IN-DEPTH FEATURES
あなたはどのメタルマニア? ヘヴィ・メタルのサブジャンル
メタル・ファンの分類の特定は大いに困難を極める作業だ。あなたはどんなタイプのメタル・ファンだろう? どれかピンとくるものがあるかどうか、ここにヘヴィ・メタルのサブジャンルの一部をご覧いただこう……
[layerslider id=”818“]■トラディショナル・メタル
最もベーシックなヘヴィ・メタルのサブジャンルである。あなたはきっと、自分の食べ物にソースなど一切かけず、ありのまま、生のままの味で食するのを好む方だろう。
ブラック・サバスがあれだけ完璧である以上、何故そこから極端に逸脱する必要があろうか? 信頼できるのは自分の感覚とブラック・サバスの最初の6枚のアルバムだけ、という昔の人の言い分には、至極真っ当な理由があるのだ。
我らが神たる救世主ロニー・ジェイムズ・ディオと、ディオ及びレインボーでの他の追随を許さない功績はあなたもご存知だろう。絵文字にもなったデヴィル・ホーン(めろいっく・サイン)の発明者である彼は、我々が潔く認識するより遥かに多くを与えてくれた人物だ。
トラディショナル・ヘヴィ・メタルのシーンでジューダス・プリストを崇拝する時には気をつけないといけない。良い子の皆さんはこの金切声を真似しないように。前後不覚に陥るような魔法をかけられ、ふと気が付いたらレディー・ガガがハーレー・ダビッドソン感謝祭の夜に買ったよりも沢山のレザー&スタッズ製品を購入しているかも知れない。
■ストーナー・ロック
ドラッグはダメはダメ絶対! ただしあなたのお住まいの地域でマリファナが合法になっているなら……おめでとう! カイアスのアルバムでもかけて、この上なく深淵かつ温かなヘヴィ・メタルのサブジャンル、ストーナー・ロックのサウンドへの心地よい誘いをお楽しみあれ。
いざ、ストーナー・ロック・シーンの深みに分け入り、スリープやアース、Sunn O)))らの奏でる音楽に酔いしれ、果てしなく続くパッセージのめくるめくグルーヴとその独特のムードに耽溺するがいい。だが、騙されてはいけない。この種のロックは実に様々な別の顔を持っていることがあるのだ。
個性的な砂漠の太い柱に、ちょっと騒々しいサウンドの志向を組み合わせたクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ(QOTSA)は、これまでアンプで大音量を鳴らしてきた大多数のバンドよりも、遥かに多くの野心的な実験を重ねてきたバンドである。雰囲気ものから、サーフ・ロックにファンク、パンクその他、どんなものでも手当たり次第、魔術師並みのグルーヴの操り方で、QOTSAは世界屈指の人気バンドとなっている。
もしもあなたがQOTSAを好きなら、クラッチとか、モンスター・マグネットなんかを少し掘ってみるといいと思うし、後はダウンなんかもよろしいんじゃないかと。また、ブラック・モスのニュー・アルバム『Anatomical Venus』とか、最近の重量級ストーナーならザ・スウォード『Used Future』も一聴の価値ありだ。そこから先は、ストーナー・ロックの未来に向かって上がる狼煙を辿って行けばいい。
■スラッシュ・メタル
スレイヤーーーーーーーーーーー!!!!!!バンビの仲良しのウサギから延々顔に連打を喰らうより速く、トイレにずっと入ったきりだったあなたのサイコパス気味でアル中気味の伯父さんよりもずっと制御不能で、ロック史上最もアドレナリン放出を促す音楽のひとつ、スラッシュ・メタル。中でもザ・ビッグ4と呼ばれる者たちは、火傷するほど熱い痕跡を刻みつけ、35年経った今でもメタル界にはその衝撃がハッキリと残っている。
この最もブルータルなヘヴィ・メタルのサブジャンルの本質を、とりわけ分かりやすく具現化しているバンドがスレイヤーだ。頭の上に落とされたハンマー台のようにヘヴィで、時速300km/h以下になる曲は殆どプレイされることがなく、魔王や死神が絶えず作品全体に跋扈しており、この世で過ごしている時に彼らが見据えているのはあらゆる局面における悲劇的な人類滅亡の可能性なのだ。妥協は一切なし、サタンを称えよ。彼らが最期のショウをプレイする時には連続殺人犯たちも涙を禁じ得ないだろう。もし、その時が来たら、彼らのショウには必ず駆けつけて欲しい。
