ロビー・ロバートソン、6枚目となるソロ・アルバム『Sinematic』発売決定。ヴァン・モリソンとのデュエット曲配信開始
ロビー・ロバートソンが新作ソロ・アルバムをリリースする。何十年にもわたり、取り組んできた映画音楽。そして魅せられてやまないテーマの一つである、人間が迷い込む暗黒の回廊。そこから生まれた示唆に富む新作ソロ・アルバム『Sinematic』は2019年9月20日リリース。
アルバムはCD、デジタル、180gアナログLP2枚組で予約注文受付中。限定1,000枚のデラックス・エディションも追って10月25日に発売される。デラックス・エディションはCD、180gアナログLP2枚組に加え、ロビー自身が各楽曲ごとに描いたというアートワークを含む36ページのハードカバーブック付き。2011年に発表した内省的な『How To Become Clairvoyant』以来のスタジオ・アルバムとなる。ロビー・ロバートソンのセルフ・プロデュースによる全13曲が収録される。
新作のインスピレーションとなったのは、マーティン・スコセッシ監督にとって長年の悲願だった大作ギャング映画『アイリッシュマン』にスコアを提供したこと、そして2016年ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーにも選出された自叙伝『ザ・バンドの青春』に基づいた、近日公開予定のドキュメンタリー映画『Once Were Brothers:Robbie Robertson And The Band』の存在が大きい。この映画は9月5日、第44回トロント国際映画祭のオープニング上映作品として世界プレミア上映されることが決定している。
『Sinematic』の1曲目を飾る「I Hear You Paint Houses」はストリーミング配信開始、デジタル・アルバム予約注文をするとダウンロードできる。この曲は、殺し屋“ジ・アイリッシュマン”ことフランク・シーランのストーリーを描く映画『アイリッシュマン』と、原作であるチャールズ・ブラントの『I Heard You Paint Houses』から着想を得たという、ヴァン・モリソンとの心奪われるデュエット。その歌詞は明るいギターと陽気なトーンからは想像できない、ゾッとするような内容だ。殺し屋を雇うことを、ギャングの世界では“家を塗る”と言う。つまり、壁を血の海で真っ赤にする、ということだ。ロバートソンに「ちょっとひと走りしてみようじゃないか?町のダークサイドへ」といたずらっぽく誘われ、アルバムはさらなる手に汗握る悪事の物語と、破壊と悲しみのストーリーへと続いていく。
「『アイリッシュマン』の音楽を作りながら、ドキュメンタリーも同時進行していたので、隣り合う一方が他方に滲み出て、いろんなことが混じり合うようになったんだ」とロバートソンは言う。「そこに道が見えてきた。曲のアイディアが渦巻き、古い記憶、暴力、美しいもの…そういったものを歌にしたいというアイディアが、映画のように思い浮かんでは、ひとつになっていった。そして音のあとを追ううち、自然と形ができ始めた。“ペキンパー・ロック”と自分で呼んでたこともあったよ」。ペキンパーとはもちろん、『ワイルドバンチ』などで知られるバイオレンス西部劇の巨匠、故サム・ペキンパー監督のことだ。
ロバートソンのクールで乾いた低音で語られるストーリー。華のあるギタースタイルに乗って、ひとつ、またひとつ、物語の糸が解かれる。ミッドテンポで重々しくロックする曲を作り上げている主要メンバーはべースのピノ・パラディーノ(ジョン・メイヤー・トリオ、ザ・フー)、ドラマーのクリス・デイヴ(ディアンジェロ、アデル)、キーボードのマーティン・プラドラーといった面々。それ以外のメンバーは、ギターとバックヴォーカルのアフィ・ジュルヴァネン、そのジュルヴァネンのバンドであるバハマズと定期的に共演しているヴォーカリストのフェリシティ・ウィリアムズらだ。スペシャルゲストも豪華だ。ヴォーカルではヴァン・モリソン、グレン・ハンザード、シティズン・コープ、J.S.オンダラ、ローラ・サターフィールド、ミュージシャンにはジム・ケルトナー、デレック・トラックス、フレデリック・ヨネット、ドイル・ブラムホール2世など。そしてプロデューサー、ハウィー・Bによってエレクトリックなビートが配されたナンバーも何曲かある。
