レコード盤で所有すべきベスト・チェス・アルバム25選

Published on

最高のアルバムとは何だろう? クオリティの一貫性は確実にプラスになるし、更に言えば、終始一貫したある種の統一性やまとまり、あるいは一貫したコンセプト…。そういった条件を満たすものであれば、素晴らしいLPに限りなく近いだろう。レコード盤で所有すべきベスト・チェス・アルバムを選ぶに当たり、目標としたのはまとまりのある音楽を探しつつ、でもコンピレーションLPは避ける(可能な限り)ことだった。それが良くないからというのではない。それどころか、手に入れたら、どの曲もきっと楽しめるだろう。しかし一貫して満足のいく、選りすぐりの曲から成る、統一感のある“ベスト・オブ”・アルバムではないものを聴くのは格別なことであり、それこそが今回の目的でもある。

しかし、ここでひとつご注意を。チェスのレコード盤アルバムには、非常にレアなものが数多くあり、もう何十年も流通していないという単純な理由から、このリストには入っていないものもあるだろう。その中の幾つかは最後の特別枠に入れた。従ってこれは史上最高のチェス・アルバム・リストの決定版というよりは、旅の出発点と考えて欲しい。そしてこれ等のアルバムをオリジナル・フォーマットで見つけることが出来ない人の為に、可能な限り代わりにデジタル版を入れておいた。

そして、言うまでもなく、このレコード盤で所有すべきベスト・チェス・アルバム・リストに加えたいものがあれば、コメント欄を通して知らせて欲しい。

■ジーン・アモンズ『Soulful Saxophone』
1958年にリリース(そして1967年には「Makes It Happen」という別タイトルで再発)されたこのアルバムには、チェスから愁いに満ちたファースト・シングル「My Foolish Heart」を生んだジャグの1950年セッションや、その当時のシングル・リリースが収録されている。全10曲、その大部分はスタンダードであり、全てがバラードだが、全曲を通してドリーミーで夜の雰囲気が漂い、当時としては珍しいジーン・アモンズのリバーヴが掛かった厚みのあるテノール・サウンドが、聴き手の心を満たし、最高に心地好いソウルへと誘う。

■チャック・ベリー『St Louis To Liverpool』
1964年のカムバックLP収録に収録されたヒット・ナンバー4曲、コメディの「No Particular Place To Go」、思慮に富んだ「You Never Can Tell」、壮大な「Promised Land」、そして切なる思いの「Little Marie」は重要かつ格別だ。しかしこのLPに一貫性をもたらしているのは他の曲だ。「Our Little Rendezvous」、「Go Bobby Soxer」、ギター・スリムの「The Things I Used To Do」のカヴァー、そして残された愛の物語「Little Marie」の少なくとも4曲が、マン法〔訳注:売春等の目的で女性を州から州へ移送することを規制する為の法律〕に基づいた、チャックの罪と罰をほのめかしている。15年後、ロック批評家のデイヴ・マーシュがこの『St Louis To Liverpool』を“これまでで最高のロックンロール・レコードのひとつ”と呼んだのは、そういう理由からなのかも知れない。史上最高のチェス・アルバム・リスト堂々のエントリー。

■チャック・ベリー『The Great Twenty-Eight』
そう、ヒット満載作品だ。しかも歴史そのものでもある。そう、ロックン・ロールがその補助輪を外すことになった時代のサウンドだ。入手可能な草分け的ヒット作(大ヒット&小ヒット)28曲収録のチャック・ベリーのベスト・コンピレーション。元々はCD時代の始めにダブルLPとして発表された『The Great Twenty-Eight』だが、その後デジタルとして発表し続けられ、2017年に再びアナログ盤にプレスされた。ここに収録されているものは全て、チャック・ベリーのチェス最初の9年間に発表された作品の為、全米全英1位獲得した「My Ding-A-ling」は入っていない。しかし恐らくは、それが抜けていることに気づかないだろう。

