テイラー・スウィフトのベスト・ソング30:カントリー界の秘蔵っ子から世界的ポップスターへの成長
テイラー・スウィフト(Taylor Swift)は21世紀前半において最も人気のあるシンガー・ソングライターのひとりだ。とりわけここ数年は、スーパースターとなった彼女にとっても驚くべき飛躍の時期ということになろう。いまでは新作が発表されるたび、マーケットを席巻するような大ヒットへの期待感で音楽産業は湧き立つ。
また、熱心なファンは彼女の楽曲の一節一節を深く味わい、慣れ親しんだ楽曲の目新しい解釈にも飛びつく熱狂ぶりを見せる。そして、それ以外の無数のリスナーは、パワフルかつポップな彼女のヒット曲や、作品を追うごとに意外性を増す音楽性を単純に楽しんでいる。
だが実際、彼女がカントリー界の秘蔵っ子からポップ界の担い手に変貌を遂げるとは誰が予想できただろうか? デビューから最新アルバム『Midnights』までの名曲を振り返りながら、その足跡を辿っていこう。
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30位: Back To December
「Back To December」はテイラー・スウィフトの楽曲の中でもひときわ繊細なバラードだ。恋心を歌った上品な曲調からか、残念ながら多くの国でヒット・チャートを賑わすまでには至らなかったものの、この曲はアメリカのファンの心を捉え、ビルボード誌のチャートでは最高6位まで上昇。同誌のアダルト・コンテンポラリー・チャートでもそれ相応の結果を残している。
胸の内を打ち明けるような達観した歌詞が魅力の1曲だが、これをを書いたのが当時20代になったばかりの女性だったとは俄かには信じがたい。
29位: Love Story (Taylor’s Version)
アーティストが楽曲の権利を取り戻すために以前の作品を再録音するという事例は以前にもあったが、権利をめぐるテイラー・スウィフトの戦いは、この手法を新たな次元へと進化させた。初期楽曲の中で最もよく知られたヒット作「Love Story」のニュー・ヴァージョンをリリースしたことは、彼女にとって音楽的な意義と同じだけ政治的な意味合いを持っていたのだ。
『Fearless (Taylor’s Version)』に収録された「Love Story (Taylor’s Version)」は、アメリカのカントリー・チャートで1位を獲得。この新たなヴァージョンにも、オリジナル・リリースで演奏していた多くのミュージシャンが参加している。また、それ以上に興味深いのは、テイラーのヴォーカルやミックスから感じ取れる自信が、質の高いパフォーマンスを支えていることである。
28位: Tim McGraw
柔らかな曲調のバラードである「Tim Mcgraw」をテイラー・スウィフトが書いたのは、彼女がまだ高校生のころだ。同曲は“音楽は人生のほとんどの苦難を和らげてくれる”、という彼女の信条に則った1曲だが、これはこのあと何年もの間、テイラーが度々取り上げていくテーマでもある。
例えばここでは、ベテランのカントリー・シンガーの歌が青春の恋に悩む彼女の救いになり、彼女はそこから着想を得てこの曲を書いている。14歳の少女だったテイラーと契約を交わしたビッグ・マシーン・レコードは真っ先にこの「Tim McGraw」に飛びついたというが、その直感は間違っていなかった。
デビュー当時から長い間テイラーと仕事をともにしていたリズ・ローズが共作者に名を連ねる「Tim Mcgraw」は、2006年の夏にアメリカのカントリー・チャート入りを果たすと、全米シングルチャートにも登場し、最高で40位をマーク。テイラーがその高い潜在能力を早くから示した1曲である。
27位: Gorgeous
アルバム『Reputation』からの最初のシングルとしてリリースされた「Look What You Made Me Do」はエッジの効いた曲調だったが、続いて発表されたミドル・テンポのバラード曲「Gorgeous」は、可愛らしく親しみやすい従来通りの作風だった。
マックス・マーティンとシェルバックのふたりを迎えて制作されたこの曲は、ポップ音楽を扱うラジオ局で瞬く間に人気を獲得。上記の2曲をどちらも収録する『Reputation』は、テイラーが多様なスタイルを大胆に打ち出した野心的な作品だった。
26位: Safe And Sound
