ビリー・アイリッシュのベスト・ソング10:ベッドルームから生まれた冒険的で刺激的な楽曲たち
音楽ストリーミングが普及し、ヒットの法則が様変わりした現代のポップシーンにおいてさえ、2022年12月18日に21歳となったビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)のように世界的なスターダムを駆けあがったアーティストは他に類を見ない。ちょうどZ世代がアメリカ文化に大きな影響を与えるようになった頃から、ビリーは、他の誰にも似ていない、濃密でジャンルを問わない音楽を届け続けている。
彼女の初期のサウンドは従来の音楽カテゴライズを無視したものだった。実家のベッドルームで制作され、彼女の実兄であるフィニアスがエンジニアとプロデュースを担当した楽曲たちは、異様なまでの洗練さと圧倒的な強度を同時に備えており、そのトラックの上でビリーはジャンルの壁を難なく飛び越えていた。それらの楽曲とともにビリーはキャリアを重ね、その軌跡は彼女が現世代のビッグスターのひとりとなることにつながっている。
サウンド的にもヴィジュアル的にも、ビリー・アイリッシュとはカメレオンのような存在と言えるだろう。ダウンテンポのバラードでも、床を踏み抜きそうなバンガー・トラックでも、彼女の存在感は比類できないほど大きく、スポットライトを浴びながら成長してきた10代の苦しみも伝わってくる。
ビリーが今まで発売してきた2枚のアルバムは、2019年の『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』と2022年に発売された『Happier Than Ever』は、今やZ世代以下のミュージシャンたちにとって欠かせない参考文献としても重宝されている。
この記事で紹介するビリー・アイリッシュのベスト・ソングが示すように、彼女は冒険的で刺激的な音楽を作り続けるだろう。それでは彼女のベスト・ソング10選を発売順に紹介しよう。
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初期:青写真の確立
ビリー・アイリッシュの初期の楽曲は、後に続くもののためのトロイの木馬であった。ロサンゼルスのハイランドパーク地区で舞台俳優の両親に育てられ、兄のフィネアスとともに制作していた楽曲には、リズムの力とメロディーが詰め込まれている。初期に発表された楽曲たちは“ビリー・アイリッシュ”というアーティストの青写真を確立していた時期のものだった。
1. Ocean Eyes
2015年、13歳の彼女がSoundcloudにアップして即座にヒットを記録した「Ocean Eyes」は、ビリーの自信に満ちた歌唱とフィニアスによる制作アプローチを紹介している楽曲だ。この頃から既にリスナーを熱狂させてきたと言えるだろう。
2. Bellyache
2017年2月に発売された「Bellyache」は、フィニアスのスマートに積み上げられたサンプリング、ラップ・ドラム、そして弦楽器がアクセントとなり、ビリーが本能的に歌いその音世界を構築する。
また、ミュージック・ビデオなどで見せるビリーのファッションは、ユニセックスな服や色使い、巧みに選ばれたデザイナーズ・ブランドを好んでおり、スターといえば煌びやかだったり、セクシーな恰好をしなければならないといった考えを葬り去り、それ以降のポップ・スターに影響を与えることになる。
3. Bored
2017年3月から配信されたNetflixのヒットドラマ『13の理由』のサウンドトラックに収録された「Bored」には、ビリーのカリスマ性が集約されている。ここで彼女は音域を高くして、これより前の楽曲で見せたよりも発展したサウンドを放っていた。
衝撃のデビュー・アルバム
2019年3月に発売されたデビュー・アルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』でビリーのサウンドは大きく成長し、その結果、大ヒット曲が続出した。
4. when the party’s over
2018年10月に発売され、後にデビュー・アルバムに収録されることになったこの曲は、フィニアスのプロデュースにより、ビリー・アイリッシュの印象的な歌声をフィーチャーしたアンセムとなった。
ゴスペルのようなヴォーカルの和音だけで構成され、サブ・ベースとピアノが途中で追加されるシンプルなサウンドは批評家からも絶賛を浴び、黒い涙を流すミュージック・ビデオも話題となった。
5. bad guy
「bad guy」は、揺るぎのないトラックをフィーチャーしながら、ASMR的でもあるビリーの声をさらに押し上げ、彼女の魅力に全く新しいレイヤーを追加することに成功したと言えるだろう。