■ザ・デルズ『There Is』
DJ達が“イリノイ州ハーヴェイの自慢の種”と呼んだクインテットは、1968年の初カデットLPに、エネルギッシュなナンバーとバラードものを網羅した全12曲を発表した。ザ・エルレイズとして結成後14年で、ザ・デルズはプロデューサーのボビー・ミラーとアレンジャーのチャールズ・ステップニーの手腕により、ドゥー・ワップ・ハーモニーと60年代ソウルをブレンドさせた。「When I’m In Your Arms」「Close Your Eyes」「Please Don’t Change Me Now」、そしてモータウン調のタイトル・トラックに続く、息の長いヒット・シングル「Stay In My Corner」といった曲で、しわがれたバリトーンのマーヴィン・ジュニアとファルセット・テノールのジョニー・カーターの絡み合うリード・ヴォーカルが生き生きと輝いている。

■ボ・ディドリー『Bo Diddley’s Beach Party』
ボ・ディドリーの音楽と姿勢に初期パンク・ロックのルーツを探し求めている人には、まずはこれが良いのではないだろうか。チェスのコレクションを始めるのに最良のこのチェス・アルバムは、1963年にサウスカロライナ州マートル・ビーチで、2,000人のファンの前で見せるボ・ディドリーの情熱、飾り気のないカッコよさ、そしてパワーを捉えたライヴ・ドキュメントとして今日も知られる。「Road Runner」が際立っているが、全てはロッキング・リズムと呼応する。2夜のレコーディングから選び抜かれたものだが、レーベルの研究家ネイディーン・コホダスによると2晩目はボ・ディドリーのサイドマンのジェローム・グリーンが、マラカスをプレイする為にステージから飛び降りた際、白人の女の子達が彼を取り囲み一緒に踊った為に、地元の人種分離法を守らせるべく、警官がショウを打ち切り、途中で終わってしまったのだという。

■アート・ファーマー&ベニ―・ゴルソン・ジャズテット『Meet the Jazztet』
たとえベニー・ゴルソンの名作「I Remember Clifford」「Blues March」「Killer Joe」が収録されているからという理由だけであっても、この1960年ものLPは所有する価値がある。これに厳選されたスタンダードを数曲と、トランペッターのアート・ファーマー、テナー・サックスマンのベニー・ゴルソン、そしてトロンボニストのカーティス・フラーのフロントラインと、そこにリズム・セクションとしてピアノに20歳のマッコイ・タイナー、ベースにアート・ファーマーの兄弟のアディソン、それからドラムスに(正当に評価されていない)レックス・ハンフェリーの快活なパフォーマンスを加えたら、エッセンシャル・ハード・バップ・アルバムが出来上がるだろう。「Killer Joe」のより長いLPヴァージョンには、チェスのジャズ系レーベルのアーゴのEP盤を編集したカーティス・フラーのソロが含まれる。このレコーディングは後に『The Complete Argo Mercury Sessions』の一部として発表されているので、オリジナルを必死で探そうとしている人はそちらを。

■アレサ・フランクリン『Songs Of Faith』
この作品の収録曲を自らのピアノ伴奏をバックに、デトロイトにある父親の教会でライヴ・レコーディングした時の“クイーン・オブ・ソウル”は14歳だったが、この時すでに自信に満ちた技で作品に挑んでおり、その彼女を教会に集った人々が勢いづける。1956年に小さなレーベルからリリースされ、アレサ・フランクリンが成功を収める数年前の1965年にチェスが初めて再発した。この後『The Gospel Soul Of Aretha Franklin』や『Aretha Gospel』等々、さまざまなタイトルで何度も再発する。しかしこのLPに収録されているのは、紛れもなく1967年に世界に衝撃を与える、完全に出来あがり、音楽的知性感じられるあの声だ。

■アーマッド・ジャマル『Chamber Music Of The New Jazz』
1958年のLP『At the Pershing: But Not for Me』は、代表的なジャズLPとしてよく引き合いに出されるが、リリースされた屈指のチェス・アルバムといったら、1956年の前作といっても良いだろう。『Chamber Music Of The New Jazz」はチェスのジャズ系レーベルのアーゴに、ジャズ・レーベルとしてのイメージを定着させるのに一役買ったが、このヴァージョンにはピアノ、ギター、ベースというラインアップから成るジャマル・トリオがフィーチャーされている。その洗練された、静かで心地よいサウンド以上に、アーマッド・ジャマルのミニマルな空間の使い方は、マイルス・デイヴィスとアレンジャーのギル・エヴァンスに強い影響を与えた。その2年後のアーゴからのLPは、幾つかの観点から画期的だった。チャートに2年以上留まったという売上げに関しては言うまでもなく。珍しいライヴ・ラウンジ・レコーディングであり、その人気の背景にあるのは「Poinciana」だけではなく、より伝統的なバンド・ラインアップと、全体を流れる優美でゆったりとしたタッチにあった。

