ジャズ100年の歴史を彩る100曲
ジャズが自身の伝記を書くとしたら、アメリカ南西部の‘ジャズの揺りかご’ニューオーリンズから始まり、ミシシッピ川からシカゴ、そしてニューヨークへと向かい、その後アメリカ国内各地を回り、やがては世界中へとその存在を広めることになるこの素晴らしき旅路のサウンドトラックに、どんな曲を選ぶだろう?それが分かる日がくることはないが、でも我々はここでジャズの“ゴーストライター”として、あるいは少なくとも“リストメーカー”として、色彩に富んだジャズの身の上話を語る100のトラックを選んでみることにした。
ジャズが広く伝わったのは、蓄音機が発明され、オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンドが、初ジャズ・レコーディングと認知されている「Livery Stable Blues」を、1917年にシングル・リリースした直後のこと。その後まもなく、パパ・ジョー・オリヴァ―、ルイ・アームストロング、(ジャズを発明したと常々言われてきた)ジェリー・ロール・モートン、そしてビックス・バイダーベックがジャズに命を与えた。
1930年代までには、デューク・エリントン等のバンドがザ・コットン・クラブ入場希望者全員の前で皆を楽しませ、チック・ウェッブはみんなを文字通り‘サヴォイでストンプ’させていた(Jazzのスタンダード「Stompin’at the Savoy」から)。フレッチャー・ヘンダーソンのバンドは「Tidal Wave」を引っ下げて登場し、スパイク・ヒューズがニューヨークでベニー・カーターとコールマン・ホーキンスと仕事をしたりと、イギリス人も初参戦した。その後ビッグ・バンドやスイングが人気を博し、カウント・ベイシーとベニー・グッドマンによって、ジャズがポップだった時代が続くが、ビリー・ホリデイが例の「Strange Fruit(邦題:奇妙な果実)」を歌うのは、まだ先のことだった。
1939年にブルーノート・レコードがスタート、当時は「Le Jazz Hot!」(1982年の映画『ビクター/ビクトリア』の楽曲)の時代に登場するような男達による、初期の音楽が録音された。ジャンゴ・ラインハルトとステファン・グラッペリが現われたのはこの頃。彼等はジャズにフランス語のアクセントを与えた一方、チャーリー・クリスチャンはエレキ・ギターの弾き方の手本を示し、ライオネル・ハンプトンはその歌の通り‘空高く舞っていた(代表曲「Flying Home」)。
そしてビバップが誕生し、産声を上げたその瞬間にはバード(チャーリー・パーカーの愛称)とディジー(・ガレスピー)が立ち会った。メアリー・ルー・ウィリアムスは革新者だったが、セロニアス・モンクのデビュー作でついて行く才能に欠けていたミュージシャンとは異なり、その才能は悲しいかな過小評価されていた。ルイ・アームストロングはオール・スターズで周囲を固め、前進する為に後戻りした。エラ・フィッツジェラルドはあのスキャットを見出し、コンサート・ホールは彼女の生息する場所となり、ノーマン・グランツによると、バードはジャズ・ミュージシャンのほぼ全員と同様、ストリングスでレコーディングをやりたがっていた。
マイルス・デイヴィスは文字通り‘クール’の‘誕生’に立ち会い(マイルス・デイヴスの名盤『BIRTH OF COOL(邦題:クールの誕生)』より)、‘バウンシング’の天才バド・パウエルは誰もが認める存在だった。1930年代に名声を得たプレス(レスター・ヤングの愛称)は、まだまだこれからの状態で、ブラウニー(クリフォード・ブラウンの愛称)は本当にスタートしたばかりだった(クリフォード・ブラウンは1930年生まれ)。プレスとザ・ホーク(コールマン・ホーキンスのこと)が最初のビッグ・テナーだとしたら、そのふたりの好敵手はベン・ウェブスターだった。
エロール・ガーナーが『Concert by the Sea』を披露し、モダン・ジャズ・カルテットはジャンゴに敬意を表し(楽曲「Django」はジャンゴ・ラインハルトにささげられた)、チェット・ベイカーはドットと同じくらいにグルーヴィーだった(チェット・ベイカーの「Dot’s Groovey」をもじっている)。エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングは一緒に組んだり別々に活躍したりしながら、見事なジャズ歌唱を楽々とこなし、それをヴァ―ヴから発表した。ビリー・ホリデイのキャリアと、そして悲しいかな人生もまた黄昏時にあったが、まだまだ愛されていたし、もしバド・パウエルが天才なら、アート・ブレイキーもまたそうだった。
1950年代には新人達が注目を得る為に競い合った。ソニー・ロリンズ、アート・ペッパー、アート・ブレイキー、キヤノンボール(こんなクリスチャン・ネームの苗字はアリか?)、デイヴ・ブルーベック、トレーン(ジョン・コルトレーンの愛称)、チャールズ・ミンガス、オーネット(これまた苗字ときた!)・コールマンは、みんな非常に多弁だった。
次の10年にも、新しい面々が一群となってやって来た。フレディ・ハバード、ハンク・モブレー、ジミー・スミスとミスター・チャーリー・クリスチャンを思い出させる革命児ウェス・モンゴメリー(そしてケニー・B.とグラント・グリーン)。それからギル・エヴァンスと、彼と同名だが血縁関係はないビル・エヴァンスのふたりもまた、ジャズを全く新しい領域へと導いた。
スタン・ゲッツとアストラッド・ジルベルトは、ミセス・ジルベルトに大いに助けられながら、ブラジルが沢山のジャズに溢れていることを証明、その多くはアントニオ・カルロス・ジョビンの筆によるものだった。デクスター・ゴードンはレコーディングでパリに行く必要はなかったが、それでも赴き、その成果は(フランス語で)‘fantastiqué’(素晴らしい)だった。
