ザ・ルーツのストロー・エリオットが語るジェームス・ブラウンの新作リミックス・アルバム
これまでに数々のリミックス作品を手掛けてきたストロー・エリオット(Stro Elliot)をもってしても、ジェームス・ブラウン作品を任されるのには少なからず不安があった。
「僕は常に自分自身に、“なぜ、このドラムを差し替えるんだ?なぜ、手を加える必要があるんだ?”と疑問を投げかけるんです」
と、プロデューサーでありザ・ルーツのメンバーでもある彼は、笑いながら説明してくれた。だが、ストロー・エリオットが与えられた使命の核心は、過去と現在の音楽のつながりを探ることだった。
マルチ・インストゥルメンタリストでもある彼は、リミックスによって楽曲を基礎へと削ぎ落とし、新たな作品として作り上げていく。彼がジェームス・ブラウンの名曲の数々をリミックスしたニュー・アルバム『Black & Loud: James Brown Reimagined by Stro Elliot』では、ジェームズ・ブラウン作品の新しい聴かせ方を提案しているのではなく、オリジナル楽曲とは違う考え方でアプローチした音楽を想像しているのだ。
伝説のDJハウス・シューズ主宰の“Street Corner Musicから楽曲を発表してきたストロー・エリオットは、現在、ザ・ルーツのメンバーとしても活動している。この2つのグループ、特にザ・ルーツのドラマー、アミール・“クエストラヴ”・トンプソンの後押しにより、彼は、そびえ立つようなジェームス・ブラウンのカタログ作品にアプローチする上での自信を得た。自らもジェームス・ブラウンの熱狂的なファンであるクエストラヴからの励ましは、彼の能力とそのアプローチにあった。ストロー・エリオットはこう語る。
「アプローチの仕方には細心の注意を払うようにしています。自分なりの特別なスパイスを加えつつも、原曲の持つ雰囲気やエネルギーに忠実であることに最善を尽くしています」
ストロー・エリオットは、これまでDJとプロデューサーとして活動してきたが、ザ・ルーツへの参加がきっかけとなり、複数の楽器の視点からジェームス・ブラウンの音楽を探求するようになったという。
今回の作品ではある曲ではギターに、ある曲ではドラムとベースに、時にはジェームス・ブラウンのヴォーカルにも手を加えて、彼の音楽の精神を大切にしながらも、自らのスタイルを加えた作品に仕上げている。彼は、新作『Black & Loud: James Brown Reimagined by Stro Elliot』で歴史と対話し、どれだけの年月が経とうとも、私たちはジェームス・ブラウンと彼の伝説的なバンドと気持ちを通わせることができるのだいうことを証明している。
<関連記事>
・クエストラブが『サマー・オブ・ソウル』にてVanguard Awardを受賞
・『サマー・オブ・ソウル』とクエストラブが残した功績を辿る
・ジェームス・ブラウンと政治:社会変革の中、黒人の自尊心と響き合ったソウルマン
――今回のジェームス・ブラウンのリミックス・プロジェクトは、どのような経緯で任せられたんですか?
このプロジェクト以前に僕を知っていた人たちは、僕がマイケル・ジャクソンやプリンスなど、多くのクラシック・アーティストのリミックスを手掛けてきたことをご存じでした。過去に僕が手掛けたジェームス・ブラウンのリミックスも2曲あって、そのうちの1曲「James Baby」はよく聴かれていましたし、よくかかっていました。
「James Baby」のリミックスは、特にDJの間で人気があったんですが、そうなったのも彼らDJによるところが一番大きいと思っています。なぜなら、リミックス作品に関して言えば、この作品に限らず、おそらく僕がこれまでにリリースしたすべてのレコードを、最終的に後押してくれたのは彼らだからです。
「James Baby」は、ザ・ルーツのクエストラヴと、Street Corner Musicのハウス・シューズの手に渡りました、2人ともユニバーサルに共通の友人がいて、ジェームス・ブラウンのプロジェクトに繋がるかもしれないと興奮していました。僕は、その時はまだ候補者の一人でした。2020年に新型コロナによって世界が閉ざされた時、僕はちょうどこのプロジェクトへ向けた準備の真っ最中でした。結局、時間がたっぷりあったので、ユニバーサルと一緒にプロジェクトを引き受けることにしたんです。
――(各楽器の録音がバラバラに入力された)ステム・ファイルを使った作業でしたか?それともトラック全体からリミックスしましたか?また、このプロジェクトはどのようにアプローチしたのでしょうか?