■エタ・ジェイムス『Tell Mama
ウィルソン・ピケットとアレサ・フランクリンをマッスル・ショールズへ送り込んで成功を収めたアトランティック・レコードに注目したレナード・チェスは、エタ・ジェイムスでも上手くいくと正確に見極め、そうして成功した。ヒット・シングルを手にしたのみならず、このハウス・バンドがまるでエタ・ジェイムスの為に結成されたかのような勢いで、感情に訴える曲を12曲分生み出し、その結果チェスのソウル時代を代表するアルバムが誕生した。タイトル・ソングとオーティス・レディングのカヴァー曲「Security」がヒットし、「I’m Gonna Take What He’s Got」といったナンバーは、この時代屈指のソウル・ミュージックと肩を並べる。そして、いうまでもなく「I’d Rather Go Blind」も収録されている。

■エタ・ジェイムス『Etta James』
1973年のチェス・リリース時にグラミー賞にノミネートされた作品だ。その大部分がダークで憤りに満ちた作品で、ロック・ファンに向けたものだったのかも知れないが、この激しい怒りは現在でも普遍的なものであり、エタ・ジェイムス自身の薬物中毒と法との闘いに支えられていた。ランディ・ニューマンの素晴らしいカヴァー3曲中の1曲「God’s Song」は、非常に衝撃的だが、どの辛辣な曲も聴き手の心を捕らえる。特にそれが著明なのは、“スーパーフライ”っぽいオープニングの「All The Way Down」、ボビー・“ブルー”・ブランドの「I Pity The Fool」のコーラスが組み込まれている「Only A Fool」、そして見せ掛けの絶望が描かれた「Lay Back Daddy」。唯一ひと息つけるのは(幾らか)、訴えかけてくる最終曲、オーティス・レディングの「Just One More Day」。

■ラムゼイ・ルイス・トリオ『The In Crowd
ラムゼイ・ルイス・トリオ全盛期のコマーシャルでポピュラーな作品。ピアノのラムゼイ・ルイス、ベースとチェロのエルディー・ヤング、そしてドラムスのレッド・ホルトは、この1965年チェスLPで、ワシントンDCのボヘミアン・クラブの反応の良いオーディエンスの前でライヴを披露。タイトル・ソングの未編集ヴァージョンで彼等最大のシングル(ドビー・グレイのポップ・ヒットのジャズ・カヴァー)から、A面はスタートする。大多数の曲にはラムゼイ・ルイスのブルースが感じられるが、レッド・ホルトのライトなタッチと、エルディー・ヤングのしっかりとした基礎(そして「Tennessee Waltz」中のチェロ演奏)と、全体の流れを推し進める彼のヴォーカルもまた、このグラミー賞受賞作でありナンバー・ワンR&BチャートLP中で傑出している。

■ローラ・リー『Love More Than Pride』
チェス傘下チェッカー・レコードから作品を発表したデトロイトの名高いゴスペル・グループのザ・メディテーション・シンガーズのメンバーとしてスタートを切ったローラ・リーが、チェスからリリースした宗教色のない作品はもっと注目されても良い。彼女の唯一のチェスからのLPであるこの1972年コンピレーションは、シカゴとマッスル・ショールズのレコーディングから選り抜かれ、ホット・ワックスからヒット作を生み出すようになってからリリースされた。カーティス・メイフィールドのカヴァー2曲(同じシングルに収録)と、ケニー・ロジャーズの「But You Know I Love You」は良く合っている。素晴らしいナンバー「Dirty Man」は、ローラ・リー最大のチェス・シングルであり、力強いタイトル・ソングは彼女の最後のチェス・リリースで気取らず大胆なサザン・ソウル・ヴォーカルを聴かせるより共感を呼ぶ作品だ。認知度以外で唯一欠けているのは、「Dirty Man」や「Uptight Good Man」に匹敵するような優れた曲だが、それは(そして『Love More Than Pride』自体も)2006年のコレクション『Very Best Of Laura Lee』で触れることが出来る。

