ザ・ルーツの創設メンバー、マリク・Bが47歳で逝去。その半生を辿る
ザ・ルーツ(The Roots)の創設メンバーで、フィラデルフィアが誇るレジェンド、マリク・B(Malik B.)が2020年7月29日に47歳で逝去したことが、彼の従兄弟によって報告された。
現時点で死因は明らかにされていないが、この訃報を受けて、彼の遺族や友人たちから続々と追悼が捧げられている。マリク・Bの従兄弟であるドン・チャンピオンはこう述べている。
「今日は、僕の最愛の従兄弟に祈りを捧げています。彼は、才能に溢れ、寛大な心を持ち主でした。彼とザ・ルーツが駆け出しの頃のことを今でも覚えています。彼は、私や父によくカセットテープを贈ってくれました。 君が恋しいよ、マリク」
ザ・ルーツもまたソーシャル・メディア上でこう追悼を捧げた。
「彼のイスラム教への献身や深い兄弟愛、そして史上最も才能あるMCの一人としての彼の革新性が記憶に残されることを願っています」
1972年、フィラデルフィアに生まれ育ったマリク・アブドゥル・バジットは、アーミール・“クエストラブ”・トンプソン、タリク・“ブラック・ソート”・トロッターと共に、ザ・ルーツ(元々はスクエア・ルーツとして知られていた)の初期の活動において欠かせないメンバーだった。
90年代初頭に、ヒップホップ・アンサンブルの草分けとして活躍した彼は、ザ・ルーツが本格的にブレイクを果たすまでの期間、グループの最初の4作のアルバム『Organix』(1993)、『Do You Want More?!!!!!』(1995)、『Illadelph Halflife』(1996)、『Things Fall Apart』(1999)に参加し、2002年の『Phrenology』のレコーディング中に脱退した。
グループとヒップホップにとって重要な転機となった、1999年の『Things Fall Apart』に収録されているエリカ・バドゥをフィーチャーした 「You Got Me」で、ザ・ルーツは初のグラミー賞を受賞し、今作は全米で100万枚以上のセールスを記録した。
彼がザ・ルーツから脱退した具体的な経緯は曖昧なままではあるが、ブラック・ソートがアルバム『Phrenology』の収録曲「Water」の中で、薬物問題に言及していたこと受けて、マリク・Bは、2006年のフィラデルフィア・シティ・ペーパーとのインタビューの中で、薬物使用がザ・ルーツから脱退した理由ではないと語っていた。
アルバム『Phrenology』(2002)と『The Tipping Point』(2004)に参加することはなかったマリク・Bだったが、その後一時的にザ・ルーツに加わり、2006年の『Game Theory』に収録の3曲にゲストとして参加。ザ・ルーツは、今作のライナーノートの中で、「Welcome Home(おかえり)」という言葉でマリク・Bへの感謝を綴った。
「俺がまだまだ元気で、イケてるんだっていうことを人々に知らせたかったんだ」と彼はフィラデルフィア・シティ・ペーパーに明かしていた。同年、彼はソロEP『Psychological』をリリースし、2008年にはザ・ルーツに再び加わり、彼らの続編作『Rising Down』にもゲスト参加している。
ザ・ルーツでの活動以外では、2005年にミックステープ『Street Assault』、2015年にはプロデューサーのMrグリーンとのコラボレーション・アルバム『Unpredictable』を発表するなど、ソロ活動も続けていた。
この悲劇的な訃報を受けて、彼の友人であり、MC仲間でもあるブラック・ソートは、自身のインスタグラムに次のような声明を発表している。
「俺たちは共に名声を得て、ゼロから道を切り開いた。灰の中から街を復活させ、それを背負って“Illadelph”と名付けたんだ。初めからお前と腕を磨き合っていた俺は、ずっとお前が持っていた真の才能と可能性には到底及ばないと感じていた。英語という言語を手懐けて、お前がエーテルから創り出したリズムが、 宇宙に解き放たれて詩のとなっていく様子を目にしながら、お前の鋼が私の鋼を研ぎ澄ましていったんだ。 俺はいつもお前を変えたいと思っていた。なんとかしてお前の人生観を洗練させて、ストリートじゃない場所に、はるかに多くの選択肢があるっていうことに気付かせたかった 。でも結局、お前とストリートは一身同体で、決して引き離すことはできないんだって気付いたよ。俺の最愛の兄弟M-illitant、お前が俺を誇らしく思わせてくれたのと同じくらい、誇らしい気持ちでいてくれてたらと願うよ。世界は真の才能を持った男を失ってしまった。アラーの神が、彼の罪をお赦しくださいますよう、彼が天に召されますように」
ラッパーのブループリントもまた、ソーシャルメディアで、自身のお気に入りの曲を挙げながら、マリク・Bとの思い出を共有している。
「ザ・ルーツのマリク・Bよ、安らかにお眠りください。アルバム“Things Fall Apart”からの‘Step into The Realm’は、彼のパフォーマンスの中でもずっとお気に入りのひとつです。‘Distortion to Static’からのこんな名セリフもありました。“さあ、ディクショナリー(辞書)とピクショナリー”を取りにいくんだ” R.I.P.」
- ザ・ルーツ アーティストページ
- 政治的で社会性を持つコンシャス・ヒップホップ、2010年代のベスト20曲
- 「Black Lives Matter 2020」:繰り返される人種問題と抗議運動
- ヒップホップと政治問題の歴史:グランドマスターからケンドリックまで
- ヒップホップの20曲:70年代から続く歴史の道しるべ
- パブリック・エネミー結成35年後の脱退劇の真相と米大統領選
- ‘黄金時代’1990年に発売されたヒップホップ・アルバム5選
- ヒップホップ・ヒーローズ:ゴールデン・エイジ
- ヒップホップ・ヒーローズ:2000年以降のラップ新世紀
- 「Soul Food Assassins/ブラックカルチャーと命名哲学」
- ヒップホップ関連記事