2011年に始動した『ハンガー・ゲーム』シリーズは、3部作から成るベストセラー小説を原作とした世界的な人気映画シリーズである。世のアーティストたちは自らの楽曲をこの映画の劇中で使用してもらうべく躍起になっていたが、その中でテイラーは同シリーズに2曲を提供した。
彼女がオルタナティヴ・カントリー・グループのシヴィル・ウォーズと制作した飾り気のない1曲「Safe And Sound」もそのひとつで、テイラーへの好意的な論評がようやく増えはじめたのはこのころからだった。
25位: Wildest Dreams
『1989』からのシングルとしてエネルギッシュなパワー・ポップ・ナンバーを立て続けにリリースしたあと、2015年8月に趣向を変えて落ち着いた曲調の「Wildest Dreams」をシングル・カットしたのは、実にいいタイミングだった。
同曲はドリーム・ポップ調の優美なアンセムだが、映画『愛と哀しみの果て』を意識して作られたミュージック・ビデオ (共演はスコット・イーストウッド) では、他では見られないテイラーの魅惑的な一面も見ることができる。
この曲もそのほかのシングルに劣らぬ大ヒットとなり、リミックス・ヴァージョンは米ビルボード誌のダンス・チャートで1位を記録。このチャートでの首位獲得はテイラーにとって初めてのことだった。これは、その気になれば新たな分野にも容易く進出できるほど、彼女の楽曲の質が高いという証拠である。
24位: Red
アルバム『Red』からのふたつめのプロモ・シングルとなった表題曲「Red」は、テイラーが自身のルーツであるカントリー・サウンドに回帰した1曲だった。だがその曲調は、曲中で現代風の爽やかなポップ・サウンドへと変貌する。
そんな同曲のリリース当時、カントリー・チャートにおけるテイラーの競争相手はもはや彼女自身しかいなかった。実際、米カントリー・チャートで「Red」の首位獲得を阻んだのは、テイラー自身の楽曲だったのである。
23位: ME!
挑戦的な作風の『Reputation』のリリースから18ヶ月後、テイラー・スウィフトは新曲となる「ME!」を発表。これは、1960年代の音楽を意識したバブルガム・ポップや、21世紀初頭のパワー・ポップ・アンセム、そして色褪せることのないカントリー・ミュージックなど、過去の音楽を見事に取り入れた彼女にぴったりの1曲だった。
そんな同曲にはパニック・アット・ザ・ディスコのブレンドン・ユーリーも参加。彼は可愛らしくなりがちな高音部分に粗さを加える調整役として機能しているが、これはテイラーを代表する名曲すべてに共通する手法でもある。その巧みなバランスにより、楽曲に活気が生まれているのだ。
また、歌詞の面ではお馴染みのテーマに立ち返った印象を受けるものの、サウンドは以前のものとは異なる。楽曲そのものは実に典型的なポップ・ソングだが、そのサウンドがキャッチーな楽曲に強烈なインパクトを加えているのだ。なお、2019年のビルボード・ミュージック・アワードのオープニングでふたりが披露したパフォーマンスは、このイベントの歴史に残るすばらしいパフォーマンスのひとつとして高く評価されている。
22位: Better Man
「Better Man」はもともと、テイラーがアメリカのグループ: リトル・ビッグ・タウンに提供し、2016年にカントリー・チャートで1位を獲得した楽曲である。彼女は2021年にリリースした『Red (Taylor’s Version)』の収録曲として、自身のヴァージョンを発表。これは、彼女がかつて制作した楽曲の権利を取り戻す活動の一環でもあった。
美しいメロディが魅力の同曲だが、テイラーのヴァージョンには、オリジナル版にこもっていたほろ苦い感情まで見事に表現されている。なお、収録アルバムである『Red (Taylor’s Version)』は、エネルギーに満ちた再録トラックのほか、オリジナルのアルバムの制作と同じ時期に作られていた魅力的な楽曲の数々を併せて収録したボリュームのある作品になっている。
21位: Everything Has Changed
強い存在感を放つ女性スターであっても、恋の噂が報じられた男性を基準に語られてしまう。そんな現実が未だにあるのは嘆かわしいことである。実際、テイラーの恋愛事情は世間から多大な (そしてはっきり言って迷惑なほどの) 関心を向けられてきた。だが少なくとも、エド・シーランと彼女の関係は、ふたりのコラボレーションの成果を中心に回っていた。