ジャズは留まっていることがなく、常に変わり続けていたが、50歳になろうとしていたこの頃も、過去の栄光に胡坐をかくことなく、エリック・ドルフィー、アンドリュー・ヒル、ドン・チェリー、サン・ラ、セシル・テイラー、そしてウェイン・ショーターらがジャズ及び我々の想像力の限界に挑んだ。そしてJC(ジョン・コルトレーン)が現われ、「A Love Supreme(邦題:至上の愛)」で他を押しのけ一気にトップに躍り出た。
そしてこの時代末期にハービー・ハンコックが登場し、他よりも長く充実したキャリアをスタートさせる。ボビー・ハッチャーソンはグッド・ヴァイブを作り出し、『The Chairman of The Board』とカウント・ベイシーは、ジャズをヴェガスまで持って行き、マイルス・デイヴィスは自らのアイディアをロックのイディオムと融合させ、ジャズを‘キッズ’の元へ届けた…それが『Bitches Brew』(マイルスのアルバム。‘ビッチェズ’というロック的な言葉が使われている)。
ご存じの通り、1970年代をジャズの終わりの始まりだと考える人もいる中、ドナルド・バード、ハービー・ハンコック、ロニー・ロウズ、ウェザー・リポート、それからチック・コリアといった面々が、新しいオーディエンスを引き込み、その10年後には‘サンプル’(サンプリング)が発明され、ジャズの教会に初めて来る人が増えた。
さらに近年になると、ブライアン・ブレイドと、それからジェイソン・モランとロバート・グラスパーが個々でそして共同で、新しいタイプのジャズを作り出した、一方で、ダイアナ・クラール、カサンドラ・ウィルソン、それからカート・エリングには、肩越しに迫り来る新しいジャズが見えていたのかもしれない。これまでとはまるで異なるものが…。2014年、グレゴリー・ポーターがグラミー賞を受賞し、無数の音楽ファンをジャズ界に引き込んだ一方で、あざ笑いながら、これまでのものの方が良いと言う人もいたかもしれないが、我々は‘スピリット(魂)’に‘リキッド(水)’を与え続けなければならないのだ。(*グレゴリー・ポーターのアルバム『リキッド・スピリット』のタイトルをもじっている)
人生を彩る100のトラックと言ってきたが、実際にリストアップしたのはトラックは99だ。このジャズの物語を完成させる為に、どのトラックを足せば良いだろう?なぜその曲を入れるべきなのか、その理由をぜひ聞かせてほしい。この物語はまるで違う…といった皆さんからのご意見に耳傾ける用意が、我々には出来ていますので。
とにかく!これが我々のジャズだ。皆さんのもお聞かせください。
(*本記事およびリストは本国uDiscovermusicの翻訳記事です)
オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンド 「Livery Stable Blues」 1917
キング・オリヴァ―ズ・クレオール・ジャズ・バンド 「Dippermouth Blues」 1923
ジェリー・ロール・モートン 「Jelly Roll Blues」 1924
ビックス・バイダーベック 「Davenport Blues」 1925
ルイ・アームストロング 「Heebie Jeebies」 1926
デューク・エリントン 「Black and Tan Fantasy(邦題:黒と茶の幻想)」 1927
ルイ・アームストロング 「Hot 5 West End Blues」 1928
ファッツ・ウォーラー 「A Handful of Keys」 1929
デューク・エリントン 「Mood Indigo」 1930
スパイク・ヒューズ 「Music At Midnight」 1933
チック・ウェッブ・オーケストラ 「Stompin’ at the Savoy」 1934
フレッチャー・ヘンダーソン 「Tidal Wave」 1934
カウント・ベイシー 「Orchestra One O’Clock Jump」 1937
ベニー・グッドマン「Sing, Sing, Sing」 1937
ビリー・ホリデイ 「Strange Fruit(邦題:奇妙な果実)」 1939
ミード・ルクス・ルイス 「The Blues」 1939
コールマン・ホーキンス 「Body and Soul」 1939
シドニー・ペシェ「Summertime」 1939
ジャンゴ・ラインハルト・アンド・ステファン・グラッペリ 「Tea For Two」 1939
チャーリー・クリスチャン(ウィズ・ベニー・グッドマン) 「Solo Flight」 1941
ライオネル・ハンプトン 「Flying Home」 1942
ディジー・ガレスピー・ウィズ・チャーリー・パーカー 「Salt Peanuts」 1945
メアリー・ルー・ウィリアムス 「Virgo」 1945
セロニアス・モンク 「Round Midnight」 1947
ルイ・アームストロング 「Muskrat Ramble」 1947
エラ・フィッツジェラルド 「How High The Moon」 1949
マイルス・デイヴィス 「Jeru」 1949
チャーリー・パーカー・ウィズ・ストリングス 「Just Friends」 1949
バド・パウエル 「Bouncing With Bud」 1949
レスター・ヤング 「I Can’t Get Started(邦題:言い出しかねて)」 1952
クリフォード・ブラウン 「Cherokee」 1953
ベン・ウェブスター 「Tenderly」 1953
マイルス・デイヴィス 「Bags Groove」 1954
