ひとり残らずね”」と振り返るのはクイーンのフォトグラファー、リチャード・ヤングだ。パーティーはオールド・ミセス・ヘンダーソンというナイト・クラブ(現在はパラディソ・タンズバーという名になっている)で開催され、フレディ・マーキュリーはその翌日再び同じ店に姿を現し、1985年のシングル「Living On My Own」(ソロ・アルバム『Mr. Bad Guy』収録)のビデオ撮影を行った。ルディ・ドレザルとハンス・ロサシェルが監督を務めた同ビデオでは、フレディ・マーキュリーが敬愛するエラ・フィッツヘラルドへのオマージュとも言える、スキャットを歌うシーンがフィーチャーされている。
8:「Love Me Like There’s No Tomorrow」
フレディ・マーキュリーは、1985年11月、アルバム『Mr. Bad Guy』からのシングルとして初めてリリースされ、自らが書いた「Love Me Like There’s No Tomorrow」をとても誇りに思っていた。「アルバム収録曲は全部気に入ってますが、その中でも特に好きな曲と言えば、仕上がりに満足している‘Love Me Like There’s No Tomorrow’です。内容はとてもパーソナルなもので、5分で書き上げて、何もかもが自然にあるべき形に収まりました。とにかくとてもエモーショナルで、パワフルで、僕はあの曲が大好きなんだ」とフレディは語っていた。
2019年9月には、監督のエステバン・ブラボとベス・デヴィッド、そしてアニメーションを担当したウッドブロックによって、この非常にパーソナルな曲に新たな視覚的映像が与えられた。
エステバン・ブラボとベス・デヴィッドは、この短編映画の制作にあたり、「私たちはこの映像でフレディの人生についての物語を描きたかったのですが、かと言って決してどぎつい内容にしたくはありませんでした。80年代のエイズ禍はLGBT+の歴史において非常に大きな部分を占めており、慎重に取り扱うべきものだと理解していましたから」と語った。
7:「In My Defence」
オーストリア人映画製作者のルディ・ドレザルは17歳の時、ミュンヘンのヒルトン・ホテルのバーでインタビューのために初めてフレディ・マーキュリーと顔を合わせた。その後ルディ・ドレザルは、友人となったフレディについてのドキュメンタリーを制作することになる。あれほど派手で華やかなパフォーマーであるにも拘らず、このロックスターは、「まるで雪の中でさっと身を翻していなくなってしまう、臆病なシカのように振る舞う時もあった」と彼は話していた。
フレディ・マーキュリーが1991年に死去した後、ルディ・ドレザルは、デイヴ・クラークによるミュージカル『TIME』の中で起用された「In My Defence」のモンタージュ・ビデオを監督した。このビデオには在りし日の、生気に溢れたフレディ・マーキュリーを偲ばせてくれる沢山のアウトテイクや写真、映像がフィーチャーされている。(デイヴ・クラークとフレディについてはこちらも合わせてどうぞ)
6:「How Can I Go On」
フレディ・マーキュリーと世界的ソプラノ歌手、モンセラート・カバリェが「How Can I Go On」(フレディ・マーキュリーとマイク・モランが共作)を歌う、心を強く揺さぶられる映像は、1988年10月に、バルセロナのモンジュイック城で行なわれたラ・ニット・フェスティバルでギャヴィン・テイラーが撮影したものだ。
「How Can I Go On」はアルバム『Barcelona』からリリースされたサード(そしてファイナル)シングルで、タキシードに身を包んだフレディ・マーキュリーは、著名なスペイン人歌手との共演を誇りに思っていた。
「モンセラート・カバリェのパフォーマンスはセンセーショナルです。彼女にはアレサ・フランクリンと同じような独特のエモーションがあります。どの曲を取っても彼女の歌い方はとても自然で、それは稀有な天賦の才能なんです。彼女と同じステージで歌えたことは素晴らしい経験でした。本当に、まるで夢みたいでした」とフレディ・マーキュリーは語っていた。
5:「Time Waits For No One」
40年にも渡ってずっとお蔵入り状態だった音楽的至宝が発掘された後、デイヴ・クラークは、フレディ・マーキュリーが余計なものを一切削ぎ落として歌った「Time Waits For No One」のパフォーマンス映像(1986年制作)の復元に大きな役割を果たし、新たに修復された同ビデオは2019年に発表された。
フレディ・マーキュリーのオリジナル・ビデオは、4台のカメラと35mmの高品位フィルムを用いて、ロンドンのドミニオン・シアターで撮影された。シアターでの撮影開始直前にフレディ・マーキュリーが「どんな風に演って欲しい?」と訊ねてきたと、デイヴ・クラークはuDiscover Musicに明かした。そこで彼は、「エディット・ピアフ、ジェニファー・ホリデイ、シャーリー・バッシーを足して3で割ったようなもの」が欲しいとフレディに伝えたそうだ。
この時の返事をフレディ・マーキュリー自身が振り返る1986年の素敵なインタビュー映像が残っている。「ああ、なるほどね。だったらそれ向けのドレスはどっさりあったのに。僕なら完璧に演れるよ」と彼はジョーク混じりに答えたそうだ。「Time Waits for No One」のビデオは、エモーショナルな歌詞を情熱的に表現するフレディ・マーキュリーのヴォーカリストとしての力が余すところなく捉えられている。
4:「Barcelona」
