【ライヴ・レポ】アミリア・ムーア、オルタナティヴ・ポップス21歳の新生

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アミリア・ムーア(Amelia Moore)の最新シングル「i feel everything」が、じわじわと全米に浸透中だ。6月3日、アミリアは同シングルを含むデビューEP『teaching a robot to love』を発表し、その6日後の木曜日の夜、ロサンゼルスに新しくできたスタイリッシュなライブハウスで、ヘッドライナーとしては初のコンサートを行った。

公式サイトのバイオによると、アトランタ州ローレンスビルで生まれ、子供の頃に教会で歌い始めたアミリアは、シンガーソングライターになる夢を叶えるためにロスに移住した。最初にロスに来た際にプロデューサーのPink Slipと出会い、それをきっかけに大学を中退したという。

移住して数ヶ月でパンデミックになって様々な計画が頓挫してしまったものの、昨年彼女はTikTokで自作の曲を歌い始め、わずか1週間で10万人のフォロワーを獲得して、最終的にレコード契約まで手にした。

今年は2月からフレッチャー(FLETCHER)の前座として北米を回っていたのだけれど、遂にEPがリリースされて、彼女自身のコンサートが行われることになったのだ。現在59万人を超えるTikTokフォロワーがいるだけのことはあって、チケットはすぐに完売。運良く入れたファンの大半が20歳前後の若者達で、ファッショナブルな人が多く、アミリアと同じオレンジ色のヘアーの女子が何人もいた。

DJがしばらく会場を暖めた後、9時すぎにバンドのメンバー3人が登場してイントロを演奏し始めた。すると、オレンジ色のキノコのような大きなフード付きジャケットを着てサングラスをかけたアミリアが颯爽と現れてステージに上がり、「Moves」を軽やかにラップし始めた。

ジャケットの下は太い毛糸を無造作に巻きつけたようなトップスで、きのこの茎みたいな色の太いボトムスを履いている。彼女が歌いながらフードとサングラスを取ると、幾つも小さく分けて縛ったネオンオレンジの髪が現れた。目の下を白くペイントしたメイクも尖ったオレンジのネイルも、全てがすごく個性的だけれど、アーティスティックでカワイイ。

階段2段分ぐらいの高さしかないステージを取り囲むようにして待っていた観客は一気に沸き立ち、彼女のラップに合わせて踊り出した。サビではハイトーンヴォーカルの熱唱になり、透明感のある伸びやかな声が親密な空間に広がっていく。

「次の曲はEPに入ってないんだけど、やるね!」という紹介で始まった「Over Flip Flops」で、アメリアは再びリズミカルなラップを繰り出し、サビでは叫んでいるかのように爆発的なヴォーカルを響かせて場内を盛り上げた。

次に披露されたのは、2021年に発表されたデビュー・シングル「Sweet+Sour」。前の2曲と同様にテンポはゆったりとしているけれど、曲調は一転してダークで、近未来的な雰囲気もある。「私はスイートにもサワーにもなれるから、気をつけて」と、優しい性格だけれど怒るとキツくもなるという彼女の二面性について歌っている曲だ。それは、彼女のユニークな楽曲の二面性とも繋がっている気がした。この曲で言うと、スイートな部分は甘くキャッチーなサビに、サワーな部分はダークで尖ったサウンドとビートと歌詞に現れている。

「EPが出たから必ず全曲やるけど、未発表曲も、もっとやってみていい?」。大歓声が上がると、アミリアは「いい? 良かった!」と明るい笑顔をみせた。EP『teaching a robot to love』には7曲しか収録されていないので短いショウになるのかなと思っていたのに、彼女はTikTokで部分的に出していた未発表曲を、曲のストーリーを語りながら次々に披露してくれた。

「私みたいに酷い元恋人がいて、そいつに戻り続けるっていう経験を皆がしたことあるかどうかは知らないけど、戻っちゃダメだよ。その酷い奴に戻り続けてたから、自分のためにこの曲を書いたんだ。だから、この曲は私から皆へのメッセージ。“Back 2 Him”っていう曲だよ」

