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ツアーからの引退を表明したエアロスミス:しかしバンドの奇跡的な生命力を信じたい

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Aerosmith - Photo: Ross Halfin (Courtesy of ID PR)

元々は2023年9月から開始される予定だったエアロスミス(Aerosmith)のフェアウェルツアー、“Peace Out”。しかし、9月9日のツアー3公演目の後、ヴォーカリスト、スティーヴン・タイラーの声帯損傷により一旦延期に。その後、2024年10月からツアーは再設定されて実施される予定だったが、現地時間8月2日、スティーヴンの声帯の回復が難しいとしてバンドはこのツアーを中止することを発表した。

今回の発表について、エアロスミスを追い続け、実際にこのツアーのチケットも購入して観覧予定だった音楽評論家の増田勇一さんにその想いを文章にしていただきました。

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恐れていたことが現実になってしまった。8月2日、エアロスミスが自らのオフィシャルサイトなどを通じて「ツアーからの引退」を正式表明したのだ。

そもそも彼らは昨年9月から今年の序盤にかけ『PEACE OUT The Farewell Tour』と銘打たれた大規模な北米ツアーを開催することになっていたが、フィラデルフィア(9月2日)、ピッツバーグ(同6日)、エルモント(同9日)での序盤3公演を終えた時点で、それ以降の公演日程はすべて延期措置となり、今年の4月になってようやくその代替日程が発表され、この9月20日からはロードの生活に復帰することになっていた。しかし結果的にはそのツアー自体が中止されることになり、半世紀以上にわたり続いてきた彼らのツアー・バンドとしての歴史が、フェアウェル・ツアーが完遂されぬまま幕を閉じることになってしまったというわけだ。

Aerosmith – PEACE OUT Farewell Tour Opening Night (Sept 2, 2023)

 

完治しなかった声帯

昨年9月、ツアーが中断となった当初にその理由として挙げられていたのは、フロントマンであるスティーヴン・タイラーの喉の不調だった。それが一時的な休止では解決しなかったのは、彼の声帯損傷の症状が想定以上に重く、継続的な治療が必要と診断されたからだ。

実際、彼が不調を訴えたのは3本目の公演を終えた直後だったとされているが、以降の全公演が翌年送りとなることが発表されたのは、10月に入ってからのことだった。そして以降、ずっと加療が続いていたはずだが、今回の発表を通じて明かされたのは、エアロスミスが今回のツアーを完全に取りやめ、ツアー活動自体からの引退決意に至ったという事実だった。もちろんその理由は、熱心に治療を受け続けてきたにも拘らず、このバンドをエアロスミスたらしめる唯一無二の楽器ともいうべきスティーヴンの喉が、今なお完全回復を望めない状況にあることに他ならない。

この声明の文面には「最高の医療チームのもとで弛まぬ努力を続けてきた」といった記述もみられる。そこからは、スティーヴンの声帯があれこれ手を尽くしても完治不能な状態にまで追い込まれていたことがうかがえる。また、ツアーからの引退という究極的な結論については「心の痛む難しい判断だったが、その決断を下す必要があった」とされている。

日本でのエアロスミス作品の発売元であるユニバーサル ミュージックの担当者に問い合わせてみたところ、今回の発表内容についてはまさに寝耳に水だったとのことで、前週の時点では9月からツアーが再開される前提でアメリカ側とのミーティング等も進んでいたのだという。そうした事実からは、このツアー再開が可能であるか否かを判断するタイム・リミットがこの時期だったのではないかと推察できる。

 

バンド仲間やファンからのメッセージ

この突然の発表を受け、このツアーにスペシャル・ゲストとして同行することになっていたザ・ブラック・クロウズは「このニュースにショックを受け、悲しんでいる。エアロスミスの友人たちには敬意と愛情しかない。すべての素晴らしい想い出に心からの感謝を」というメッセージを発信し、他にも、クイーンのブライアン・メイ、サミー・ヘイガー、ガンズ・アンド・ローゼズのスラッシュといったアーティストたちが、彼らに対するリスペクトと感謝の念をSNS上などから発している。