■リトル・ミルトン『Grits Ain’t Groceries』
チェス参加のレーベル、チェッカーから発売されたリトル・ミルトンのソウル・ブルース色の強いLP4枚全てがこのリストに入る資格があるし、1969年リリースのこの最終アルバムは、彼のベスト・チェス・アルバム・リストのトップを飾るのに相応しいかも知れない。「I’ll Always Love You」といった柔らかなバラード、タイタス・ターナーの有名なタイトル・ソングのレイヴアップ、「Did You Ever Love A Woman」等のストーン・ブルースと、説得力のある多才ぶりで、彼の声は絶好調だ。リトル・ミルトンのギターは骨の髄まで染み込むし(「I Can’t Quit You」に耳を傾けよう)、ホルン・セクションはどのナンバーも見事に引き立てている。ジーン・バーグのアレンジメントはさすが。チェスが70年代に入ってからもブルース・ファンの間でその存在力を維持し続けられたのは、こういったアルバムのお陰だ。

■リトル・ウォルター『The Best Of Little Walter』
彼はひとつのものをいちから作り直した。これは決してやってはいけないことだが。しかしリトル・ウォルターの妙技は、ハーモニカを新たな次元へと導き、ブルースに於けるこの楽器のサウンドと役割は永遠に変えられた。彼がプロデュースしたサウンドは、シカゴ・ブルースをその他全てのものから切り離したとも言えるだろう。これはオリジナル1957年LPのことだが、これに続く作品の大多数にも「My Babe」「Blues With A Feeling」「Juke」「Mean Old World」等々が収録されており、現在でも一世代(あるいは三世代)の指南役になっている。

■MJT+3『Daddy-O Presents MJT+3』
若きシカゴのクインテットが1957年にチェス参加のレーベル、アーゴから放った卓越した知的なハード・バップ・デビュー作。注目に値するのはその絶妙なソロ以上に、共鳴するハーモニックなインターアクションだが、ここのプレイヤー達の妙技は明らかだ。トランペットのポール・セラーノ、サックスのニッキー・ヒル、ベースのボブ・クランショウ、ドラムスのウォルター・パーキンス、そしてピアノのリチャード・エイブラムス。リチャード・エイブラムスの仕事はとりわけ大胆だが、彼はこのディスク収録のオリジナル・ナンバー5曲を書いている。

■ジェームズ・ムーディー「Cookin’ The Blues」
この1961年サンフランシスコ・ライヴには(1998年に「At The Jazz Workshop」として再発さ)、ジェームズ・ムーディーのアルト、テナー、フルート、そして彼の7人編成グループのプレイが収められている。更にヴォーカルの先駆者エディー・ジェファーソンが2曲で抜きん出たプレイを披露。小さなグループをビッグ・バンドのように聴かせるジェームズ・ムーディーの能力はここでも健在だが、このチェスのジャズ系レーベルを代表するアルバムで、彼はソロの大部分を担当し、そのひとつひとつが創作力と自信で輝いている。

■ザ・ムーングロウズ『Look, It’s The Moonglows
レコード盤の数あるメリットのひとつに、LPの両面には異なる指向があるという点が挙げられる。バラード満載のA面は、まるで永遠に続くロマンスに付けるサウンドトラックの為に制作されたようだ。ストリングスを使ってジャンルをアップデートしようとする試みは、ハーモニーをそれほど損なうこともなく、フランク・シナトラのどのアルバムでもきっと同じように上手くいっただろう。58年ヒット・ナンバー「10 Commandments Of Love」からスタートするB面のミニマルなインストゥルメンテーションでは、グループ最高の“ブロウ・ハーモニー”が堪能出来る。アルバムがリリースされた1959年はドゥーワップ時代に陰りが見え始めていた頃だったが、57年からの作品収録の同コレクションは、楽器としての声に対する賛辞であり、チェス・レコード最初の10年を代表する作品であり続ける。

