【レビュー】ビリー・アイリッシュ最新ライヴ作品『ハピアー・ザン・エヴァー:L.A.へのラブレター』
今年初め、ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)のデビュー・アルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』についてのドキュメンタリー『ビリー・アイリッシュ: 世界は少しぼやけている』(原題:Billy Eilish: The World’s A Little Blurry)が公開された。この作品の中では、現在19歳となったシンガーソングライターの成功が、ソールドアウトしたコンサート会場で熱狂的なファンが彼女に向かってすべての曲の言葉を叫んでいる映像を使って視覚的に描かれている。
しかし、9月3日にディズニープラスで公開され、ビリーが最新アルバム『Happier Than Ever』の全曲を演奏している最新のライヴ・コンサート作品『ハピアー・ザン・エヴァー:L.A.へのラブレター』(原題:Happier Than Ever: A Love Letter to Los Angeles)では、彼女の前にファンは一人もいない。
ロバート・ロドリゲスとパトリック・オズボーンが監督したこの映像作品『ハピアー・ザン・エヴァー:L.A.へのラブレター』では、ビリーが自身の故郷であるL.A.に敬意を表して、『Happier Than Ever』の全曲を初めてライブで披露。演奏にはビリーの兄であり唯一のコラボレーターでもあるフィニアス、ロサンゼルス児童合唱団、音楽・芸術監督のグスターボ・ドゥダメルと彼が指揮するロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団、ブラジル人ギタリストのロメロ・ルバンボ、そしてドラマーのアンドリュー・マーシャルが出演し、ロサンゼルスを象徴するコンサート会場、ハリウッド・ボウルにて無観客で撮影された。
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才能を存分に発揮
約1時間の映像の中で、ビリーは自分のパフォーマンスを過剰に見せることなく、アーティストとしての彼女のヴォーカル・パフォーマンスとライヴでの存在感に焦点が当てられている。アルバムのオープニング曲「Getting Older」から、シングル曲「Your Power」までアルバム『Happier Than Ever』の中でも最も声量を必要とするパフォーマンスを難なくこなしている。
時にはフィルハーモニックの豪華なオーケストラ・サウンドに支えられ、時には彼女の素朴なヴォーカルとフィニアスによるアコースティック・ギターだけで楽曲が披露される。「Oxytocin」や「Therefore I Am」のようなテンポの速い曲でも、ビリーのペースに合わせ楽曲の演出を模したカメラの動きでその映像が表現されている。
ビリーのパフォーマンスの中には、ロサンゼルスを探索するビリーがアニメーションになった映像が挿入されている。「Oxytocin」ではオープンカーに乗ってロサンゼルスの街を疾走、「My Future」では、ルーズベルト・ホテルの屋上から街を見下ろしている。アニメーションを使ってビリーの故郷を探索するという、繊細かつ深遠な視覚的選択だ。これ以上の贅沢はできないだろう。
『ビリー・アイリッシュ:世界は少しぼやけている』の中で、ビリーが運転免許証を取得した際、ダッジ・チャレンジャーに乗って、初めて一人で出かける映像が収められている。今作でアニメの主人公が乗っているオープンカーよりも秘密めいた車だが、現実のビリーは大規模な音楽フェスティバルでヘッドライナーを務め、ポップミュージックの世界を変えていくと同時に運転免許を取得している。しかし現実の彼女はブロンドの髪をなびかせながらロサンゼルスの雑踏を走ることはおろか、コンビニに買い物に行くことすら困難だ。そんな彼女は『ハピアー・ザン・エヴァー:L.A.へのラブレター』では、アバターを使って生活することにしたのだ。映画の中で彼女は、誰もいないダイナーに座っているアニメの自分に向かって、ナレーションでこう語っている。
「自分の故郷であるロサンゼルスでこんなことができるのは、とてもワクワクする。この街は、私が誰であるかを教えてくれた場所で、私はそれを当然のことだと思っていた」「年を重ねるごとに、ロサンゼルスが大好きになり、自分の子供時代と人間としての成長に感謝するようになった。L.A.が私を導いてくれたんだ」
そこからシナトラ風の「Halley’s Comet」を、フィルハーモニックの見事なホーンセクションの助けを借りて、ゴージャスに演奏する場面へとシームレスに移行していく。
充実した内容
そんな映画の中では、この街の魅力がさりげなく紹介されている。「Goldwing」では、ビリーが、自分が歌って育ったロサンゼルス児童合唱団の名を叫び、楽曲ではクラシックの作曲家ホルストによる「リグ・ヴェーダからのコラール讃歌 第3群 作品26:No.3.ヴェーナへの讃歌」が引用され、彼女はこう語る。「(合唱団のことを)すぐに好きになって、曲に参加して欲しくなった。実際に合唱団に来てもらって、ここで歌ってもらえたらすごくいいなって」このシーンは、映画の中で最も心温まる瞬間の一つとなっている。
映画の後半、タイトルトラック「Happier Than Ever」での感動的なパフォーマンスの中で、実際のビリーはアニメーションのビリーと顔を合わせる。曲の前半では、ハリウッド・ボウルの階段を下りるアニメのビリーにスポットライトが当てられ、最前列で自身のパフォーマンスを愛おしそうに見て、魂を揺さぶるように情熱的に歌っている。
I don’t relate to you
I don’t relate to you, no
‘Cause I’d never treat me this shitty
You made me hate this city
あなたの気持ちが分からない
共感できないよ、全く
私は自分をそんな目に遭わせたりしないから
あなたのせいでこの街が嫌いになった
アニメーションになったビリーもポップ・スターのスターダムから逃れることはできない。『Happier Than Ever』の宣伝看板の前を車で通り過ぎたり、カメラのフラッシュを浴びながらファンに囲まれてプレミア会場に到着したりするなかで、二人の歌手はお互いに特別な理解をしている。
彼女は、満員の観客を前にして演奏できなくても、故郷の最も象徴的な会場で、自分自身の最大のファンとして、目の前に出てくるビリー自分を頼りにしているのだ。
Written By Larisha Paul
2021年7月30日発売
国内盤CD / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
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