『Wish』以来32年振りの全英1位となったザ・キュアーの新作、ロバート・スミスによる全曲解説

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2024年11月1日にリリースされたザ・キュアー(THE CURE)16年ぶり、14作目のスタジオ・アルバム『Songs Of A Lost World』。この作品は1992年に発売された名作『Wish』以来となる32年振りの全英アルバムチャート1位を記録し、全米チャートでも同じく『Wish』以来のTOP5入りとなる4位を記録している。

この新作アルバムについて、バンドを率いるロバート・スミスによる全曲解説を掲載。

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1. Alone

僕は、夜間に外をさまよい歩き、空を見つめることがよくある。たいていはどこか近くで、炎がちらちらと揺れている。そうした炎が次第に消えていき、星の瞬きが薄くなり、夜明けが訪れるころ、ある種の圧倒的な感覚を感じずにはいられない瞬間が必ずやってくる。それは、僕自身がひどく迷っている、とてつもなくひとりぼっちで、かなり終末に近づいているという感覚だ……。

「Alone」ではそういう感覚を表現しようとしている。この曲が出来上がったときに気付いた。これから僕は『Songs Of A Lost World』というアルバムを作ることになると。

 

2. And Nothing Is Forever

「And Nothing Is Forever」は、愛する人と交わした約束がヒントになっている。その約束は、「あなたが死ぬ時はそばにいるよ」というものだった。この曲は、必ず訪れる死という運命を受け入れることについて歌っている。そしてまた、ひとりぼっちのまま死ぬことに対するおぞましいほどの恐怖感についても歌っている。

 

3. A Fragile Thing

人は、互いに相容れない複数の要求の中からどれかを選ぶように迫られることがある。その中から正しい選択をしたとどれほど確信していても、そうした選択の後には不毛な後悔が残る可能性がある……。そんな時の難しさが、「A Fragile Thing」を突き動かす原動力となっている。

「自分は、こういう人間になる必要がある」と心の底から思っても、そういう人間になるということはとても難しいことが多い。

 

4. Warsong

「Warsong」のもともとのヴァージョンは、僕が長年にわたって何度も何度も仲違いしては仲直りし、仲違いしては仲直りしてということを繰り返してきた相手がテーマになっていた。やがて僕は気づいた。僕とその人がしていたことは、どうやらひどくたくさんの人々がしているようなことだって事実に。多くの場合、それはもっとスケールが大きく、もっと暴力的に行われている。新たな年が訪れるたびに、新たな戦争が起こる……。

これほど多くの人が戦って戦って戦いまくるように突き動かされているが、いったいその理由は何なのか。それは簡単には理解できないのではないだろうか。人間とは所詮はそういうものだ……というのでない限りは。

 

5. Drone:Nodrone

自分の家の裏手をうろうろしていたとき、僕の頭上にカメラ付きドローンが飛んできた……。邪魔くさいと思ったし、実のところ、本当にイラッとした。ごく身近なところまで侵入して監視をしてくる「現代世界」というものの性質を、身の毛がよだつくらい思い知った。その出来事そのものだけでなく、そんな出来事に対する自分の反応と折り合いをつけるのは、奇妙なほど難しかった。「Drone:Nodrone」は、そんな”奇妙な難しさ”をヒントに生まれた作品だ。

そもそも現実を受け入れることはもっと奇妙なほど難しく……僕にとっては、混沌と縁を切ることがひどく難しい。この曲はそういうことについて歌っている!

 

6. I Can Never Say Goodbye

「I Can Never Say Goodbye」は、兄リチャードの予期せぬ死をテーマとしている。曲自体は兄が死んだ翌日に作ったのだけれども、その曲に合った歌詞を探り当てるために、長いあいだ悪戦苦闘した……。そして、最終的には、兄と最後に過ごした夜に起きたことをシンプルな歌詞のかたちで語ることに決めた。

コンサート・ツアー”Shows Of A Lost World”では、歌うのがとても難しい曲だったけれども、いつも素晴らしい出来映えになった。この「I CAN NEVER SAY GOODBYE」をステージで演奏することが、自分の悲しみと折り合いをつける上で役に立った。兄がいないってことが寂しくてたまらない。

 

7. All I Ever Am

僕が思うに、今この瞬間に「存在する」のは本当に難しい。「All I Ever Am」という作品のテーマはそこにある。この曲を特徴づけているのは、「自分」が時を経ても「自分」であり続けるにはどうしたらいいのかという疑問だ……。僕も頭の中では承知している。自分というのはもっと若かった頃の自分がたくさん積み重なった集合体だということを。

けれど、それをどうしても信じられない、受け入れられない瞬間もある! それは、奇妙な解離のような感覚、何かがおかしいという感覚だ……。そして、それはフィードバック・ループである。なぜなら自分は、自分の記憶の集合体だからだ。とはいうものの、自分の記憶そのものが今の自分のせいで変化しつつある……。僕は前からずっと、「時を経ても存在する」ということの永続性を魅力的なテーマだと感じてきた……のだろうか?!!

 

8. Endsong

2019年 ―― つまり僕が60歳になり、ザ・キュアーがこの新曲をレコーディングした年は、人類の月面到達から50周年目だった。あの年の夏は外に度々出て、空を見上げ、過去を振り返り、時間の経過を悲しみ、どんどん壊れゆく世界で老いていった。「Endsong」は、冒頭の「Alone」と共にあらゆる面でブックエンドのような役割を果たし、『Songs Of A Lost World』というアルバムを両側から挟んで支えている。

どちらもテーマはとても似通っていて、絡み合っており、互いにこだまを返し合っていると言っていいくらいだ……。外に出て月を見上げる時、今の僕は10歳の頃とほぼ同じように見上げている。けれど自分の足下にある世界はかつての世界と同じではないとわかっているし、自分もかつての自分と同じではないとわかっている。こういう認識は僕にとっては苦しみだし、こういう認識は今も変わらない月面のせいでさらにひどいものになっている。そばには何もなく、ひとりぼっちだ。

Written By uDiscover Team


ザ・キュアー『Songs Of A Lost World』
2024年11月1日発売
CD&LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music



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