そのひとつである「Everything Has Changed」もまた『Red』に収録されていた1曲で、この曲は同作のリリースに合わせて行われたコンサート・ツアーの一番の目玉になった。ふたりのヴォーカルの相性についてはもはや言うまでもなく、同曲もまた大ヒットを記録。特にUKのヒット・チャートでは最高で7位まで上昇している。
20位: The Man
シンセサイザーを多用したコーラス・パートが印象的な「The Man」は、トゲのある内容の力強いポップ・ナンバーである。2019年にリリースされたアルバム『Lover』は、その前作に当たる『Reputation』の作風とは対照的に、明るいトーンが復活した作品だったが、これは同作からのシングルに選ばれたのも納得の1曲である。
テイラーは「The Man」のミュージック・ビデオで監督にも初挑戦。MTVビデオ・ミュージック・アワードでは、その長い歴史の中で、女性としては初めて最優秀監督賞を受賞している。
19位: Teardrops On My Guitar
ビルボードのヒット・チャートのトップ20入りを果たし、以降のライヴの定番になったこの曲は、テイラー・スウィフトに真のブレイクをもたらした。「Tim McGraw」より曲のテンポは速いものの、それでも「Teardrops On My Guitar」は歌いやすいミドル・テンポのナンバーに仕上がっており、観客が一緒になって歌いやすいことから初期のライヴでは鉄板の人気ナンバーになった。
きらきらと光るドレスにお馴染みのカウボーイ・ブーツ姿で輝きを放つテイラーの姿から連想するのは、いつだってこの曲である。アメリカ国外では装いを新たにリリースされた同曲は、テイラーにとって初めて全英でのヒットも記録 (惜しくもトップ40圏内には届かなかった) 。セルフ・タイトルのデビュー・アルバムからのシングルとしては最も高いチャート成績を残した。
18位: the 1
世界をあっと驚かせた2020年作『folklore』のオープニングを飾る「the 1」もアルバム自体と同じく、その露骨な歌詞でリスナーを驚かせた。だがそれでも、このメロウなトラックの音楽としての完成度を疑う人はいないだろう。
前作『Lover』のポップな作風から一点、フォーク路線へと意外な転換をみせた『folklore』は、新型コロナウイルスのパンデミックが始まったばかりのころ、世界中のリスナーの心を掴んだ。というのも、その音楽性の変化は、当時の生活そのものの劇的な変化と重なるものがあったのである。シングルとしてリリースされた「the 1」は、世界中のチャートでトップ10入りを果たした。
17位: Mine
多くのアーティストがインターネットでの音源リークに頭を悩ませているが、残念ながらテイラー・スウィフトも2010年の夏にそのひとりになってしまった。3作目のスタジオ・アルバム『Speak Now』のリード・トラックである「Mine」がネット上に流出してしまったのだ。
そんないわくつきの「Mine」だが、この曲にも力の入ったプロモーション・ビデオが作られ、同ビデオはのちにカントリー・ミュージック・テレビジョンの最優秀ビデオ賞を受賞。そのことが示す通り、同曲は様々な面で、彼女のルーツである王道のカントリー路線に少しだけ回帰した1曲だった。
テイラーのキャリアを代表する多くの曲と同様、その大きな魅力は手堅いメロディ・ラインにある。だが後になって振り返れば、その作り手である彼女はこの時期すでに、キャリアを次なるステージに進めるべく音楽性の転換を見据えていたのかもしれない。
16位: Bad Blood
アルバム『1989』の収録曲「Bad Blood」のリミックスでラッパーのケンドリック・ラマーがゲスト参加することが判明したとき、多くのリスナーはテイラーが一線を越えてしまったと感じたものだ。
そもそもこの曲の歌詞は、とある別のアーティストと彼女との間に報じられていた仕事上の確執を赤裸々に歌ったものだった。もともとが露骨な内容だったのである。それに加え、“アメリカズ・スウィートハート (国民の恋人) ”と呼ばれる彼女がヒップホップの分野に進出することを無謀だと考える人もいた。
だがもちろん、テイラーには無茶をしないだけの分別があったし、この曲は『1989』収録曲で3番目の全米ナンバー・ワンに輝いた。また、カメオ出演満載のプロモーション・ビデオは一目見てそれとわかるスーパーヒーロー映画のオマージュになっており、MTVの最優秀ビデオ賞に選ばれたのも納得の出来である。
