イスラエル発のネッタ、ロサンゼルス公演ライヴ・レポート
ABBAやセリーヌ・ディオンを生んだヨーロッパ最大級の音楽の祭典<ユーロビジョン・ソング・コンテスト2018>で優勝を果たし、パワフルな音楽性で注目されているイスラエル発ポップ・ミュージック界が期待するネッタ(Netta)が2022年4月6日に新曲「I Love My Nails」を発売。そしてミュージック・ビデオが公開となった。
そんな彼女が3月下旬にロサンゼルスで行ったライヴの様子を音楽ジャーナリストの鈴木美穂さんがレポート。
<関連記事>
・ユーロビジョン・ソング・コンテストとは?大会の経緯と注目参加者
・ABBA、40年ぶりの完全新作アルバム『Voyage』を発売
・ユーロビジョン・ソング・コンテストのアメリカ版が放送へ
イスラエル出身のネッタが、ロサンゼルスで初の公演を行った。最初に発売された公演は即完売で、同日に追加公演が行われることになり、こちらも即完売という人気ぶり。初回を観るためにスタンディングの会場内に入ると、20代〜40代ぐらいまでの幅広い年齢層の観客が集まっていた。女性二人組と男性二人組にネッタの音楽を知ったきっかけを聞いてみたら、どちらも彼女が優勝した2018年のユーロビジョン・ソング・コンテストだったと言う。
ステージ中央のマイクの前には、ルーパーが設置されていた。その右手にDJ、中央の奥にドラマー、左手にキーボーディストが登場して重低音ビートのイントロを演奏し始め、続いて胸元がシルバーに輝く衣装のネッタが笑顔で飛び出すと、熱狂的な歓声が巻き起こった。オープニング曲は、「Bassa Sababa」だ。軽快に韻を踏む歌詞に「ワサビ」という日本語も入ったエネルギッシュな曲で、彼女の鮮やかなハイトーン・ボーカルに観客が爆発的に盛り上がった。
「このショウに来てくれて、本当にありがとう。あんなに即売り切れて、信じられなかった」と、ネッタはキュートな笑顔をみせて、拍手喝采を浴びた。話し方も愛らしい。
続いて、「Ricki Lake」。ネッタは小さなステージ上を動き回り、リズミカルなボーカルに合わせて腰を振り、ステージ前の観客達に触れそうになるほど身を乗り出して歌った。歌い終えて、「あなた達のためにめっちゃ汗かいてるよー! スキューバダイビングスーツ、着てるんだから!」と彼女が嬉しそうに叫ぶと、大歓声が起こった。
それから、「バカ、バカ、バカな気分にさせられる」と歌った声をループさせて、「DUM」に突入。高音ボーカルだけでなくキレのあるラップも聴かせるダイナミックな曲に観客は大興奮し、最後の電話番号「978-978-9」のパートは、一丸となって叫んでいた。どの曲も高揚感のあるサウンドとビートに、最高にポジティブな歌が乗っているので、エネルギーが迸る彼女のパフォーマンスに圧倒されると同時に、すごく気分が上がる。
ネッタは終始フレンドリーで、友人に話すように気さくに観客に話しかけたり、歌いながら観客の頭を撫でたりして、小規模会場の空気をより一層親密なものにしていた。「これが私のルーパー。あなた達のためにハート形にしてみたよ」と、組み合わさった二つのルーパーを紹介した時も、とてもキュートだった。
それから彼女はエフェクトをかけた機械的な声をルーパーに録音し、そのサウンドを何回も重ねて行った。彼女はしばしばこうやってルーパーを使いながらその場で曲を作り上げていて、それがとても新鮮に映ったのだけれど、ここで始まったのはカバー曲のマッシュアップだ。彼女はクランベリーズの「Zombie」、カイリー・ミノーグの「Can’t Get You Out Of My Head」など、懐かしのダンス・ヒット曲を見事に歌い、大歓声を巻き起こした。
「これは新曲なんだけど、すっごく気に入ってるんだ。私をふった男の曲なんだけど」と笑い飛ばしてから始まったのは、この時はまだリリースされていなかった最新シングルの「I Love My Nails」。ネッタは右手はピンク、左手はクリーム色の素敵なロングネイルをさりげなく見せながら、「ベイビー、気にしないよ、私は私のネイルが大好きだから」というセルフラブがテーマの曲を圧巻のボーカルで歌い上げた。一度聴いたら忘れられないキャッチーなメロディーのアンセムで、この夜のハイライトの一つになっていた。
ずっと最高潮の楽しさが続いたショウで、彼女がシリアスになる場面もあった。「本当に素晴らしいショウになってるけど」と、ネッタは目を潤ませて話し始めた。「私の故郷、イスラエルで起こっていることを話さないわけにはいかない。心底悲しく思ってる。だから、イスラエルに大きなハグを送ります」。すると、歓声と拍手に混じって、「ネッタ、愛してるよ!」という声が飛び交った。彼女の人柄が伝わってくる瞬間だった。
また、「特別なゲストが来てるんだ」という紹介で、ロシアのエキセントリックなバンド、リトル・ビッグのIlyaとSonyaが飛び入りするサプライズもあった。3人でネッタがフィーチャーされた彼らの曲「MOUSTACHE」を披露し、観客を大いに沸かせた。
でも、一番のハイライトになったのは、「ユーロビジョン・ソング・コンテスト2018」以来、彼女の代表曲になっている「TOY」だ(全米ビルボード・ダンスチャート1位達成)。「私はあんたのオモチャじゃないよ、このバカ男!」という強力な歌声が場内を貫き、曲が進むに連れて興奮度が上昇していく最高のダンス・ポップ曲に、場内はまるでダンスフロアのような盛り上がりになった。
一方、バラード曲の「Cuckoo」で、ネッタは違う表情も見せてくれた。「私は本当にあなたを愛してる?」と自分に問いかける曲で、繊細さを帯びた柔らかなボーカルが、美しく響き渡った。
「私、今日、怖かったの。『愛してる』って皆に言って、言い返して貰えなかったらどうしようって」とネッタが言うと、大歓声と「愛してる」の声が再び上がった。「この曲は、ウクライナに捧げます。皆、来てくれてありがとう!」とお礼を言って始まったラスト曲は、昨年の秋に発表された「CEO」。ネッタは、飛び跳ねながら圧倒的なパワーで「TOY」や「I Love My Nails」と同様に自分を賞賛しまくる曲を歌い、観客と共に大合唱して、至福のステージを締めくくった。
ネッタは、太陽のような輝きとポジティブなパワーと驚異的な歌声を持つ本当にユニークなアーティストだ。できるだけ早く、この元気をもらえる素晴らしいショウを日本にも届けて欲しいと思う。
Written By 鈴木美穂
ネッタ「I Love My Nails」
2022年4月6日発売
配信はこちら
- ユーロビジョン・ソング・コンテストとは?大会の経緯と注目参加者
- ABBA、40年ぶりの完全新作アルバム『Voyage』を発売
- ユーロビジョン・ソング・コンテストのアメリカ版が放送へ
- ヤングブラッド、全ての壁を破壊し続ける異色アーティストの魅力
- ヤングブラッド初の全英1位獲得。トロフィーを溶かして安全ピンに配ることを約束
- 『Tickets To My Downfall』レビュー:絶望が蔓延する時代に若者を解き放つ音楽