日本にも所縁のあるジャズ・ベーシスト、ゲイリー・ピーコックが85歳で逝去。その半生を辿る
ビル・エヴァンス、キース・ジャレット、ポール・ブレイ、マーク・コープランド、アルバート・アイラーらと共演してきた伝説のジャズ・ベーシスト、ゲイリー・ピーコック(Gary Peacock)が85歳で逝去した。2020年9月4日にニューヨーク州北部の自宅で亡くなったことを彼の遺族が伝えている。
ゲイリー・ピーコックは、その70年にも及ぶキャリアの中で、数々のジャズ界の大物たちと充実したパートナーシップを築き上げただけでなく、12作のソロ・アルバムに加え、ポール・モチアン、菊地 雅章とのトリオ“テザード・ムーン(Tethered Moon)”で6作のアルバムを録音するなど、多くの作品を残している。
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1935年にアイダホ州のバーリーに生まれたゲイリー・ピーコックは、ドラムやピアノ、トランペットを演奏した高校時代を経て、兵役に就き、陸軍のジャズ・トリオでベースをマスターした。その後、ロサンゼルスでプロとしてのキャリアをスタートさせた彼は、当時急成長を遂げていた西海岸ジャズシーンで、アート・ペッパー、バーニー・ケッセル、バド・シャンクなど、多くのアーティストと共演を重ねていった。
60年代にニューヨークに拠点を移したゲイリー・ピーコックは、ビル・エヴァンス、マイルス・デイヴィス、ローランド・カークらとの共演を通して、レパートリーの幅を広げ、1970年の『Paul Bley with Gary Peacock』、1976年の『Japan Suite』、1998年の『Not Two, Not One』など、30年間で10作のアルバムを発表。また、彼の最初の妻で作曲家のアネット・ピーコック(Annette Peacock)とも頻繁に共作している。
昨年は、ポール・ブレイとゲイリー・ピーコックが1999年にスイスのトレヴァで共演した時の未発表ライヴ音源が新たに発掘され、『When Will the Blues Leave』としてリリースされていた。
彼はまた、60年代を通してフリージャズのアイコンであるアルバート・アイラーと定期的に共演し、1965年の『Spiritual Unity』をはじめ、多くのアイラー作品にも出演している。
60年代終盤には音楽活動を一時休止し、東洋哲学や医学、マクロビオティック自然食の研究に没頭するようになる。その間に住んでいた日本で新たなインスピレーションを得た彼は、ピアニストの菊地 雅章とドラマーの村上寛を迎えて録音したソロ・デビュー作『Eastward』を発表。さらにその1年後となる1971年には、同トリオでアルバム『Voices』を録音している。90年代には、ゲイリー・ピーコックと菊地 雅章は、高い評価を得ていたドラマーのポール・モチとテザード・ムーンを結成した。
ゲイリー・ピーコックが学んだ東洋学の知識は、ミュージシャンとしての彼の仕事に大きな影響を与えた。2007年に行われたジャズ・メディア“All About Jazz”のインタビューの中で、彼は次のように語っている。
「座禅(座禅瞑想)を学ぶにあたり、私はある意味音楽を通して準備ができていました。それは私にとって精神的、宗教的感覚を得る唯一の手段でしたから、その本質を見つめることこそがありのままの気づきだったのです。坐禅はそれと同じで、意識の高めることなのです。10年ほど前から実践していることがあります。毎日、楽器に挨拶をしてから、実際に楽器を持って構え、姿勢、呼吸、質感、楽器の感触に意識を向けることです。それが数秒で終わる日もあれば、5分かかる日もあります。要は身体と感覚のつながりを得るための行為なんです」
また、1977年の自身のアルバム『Tales of Another』での初コラボレーション以降、ピアニストのキース・ジャレットとドラマーのジャック・ディジョネットと長年にわたり共作しているゲイリー・ピーコックは、キース・ジャレットの1983年の『Standards, Vol. 1』や『Standards, Vol. 2』を皮切りに、実に20作以上の彼のアルバムに参加している他、最近では1998年のトリオによる崇高なパフォーマンスを収録したライヴ・アルバム『After the Fall』がリリースされ、高く評価されている。
晩年は、過去に9作のアルバムを一緒にレコーディングしているピアニストのマーク・コープランドをはじめ、ギタリストのビル・フリゼール、ピアニストのマリリン・クリスペル、サックス奏者のリー・コニッツなどと定期的に共演していた。
マーク・コープランドは、NPRの最近のインタビューの中で、60年代のゲイリー・ピーコックは、「間違いなく革新的なベース奏者たちの先頭に立つほんのひと握りの一人であり、2015年においても同じ議論ができる」と明言している。
Written By Sophie Smith
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