KTタンストール、困難を乗り越え制作した6作目となる最新作『WAX』を語る
モダン・ミュージックの海に沈むことなく、未だ薄れないその欲望は、KTタンストールにとって、ヴァージン/EMIレコードから発売された渾身の6枚目のスタジオ・アルバム『WAX』を作るための十分な原動力になった。このアルバムは三部作の中の2作目のアルバムとなり、彼女が“セクシーで官能的” な感じに仕上がったと言うこの作品の制作を妨げるものはなかった。
多くの批評家はこのアルバム『WAX』を、不朽のスコットランド人シンガー・ソングライターによる復活作として評する一方、これまでの彼女の過去作品はどれも色気に溢れていたのだが、この新作に関して言えば、彼女が近年対峙していた私生活での苦労を経て、その感情が派手に火花を散らせている様が捉えられている、と表現している。彼女自身がとあるインタビューで語ったところによると、彼女は最近なって”魔力”を取り戻したそうだ。
KTタンストールは筆者に対して、熱心にこう語った。「2016年の前作アルバム”Kin”を書いていた時、私は私生活で大きな困難に直面していたんです。父が亡くなって、結婚生活が破綻して、離婚したばかりで。私は何もかも売り払い、ロサンゼルスに移り住んで、しばらく作品を作るつもりはありませんでした」。
「それからしばらくは映画のスコアを書くことに没頭して、このまま自分の作品は作らず、この先もずっとそうしていくのかもしれないと思っていたくらい。だから、”Kin”のツアーで訪れたナッシュビルの公園に座っていた時、突然”これを3部作にしよう”と思い付いた時は何とも言えない素晴らしい気分になりました」。
「あの作品は魂と精神について書かれたもので、困難やトラウマを潜り抜けて、たどり着いた勝利、何よりも自分自身が以前よりも強い人間になったという喜びについてのアルバムなんです。だから次の作品は、肉体をテーマにしようって思ったわ。魂・身・心という要素で3部作を作ろうってね」。
アルバム『WAX』に収録されているマーティン・テレフェと共作したリード・シングル「The River」はたちまちファンとメディアの間で人気曲となった。「10年前に書いた古い曲なんだけど、コーラス部分が何か違うと感じていたんです。それが人の心を打つ何かなんだって気付いて。このアルバムはエレキ・ギターがベースになっているから、楽曲自体を失恋ソングにした方がいいって、”よし方向性をガラリと変えよう”って思ったらすごく良くなった」と彼女は語っている。
「このアルバムは、私たち人間には限界があるけれど、切実に欲しているものがあるっていうことがテーマになっています」とKTタンストールは続ける。「だから今までの私の作品と違ってすごくセクシーで官能的な仕上がりになりました。エレキ・ギターは今私自身が最も求めている楽器だから、すごく刺激的なんです」。
フランツ・フェルディナンドの元ギタリスト、ニック・マッカーシーを共同プロデューサーに迎え、全員女性で構成されたバンドによるガレージでの生々しいライヴ感を録音することに成功している。また、彼女はこの女性バンドと共にツアーを始め、8月26日にロンドンで開催された”Jazz Cafe”でも素晴らしいパフォーマンスを披露している。このアルバムは10月12日付の全英アルバム・チャートで初登場15位を獲得した。
今作発売付近でのプリテンダーズとシンプル・マインズとのロンドン公演や各地でのツアー日程を終えて、「まるで学生時代に戻ったみたいだった。彼らのライヴを観れて最高だったし、クリッシー・ハインドは私にとって偉大なヒーローなんです」と語っていた。KTタンストールは10月16日にオレゴン州のポートランド公演を皮切りに、11月18日まで続く北米ツアーをスタートさせ、大規模なイギリス&ヨーロッパ・ツアーを来年3月から4月にかけて予定している。
彼女がデビューEP『False Alarm』でその独創的な才能を世に知らしめ、デビュー・アルバム『Eye To The Telescope』で驚異的な成功を収めてから、14年が経つ。その道すがら、様々なアーティストたちが出現しては消えて行ったが、今彼女の目標は以前にも増して明確なのである。「ミュージシャンとして、信念を曲げないことが大事。時流に飲み込まれることなく、自分自身を貫いて行くことが」と彼女は語っている。
Written by Paul Sexton
KTタンストール:来日公演情報
「KT Tunstall Japan Tour 2019」
【東京】2019年8月2日(金) 東京 WWW X
OPEN 18:00 / START 19:00
オールスタンディング¥6,500 (税込・別途1Drink代)
【大阪】2019年8月3日(土) 京都 CLUB METRO
OPEN 17:00 / START 17:30
オールスタンディング ¥6,500 (税込・別途1Drink代)