ジョン・コルトレーン完全未発表スタジオ録音作、USでの先行試聴会&記者会見レポート
6月29日に発売される、ジョン・コルトレーンの完全未発表スタジオ録音作『Both Directions at Once: The Lost Album』。マッコイ・タイナー(ピアノ)、ジミー・ギャリソン(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)との通称“黄金のカルテット”と呼ばれる伝説のグループが、その絶頂期にあたる1963年3月6日に行った公式スタジオ・セッションを収録したもので、このたび、録音から55年の時を経て発表となる。
このニュースは、新聞各紙やテレビのニュース番組でも大々的に報道され、日本国内でも話題となっているが、そんな中、6月11日にアルバムの録音現場であるニュージャージーのヴァン・ゲルダー・スタジオにて、世界各国のメディアを対象とした先行試聴会&記者会見が開催された。そこに出席した、ニューヨークを拠点に活躍中のジャズ作曲家・挾間美帆のレポートをご紹介する。
活動期間は約20年ながら、今もジャズの巨匠の筆頭として名を馳せ続けているサックス奏者、ジョン・コルトレーン。「未発表曲を含むアルバム一枚分のスタジオ録音が、その録音から55年の時を経て発表される」というニュースには、ジャズ・ファンからだけでなく、世界各国・老若男女のジャズ音楽家達からも歓喜と期待の声が上がった。そりゃあ確かに。巨匠の黄金時代を彩ったカルテットの新作が発掘された? 期待しないワケが無い。
私は、幸運なことにこのアルバム『Both Directions at Once: The Lost Album』のメディア向け先行試聴会&記者会見イベントに参加させていただいた。場所はかのRudy Van Gelder Studio。マイルスやモンクが絶大な信頼を置いたスタジオだ。そして、今回の『Both Directions at Once: The Lost Album』が録音された、まさにその空間でもある。会場にはジョンの息子で今回の発売のプロデュース役も担ったラヴィ・コルトレーン、ジミー・ギャリソン未亡人とその息子マシュー・ギャリソン達の姿も。録音メンバーで唯一存命のマッコイ・タイナーはその夜にブルーノート・ニューヨークでのショーがあり、残念ながら欠席だった。
イベントでは収録曲の中から次の4曲がお披露目された。
「Untitled Original 11383」
今回大注目の未発表曲のひとつ。エンジニアのタイトル・クレジットの後に鳴り響くジョンのソプラノ・サックスが鮮烈で、このアルバムのインパクトの大きさを象徴している。ベースのジミー・ギャリソンのアルコ(弓演奏)のソロにも目を見張った。
「Untitled Original 11386」
こちらも未発表曲のひとつ。ミドル・テンポのゆるいリズムが心地よいが、よく聴きこむと不規則な小節数のテーマがジョンのソプラノ・サックス、マッコイ、ジミーのソロ、それぞれのあいだに登場するシステムになっていて、ソロの和音進行はシンプルながら飽きることなく楽しめるよう工夫されていることがわかる。
「Impressions」
この楽曲の演奏としては珍しい、ピアノレスの3人だけによる演奏。ジョンの鋭いテナー・サックスのソロにエルヴィン・ジョーンズのドラムが反応し、そのスピードを強力なグルーヴでジミーがサポート。コルトレーン黄金時代のこの疾走感は誰にも止められない!
「Slow Blues」
前のトラックに続いて3人だけで、今度はいたってシンプルでゆっくりしたブルースを聴かせる。かすれた高音、吠えるようなフレーズ、テナー・サックスの醍醐味が詰まった演奏だ。そしてそこから引き継ぐようにマッコイがソロを始めると、しばらく聴いていなかったピアノの軽妙な音色にハッとさせられるのだ。
「マスターテープが発掘されたのはいいものの、そのクオリティがわからない…という杞憂は、聴いた瞬間に払拭された」とプロデューサー達が言うように、コルトレーン黄金期を支えたカルテットの珠玉の一枚に堂々と仲間入りできる作品となりそうだ。
Written By 挾間美帆
アメリカ音楽史の幻の遺産、奇跡の発掘!
ジャズ史上最高のカリスマ、ジョン・コルトレーンの完全未発表スタジオ録音作。
ジョン・コルトレーン『Both Directions at Once: The Lost Album』
2018年6月29日発売
「2CDデラックス・エディション」「1CD通常盤」、2形態同時発売
Impulse!/ユニバーサルミュージック
<パーソネル>ジョン・コルトレーン(ts, ss)、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)
★1963年3月6日、ニュージャージー、ヴァン・ゲルダー・スタジオにて録音