モンセラート・カバリェと歌う度にいつも“とてつもなくゾクゾクしていた”というフレディ・マーキュリーは、クー・ナイトクラブ(現プリヴィレッジ・イビザ)で開催されたザ・イビザ・フェスティバルでの彼女とのデュエットを楽しげに回想していた。エネルギッシュなパフォーマーであるフレディ・マーキュリーは、彼らの最も有名なレパートリーとなった「Barcelona」を初めて公の場で披露するにあたり、2人でどう振る舞えば良いか、このオペラ・スターにたいそう控えめなアドバイスをしたことを明かしている。
「彼女がどんな風に振る舞えばいいかしらって僕に訊いてきたので、僕は“ああ、そこに立って歌えさえすればいいんですよ”と伝えました。いわゆる普通のオペラのリサイタルなんかでやる通りにね。僕はといえば、多少なりとも自分を抑え込まなければなりませんでした。いつものようにバレエみたいな動きをしたり、跳ね回ってポーズを取ったりしてはいならない、とにかくこの曲を最初から最後まで歌うことに徹しないといけないと、自分に絶えず言い聞かせなければならない。しかもあのいまいましいタキシード姿で。今まで観客の前でそんなことをやったことはなかったのですが、とにかくやり通せました。あの時の会場の雰囲気は素晴らしかった」
3:「The Great Pretender」
クイーンでの長年のコラボレーター、デヴィッド・マレットが監督を務めた、フレディ・マーキュリーの「The Great Pretender」のミュージック・ビデオ(1987年)は、クイーンの過去のビデオ作品のパロディーが散りばめられたもので、女装したクイーンのドラマー、ロジャー・テイラーとテレビドラマ『ドクター・フー』の俳優ピーター・ストレイカーがバッキング・シンガーとして登場する。
フレディはこのビデオ撮影時までに、彼のトレードマークの口ひげを剃っていた。
「僕がやっていることの大半は何かのフリをしているだけなんです。演技みたいなものでね。ステージに上がればマッチョマンとか、色んなもののフリをしている。 ‘The Great Pretender’って曲が素晴らしいと思ったのは、まずタイトルが僕がやってることそのものだというところ。僕こそが偉大なるプリテンダー(詐称者)ですから、僕の頭の片隅にはずっとそういう意識があった気がしていて。あのビデオの中で、僕は過去のビデオで演じてきた様々なキャラクターをおさらいしてている。つまりまたフリをしてるというわけです。僕がずっと信条として持ってることは、結局のところPVに関して言えば、どれだけ上手にイメージを作り上げたところで、曲が良くななければどうしようもないことなんです」
2:「I Was Born To Love You」
「I Was Born To Love You」(1985年)のビデオで振り付けを担当したアーリン・フィリップスは、フレディ・マーキュリーについて、「フィジカルな意味でとてもクリエイティヴな人」だったと表現する。見る者の目を奪う彼の動きは、「I Was Born To Love You」(同じくソロ作『Mr. Bad Guy』収録)のビデオの成功にも一役買った。また、フレディ・マーキュリーは“バレエを大衆に広めようとしていた”とアーリン・フィリップスは付け加えた。
再びデヴィッド・マレットが監督が務め、後に取り壊されてしまったロンドンのライムハウス・スタジオで撮影されたこのビデオの中で、フレディ・マーキュリーは鏡の壁の前で踊っており、次にホット・ゴシップのデビー・アッシュと共に家の中を走り抜けた後、演台の上で踊っている。
「ビデオの撮影は、とにかく楽しくやりたいと思っています。‘I Was Born To Love You’では基本的に僕の家の中でふざけて跳ね回ってるだけなんですが、あれは僕が毎晩やってることそのものです。だからとても簡単に出来ました。ダンスはなかなか難しくて、カットされた部分には、ここに映っているものよりもっと難しいパートがありましたよ」とフレディ・マーキュリーは語った。
また、フレディ・マーキュリーは、鏡の後ろ側に人が立って、それを揺らす、というアイデアは自ら思い付いたものだ明かし、「とても安く効果を作り出す方法でした」とジョークを飛ばしていた。
1:「Made In Heaven」
「ビデオはラジオよりも重要な役割を果たすものです」とは、70年代から80年代にかけて、音楽シーンが変貌を遂げつつあることに対してフレディ・マーキュリーが放った言葉である。彼が遺した最も華やかなビデオのひとつと言えば、アルバム『Mr. Bad Guy』からのシングル「Made In Heaven」である。
再びデヴィッド・マレットが監督したこの作品のプロダクションは圧倒的だ。制作陣はノース・ロンドンの倉庫をひとつ借り上げ、ロイヤル・オペラ・ハウスのレプリカを作り上げたのである。ダンテの『神曲(地獄篇)』のシーンを再現するために、数十人ものヌード・エキストラが用意された。フレディ・マーキュリーは赤と黒の衣装に身を包み、真紅のサテンの大きな布を掲げている。終盤の堂々たるシーンで、シンガーが立っているのは高さ67フィートの高さの回転する地球の頂点だ。
Written By Martin Chilton
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[収録内容]
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●バレエ(1997年/約90分)
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