Avicii『TRUE』解説:発売10周年を迎えるデビュー・アルバムへ至る道のりと後世に残したもの
2013年3月22日、Avicii(アヴィーチー)を聴くために約1万人がマイアミに集まった。このパフォーマンスで、スウェーデン出身のDJ兼プロデューサーは、彼のキャリアの中で最も成功したトラックとなり、2000年代のEDMの爆発的なムーブメントにおける決定的なシングルのひとつとなった曲を初めて披露した。しかし、観客は歓声を上げるどころか沈黙した。そしてブーイングが始まった。
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順風満帆だった成功への道と挫折
ティム・バーグリングとして生まれたAviciiは、3日間にわたって開催されたUltra Music Festivalのヘッドライナーであり、その当時のEDMシーンの大スターのひとりだった。彼はその2年前、2011年にリリースしたシングル「Levels」で世界的スターダムにのし上がっていたのだ。
「Levels」は瞬く間にクラシックとなり、「Fade Into Darkness」「Silhouettes」、そしてニッキー・ロメロとの「I Could Be The One」などが続けてヒットを記録した。2012年、AviciiはDJとしてアメリカ初のアリーナ・ツアーを成功させ、その年のUltra Music Festivalの彼のステージに、Remixを担当した縁があったポップの女王であるマドンナがゲスト参加したほどであった。
そういった盛り上がりを受け、2013年のUltraのヘッドライナーは開始前からAviciiの勝利が決まっていたといってもおかしくなかった。彼はステージに上がり、おなじみの人気曲やコンテンポラリーなヒット曲を次々と演奏することもできただろう。しかし、彼はそうはしなかった。間もなくリリースされるデビュー・アルバムから数曲を紹介し、生演奏のミュージシャンやシンガーを招き、ソウル、R&B、さらにはカントリー・ミュージックまでもが彼のシンセサイザーを多用したパレットに溶け込むような音楽を披露したのだ。
セット開始から40分後、Aviciiはブルーグラス・バンドとシンガーのアロー・ブラックをステージに迎えて「Wake Me Up」を世界で初めて演奏した。しかし観客は唖然とし、批評家たちは「ダンス音楽には高度すぎる」と酷評した。報道によれば、Aviciiはその後、ホテルの部屋で何時間もビデオを再生し、どこで間違ってしまったのかと悩んだという。
サウンド探求の結実「Wake Me Up」の大成功
しかし、それから3ヵ月後、「Wake Me Up」はAviciiのデビュー・アルバム『True』のリード・シングルとして正式にリリースされ、7月中旬にはその年でUKで最も早く売れたシングルとなり、20カ国以上で1位を獲得、史上最もShazamされた曲となった。Aviciiはシングル発売時、米Billboardにこう語っている。
「シーンが半分行き詰っている時には、混乱はいいものだよ。(Ultraを)盛り上げるために、15分間新鮮なものを届けたかったんだ。僕らは、これを聞いて怒る人がでるってことはわかっていたよ」
「Wake Me Up」以外の『True』収録曲も刺激的だった。このアルバムは、ポップなEDMとは何かという境界線を押し広げ、リスナーたちがそれが陳腐になりつつあることに気づく前にジャンル自体を再定義し、Aviciiの同世代のプロデューサーたちや、これから生まれる世代のプロデューサーたちのために、さらなる実験とサウンドの探求の道を切り開いた。
全10曲からなるこのアルバムは、自身のアメリカ・ツアーに大いに触発されており、レコードのコンセプチュアルなバックボーンとなっているアメリカの音楽ジャンルに触れることができる。一方、歌詞のソウルフルな深みと誠実さは、決まりきったキャッチーで浅薄なマントラに固執することもあるダンス界にとってはユニークで新鮮なものだった。
多彩なるアルバム収録曲
例えば、「Wake Me Up」と双璧をなすフォークとエレクトロな「Hey Brother」は、アメリカのブルーグラス・シンガー、ダン・ティミンスキーがヴォーカルを務めており、ベトナム戦争で引き裂かれた2人のアメリカ人兄弟を描いたミュージック・ビデオで、暗い時代に希望を照らす。
一方、「Addicted To You」は、アメリカのフォーク・ロック・シンガー、オードラ・メイ(2013のUltraのセットに加わったもう一人のライブ・パフォーマー)のパワフルなヴォーカルで、ソウルとR&Bを取り入れている。
「Addicted To You」の焼け付くようなムードは、よりダンスフロア向きのリズムで始まる「Dear Boy」へと溶けていく。「Dear Boy」では、デンマークのシンガーソングライターMØが感動的なパフォーマンスを披露している。彼女は後にメジャー・レイザーとDJスネイクと共演した2015年のヒット曲「Lean On」で大成功を収めた。
「Shame On Me」は、ほとんどロカビリーのようなスウィングとファンカデリックなヴォコーダーのブレイクダウンを聴かせ、「Lay Me Down」では、ディスコの象徴であるナイル・ロジャースがギターで参加し、シンガーのアダム・ランバートとともAviciiと楽曲を共作している。そのナイル・ロジャースはAviciiの作曲スタイルについてComplexにこう語っていた。
「Aviciiは天性のメロディ・メーカーで、どんなスタイルでも自分で書き上げることができた。僕が奇抜なジャズのコードチェンジや進行を思いついたら、彼はそれを結びつけるために美しいものを書いてくれる。『なぜリディアン・スケールをかぶせたんだ?』と僕たちが聞いたら、『え、なに?』って顔をするんだ。僕らが『そうか、彼は音楽の教育を受けていないんだ』と思っていたら、彼は『よくわからないけど、これがただカッコよく聞こえるんだ』って言うんだ。そして彼が正しかった。これまで僕は一緒に仕事をした中で史上最高とまではいかないにせよ、間違いなく最高の人物の一人だと思うよ」
光続けるAviciiの遺産
『True』が多様で想像力豊かであるのと同様に、その多様な影響はすべて、明るいシンセ、メジャー・キーのメロディー、4つ打ちのリズム、そして高揚させるサウンドといったきらめくパレットによって結びつけられている。彼のキャリアを通して、Aviciiは曲の核心に迫り、陶酔的なドラマを構築することに長けていたのだ。
このアルバムのサウンドはポップに傾いたが、AviciiはEDMコミュニティからの支持を維持することができた。彼は2013年に『DJ Mag』の読者投票で世界第3位のDJに選ばれ、翌年の2014年にはアルバムのリミックス・ヴァージョン『True: Avicii by Avicii』までリリースしている。
2015年には2枚目のアルバム『Stories』をリリースし、2016年には精神的な健康との闘いを理由にライヴ・パフォーマンスからの引退を発表した。残念ながら、2018年4月に悲劇的な死を遂げ、彼の輝かしいキャリアに突然の終わりがもたらされた。
わずか28歳でその生涯を閉じたが、Aviciiの遺産は音楽界で依然として大きい。歌詞、ミュージックビデオ、メロディーの中で、人生の光と闇の瞬間を見事にバランスさせる彼の能力は、今でも際立っている。
同様に、カントリーとEDMを共存させるという彼の危険な賭けは、レディ・アンテベラムとコラボレートしたオーディエンや、グラミー賞受賞プロデューサーのディプロなど、多くのアーティストに同じことをさせるきっかけとなった。発売から数年後、「Wake Me Up」はアンセムとして認定され、『True』は音楽的“破壊”の最高傑作となったのだ。
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アヴィーチー『True』
2013年9月13日発売
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