自分が参加することが決まる前から、すでに1曲は着手していたんです。「Get Up Off」という曲ですね。これはザ・ルーツがハウスバンドとして出演している「ザ・トゥナイト・ショー・スターリング・ジミー・ファロン」の収録中にクエストラヴに焚きつけられて作った曲でした。ジミー・ファロンでは、番組のCM中に家のスピーカーから音楽を流しているんですが、原曲が流れてきて、彼が僕に手を加えてみてって言うんです。「ジェームス・ブラウン作品の中で最も派手な楽曲のひとつに、あえて手を加えてみてよ」ってな感じで。それがユニバーサルから連絡をもらう前に僕が手掛けていた楽曲です。全10曲のうち、ステムが送られてきたのは4曲くらいで、残りは僕ができることやるのみでした。
――制約があるほうがやりやすかったですか?
場合によりますが、僕の仕事のやり方には頑固なところがあるので、ステムもなく、何もかもが決まっていない状態で、何かを見出そうとするチャレンジを楽しむ時もあります。でも、曲によっては、ジェームス・ブラウンのキレのあるヴォーカルや、ギターやホーン・パートのようなトラックをポップにする要素がなかったら、うまくいかなかったものもあります。それは曲や僕が求めている雰囲気によりますね。
――ジェームス・ブラウンの音楽を聴いて育ちましたか?
音楽、特にソウルやファンクを聴く親がいれば、誰もがジェームスと共に育ったでしょうね。ジェームス・ブラウンは、家庭で聴かれる音楽という意味では、ジャンルを超越した人でした。僕は、親が主にクラシック・ロックやカントリーを聴いている子供たちと一緒に育ちましたが、それでも彼らの家庭には少なくとも1枚か2枚はジェームス・ブラウンのレコードがあったものです。幅広いジャンルの音楽を聴いているという点では、僕の両親もそうですね。うちはソウルやジャズが中心でしたが、間違いなくジェームス・ブラウンの作品は聴いて育ちました。
――音楽界の偉人たちの作品に、自分流のアレンジを加えることに怖気づくことはありますか?それとももう慣れましたか?
もちろん。「このマイケル・ジャクソンの曲を自分なりにアレンジして、再構築して、どう受け止められるかわからないけど、いろいろ手を加えてみるんだ」と言うのはいつもとてつもない勇気が要ることですね。幸い、大半の作品は好意的に受け止めてもらえていますが。
ただ、裏目出る可能性も大いにあります。特にDJの間では、「この曲に手を出すなんてとんでもない」と真っ先に言われることもあるでしょうし、ファンから、「いやいや、この曲は名曲だから、触っちゃダメだ。リミックスも何も必要ない」と言われることだってあるでしゅう。ですからアプローチの仕方には細心の注意を払うようにしています。自分なりの特別なスパイスを加えつつも、原曲の持つ雰囲気やエネルギーに忠実であることに最善を尽くしています。
――ザ・ルーツでの経験から学んだことで、このアルバム制作に生かされたことはありますか?
