ABBA『ABBA: The Album』解説:キャリアの第2章となった5枚目のアルバム
1977年、世界的成功からABBAは単純にペースを落とす必要があった。それまでの4枚のスタジオ・アルバム、数え切れないほどのヒット・シングル、海外でのコンサート、そして終わりのないプロモーションの仕事の連続で、彼らのテンションは限界に来ていた。
その状況をうけ、その春のヨーロッパとオーストラリアのツアーが終了すると、その年の後半はもっとゆったりしたやり方で次のスタジオ・アルバム『ABBA: The Album』の制作に集中するというのが彼らの考えだった。
<関連記事>
・ABBA、『Voyage』発売開始。制作中の写真やメンバーコメントが公開
・40年ぶりのアルバム『Voyage』欧米メディアでのレビューを紹介
・ABBA『Ring Ring』解説:伝説的キャリアが始まったデビューアルバム
・ABBA『Waterloo』解説:世界を征服したセカンドアルバム
・1975年のアルバム『ABBA』解説:名曲を収録した3作目の作品
・ABBA『Arrival』解説:10曲ながら多岐にわたるスタイルを持つ名盤
一歩前進したサウンド
練りに練られた計画でも、ちゃんと予定通りに進むとは限らない。5枚目のアルバムの計画は、ABBAの最初の映画(ツアーの最中に撮影された『アバ/ザ・ムービー』)の封切の予定で変更され、さらにアルバムのリリースをクリスマス商戦に間に合わせるというレコード会社からの期待も避けられないものだった。実際には新作『ABBA: The Album』がクリスマスに間に合って1977年12月12日にリリースされたのは北欧のスカンジナビア諸国だけで、他のほとんどの地域でのリリースは翌年まで待たざるを得なかった。
グループのサウンドについても、一歩前進が必要だという感覚もあった。ベニーとビョルンは、新しいアルバムが過去のどの作品よりもずっと高いクオリティを確保できるように作品への期待値を上げて制作を進めた。これまで経験したことのない領域に自らのソングライティングを進めようという飽くなきエネルギーがおそらく最も明らかなのは、彼らの1977年のショーでアンコール前に演奏された、25分にわたるミニ・ミュージカル「The Girl With The Golden Hair」に含まれた3曲「Thank You for the Music」「I Wonder (Departure)」「I’m a Marionette」だろう。
ベニーとビョルンの将来の方向性を予期させるかのように、これら3曲全てのプロデュースについては、ABBAの代名詞であるポップ・センスと共に、ちょっと風変わりな演劇性が感じられる。あるシーンにフィーチャーされた「Thank You For The Music」はその後、バンドの代表的な名曲の一つとなり、彼らが楽々とジャンルを飛び越して最高の楽曲を作り出せることを証明している。
この曲の初期のヴァージョンでは、現在われわれが親しんでいるヴァージョンの採用で最終的にボツになったアグネタによるドリス・デイを思わせるような、ラグタイム風味のアレンジのバージョン(2007年にリリースされた、デラックス・エディションにボーナス・トラックとして収録)を聴くことができる。
アルバム収録曲
『ABBA: The Album』の他の8曲を通して感じられるのは、同じ時代の全米ヒット曲の紛う方なき影響だ。ABBAの楽曲としては最もギターがフィーチャーされた「Eagle」、アルバムからのファーストシングルとして1977年10月にリリースされたベース音が強力なミッドテンポ曲「The Name Of The Game(きらめきの序曲)」、そして切迫感に満ちた「Hole In Your Soul」。ABBAの他のどの楽曲にも劣らないほど優しくメロディアスな「One Man, One Woman」でさえも、当時全米でシーンを席巻していたソフト・ロックの要素を持っている。
しかし、グループおなじみのユーロポップなサウンドも皆無ではなく、アルバムからの世界でのセカンド・シングルに選ばれ、またしても全英ナンバーワンとなった、活力満点の「Take A Chance On Me」と豪華なサウンドの「Move On」にその要素は含まれている。
『ABBA: The Album』のレコーディング・セッションは、アグネタの妊娠と商業的なリリース・スケジュールの要求に応えるプレッシャーでスムーズには進まなかったが、最終的にリリースされたアルバムは予想通りのヒットとなり、全米では過去最高の14位を記録。その他の国のチャートでは軒並み1位を獲得した。この成功でグループはやや余裕を確保することができ、スタジオ・セッションにより長い時間をかけながら、さらに実験的な試みを進めるための基礎固めが可能となった。
彼らの勝利に彩られ第2章のスタートを飾った『ABBA: The Album』は、彼らが勝利の方程式をさらに強化している、過去に覚えのある瞬間を示す特徴を備えている。後のABBAによるより広範囲な音楽スタイルで受ける賞賛と信頼の始まりは、このアルバムで取られた大胆なステップに遡ることができる。運命はさらに彼らの行く先を変えていくことになるのだが、正に「運命の女神は勇者に味方する」ということだ。
Written By Mark Elliott
40年ぶりの新作アルバム
ABBA『Voyage』
2021年11月5日発売
CD / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
日本盤CDは下記4形態(SHM-CD仕様)
①『Voyage』スタンダード・エディション
②『Voyage』with 『ABBA Gold』(ベスト盤CD)
③『Voyage』with 『ABBA in Japan』(映像商品2DVD)
④『Voyage』with 『Essential Collection』(MV36曲収録DVD)
ABBA『ABBA: The Album』
1977年12月12日
LP / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
- アバ アーティストページ
- ABBA、40年ぶりの完全新作アルバム『Voyage(ヴォヤージ)』を11月に発売
- ABBA、38年ぶりの新曲を今秋発売するとメンバーのビヨルンが発言
- ABBAのベスト盤『Gold』が史上初全英チャートに1000週チャートイン
- ABBAの「Mamma Mia」や「SOS」といった名曲たちが4Kリマスターされて公開
- ポップスの奥深さを掘り下げるドキュメンタリーがNetflixで配信開始
- マンマ・ミーア!アバが再び
- 写真で振り返るABBAのファッション
- ABBAの名曲「Gimme! Gimme! Gimme!」にまつわる逸話
- ユーロヴィジョンを勝ち取ったアバの「Waterloo」パフォーマンス
- 全英4週1位、ヒットシングル5曲を生んだABBAの『Voulez-Vous』
- アバが1位獲得の記録を作った代表作たち
- 多様なジャンルによるアバのカヴァー51曲のプレイリスト
- アバ伝説 – スウェーデン最大の輸出品の歴史
- アバを掘り下げる – digging deeper
- アバ関連記事