■ビリー・スチュワート『Unbelievable』
これほどハッピーなソウル・ミュージックとグレイト・アメリカン・ソングブックのコンビネーションは他にはないだろう。この1966年チェス・アルバムに収録されたビリー・スチュワートの見事なヒット・シングル「Summertime」のロング・ヴァージョン改訂版の中央には、エクステンデッド・ヴォーカル・ヴァンプが登場する。収録されている他のスタンダード11曲はこれほどまでに徹底的に再考されてはいないが、ビリー・スチュワートの個性的なソウルフル・スキャットによって驚くような変貌ぶりをみせ、それにフィル・ライトのいかしたアレンジメントが完璧なセッティングを生み出し、それが時折スチュワートのジャズの技を上手く引き出している。

■ザ・ヴァイオリネアーズ『Groovin’ With Jesus』
このゴスペル・グループ初期のチェッカーからのLP 8枚には、彼等の素晴らしいシングルや、20世紀半ばの偉大なカルテットの伝統を受け継ぐようなパフォーマンスによる曲が収録されていた。どこかで見かけることがあったら、即手に入れるべし。1971年に入ると、状況が変わり、グループも変わっていった。ダイナミックなヴォーカリストのロバート・ブレア率いるザ・ヴァイオリネアーズは、このレコードでよりファンキーなアレンジメントを取り入れ、ポップ・チャートに目を向け、社会的問題を扱った歌詞に取り組み、曲の長さを伸ばした。例えば、バディ・マイルスの「We Got To Live Together」の5分に及ぶテイクは、スライ&ザ・ファミリー・ストーンに負うところが大きい。また彼等はジョージ・ハリスンの「My Sweet Lord」や「Hair’s ‘Let The Sunshine In」、そしてオーシャンの「Put Your Hand In The Hand」もカヴァーしている。6分強の「Take Me」がよりトラディショナルな内容に立ち返っている一方、この大胆なゴスペル・ファンク・プロジェクトは、世俗的なものと宗教的なもののバランスを、実に巧妙にとっている。

■マディ・ウォーターズ『At Newport 1960』
大部分が白人で占められたオーディエンスを初めて前にした、マディ・ウォーターズの輝かしいプレイを追ったライブ盤で、セットが進むにつれ、観衆、バンド、そしてマディ・ウォーターズ自身の情熱が高まるのを、容易に感じ取れるだろう。映像中の「I’ve Got My Mojo Working」のリプライズのパフォーマンスでは、マディ・ウォーターズがハープの名人ジェイムズ・コットンと踊るのが映し出され、オーディエンスの叫び声がレコードから伝わってくる。オーティス・スパンのピアノもまた突出しているが、最後まで脚光を浴び続けるのはマディ・ウォーターズその人だ。

■マディ・ウォーターズ『The Muddy Waters Woodstock Album』
1975年のマディ・ウォーターズの知られざるチェス最後のLP。レーベル60年代後半のオールスター・ジャム・セッション中にレコーディングされた、ベスト・チェス・アルバム・リストのトップを飾る作品。ザ・バンドのドラマーでベースも少しプレイしているリヴォン・ヘルムが先頭に立ち、ザ・バンド仲間のガース・ハドソン、ハープの見事な演奏を見せるポール・バターフィールド、マディ・ウォーターズのピアニストのパイントップ・パーキンス、ギタリストのボブ・マーゴリンとフレッド・カーター、そしてサックスにハワード・ジョンソン等が参加。アップステート・ニューヨークで録られたセッションには、曲間にスタジオ内でおしゃべりする、リラックスして楽しそうな様子のマディ・ウォーターズが収められている。「Kansas City」や「Caldonia」といった名作と、オリジナル・ナンバー(マディ・ウォーターズの作品数曲を含む)が収録された、よくまとめられたこのルーツィーなセットには、それぞれの多才ぶりが披露されている。

