レディー・ガガ『ARTPOP』解説:内なるエネルギーを爆発させた野心的なアルバム
レディー・ガガ(Lady Gaga)がほかの者たちよりふんだんに持ち合わせているものがあるとすれば、それはアイデアだろう。
『The Fame』『Born This Way』に続いてのリリースとなったサード・アルバム『ARTPOP』で、彼女は型に囚われず、メッセージ性に偏ることのないアップビートな楽曲作りを目指した。だが、アンセムに求められるメッセージ性が薄れた分、このアルバムはガガらしい野心に満ち溢れていた。
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挑戦的なアルバム・ジャケット
人によっては、『ARTPOP』は、一聴したところ理解するのに専門知識が必要なほど難解なパーティー・アルバムに思えてしまうかもしれない。しかも、ジェフ・クーンズによる挑戦的なアルバム・ジャケットは、それまでの彼女のどの作品より強烈なヴィジュアルに仕上がっていた。そこには宇宙時代のヴィーナスに扮したガガが映し出され、クーンズがたびたび作品に取り入れている青い“ゲイジング・ボール”がここにも登場している。
このイメージは、当時大スターへと急成長していたテイラー・スウィフトのような、ソフトで親しみやすいアーティスト像とはかけ離れたものだった。むしろガガは、あえて彼女たちとの競争関係から退こうとしていたのかもしれない。とにかくこのアルバムは、彼女に従うことを条件に入ることを許されたパーティーだったのだ。
シンセ中心のEDMサウンド
音楽的な面では、刺激的で賑やかな『ARTPOP』におけるシンセ中心のEDMサウンドは、エネルギッシュで魅力的なものだった。2013年8月にリード・シングルとしてリリースされた「Applause」は、ガガのこれまでの音楽性を踏襲した1曲で、そのパワフルなユーロポップ・サウンドが支持され、世界中のヒット・チャートでトップ5入りを果たした。
ファンからの献身的なサポートへの敬意を表現したという「Applause」の作曲には、大勢のソングライターが参加している。リスナーを惹きつける曲作りのため幅広い知見を取り入れたことが窺えるが、この曲の下地になったともいえる初期のヒット曲を多く手がけたレッドワンの名前はその中に見当たらない。だがその代わりに彼は、『ARTPOP』屈指の完成度を誇る1980年代風のアンセム・タッチのナンバー「Gypsy」の曲作りに関わっている。
R・ケリーとのデュエットで「Do What U Want」をレコーディングするという決断は、2013年の時点でも物議を醸した。それでも当時、ラジオやファンからの同曲に対する反応は良好で、その結果アルバムからのセカンド・シングルに選ばれることになった。この曲のR&B/ポップ調のメロディが『ARTPOP』の収録曲にあってもとりわけキャッチーであることを思えば、これは正しい決断だったといえるだろう(*編註:2019年1月、R・ケリーの性的暴行が発覚したことを受けガガはアルバムから「Do What U Want」を削除している)。
他方、2013年11月6日のアルバムのリリースと前後して、新たなゲストにクリスティーナ・アギレラを迎えた「Do What U Want」のリミックス・ヴァージョンも登場。これも後押しとなって、アルバムは全米と全英の両チャートにて首位を獲得した。
しかしレディー・ガガは、そうした取っ付きやすい楽曲にも過激な要素を加えることを忘れなかった。例えばエレクトロ調のダンス・ナンバーとなった『ARTPOP』の表題曲の中でガガは、「My artpop could mean anything / 私のアートポップはどんな意味にもなる」と宣言。これは彼女の方向性の変化に疑問を感じていた一部のファンの間で議論を呼ぶことになった。
また、「Swine」はサウンドこそダンス・チューンの形を取っているが、中身は何でもありのポップ・ロック・ナンバーといえる1曲。ここでガガは、リスナーをダークな歌詞世界へと導いていく。
エネルギーの爆発
そのほかの曲にも目を向けてみよう。鋭い風刺の効いた「Donatella」は、プロデューサーを務めたゼッドの代名詞ともいえる強烈なシンセ・サウンドが特徴の1曲。これは『ARTPOP』でゼッドが手がけた3曲のうちのひとつだが、もっと注目を浴びてしかるべきナンバーである。
同様に、ディスコ・サウンドの「Fashion!」をシングル・カットしなかった判断は、後から振り返れば意外にも思える。デヴィッド・ゲッタやウィル・アイ・アムの協力を得て制作された同曲は、心の解放を歌った数多くの名アンセムに範を取ったような1曲だ。
当時はそれがあまりに露骨だと感じられたのかもしれないが、T.I.をフィーチャーした「Jewels N’ Drugs」と比べると「Fashion!」の曲調は似ても似つかない。この2曲が同じアルバムに収録されていること自体が俄かには信じがたいほどである。
最も難解かつ高い創造性
『ARTPOP』は、これまで発表されたレディー・ガガのアルバムで最も難解な内容だった。同作には彼女らしい高い創造性が発揮されているが、本来はもっとまとまりのある作風を目指していたようにも感じられる。それでも、ガガはそれまでに確固たるファン層を獲得しており、彼女が伝えたかったメッセージの多くはリスナーにしっかりと届いていた。
そうなれば次に彼女は何をするべきだろう?その答えはおそらく、(ある程度の時間を置いて)シンプルなサウンドを志向すること(次作『Joanne』はガラリと異なる作風になった)、そして、映画やドラマといった新たな分野を開拓することだった。『ARTPOP』では彼女の内なるエネルギーが爆発し、目がくらむような名曲が生まれたが、その爆発は厄介な余波を起こすことにもなった。爆風に身を任せた後は、しばらく身を潜めている必要があるものなのだ。
Written By Mark Elliott
レディー・ガガ『ARTPOP』
2013年11月6日発売
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