15位: Change
テイラー・スウィフトが慈善活動に熱心であることはよく知られており、「Change」はそのことを顕著に示す初期の楽曲である。収益のすべてがアメリカのオリンピック・チームに寄付されたこの曲は、彼女にとって初めての全米トップ10シングルという点でも本ランキング入りに相応しい。
そんな「Changes」ではエンパワーメントや逆境の克服といったお馴染みのテーマが取り上げられているが、そうした題材がポップでキャッチーなメロディやエッジの効いたロック調のギター・リフに乗せて歌われる。今になって振り返れば、テイラーが“アーティスト”として輝きを放ち始めたのはこの曲が最初だった。
14位: cardigan
8thアルバム『folklore』のリード・シングルとしてリリースされた「cardigan」は、聴くほどに味わいを増してくる物悲しい1曲。同曲はテイラーがアルバムのプロデューサーであるアーロン・デスナーと共作したもので、テイラーにとって6曲目の全米ナンバー・ワンに輝いた。
歌詞の内容は彼女の実体験を基にして書かれたというより、エンターテインメントとして書かれた架空のストーリーなのだろう。霞みがかったようなソフト・ロック・サウンドに仕上がった同バラードは、テイラーのアーティストとしてのキャリアを代表する楽曲のひとつになった。こうして彼女は、ジャンルにとらわれず優れた楽曲を作れるという自信を深めてきたのである。
13位: You Need To Calm Down
「You Need To Calm Down」は、テイラー・スウィフトのポップな作風がその頂点に達した楽曲だ。タブロイド紙と彼女との戦いを念頭にうまく作り込まれたビデオ (MTVビデオ・ミュージック・アワードで最優秀ビデオ賞を受賞) で彼女は、自身が時として執拗なまでに向けられてきたスポットライトを世界中のリスナーに向けた。
一聴して実にキャッチーな同曲だが、その裏には深いテーマも隠されている。テイラーは作品を通して世間の幅広い問題を取り上げており、ここでは分断が加速する21世紀の社会に関して持論を展開。一流のアーティストは娯楽の中にメッセージ性を加えるものだが、『Lover』の一番の目玉であるこの「You Need To Calm Down」にもテイラーの主張がふんだんに盛り込まれている。
なお、彼女はこの曲でグラミー賞の最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス賞にノミネートされた。
12位: Blank Space
『1989』をリリースする頃、テイラーは思わず目を引くようなビデオ作りを極めつつあった。いつでも「Blank Space」と聞いて頭に浮かぶのは、俗っぽい表現を効果的に取り入れたお手本のようなプロモーション・ビデオだが、楽曲それ自体も十分魅力的で、間違いなくテイラー・スウィフトの名曲のひとつといえる。また、茶目っ気のある達観した歌詞には、程よいユーモアも散りばめられている。
それらすべてが相まって、エレクトロ・ポップ調の同曲は全米シングル・チャートで1位を獲得。MTVミュージック・アワードやアメリカン・ミュージック・アワードでは賞を受賞したほか、グラミー賞にもノミネートされた。
11位: coney island
テイラーの9thアルバム『evermore』の9曲目に配された「coney island」は、彼女のデュエット曲の中でも特筆すべき1曲である。彼女は、シンガーのマット・バーニンガーと、彼の所属するインディー・バンド、ザ・ナショナルを迎えてこの曲を制作した。
家庭内での関係性が描かれる同曲は、2020年作『evermore』のすばらしいハイライトになった。ザ・ナショナルのアーロン・デスナーとその双子の兄弟であるブライスが作曲に加わり、自信みなぎるインディ・ロック・ナンバーに仕上がったが、この曲がシングルに選ばれたのは驚きだった。テイラーは画一的でわかりやすい作風を求め続けるリスナーに対して無頓着な姿勢を強めていたが、それでもこれは少々意外な選択だったのである。
10位: Shake It Off
詩的な意味合いと同じだけ文字通りの直接的な意味合いが強い歌詞の曲があるとすれば、それは「Shake It Off」だろう。テイラーがそのルーツであるカントリーから完全に離れ、ポップな音楽性へと完全に転換した記念すべき1曲である。
