フェイム・スタジオ/マッスル・ショールズの生みの親、リック・ホールが85歳で死去
伝説的レコーディング・プロデューサーであり、フェイム・スタジオのオーナー、そしてマッスル・ショールズの生みの親とも呼ばれているリック・ホールが2018年1月2日火曜の朝に亡くなったとアラバマ・ミュージック・ホール・オブ・フェイムが発表した。数ヶ月前から体調を崩していたというリック・ホールは、85歳でこの世を去った。
アラバマ・ミュージック・ホール・オブ・フェイムのメンバーであるジュディー・フッドがタイムズ・デイリー紙に「今日はマッスル・ショールズを始め全ての音楽にとってとても悲しい日となってしまいました」と語り、最近は介護施設で過ごしていたというリック・ホールが、クリスマスは自宅に帰ることが出来ていたと報告した。
アラバマ・ミュージック・ホール・オブ・フェイムは既にリック・ホールに対し、「唯一無二、音楽界において忘れられぬ影響を与えた」とフェイスブック上で敬意を表した。さらに「彼の功績を讃えるには人の一生では足りないほどだ」とも付け加えた。
リック・ホールのグラミー賞受賞歴は、ポップスからカントリーミュージック、R&Bまでジャンルを超えて多岐に渡り、また彼の所有したフェイム・スタジオや出版会社は後の伝説的ミュージシャンやソングライター達のセッション仕事の基盤を作り、アレサ・フランクリン、エタ・ジェイムス、ウィルソン・ピケット等を始めとする世代を超えた数多くの素晴らしいミュージシャン達の作品が生まれた。そして今日迄に彼のスタジオと出版社が管理する楽曲のセールスは、ザ・ビートルズからジョージ・ストレイトまで併せて3億5千万枚を越えるという。
リック・ホールのキャリアは、カーモル・タイラー・アンド・ザ・カントリー・パルズというグループでマンドリンとフィドルを担当するところから始まった。1966年にパーシー・スレッジの「When A Man Loves a Woman」のライセンシングを手伝うと、トム・スタッフォードと後にタミー・ワイネットとジョージ・ジョーンズのプロデューサー兼ソングライターとなるビリー・シェリルと共にフェイム・プロダクションを1959年に設立。
リック・ホールは、すぐにフローレンス・アラバマ・ミュージック・エンタープライズ(Florence Alabama Music Enterprises)の頭文字を取ってフェイムと名付けられたこの会社のオーナーの権利を全て取得。1961年にはマッスル・ショールズの歴史の中で初めてのゴールド・レコード作品となり、後にザ・ローリング・ストーンズがカヴァーし初期のザ・ビートルズにも多大な影響を与えたアーサー・アレクサンダーの「You Better Move On」をプロデュース。スタジオに在籍していた最初のリズム・セクションには、後にナッシュヴィルで最も尊敬を受けたプロデューサーとなったアラバマ出身のベーシスト、ノアバート・パットナムがいた。
マッスル・ショールズに在籍する2番目のリズムセクションで、レナード・スキナードの「Sweet Home Alabama」で歌われたことから不滅の存在となった‘スワンパーズ’が、1969年に自らのスタジオを立ち上げる為にフェイムを離れたが、次の10年に向けてリック・ホールはキャピタル・レコードにフェイム・レコードの流通を委託する契約を交わし、また後のティーン・アイドルとなるザ・オズモンズと彼らの妹マリーをスタジオでレコーディングするべく、プロデューサーのマイク・カーブと働くようになる。
1987年にリック・ホールは、フェイムから目と鼻の先にあるバーで演奏をするバンド、シャナンドーでヴォーカルを担当するようになる。フェイムからはジョン・マイケル・モンゴメリーのヒット・ソング「I Swear」をリリースし、1994年にはこの曲をオール・フォー・ワンがカヴァーをしポップ・チャートで大ヒット。さらにフェイムからはマーク・ホールと共作したティム・マグロウが「I Like It, I Love It」がヒットとなる。その他にもザ・ディキシー・チックス、ジョージ・ストレイト、マルティナ・マクブライド、ケニー・チェイスなどカントリー・ミュージックのヒットを連発した。
近年フェイムでレコーディングした中には、グレッグ・オールマン(彼の最後の作品となる『Southern Blood』をレコーディングした)、ドライブ・バイ・トラッカーズ、ジェイソン・イズベル等が並ぶ。ツイッターでジェイソン・イズベルは「私にこの業界で最初に仕事をくれたのがリック・ホールと彼の家族だった。そして、リックほどのハードワーカーを私は他に見たことがない。彼の功績なくして、今のアメリカン・ミュージックはなかったであろう」と語った。
リック・ホールは1985年にアラバマ・ミュージック・オブ・ホール・オブ・フェイムに殿堂入り。2013年に公開され評価を受けたドキュメンタリー映画『Muscle Shoals』でフィーチャーされ、翌2014年に‘レコーディング分野における多大なる功績’を評してグラミー賞特別功労賞理事会賞を受賞。2015年には自身の回顧録『The Man From Muscle Shoals : My Journey From Shame to Fame』を出版した。
Written by Tim Peacock