テデスキ・トラックス・バンド、4年ぶりの来日公演、東京初日ライヴ・レポート
2019年の来日公演以来、『Layla and Other Assorted Love Songs(いとしのレイラ)』再現ライヴ盤『Layla Revisited』、そして2022年には『Layla and Other Assorted Love Songs』のタイトル・インスピレーションにもなっている出典元の原作、ペルシャの詩人ニザーミー・ガンジャヴィによる12世紀の詩「ライラとマジュヌーン」からバンド全員でインスピレーションを受けパンデミック中に制作したアルバム4枚からなる超大作『I Am The Moon』を発表するなど、ライヴ活動ができない間にもバンドの絆をさらに固めたテデスキ・トラックス・バンドの4年ぶりの来日公演がスタート。初日となった2023年10月18日の東京公演の佐藤英輔さんによるライヴ・レポートを公開。
<関連記事>
・テデスキ・トラックス・バンドが語る『I Am The Moon』最終章解説
・テデスキ・トラックス・バンドが語る『I Am The Moon』第3章全曲解説
・テデスキ・トラックス・バンドが語る『I Am The Moon』第2章全曲解説
・テデスキ・トラックス・バンドが語る4作連続発売プロジェクトの詳細と第1章
・デレク・アンド・ザ・ドミノス「Layla / いとしのレイラ」は当初売れなかった
クリエイティヴ・ファミリーとして深く進化させたプロジェクト
変なたとえになるが、スーザン・テデスキとデレク・トラックスの司る宇宙船に乗って、いろんなところに連れていってもらう心持ちを得てしまった。次はどんな行き方をし、どんな感興を与えてくれるのか。ツイン・ドラムが存分にもたらす伸縮性にたけたビートの上で、アーシーな歌や楽器音が百花繚乱する様にぼくはこのうえもなくドキドキし、また満たされた気分にもなってしまった。
場内が暗転し、夫妻を先頭にステージ上に出てきたのは全12人。ギターの2人に加え、ステージ前方にはオルガン/キーボード奏者、ベーシストが位置する。そして、後方には2人のドラマー、3人のホーン・セクションと3人のコーラス陣(うち、2人はリード・ヴォーカルを取る曲もあった)。管楽器とヴォーカル担当者には女性も1人ずつ。彼らは最新のグループ写真に写っている面々と同じか。
性も人種も鷹揚に散ったなか地に足をつけた表現を紡ぐ。その様は往年のスライ&ザ・ファミリー・ストーンのリベラルであらんとする姿勢を思い出させようか。そういえば、スーザン・テデスキの2004年のテキサス州オースティンでのライヴ盤のオープナーはスライの「You Can Make It If You Try」だった。
ショウはコロナ禍で仲間たちの繋がりと創意の証を求めた結果、全4枚もの大作となった『I Am The Moon』のDisc1に入っていた5曲が、そのままの曲順でまず披露される。充実。もう、すべてがあるべきところに。と、書きたくなる楽器音や肉声群が重なり合う様に息をのむ。自然発生的なレコーディングの経験や、その後のライヴの積み重ねもあって、その完成度の高さは非の打ちどころがない。
そして、やはりデレク・トラックスの多彩なスライド奏法をはじめとするギター演奏と、訴求力にあふれたスーザン・テデスキのヴァーカルには唸ってしまう。まこと滋味があり、強力。それは絶妙の重なりを見せる管楽器奏者をはじめ、みんなそう。まとまるところはまとまり、その一方おおらかに流れるところは自由自在にという感じで、見事なバンド表現と言うしかない。
たとえば管楽器が少しアブストラクトな感覚で音を重ねる場面もあったが、それは本当にリアルなジャズの感覚を持つ。テナー・サックス奏者はソロを大々的に取る場合もあったが、それもまた凛としたジャズ衝動を抱える。また、オルガン奏者の腕もジャズ耳で聞いても一級品。よくぞ達者な彼らを集めたと思うとともに、かような面々が鋭意重なる総体が魅惑的じゃないはずがない。
その後は、25周年スペシャル・エディションがリリースされたスーザン・テデスキの1998年ソロ作『Just Won’t Burn』のタイトル・トラックも披露される。それ、彼女自作のマイナー・キーのブルース曲。それを自らのブルース人生に悔いなしといった感じでじっくり歌うとともに、それまでサイド・ギターに徹していた彼女が猛烈な勢いでソロを取った。イエイ。