■サニー・ボーイ・ウィリアムソン『Down And Out Blues』
レコード盤のもうひとつ素晴らしい特徴がライナーノーツだ。影響力の大きい初期の画期的なシングル12曲に加え、この1959年チェスLPにはシカゴの著名ライター、スタッズ・ターケルによる、サニー・ボーイ・ウィリアムソンの芸術の本質を見事に要約したエッセイがフィーチャーされている。いわく、生まれながらにしてロックン・ロールをバックグラウンに持つ彼の、12の短い物語をここで聴くことが出来る。さまざまな出来事、年、場所、時間が、まるで法廷ルポルタージュのように描かれている。文中でスタッズ・ターケルは、サニー・ボーイ・ウィリアムソンのA面の名プレイを、ホール・オブ・フェイム・ピッチャーのルーブ・ワッデルが草野球の子供達に対して打ち取るような、安心感のある三振に例えている。“そして、B面で、彼は全力を注ぐ”と彼は続ける。

■ハウリン・ウルフ『Moanin’ At Midnight/Howlin’ Wolf』
ハウリン・ウルフのチェス最初のLP 2枚中、49年の「Moanin’ At Midnight」と「The Rockin’ Chair Album」(そのカヴァーのイメージにより幾度となく取り上げられてきた)の内のどちらが優れているか、ファンは永遠に討論し続けてきた。セカンド・アルバムの支持者は、ブルース・スタンダートとなった「Wang Dang Doodle」と「Spoonful」や「Little Red Rooster」、そして「Back Door Man」をその理由に挙げる。デビュー作の味方は、ハウリン・ウルフのこれほどまでに没頭した凄みのあるサウンドは、他にないと反論するかも知れない。一番良いのはこの両方を手に入れることだ。

*特別賞
ベスト・チェス・アルバムの中には、今日オリジナル・レコード盤ではほぼ入手不可能なものもある。熱心なコレクター達が探し当てたら良いと思われるものを、ここに少しだけ記しておく。

■エタ・ジェイムス『Rocks The House』
彼女の1964年ライヴLPは、非常に高度なプロデュースによるスタジオ作品とは異なり、小さなグループによってバック・アップされたもので、どんなベスト・チェス・アルバム・リストにも値する作品。

■ジミー・マクラクリン『Jimmy McCracklin Sings』
魅力的で多作なウエストコースト・ブルース・シンガーは、1962年にチェスからLPを1枚リリースしている。この『Jimmy McCracklin Sings』には`58年のヒット・ナンバー「The Walk」の他に素敵なR&Bナンバーが11曲収録されている。

■ザ・デルズ『Musical Menu』と『Love Is Blue』
この2枚のチェス傘下のカデットからのLPは、そのどちらもドゥーワップと60年代/70年代ソウルが混じった、ヒット曲と強力なアルバム・カット満載のレアな存在だ。

■ロータリー・コネクションのカデッド・コンセプトLP
ミニー・リパートンは、ザ・ジェムスのシンガーとしてチェスからデビュー後、よく知られた曲のラディカルなリメイクで名高いエクスペリメンタル・サイケデリック・ソウル/ロック・グループのロータリー・コネクションに、リード・シンガーとして参加。グループはカデット・コンセプトでLPを6枚レコーディング(「Rotary Connection」、「Aladdin」、「Peace」、「Songs」、「Dinner Music」、「Hey, Love」)、現在でもカルト的人気を得ている。

■チェッカーとチェスのゴスペルLP
その大部分が60年代にレコーディングされた、チェスとチェッカーのゴスペルLPを見つけるのは非常に困難だが、もし買う余裕があれば探す価値ありだ。ここでその目玉を幾つか。デトロイト出身の宗教的/政治的指導者だった、レヴァレンド・C.L.フランクリン(アレサ・フランクリンの父)は、チェスから驚異的な57の説教をリリースし、ゴスペル・セットと共に大好評を得た。サム・クック後のソウル・スターラーズもまた、宗教に関係のない音楽で、サム・クックへの素敵なトリビュート・ナンバー「Slow Train」等、チェッカーとチェスからLPを数枚発表している。

■チェスのコメディLP
チェスはふたりの伝説的コメディアンのLPをリリースしている。マムズ・メイブリーはチェス・アルバムを少なくとも14枚発表し、ピグミート・マークハムは少なくとも15枚リリースしている。見つけたら必ず手に入れよう。

♪ プレイリスト『チェス・レコード・エッセンシャル

Written By Stu Hackel


Share this story

Don't Miss

{"vars":{"account":"UA-90870517-1"},"triggers":{"trackPageview":{"on":"visible","request":"pageview"}}}
モバイルバージョンを終了