新型コロナの影響を受け、34年の歴史を誇る英国音楽雑誌“Q”が廃刊を発表
イギリスのロック・ジャーナリズムの礎を築いた音楽雑誌“Q”が、創刊から34年の歴史に幕を下ろすことが発表された。
同誌の編集長であるテッド・ケスラー(Ted Kessler)は自身のツイッターで「(新型コロナウイルスによる)パンデミックの影響は私たちのところまで及び、それ以上の何ものでもありません」と述べていた。彼はまた、7月28日に発売される最終号の“Editor’s Letter”の中でも自身の心境について、「Qを救えなかったことを謝罪しなければなりません」と綴っている。
Q誌の発行元である英バウアー・メディアの最高責任者であるクリス・ダンカンは、ガーディアン紙の取材に次のように語っている。
「パンデミックとロックダウンは、以前から出版業界に影響を与えていた逆風をさらに加速させました。この危機的状況をうけて、すでに厳しい状況にあった雑誌の中には、残念ながら存続が期待できないものもあります」
Q誌の発行部数は、2001年の月間20万部をピークに、2万8000部にまで落ち込んでいた。
The final issue of Q. On sale Tuesday 28 July. pic.twitter.com/STYJ2snH5m
— Q Magazine (@QMagazine) July 20, 2020
ベストセラー作家のマーク・エレンとデイヴィッド・ヘプワースによって1986年に設立された雑誌Qは、CDが誕生し、その光沢を帯びた新たなフォーマットが時代の鐘を鳴らし、革命を起こしていたのと同時期に創刊された。その幅広く、充実したレビュー・セクションは、新作だけでなく、当時のレコード会社が当時の新たなフォーマットであるCDのカタログを補強するために、彼らのアーカイヴから貪るように発売し始めていたカタログの再発タイトルなども網羅していた。
Q誌の創刊号の表紙を飾ったスターはポール・マッカートニーで、ロッド・スチュワート、エルトン・ジョンがそれに続いた。その後も、マドンナ、プリンス、ケイト・ブッシュ、ニルヴァーナ、妊娠当時のブリトニー・スピアーズ、ヌード姿のテレンス・トレント・ダービー(現在はサナンダ・マイトレイヤに改名)などが表紙を飾っている。元編集者のダニー・ケリーは後に、テレンス・トレント・ダービーについて、「ヌード表紙を成立させるだけの美しさと、傲慢さを持ち合わせた唯一のスターだった」と述べていた。
同誌は、ブリットポップ全盛期には繁栄を誇ったが、2010年代半ばには、ジャーナリズムの強みを最小限に抑えた“まとめ記事”(「史上最高の10つのライヴ」や「ロックンロール史の残る120の偉大な物語」など)によってその評判を失速させたが、近年では、2017年に編集長に就任したテッド・ケスラーのもと、ラナ・デル・レイ、テーム・インパラ、ザ・ストリーツらの素顔に迫るインタビューや、ザ・スペシャルズやビースティ・ボーイズのバックカタログを深く掘り下げる記事などで再評価されていた。
しかし、今年5月、新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、発行部数や広告収入が減少したため、Q誌の発行元であるバウアー・メディアは、同社から発行されている他のいくつかの雑誌と共に、Q誌の存続について検討していたという。
この最終号は、過去と現在のライターたちが、この34年間で最も記憶に残るインタビューを振り返る、弔辞のような内容になっている。
ライターのひとりであるエイドリアン・ディーヴォイは、1991年のインタビューの中で、マドンナが「誰もが私を熱狂的なニンフォマニアック(女子色情症患者)だとお思いでしょうが、実は本を読むことの方が好きなのです」と語っていたことを思い起こし、また、ドリアン・リンスキーは、オアシスの元ギタリスト、ノエル・ギャラガーとのアルゼンチンへの旅を振り返り、彼がDJにマドンナの「Hung Up」をプレイするよう求めたり、U2のボノと一緒にデヴィッド・ボウイの「Let’s Dance」に合わせてスローダンスを踊っていた、というエピソードを披露している。
さらに、同誌の最後のページにはボノが登場し、その悲運を振り返りこう語っている。
「Qがなくなってしまうのは寂しいです。私が音楽雑誌に求めるもの全てが詰まっていましたから。真面目なことも、馬鹿馬鹿しいことも全て…博学が巧みに散りばめられていました」
これらの言葉と共に、雑誌Qの最終号は発行される。テッド・ケスラーは、“アーカイヴを今一度掘り下げる”というその示唆する「Adventures with Legends, 1986 – 2020」という見出しが付けられた表紙のイメージを公式ツイッターで公開し、Editor’s Letterの中で、次のように述べている。
「私の在職中はずっと、出版業界が非常に厳しい市況の中、なんとか持ち堪えていくために、様々な手段を駆使しながら無駄のない運営をしてきました。この最終号が、ニュース・スタンドの巨大なQの字を埋められるような才覚を持った人物にインスピレーションを与えてくれることを願っています」
ザ・シャーラタンズのフロントマンであるティム・バージェスは、「悲しいニュースです…Qには長年お世話になっていまし、最初にこの雑誌を手に取ってから本当に沢山のことを学びました」と彼らに敬意を表した。
また、バクスター・デューリーは「素晴らしい雑誌、素晴らしい編集者でした、非常に悲しいニュースです」と自身のツイッターに記し、スリーフォード・モッズもまた「Qの記事は、ミュージシャンなら誰もがいつか載ってみたいと夢見る場所でした」と、テッド・ケスラーや編集部のスタッフへ賛辞を送っている。
Written By Tim Peacock
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