もちろんいろいろあります。特に今回のプロジェクトでは、それからおそらく今後においても、ザ・ルーツの指紋が僕の作品に残されていくでしょう。僕は今まであんなに優れたバンドに在籍したことがありませんでしたから。あんなミュージシャンたちと日々一緒にいながら、要求されることをこなし、全てがものすごい早さで進行していく「ザ・トゥナイト・ショー」のような番組に出演して、その場の流れでいろいろなことが起こるんです。
また、音楽的にも日々目の当たりしているものがそれに拍車をかけていると思います。毎日ベーシストと一緒に過ごしていると、曲のある部分で動きがあったり、あるキーが変わったりしたときに、彼が何をしているのかに気付く。それは、ギターでもキーボードでも、他のメンバーも同じです。ただの“ビートメイカー”だった頃よりも、ひとつひとつのパートに真剣に向き合っていますね。たとえ“リミックス”であっても、僕の音楽への取り組み方にプラスになったことは間違いありません。
――あなたの制作プロセスを教えてください。
僕のプロセスをわかりやすく説明するとしたら、ワンマンのジャム・セッションといったところでしょうね。何からでも始められます。ヴォーカルから始まるかもしれないし、ドラムから始まることもある。僕の場合、ドラムから始めることが多いですね。ドラムでやりたいことの雰囲気はつかめますが、テンポの面では変化することもある。
ドラムが忙しすぎるようなら、ヴォーカルや他の楽器を入れ始めてから、いろいろと手を加えることもあります。今回のプロジェクトでは、それらすべてのミックスでした。ヴォーカルだけで始めた曲もあれば、ギタリストの演奏から始めて、それを中心に構築していった曲もあります。
『Black & Loud』は、途中で雰囲気が切り替わることが多いんです。ジェームス・ブラウンの曲の中には、“あ、ここでいきなりブリッジが入るんだ”と開放されるものもあります。あるいは、“ここで突然、ホーンが前半とは違うことをやるんだ”とか。そういう変化に応じながら、リミックスを作り上げていく作業は世界一楽しいです。
――古い名曲に新しい息吹を吹き込むことは、あなたにとって重要な哲学と言えますか?
自分に何ができるのかを試すことが楽しいと感じている部分があると思います。「Sex Machine」のリミックスでは、ジェームス・ブラウンがフェラ・クティとスタジオにいるところを想像しました。このアルバムでは、ジェームス・ブラウンが僕の好きなアーティストやプロデューサーと一緒に仕事をしているところを想像して楽しんでいました。自分が尊敬している2人のアーティストと一緒にスタジオにいる人物になったつもりで、そこでどんなサウンドが聴けるのかを想像してみるんです。
――音楽的に、ジェームス・ブラウンと対談してほしい人物は誰ですか?
そうですね。どんなミュージシャンとの対談でもクエストラヴには登場してもらいたい、でもそれでは普通なので、DJプレミアもそういう企画に参加してほしいし、同じくDJのクラーク・ケントもいいかもしれないね。プロデューサーやDJという意味では、僕が名前を挙げたアーティストたち、それからジェームス・ブラウンのプロダクションを自分の作品にも取り入れているピート・ロックもいいですね。ジェームス・ブラウンの音楽の歴史は、とにかく豊かです。
Written By Will Schube
ストロー・エリオット&ジェームス・ブラウン
『Black & Loud: James Brown Reimagined by Stro Elliot』
2022年2月4日発売
iTunes Store / Apple Music /Amazon Music
- ザ・ルーツ アーティストページ
- ジェームス・ブラウン アーティスト・ページ
- クエストラブが『サマー・オブ・ソウル』にてVanguard Awardを受賞
- 『サマー・オブ・ソウル』とクエストラブが残した功績を辿る
- ザ・ルーツの元ベーシスト、ハブことレナード・ハバードが62歳で逝去
- ザ・ルーツの創設メンバー、マリク・Bが47歳で逝去。その半生を辿る
- 政治的で社会性を持つコンシャス・ヒップホップ、2010年代のベスト20曲
- 「Black Lives Matter 2020」:繰り返される人種問題と抗議運動
- ‘黄金時代’1990年に発売されたヒップホップ・アルバム5選
- 『Live At The Apollo』解説:ハーレムで炸裂した粗削りなソウル・ダイナマイト
- 『Live At The Apollo』のハイライトとなった「Lost Someone」
- ジェームス・ブラウン『Live At Home With His Bad Self』解説
- すべての宗教や人種の観衆の心を動かしたJB「Say It Loud- I’m Black and I’m Proud」
- ジェームス・ブラウンも登場:プロテスト・ソング特集
- 音楽が起こした社会変革の歴史:人種/性別/セクシャリティ…
- ヒップホップ関連記事