エアロスミス『Aerosmith/野獣生誕』解説:今も色褪せない伝説的なバンドのデビュー・アルバム
やあみんな、俺たちのショーにようこそ!
Good evening people, welcome to the show!
これが、エアロスミスがリリースしたセルフ・タイトルのデビュー・アルバムを再生すると最初に聴こえてくる歌詞のフレーズである。そしてこの言葉は、年を追うごとにいっそう重みを増してきている。
1973年の1月第1週にリリースされたアルバム『Aerosmith(野獣生誕)』は名盤が並ぶエアロスミスの1970年代のアルバム群にあっては見過ごされてしまうこともある1作である。しかしながら、この作品に注意深く耳を傾けてみれば、いまでも十分な魅力を備えたアルバムとして楽しむことができるに違いない。
<関連記事>
・エアロスミス、キャリア最後のフェアウェル・ツアーを発表
・エアロスミス、デビュー50周年記念『Greatest Hits』発売決定
その内容
ここにはエアロスミスが誇る「Mama Kin」と「Movin’ Out」という2つの定番曲だけでなく、聴くほどに魅力を増していく“知られざる名曲”もいくつか含まれている。そして何より、ロックの歴史に残る名曲「Dream On」が収録されているのだ。このアルバムがわずか2週間で制作されたという事実を踏まえると、決して悪くない仕上がりだ。
言うまでもなく、彼らは血の滲むような努力を経て、このアルバムを制作するチャンスをものにしている。ボストンのニューベリー・ストリートに位置するインターメディア・サウンド・スタジオでレコーディング・セッションを行うことになる前に、エアロスミスの面々は2年間に亘ってライヴ・バンドとして活動を重ねていたのだ。
1970年11月、彼らはアプトン郊外のハイスクールで最初のステージを披露。エアロスミスは華やかさとはおよそ縁遠いそうした会場でのライヴを重ねることで、世界に通用するハイ・レベルなバンドへと成長を遂げたのだ。その当時、ボストンという街から大物グループが生まれたという例はなかった。同地がロック界の重要拠点として知られるようになったのは、エアロスミスの成功によるところが大きかった。そうして1970年代後半になると、この街から、ボストンやザ・カーズといったグループが次々に台頭してくる。
アルバムのテーマとは
このデビュー・アルバム『Aerosmith』にアルバムとしてのテーマがあるとすれば、それは若さやハングリー精神、困難への挑戦、逆境の克服といったものだろう。特に「Mama Kin」と「Movin’ Out」の2曲にはそうした空気感が色濃く滲んでいる。わけても特筆すべきは後者で、これは現在に至るまで協力関係を続けているスティーヴン・タイラーとジョー・ペリーが初めて共作した記念すべき1曲だ。
そして同アルバムには、スティーヴンが「一目置かれる人物になりたいと願う気持ちを歌った」楽曲だと説明する「Dream On」も収められている。
「夢が実現するまで努力することを止めない」というこの曲に込められたメッセージは、いまなおいささかも色褪せてはいない。そしてその点はアンセム調のコーラスにおけるスティーヴンの力強いヴォーカルにも当てはまろう。
これはスティーヴンがInstagramの投稿で明かしたことだが、「Dream On」は、彼が17歳のときに鍵盤楽器のハーモニウムを使用して作曲したものだという。一方で、歌詞は、ボストンにあるローガン国際空港近くのホテルに滞在した2日のあいだに書き上げたものだという。
隠れた名曲
『Aerosmith』には、さほど知られていない収録曲の中にもたくさんの聴きどころがある。エアロスミスは、ブルースやR&Bナンバーをラウドにアレンジしたカヴァー・ヴァージョンを数多く残しており、1970年代のアルバムにはほとんどの場合、1曲ずつそうしたトラックが含まれていた。『Aerosmith』に収められたルーファス・トーマス作の「Walking The Dog」がその最初の1曲だ。
また、「One Way Street」は1970年代に彼らが残したトラックにあってもとりわけ演奏時間の長い1曲だ。ここで競い合うように披露されるハーモニカとギターの絡みには、ヤードバーズのそれをさらにパワー・アップさせたような趣がある。
そして「Somebody」は、ジョー・ペリーとブラッド・ウィットフォードによる息の合ったギター・サウンドを堪能できる初期の佳曲で、ここではリード・ギターとリズム・ギターが、互いを補い合うように完璧に交わっていく。
最後に「Write Me A Letter」は、ニューヨーク・ドールズのような傲慢ささえ感じられる1曲だ。
『Aerosmith』は疑問の余地なく、エアロスミスの歴史上もっとも粗削りなサウンドでまとめられたアルバムになっている。それゆえに、メンバーたちはこれまで折に触れて同作の仕上がりに対する不満を口にしてきた。そして、続く2ndアルバムでは、新たにジャック・ダグラスがプロデューサーに起用されることになった。数年前、ペリーはギター・ワールド誌の取材に応え、当時をこんな言葉で振り返っている。
「(当時の)俺たちはスタジオでの作業を含め、あらゆることに対して未熟だった。演奏をマイクが拾い、それがテープに収められ、そのままレコードになったんだ」
しかし、実のところそのマイクはなかなかに質の高い演奏を拾っていた ―― 『Aerosmith』をあらためて聴いてみると、きっと誰もがそう思うに違いない。
Written By Brett Milano
エアロスミス 『Aerosmith (野獣生誕)』
1973年1月5日発売
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
エアロスミス 『Greatest Hits』
2023年8月18日発売
CD予約 / iTunes Store / Apple Music
① 6CD:Greatest Hits (Deluxe Edition 3CD)+Live Collection (3CD)*日本独自企画盤
② 3CD:Greatest Hits (Deluxe Edition 3CD)
③ 2CD:Greatest Hits(1CD)+Rock For The Rising Sun (Live in Japan 2011)(1CD)*日本独自企画盤
④ 2CD:Greatest Hits(1CD)+Live Best 1977 – 2016 Vol.1(1CD)*日本独自企画盤
⑤ 2CD:Greatest Hits(1CD)+Live Best 1977 – 2016 Vol.2(1CD)*日本独自企画盤
⑥ 1CD:Greatest Hits(1CD)
- エアロスミス アーティストページ
- エアロスミスの全ての作品カタログがユニバーサル ミュージックに
- エアロスミスがバンド結成50周年を迎える2019年にアニバーサリーを計画
- エアロスミス、デビュー前の貴重音源『1971: The Road Starts Hear』が発売
- エアロスミス『Get A Grip』解説:商業的大成功を掴んだ理由と収録された楽曲
- 【特集】音楽プロデューサーとは何をする人なのか?
- エアロスミス関連記事