デフ・レパード『Adrenalize』: 友の死を乗り越え、グランジ溢れる1992年ロック界を活気づけた傑作
デフ・レパード(Def Leppard)の通算4作目のオリジナル・アルバムとして1987年にリリースされた名盤『Hysteria』は、悲劇から栄光を掴み取るサクセス・ストーリーのお手本といってもいい作品だった。
そして、同作に続く5枚目のアルバム『Adrenalize』にも、おのずと大きな期待が集まったが、レコーディングに着手したバンドは再び困難に直面することになる。
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『Hysteria』後に訪れた友の死去
シェフィールド出身の5人は『Hysteria』の制作中、ドラマーのリック・アレンが大事故で左腕を失うという危機に見舞われたが、ヨークシャー出身者ならではの精神力で、それを乗り越えていた。リック・アレンは諦めることなく特注のドラム・セットでの演奏を習得。完成した『Hysteria』は「熱狂」を意味するタイトル通りの反響を得て、世界中で2,500万セットを売り上げる大ヒット・アルバムになり、実に7曲ものヒット・シングルを生み出した。
しかし、『Adrenalize』のレコーディングを進める中で、バンドをそれ以上の苦難が襲ったのだ。1991年1月、ギタリストでソングライターのスティーヴ・クラークがアルコール関連の問題を原因に30歳でこの世を去ったのだ。当然、メンバーたちは途方に暮れたが、その堅い絆で制作を継続。中には、クラークとフィル・コリンが次作に向けて準備したマルチ・トラックのデモを基にした楽曲もあった。
1981年の『High’n’Dry』からバンドに加わったコリンは、クラークと以心伝心に近い関係を築いていた。鮮やかに絡み合うふたりのリード・ギターとリズム・ギターは『Pyromania (炎のターゲット) 』や『Hysteria』といったヒット作で不可欠な貢献を果たし、ふたりの代名詞といえるギター・ソロ合戦もデフ・レパードのサウンドと切っても切り離せない要素となっていた。
『Adrenalize』ですべてのギター・パートを弾くことになったコリンは、クラークの不在を意識することが誰よりも多かったという。コリンはクラシック・ロック誌のインタビューでこんな風に語っている。
「オリジナル・パートを彼 (クラーク) が弾いているとき、俺は隣にいたんだ。まるで幽霊と一緒に演奏しているみたいだった」
『Adrenalize』の制作
それでもデフ・レパードのメンバーは投げ出すことなく立ち直り、再びスタジオに戻った。長年の付き合いであるプロデューサーのマット・ラングはこのとき離脱していたが、『Hysteria』のエンジニアであったマイク・シプリー (後にアリソン・クラウス&ユニオン・ステーションのアルバム『Paper Airplane』でグラミー賞を受賞している) が代役を務めたことでグループは問題なくレコーディングを再開することができた。
果たしてデフ・レパードの面々がスティーヴ・クラークの死を克服できるものだろうか? ファンが不安を抱いたのも無理はなかったが、1992年3月31日に『Adrenalize』がリリースされると、ファンたちは大きく胸を撫で下ろすことになった。抜群にキャッチーなリード・シングル「Let’s Get Rocked」に象徴されるように、『Adrenalize』もまた正真正銘の傑作に仕上がっていたからである。
収録楽曲とその評価
「Make Love Like A Man」「Personal Property」「Tear It Down」といった挑発的なロック・ナンバーが目立つ『Adrenalize』だが、「Heaven Is」やドラマチックなバラード・ナンバー「Have You Ever Needed Someone So Bad」など、ラジオ向きの壮大なアンセムも含まれるなど、絶妙にバランスが取れていた。
しかし特筆すべきは、グループ屈指の野心的なトラック「White Lightning」になるだろう。「White Lightning」は、メンバーが亡きスティーヴ・クラークに捧げた7分の力作で、ここではフィル・コリンがすばらしいリード・ギターを披露している。
米ローリング・ストーン誌は『Adrenalize』について、「見かけ上は、女性について歌ったパワフルでキャッチーな楽曲が並ぶアルバム」と鋭く分析している。同作からシングル・カットされた「Let’s Get Rocked」は全英で2位、全米でもトップ20に入ったが、アルバム『Adrenalize』はそれを上回る勢いでチャートを駆けあがり、英米両国で1位に達する大ヒットを記録している。
当時はニルヴァーナやパール・ジャムといったグランジ・ロックに括られるバンドの人気が最高潮に達していた時代である。そんな中にあって、ハード・ロック/メタルに属する『Adrenalize』がこれだけの好成績を残したというのは驚くべき快挙だった。
ファンに復活を印象付けたかったデフ・レパードの面々は、フィル・コリンの相棒として元ディオ/ホワイトスネイクの名ギタリスト、ヴィヴィアン・キャンベルを迎え、18ヶ月に及ぶ長期間のワールド・ツアーを敢行。
その直前の1992年4月にロンドンのウェンブリー・スタジアムで開催された”フレディ・マーキュリー追悼コンサート”には、名だたるスターたちが集結したが、そこでのデフ・レパードのパフォーマンスは大きな話題を呼んだ。そうした活動も奏功し、『Adrenalize』は前作に続きマルチ・プラチナに認定。困難に直面しても最後には成功を手にする無敵の5人組は、またひとつ新たな栄冠を手にしたのだった。
Written By Tim Peacock
デフ・レパード『Adrenalize』
1992年3月31日発売
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最新アルバム
デフ・レパード『Diamond Star Halos』
2022年5月27日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
1CDデラックス収録曲
1. Take What You Want
2. Kick
3. Fire It Up
4. This Guitar (featuring Alison Krauss)
5. SOS Emergency
6. Liquid Dust
7. U Rok Mi
8. Goodbye For Good
9. All We Need
10. Open Your Eyes
11. Gimme A Kiss
12. Angels
13. Lifeless (featuring Alison Krauss)
14. Unbreakable
15. From Here To Eternity
16. Goodbye For Good This Time – Avant-garde Mix *
17. Lifeless – Joe Only version *
*ボーナストラック
*限定盤デジパック仕様
1CD通常盤
1. Take What You Want
2. Kick
3. Fire It Up
4. This Guitar (featuring Alison Krauss)
5. SOS Emergency
6. Liquid Dust
7. U Rok Mi
8. Goodbye For Good
9. All We Need
10. Open Your Eyes
11. Gimme A Kiss
12. Angels
13. Lifeless (featuring Alison Krauss)
14. Unbreakable
15. From Here To Eternity
16. Angels – Striped Version *
17. This Guitar – Joe Only version *
*ボーナストラック
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