彼らは2019年にフィッシュを率いたギタリストのトレイ・アナスタシオとともにデレク&ザ・ドミノスの『Layla and Other Assorted Love Songs』を全曲カヴァーする公演を行い、それは『Layla Revisited』というライヴ・アルバムに商品化された。同作収録のドミノスのリーダーであるエリック・クラプトン作の「Bell Bottom Blues」も、この晩は演奏。大人な感覚のもと開かれたそのカヴァーに接し、改めて原曲が凝ったコード進行を持つ、今っぽいレイヤー感も抱えた佳曲であることを再確認できた。
また、ドクター・ジョンの「I Walk On Guilded Splinters」も面々は取り上げもしたが、それらに触れると、テデスキ・トラックス・バンドは楽曲錬金術に長けた集団であるとも痛感させられる。
ドラマー2人の密な掛け合いソロ・パートもあったり、デレクのソロをフィーチャーする小編成セットがあったり、もちろんデレクとスーザンのギター合戦もあったり。至れりつくせり。そして、その総体は腕利きが集まった大所帯の豊穣極まりない表現として結実し、“夢のバンド”といった感想も引き出すだろう。結果、冒頭で触れた宇宙船の旅といった思いも誘発させる。ああ、なんとえも言われぬ体験! そうしたことをスーザン・テデスキ・バンドはまったく疲弊を感じさせず、音楽を奏でる歓びとともに瑞々しく解き放つ。
彼女たちが差し出していたのは、人々がつながり事を成し遂げることの尊さであったり、ブルースという米国黒人音楽語彙の魔法の広がりだ。ジャズ、R&B、ロックとそこから広がるヴァリエーションを彼らは俯瞰し、生気あるアメリカン・ミュージックとして鋭意押し出す。そんな素敵なことってあるかい!
アンコール最後の曲は、テデスキ・トラックス・バンドの2013年作『Made Up Mind』の、アッパーなタイトル曲。その頃には、フロアは総立ち。2時間強のショウであったがあまりに濃密、生理的にはもっと長い尺であるとも感じられた。
残り5公演も内容が異なること必至、楽しみだ。
Written By Eisuke Sato / All Photo by Masanori Doi
テデスキ・トラックス・バンド 2023来日公演
東京公演
2023年10月21日(土)開場 16:15/開演 17:00 ※SOLD OUT
2023年10月22日(日)開場 15:00/開演 16:00
会場:東京ドームシティホール
名古屋公演
日程:2023年10月24日(火)開場 18:15 /開演 19:00
会場:Zepp Nagoya
大阪公演
日程:2023年10月25日(水)開場 18:15/開演 19:00
会場:あましんアルカイックホール
企画・招聘・制作:ウドー音楽事務所
https://udo.jp/concert/ttb2023
『I Am The Moon: III. The Fall』
2022年7月29日発売
CD / iTunes Store / Apple Music
テデスキ・トラックス・バンド
『I Am The Moon: I. Crescent』
2022年6月3日発売
CD / iTunes Store / Apple Music
テデスキ・トラックス・バンド
『I Am The Moon: II. Ascension』
2022年7月1日発売
CD / iTunes Store / Apple Music
テデスキ・トラックス・バンド
『I Am The Moon: IV. Farewell』
2022年8月26日発売
CD / iTunes Store / Apple Music
【テデスキ・トラックス・バンド】
スーザン・テデスキ (g, vo)
デレク・トラックス (g)
ゲイブ・ディクソン (key, vo)
ブランドン・ブーン (b)
タイラー・グリーンウェル (ds, perc)
アイザック・イーディ (ds, perc)
マイク・マティソン (g, vo)
マーク・リヴァース (vo)
アリシア・シャコール (vo)
ケビ・ウィリアムズ (sax)
エフライム・オーウェンズ (tp)
エリザベス・リー (tb)
- テデスキ・トラックス・バンド アーティスト・ページ
- デレク・アンド・ザ・ドミノス「Layla / いとしのレイラ」は当初売れなかった
- ブッチ・トラックスよ、安らかに
- 白人男性はブルースを演奏できるか?
- アメリカーナを追い求める、12組の若きアーティスト達
- アメリカーナ:アメリカの田舎道の音楽
- どうしてアメリカーナが現在最もクールな音楽シーンとなったのか?