『Sinematic』を彩る多くの曲のひとつ「Dead End Kid」でロバートソンは、カナダ先住民族ファーストネーションとユダヤ系ギャングの家系に生まれ、様々な障害や未来への期待を感じることなく育った子供時代に心のレンズを向け、回顧する。危険な武器のごとくギターを振り回すロバートソンの驚異的ギタースキルが発揮される曲だ。そのギターは、古くは1966年、あの悪名高きボブ・ディラン、エレクトリック・ツアーで大きな反響を呼び、長い目でアメリカーナというジャンルの誕生を導いた。大胆で挑戦的な歌詞が語るのは、世界中で音楽を演奏したいと夢見るティーンエイジャー、ロビー・ロバートソンの夢だ。「世界に見せてやりたい/彼らが誰も見たことのなにか/お前をどこかへ連れて行きたい/まだ行ったことのないどこか」ハスキーなロバートソンの歌声とピッタリと寄り添うように、グレン・ハンザードのソウルフルな歌声が響き渡る。フレイムズ、スウェル・シーズンのシンガーとして、そして映画『Once ダブリンの街角で』の主演で知られるアイリッシュマン、ハンザードはジョン・レノンの平和への叫びにインスパイアされたというロックチューン「Let Love Reign」でも再びフィーチャーされている。
アルバムを通じて、リスナーは社会のいかがわしい暗黒街へと次々と誘われる。「Shanghai Blues」は20世紀初めの上海で、アヘン売買、賭博、売春の事業を支配していた中国の秘密結社、青幇(ちんぱん)の伝説的ギャング、杜月笙(とげつしょう)の武勇伝だ。ロバートソンが “シン(sin=罪)フォニー”と呼ぶ「Street Serenade」も犯罪、ミステリーの香りに包まれた曲。エッジーでエレクトロニックな「The Shadow」はオーソン・ウェルズのラジオ犯罪ドラマへのノスタルジックなオマージュだ。
ロバートソンのギタープレイが主役を張るインスト曲は2曲。1曲は「Wandering Souls」。もう1曲、アルバムのラストを飾るのは、友人であり、マイクロソフト社の共同創業者で、大の音楽ファンだった故ポール・アレンのために書いた「Remembrance」だ。そのアレンがギターヒーローと崇めたデレック・トラックスとドイル・ブラムホール2世がゲストで参加。ドラマー、ジム・ケルトナーも加わって、壮大ながらも哀愁に満ちた哀悼歌が出来上がった。
『Sinematic』の曲の多くがロバートソン自身とはかけ離れた罪深きテーマを扱っているが、本人の類いまれなる人生のストーリーに基づいた曲もある。それが同名ドキュメンタリーのための書き下ろし、ザ・バンドへのほろ苦い思いをつづった「Once Were Brothers」だ。この曲にはナイロビ出身J.S.オンダラとアメリカ人シンガーソングライター、シティズン・コープが参加している。「かつては兄弟だった/その兄弟はもういない」とロバートソンがザ・バンドに別れを告げる中、ハーモニカとオルガンの哀しげな旋律が響く。ロバートソンは言う。「争いや確執を曲にするのは、心が痛むことではある。でもやりがいがある経験だとも言えるよ、そのエモーショナルな結果にね。心は痛いけど、でも好きなんだ」。
2016年にロバートソンが出版し、好評を博した自叙伝『ザ・バンドの青春』に基づく、ダニエル・ローアー監督ドキュメンタリー『Once Were Brothers:Robbie Robertson And The Band』ではロバートソンの幼少期から、ポピュラー音楽の歴史上、最も影響力あるグループのひとつになったザ・バンド の物語が描かれる。貴重なアーカイヴ映像、写真、代表曲が流れるほか、マーティン・スコセッシ、ブルース・スプリングスティーン、エリック・クラプトン、ヴァン・モリソン、ピーター・ガブリエル、タジ・マハール、ドミニク・ロバートソン、ロニー・ホーキンズら多くの友人、ミュージシャンのインタヴューも含まれる。
アルバムのアートワークも、各楽曲のアートワークもロビーの手によるものだ。肖像画や抽象画、表現主義的絵画や実験的フォトグラフィー。それらが作り出す一大『Sinematic』ワールドにリスナーは引き込まれることだろう。たとえば真紅と金色に映る「ジェイムス・ボンドが使ったのと同じ銃」だというワルサー9ミリピストルの隣には恐ろしい人影、まるでそこだけ焼かれたかのようなシミが描かれるキャンバス…。これらのアート作品はスタンダード・エディションのCDとLPのブックレットに収められる。デラックス・エディションは12インチx12インチの豪華ハードカバーブック仕様となっている。
ロバートソンにとって6枚目となるソロ・アルバムのリリースが近づく中、ザ・バンドを代表するセカンド・アルバム『The Band』はその数日後に50歳を迎える(祝賀記念の予定はまもく発表される)。60年近くにわたり、時代を超え、世代を超え、影響を与え続ける音楽を生み出してきた伝説のソングライター、ミュージシャン、ギタリスト。それはかつて少年がトロントで夢見てきた夢そのもの。『Sinematic』でロビー・ロバートソンはまたもや人々の心を捕らえてやまないソロ作品群に新たなる1枚を加えた。同時に音の向かう先をまたひとつ推し進めながら。
ロビー・ロバートソン『Sinematic』
2019年9月20日発売
CD / LP / iTunes
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