その結果、全世界の様々なチャートで1位を獲得して、17歳にしていきなりスターダムのトップに踊り出た。翌年のグラミー賞にて主要4部門の全てを独占するという快挙を成し遂げることができたのもこの楽曲があってからこそだ。
6. everything i wanted
デビュー・アルバムが衝撃を与えている最中の2019年11月、単独の楽曲として発売された「everything i wanted」は一聴するとハウスとエレクトロニカの影響を受けたミッドテンポで爽やかな曲に聞こえるかもしれないが、元々は「Nightmare(悪夢)」と題されていた楽曲だ。
「ゴールデンゲートブリッジから飛び降りて死んでしまい、誰も気にかけてくれない」という自身の悪夢からインスパイアされたこの楽曲の制作当時、ビリーは精神不安と鬱に苦しんでいる時でもあったが、楽曲の主題は自死ではなく別のテーマにしたという。発売当時、彼女はこう語っていた。
「この曲は私と兄がお互いについて書いた曲。たとえ何が起こっても、これからも、そしていつまでも一緒に乗り越えていくために寄り添い合うっていう」
1枚で頂点を極めたティーンエイジャーが向かう場所
7. No Time to Die
デビュー・アルバムで音楽界の頂点に立ったビリーは映画界の頂点ともいえるジェームズ・ボンド映画に主題歌を提供した。
ジェームズ・ボンド・シリーズ第25作となった映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は元々2020年2月に公開予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大を受け、何度かの延期の上、2021年秋に公開。しかし主題歌自体は2020年2月13日に公開されていた。
シリーズの主題歌として最年少の起用となったこの曲について監督のキャリー・フクナガはこうコメントを寄せている。
「ボンドの主題歌を担当したアーティストは限られています。私はビリーとフィニアスの大ファンです。彼らの創造的な誠実さと才能は誰にも劣らず、彼らがもたらしたものを皆様に聞いていただくのが楽しみです」
8. Happier Than Ever
はからずしも“今世紀を代表するアーティスト”、“時代の寵児”となってしまったビリー・アイリッシュが2021年7月に発売したセカンド・アルバム『Happier Than Ever』には、突然手にした名声と、それと引き換えに失ったものテーマの一つだ。
その中で前半の爽やかなアコースティックのペースから、後半のギターが効いた盛り上がりへと展開するアルバム・タイトル・トラックでの「(あなたは)私の時間を全部自分のものにしておきながら / 私を独りぼっちにさせただけだった」という告白的な歌詞はアルバムのテーマといったものであろう。
9. Oxytocin
前作アルバムと比較すると、アコースティックなアプローチの楽曲が多いセカンド・アルバム『Happier Than Ever』においてインダストリアルやエレクトロニカ的なサウンドの「Oxytocin」はコロナ禍で実施することができなかったコンサートで真価を発揮するような楽曲である。
ビリーは、アルバム制作の際、「ライヴで狂気を感じる曲がない」として「Oxytocin」を最後に追加。彼女の思惑通り、この楽曲がコンサートで演奏されると観客たちは狂気的に歓声をあげているファンお気に入りの楽曲となった。
10. TV
2022年12月現在での最新曲となる「TV」は『Happier Than Ever』のワールド・ツアーで初披露された。ビリー・アイリッシュが新曲発売前にライヴで初披露したのは、2019年のデビュー・アルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』収録曲「when the party’s over」以来のことだった。
その後配信されたこの楽曲についてビリーは、スターになる前、出したい時に楽曲を発表していた当時のようにこの曲を公開したとこう語っている。
「私たちは作曲をしていて、何かのために何ヶ月も何ヶ月もプロモとか下準備をしたり、楽曲全体を作ったりすることなく、発表したくなることがある。昔みたいに音楽を発表できるようになりたいけど、大きくなればなるほど、それは難しい。だから、“自分のルーツに戻って、自分自身やフィネアスのようなソングライターになって、今書いたばかりの曲を歌って、それが完成したらいつでも発表できるようになりたい”みたいな感じだったんだ」
Written By Corban Goble / uDiscover Team
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