テイラーの生まれ年がタイトルの由来だったアルバム、『1989』からのリード・シングルとして発表された同曲は大胆な挑戦だったが、それでもメジャーな路線から外れることはなかった。この曲は、いつまでもテイラーのキャリアを代表する1曲として認知され続けることだろう。テイラーは、往年の名曲を思わせる曲調の「Shake It Off」でカリスマ的存在へと生まれ変わったのだ。同曲は母国アメリカのチャートを制し、現在に至るまで彼女にとって最大のヒット曲となっている。
彼女のリスナーは日を追うごとに増加していたが、「Shake It Off」はその幅広い層に受け入れられるメロディ・センスを保ちつつ、“勇敢なアーティストはいつでも世間の期待の一歩先を行く”という仮説を確かなものにする楽曲だった。
9位: Look What You Made Me Do
テイラー・スウィフトが2017年に発表した新曲「Look What You Made Me Do」は、1991年の大ヒット曲「I’m Too Sexy」に着想を得たものだった。そのことを知った原曲を歌うUKのバンド、ライト・セッド・フレッドの面々は宝クジに当たったような気分だったことだろう。そして実際、彼らはそのくらい大きな印税を得ることになった。
プロデューサーも務めたジャック・アントノフとテイラーが共作した同曲は世界中で記録的なヒットとなり、彼女にとって初めての全英1位も記録した。この曲の中で彼女は“昔のテイラーはもういない”と世界に向けて宣言。生まれ変わったテイラーは、そのまま好調を維持していくと思われた。
8位: You Belong With Me
2ndアルバム『Fearless』からの3番目のシングルとしてリリースされた「You Belong With Me」は、アンセム調でポップ風味のカントリー・ナンバーだ。当時はこの曲でマークした2位が、全米シングルチャートでの彼女の最高成績だった。
テイラーはビデオの中で、若い女性が共感しやすい高校生役を演じたが、この時期からビデオでの振る舞いにも自信が見られるようになり、そのスタイリングにも細かい表現が取り入れられるようになった。だが、そうした外面的な印象の強さが、楽曲としての高い完成度やキャッチーなコーラス・パートの魅力を損なうわけではない。このころ、彼女が発揮し始めていた確かな曲作りの才能を否定するのは、もはや偏見に満ちた“自称音楽通”くらいであった。
7位: no body no crime
ゲスト・ヴォーカルに女性ロック・バンド、ハイムの面々を迎えた「no body no crime」は、大胆なストーリーテリングを芸術の域に昇華させた重厚な1曲。人殺しを題材にしたポップ・ロック調のバラードで、『evermore』の収録曲の中でも批評家から特に高い評価を受けた。
また、この曲はUKなどを中心に高い人気を誇るハイムにとって、初めて母国アメリカでヒットしたシングルになった。唯一ファンを落胆させる点があるとすれば、新型コロナウイルスによるパンデミックの最中に発表されたため、この曲にはビデオがないことだろう。
6位: We Are Never Ever Getting Back Together
4thアルバム『Red』からの第一弾シングルとなった「We Are Never Ever Getting Back Together」には、一度聴いたら忘れられないテイラー・スウィフトの名曲の魅力が詰まっているが、それだけではない。この曲は、若いアーティストでも自分の手で運命を切り開けることを示してみせたのである。
楽曲の内容をみると、同曲は恋愛における主導権に関して、時代を先取りする大胆なメッセージを投げかけていた。当時、恋愛をはじめ人生のあらゆる分野において女性が虐げられていることは、まだ社会全体の問題にはなっていなかったのだ。
他方、マックス・マーティンとシェルバックという伝説的なヒットメーカーたちと初めて手を組んだ同曲は、テイラーのキャリアにおける転換点にもなった。この曲で彼女は、若くして自らのキャリアにおける自由をその手にぐっと引き寄せたのである。
思わず何度も聴いてしまう中毒性を持つ「We Are Never Ever Getting Back Together」でテイラーは、初めて全米シングルチャートの1位を獲得。その歌詞はタブロイド紙でも大きな話題を呼んだが、彼女は謎に満ちた期待の新星としてこのあと執拗に追い回されることになった。
5位: Love Story