サラ・ヴォーン 「September Song」 1955
エロール・ガーナー 「Teach Me Tonight」 1955
モダン・ジャズ・カルテット 「Django」 1955
チェット・ベイカー 「Dot’s Groovy」 1955
エラ・フィッツジェラルド 「Begin the Beguine」 1956
エラ・フィッツジェラルド&ルイ・アームストロング 「The Nearness of You(邦題:あなたのそばに)」 1956
ビリー・ホリデイ 「God Bless The Child(邦題:神よ!めぐみを)」 1956
アート・テイタム&ベン・ウェブスター 「All The Things You Are」 1956
ソニー・ロリンズ 「You Don’t Know What Love Is」 1956
アート・ペッパー 「Red Pepper Blues」 1957
セロニアス・モンク 「Pannonica」 1957
アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ 「Moanin’ 」1958
キヤノンボール・アダレイ 「Somethin’ Else」 1958
ダイナ・ワシントン 「What A Difference A Day Makes(邦題:緑は異なもの)」 1959
デイヴ・ブルーベック 「Take Five」 1959
ジョン・コルトレーン 「Giant Steps」 1959
チャールズ・ミンガス 「Goodbye Pork Pie Hat」 1959
オーネット・コールマン 「Lonely Woman」 1959
フレディ・ハバード 「Open Sesame」 1960
ジミー・スミス 「Back at the Chicken Shack」 1960
ハンク・モブレー 「Soul Station」 1960
ギル・エヴァンス 「Sunken Treasure」 1960
ウェス・モンゴメリー 「West Coast Blues」 1960
ビル・エヴァンス 「Waltz For Debby」 1961
ベニー・カーター 「The Midnight Sun will Never Set」 1961
オリヴァ―・ネルソン 「Stolen Moments」 1961
オスカー・ピーターソン 「Night Train」 1962
ビル・エヴァンス 「Stella By Starlight」 1963
スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルト 「The Girl from Ipanema(邦題:イパネマの娘)」 1963
デクスター・ゴードン 「Scrapple from the Apple」 1963
ケニー・バレル 「Midnight Blue」 1963
リー・モーガン 「The Sidewinder」 1963
ジミー・スミス 「Basin Street Blues」 1964
アンドリュー・ヒル 「New Monastery」 1964
エリック・ドルフィー 「Out To Lunch」 1964
ホレス・シルヴァー 「Song For My Father」 1964
ウェイン・ショーター 「Speak No Evil」 1964
ドン・チェリー 「Elephantasy」 1965
ハービー・ハンコック 「Maiden Voyage(邦題:処女航海)」 1965
ジョン・コルトレーン 「Acknowledgement(邦題:承認)」 1965
グラント・グリーン 「Idle Moments」 1965
セシル・テイラー 「Unit Structures」 1966
ジョー・ヘンダーソン 「Mode for Joe」 1966
フランク・シナトラ・ウィズ・カウント・ベイシー 「All of Me (live)」 1966
アントニオ・カルロス・ジョビン 「Wave(邦題:波)」 1967
ボビー・ハッチャーソン 「Pompeian」 1968
サン・ラ 「Yucatan」 1968
マイルス・デイヴィス 「Bitches Brew」1969
ドナルド・バード 「Black Byrd」 1972
チック・コリア 「Spain」 1972
ハービー・ハンコック 「Watermelon Man」 1973
アーチ―・シェップ 「Naima」 1974
ロニー・ロウズ 「Always There」 1975
マッコイ・タイナー 「Fly With The Wind」 1976
ウェザー・リポート 「Birdland」 1977
パット・メセニー 「First Circle」 1984
デイヴ・グルーシン 「Serengetti Walk」 1984
カサンドラ・ウィルソン 「Come On in To My Kitchen」 1993
ウィントン・マルサリス 「Calling The Indians Out」 1997
ジェイソン・モラン 「Still Moving」 1998
ブライアン・ブレイド 「Perceptual」 1999
カート・エリング 「Detour Ahead」 2001
ダイアナ・クラール 「East of the Sun (and West of the Moon)」 2002
ハービー・ハンコック 「Both Sides Now(邦題:青春の光と影)」 2006
ロバート・グラスパー・エクスペリメント 「Cherish The Day」 2011
グレゴリー・ポーター 「Liquid Spirit」 2013
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