ラップで始まり、サビもラップ的な歌い方の楽しいサウンドの曲で、彼女は「彼には戻らないよ!」と、宣言するかのように歌った。

次の2曲も未発表曲で「drug」は、アミリアの説明によると「ドラッグをやった時みたいに、誰かのせいでメチャクチャになる曲」だ。「(こんな思いをするなら)ドラッグをやっときゃ良かった」とパワフルに歌い上げた後、彼女は「でも私、ドラッグやったことないよ!」と言って、楽しそうに笑った。

一方「next door」では、「かなり前にTikTokであげた曲で、彼と一緒に書いたんだ」と、共作者のアンソニーがステージに飛び入りして彼女と素敵なデュエットを披露した。

続いて「次は皆が知ってる曲だから、動いて、ジャンプして、叫んで、とにかく楽しんで! パーティだよ!私達、私のEPと初のショウを、ここでお祝いしてるんだから。行くよ!」と、元気なMCで観客を盛り上げてから、彼女はカニエ・ウェストをフィーチャーしたエステルのヒット曲「American Boy」を歌い出した。観客と一緒にジャンプしながら、ラップも歌も鮮やかにカバーして、合唱を巻き起こした。

「次の曲は、決意をしなきゃいけない時になっていたのに、自分から伝える勇気がなかったから、彼に決めさせようとしたんだ。でも、答えは聞く前から分かってた。最悪だった。“love me or leave me alone”っていう曲だよ」というMCに続けて、彼女はアカペラで静かに始まり、ドラマチックに盛り上がっていく曲を熱唱した。

「ここからEPの曲に戻るよ」という彼女の言葉に続けて「cry baby」のイントロが始まると歓声が起こり、サビでは再び大合唱になった。その合唱を突き抜けて、アミリアの透き通ったヴォーカルが場内に響き渡る。Z世代のシンガーソングライターの多くはラップとメロディが融合している曲をとても自然に書くのだけれど、アミリアの曲も、ラップとメロディアスなヴォーカルの交差具合が絶妙だ。でも、何よりも素晴らしいと感じたのは、ファルセットになった時の彼女の声の美しさだった。

ラフな感じにも歌える彼女だが、高音で歌い上げる時の声は本当に澄み切っていて、心が高揚する。特に次の「vinegar」での歌声は、目を見張るほど圧倒的だった。一緒に合唱するのが大変な曲だけれど、それでもオーディエンスは合唱していた。

「このプロジェクトはここに来てくれた私の親友達と一緒に作ってて、本当にラッキーなんだ。その中の一人、ジョナサンと一緒に、また元カレの曲を書いてた。で、『彼にこんな最高の曲を作ってあげる価値はない』って私が言ったら、ジョナサンが『でも、僕たちにはその価値があるよ』って言ったんだ。『まさに! 私にはその価値がある!』って大泣きしちゃった。本当に書くのが辛い曲だったけど、私にはこれを書く価値があった。だから、皆のことも励ましたくて。あなた達は感情的になる価値があるし、傷ついた心を癒す時間を持つ価値があるし、仕事場で泣く(彼女のインスタグラムとTikTokのアカウント名は@icryatwork)価値があるんだよ。来てくれた皆に、本当に感謝してる。このショウも、このEPも、私の夢が叶ったんだ」

という胸が熱くなるMCの後、アミリアはEPのタイトル曲を歌い始めた。これも彼女のファルセットが見事なバラード曲だが、時折大声で叫ぶようにして感情をむき出しにして歌っていて、再び圧倒された。

「もう一曲やるよ。多分、皆聞いたことあるだろうから、一緒に叫ぼう!」という掛け声で、「i feel everything」に突入。アミリアは「一緒に歌って!」と叫んで最後の大合唱を巻き起こし、ダイナミックに盛り上げて初のショウを終えた。新しいオルタナティヴ・ポップスターの登場を目撃できた、特別な心温まる時間だった。今後、アミリアが世界を制していく様子を見るのが楽しみだ。

Written by 鈴木美穂

セットリスト
1. moves
2. over flip flops
3. sweet + sour
4. back 2 him
5. drugs
6. next door
7. American Boy (エステル&カニエ・ウェストのカバー)
8. love me or leave me alone
9. cry baby
10. vinegar
11. teaching a robot to love
12. i feel everything



アミリア・ムーア『teaching a robot to love』

2022年6月3日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music

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