テイラーがまだ国際的な大人気アーティストではなく新進気鋭のスターだったころ、世界中の多くのリスナーにとって彼女を知るきっかけとなったのがこの「Love Story」である。
リリース当時10代だったテイラーは、好評を博したビデオの中で恋に夢見るプリンセスを演じている。そして、この興味深いイメージの転換に激しく食いついたのがタブロイド紙だった。それから数年後、苛烈さを増す報道によって彼女の人物像は歪められてしまうことになる。
「Love Story」は明らかにカントリー・タッチの1曲だったが、大胆なほどポップに仕上げられたサウンドの助けもあり、ラジオで大きな人気を獲得。その年の各賞に数多くノミネートされた。セールス面ではこの曲がテイラーにとって初めての大ヒット曲となり、オーストラリアでは1 位、UKでは2位をそれぞれ記録。アメリカでもトップ5入りを果たしている。
4位: I Knew You Were Trouble
マックス・マーティンとシェルバックを迎えて制作された「I Knew You Were Trouble」はその名の通り、テイラーが“騒動”を巻き起こした1曲だった。「We Are Never Ever Getting Back Together」で脱却したかつての路線に二度と戻らないことが、この曲ではっきりしたからである。
この時期以降に発表された一連の新曲はいずれも本ランキングに相応しいものばかりだが、ポップとカントリーを融合させたサウンドが際立つ同曲もそのひとつ。耳に残るギター・リフも相まって大ヒットとなり、英米両国で最高2位をマークした。
そんな「I Knew You Were Trouble」は記念すべき40回目のアメリカン・ミュージック・アワードで初披露されたが、このステージも、テイラーがライヴ・パフォーマンスに自信をつけていることがよくわかる名演だった。
3位: Lover
2019年のアルバム『Lover』の表題曲は、60年代のアメリカーナを下敷きにしたような爽やかなナンバー。いくつかのリミックスが制作されているが、オリジナル・ヴァージョンのリラックスした空気感に勝るものはないだろう。実際、テイラー本人も「Lover」を短時間で書き上げたことを明かしている。
『Lover』の収録曲はどれも質の高いものばかりであるが (彼女の最高傑作に挙げる向きも多く、少なくともポップな作風のアルバムの中では一番だろう) 、これはその中でも際立った楽曲のひとつ。ワルツのような気楽さのある曲調が不思議な魅力に繋がっているからだろう。もちろん、その年のベスト・ソングを纏めたランキングには必ずと言っていいほどランクインしている。
2位: willow
「willow」は『evermore』のオープニング・ナンバーにして、アルバムの印象を決定づける1曲。抑制の効いたそのグルーヴには、じわじわと聴く者の心を掴む魅力がある。実際、リスナーの脳裏に焼き付く曲調の「willow」はアルバムのリード・シングルに選ばれ、ラジオ・ディレクターたちの耳にも強烈な印象を残した。
世界中に大きな変化が起きたここ数年の間にリリースされた『folklore』と『evermore』という2作のアルバムは、物悲しくもキャッチーなメロディを書き上げるテイラーの才能を世間に知らしめた。彼女のツアーが再開したとき、テイラーはきっとまったく新しい姿を見せてくれることだろう。
1位: Anti-Hero
アコースティックでパンデミック期に発売されたアルバム『folklore』と『evermore』の2作品に続いて発売された『Midnights』とそのリードシングル「Anti-Hero」でテイラー・スウィフトは彼女のポップな才能を完全に取り戻した。
彼女の信頼するコラボレーター、ジャック・アントノフを味方につけた「Anti-Hero」は、シンセポップの輝きを放つ『1989』から、自虐的な『reputation』、複雑なリリックを持つ『folklore』と『evermore』へと、彼女の過去の作品を進化させた作品だ。その結果、密度の濃い、感染力のある耳触りの良いアンセムが出来上がった。
Written By Mark Elliott
テイラー・スウィフト『Midnights』
2022年10月21日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
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