ブライアンは「この一報には涙がこぼれた」と認めながら「スティーヴンは史上もっとも偉大なヴォーカリスト/フロントマンのひとりであり、彼の素晴らしい歌声がそれほどまでに傷付いてしまっていたことに心を痛めている」と綴り、スラッシュは「このバンドがいなかったら何もかも不可能だっただろう」と述べている。

もちろんアーティストたちばかりではなく、ファンからの反応も一気に広がりをみせ、エアロスミスの名前はここ日本でもXにおいてトレンド入り。「最後にもう一度、日本で観たかった」といった声も目についたが、そもそも2023年9月にスタートした『PEACE OUT The Farewell Tour』が当初の予定通り完遂されていたならば、今年の1月下旬に同ツアーが終了した時点で、エアロスミスはツアー・バンドとしての活動を終了していたはずだ。

確かに「ツアーを続けていくにつれバンドのコンディションが好転/向上し、活動継続を決意する」といったケースもこの世界においてはめずらしくないし、引退/解散宣言とその撤回を繰り返しながら生き永らえてきたバンドの実例も少なくない。ただ、そもそもこのフェアウェル・ツアー自体、ジョーイ・クレイマー(ds)を欠いた不完全な状態での実施に踏み切られていたことなどを踏まえると、バンドがその先にツアー活動延長の可能性を見据えていたとは考えにくい。

Aerosmith – Dream On (Live From Mexico City, 2016)

 

「バンドの生命力を信じたい」

ただ、今回の発表はあくまで「延期措置となっていたツアーの中止と、ツアー活動からの引退」に過ぎないのだという解釈もできる。この声明は、バンドの完全な終焉を宣言するものではない。ツアーは無理だとしても単発的な公演実施ならば可能なのではないか? 従来にはなかった形でのライヴの可能性についても考えられるのではないか? そんな微かな願望も頭をもたげてくるし、実際、ジョー・ペリーはごく最近のインタビューの中で「エアロスミスの新曲がこの先登場する可能性」について否定しておらず、初期の楽曲のアウトテイクなどを発掘していることも認めている。

もちろんそれは、あくまでツアーが実施される前提にあった時期の発言ではあるし、ツアー活動をする前提がない状況での創作活動について可能性がどの程度あるのかなど想像のしようもない。ただ、これまでの長い歩みの中で何度も激しい浮き沈みを経ながら、奇跡的ともいうべき蘇生のドラマを重ねてきたこのバンドの生命力を、筆者は信じたい。

今回の一件については、XのリプライやDMなどを通じて筆者のもとにもさまざまな声が寄せられたが、そんな中、ある読者からのメッセージに、僕自身が25年前に書いた小さな記事が添付されていた。エアロスミスの魅力をいわゆる洋楽ロック・ファン以外の層に伝えることを目的とするそのコラムには「紆余曲折を経てきた者だけが持つ、雑草のような屈強さを備えた5人の“人間味”」というタイトルが付けられていて、当時まだ30代後半だった僕は「かつて何度か階段を踏み外してきた彼らだが、どこかでもう一度転んでいたら、ロックの頂点のような現在の地位には辿り着けなかったのではないか」などと書いている。そうした人間ならではの危うさも背景にあるからこそ彼らの成功劇には惹かれるものがある、と言いたかったのだろう。2024年8月、エアロスミスに史上最大の危機が訪れ、彼ら自身が最重要レベルの決断を下したことは間違いない。ただ、それによってすべての可能性がゼロになったわけでは決してないはずなのだ。

実際問題、バンド内最年長のスティーヴンは現在76歳になっている。仮に今回、喉が完治していたとしても、その先にどれくらい長く活動を続けることができたかはわからないし、この9月で74歳になるジョーは「残された月日は限られているし、この年齢になると、カレンダーはどんどん短くなってくる」などと発言していたりもする。いずれにせよ、時間がさほど豊富に残されているわけではないことは否定しようもない。ただ、それでも歩みを止めないのがエアロスミスなのだと信じている。恐れていたことが現実になろうと、それを超えるような何かを引き起こしてしまうのがこのバンドであるはずなのだ、と。

Written By 増田 勇一


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