アンスラックス はスレイヤーとは全く違う個性を持ち込んだバンドである。メタルにおいては「楽しむ(fun)」というのは眉を顰められがちな言葉だが、流動的でホットなメタルを、スケートボーダーたちのファッションである極彩色のショートパンツ姿で大音量でプレイし、大都市ニューヨークで警察との揉め事を絶叫するアンスラックスは、他の誰よりも最高のパーティの盛り上げ役だった。また、彼らが新ヴォーカリストにジョン・ブッシュを迎え、よりタフでリアリティを前面に押し出した『We Have Come For You All』と共に21世紀に突入した実績の評価をかえりみても、アンスラックスはますます際立って過小評価されているメタル・バンドのひとつになっていると言っていいだろう。
我々は『That’s Not Meal』[訳注:元Kerrang!誌のビーズと元Metal Hammer誌のスティーヴン・ヒルが毎週メタル関連のニュースや新作等を取り上げているポッドキャスト。時にはゲストも巻き込んで、何がメタルで何がメタルでないかという議論が交わされることが多い]で議論を始める気はないが、ひとつだけ言っておこう。メガデスのデイヴ・ムステインは スラッシュ・メタルの歴史において最も重要な人物だ。彼はこれから我々が語ろうとしているバンド、メガデスの創設メンバーのひとりであり、核となった人物だった。彼の技術の高さは速弾きギタリストを自称し、このジャンルに足を踏み入れようとする向こう見ずな者たちに示されたひとつのベンチマークである。これはつまり、メガデスではただ単に同業者たちと同じくらい速く弾ければいいというものではなく、拍子記号などモノともせずに才気煥発、縦横無尽かつ圧倒的にプレイできなければ不適格ということなのだ。ちなみにスレイヤーのケリー・キングはもう少しでメガデスに入るところだった。ジャンルの純粋性が保たれているのは、ひとえに彼がスラッシュ・メタルの守護聖人を務めているからだ。誰か、異論はあるか? 平和に値段がつけられるか?![訳注: “Can you put a price on peace?!”は彼らの代表曲「Peace Sells… But Who’s Buying?」の中に出てくる決め台詞]
彼らを最後に残しておいたのは、彼らがベストだからだ。メタルを発明したのがブラック・サバスだとするなら、それを完成させたのがメタリカだ。彼らは史上最高のスラッシュ・バンドというだけでなく、史上最高のヘヴィ・メタル・バンドであり、つまるところ人類の全史を通じて、これまでアンプを使い、ドラム・キットに座って一緒に演奏を録音したことのある全グループの中で最高の存在ということになるのである。この記事を書いている筆者は他の誰よりも彼らのことを愛していると断言できる。この世に生を受け、学生生活を送り、メタリカと出逢い、あとは死ぬだけだ。(Born, School, Metallica, Death!)
■オルタナティヴ・メタル
フェイス・ノー・モアはモータウンのザ・コモドアーズのカヴァーを演ることのみならず、ヘヴィ・メタルのルールブックを純化していることでも有名だ。
オーラル・セックスに関するチア・リーダー的な掛け合いやラウンジ系の曲、あるいはビー・ジーズのカヴァー……ああ、もう十分だろう。この姿勢こそがメタルの世界における真のオルタナティヴなのだ。ルール? ルールって何だ?
ヘヴィ・メタルのあらゆるサブジャンルの中で、オルタナティヴ・メタルは異端児たちが好き勝手に走り回れる遊び場だ。変態傾向の強いメルヴィンズが、プライマスと一緒にベースをスラップしたっていい。その他もろもろ、形も方法論も様々な奇妙で素敵なロック界のカメレオンたちの向こうを張り、彼らは昔も今も沢山のアルバムを世に送り出しているのだ。
オルタナティヴ・メタルの物語の中でも間違いなく最大の成功物語のバンドは、プロパガンダや甘い味のついた溶けやすい炭水化物に反対して政治色濃い憤怒を吐き出すアルメニア系アメリカ人たちが操るシステム・オブ・ア・ダウンだ。彼らの手によるニュー・メタルの風潮と、故郷である東欧の雰囲気とのミックスを、更にデッド・ケネディーズやKISS、ミスター・バングルやその他もろもろの一風変わったテイストのフィルターに通して出てきたのは、とにかくシステム・オブ・ア・ダウンとしか説明のしようのないものだった。すべての習慣を打ち砕いてプラチナ・ディスクを獲得した彼らこそ、大多数がそれまで崇めてきた形骸化した既成概念に対するオルタナティヴなのだ。
■ドゥーム・メタル
偉大なる巨人ブラック・サバスの後追いで生まれたドゥーム・メタルは、彼らのスリリングで背筋の凍るような独特の雰囲気と、低音を強調してはらわたに轟き渡るようなリズムがトレードマークである。スラッシュ・メタルが猛スピードで駆けてくるサイの群れに轢かれるようなものだとすれば、ドゥーム・メタルは蒸気機関車に轢かれるようなものだ……それも、もの凄く……もの凄く、ゆっくりと……
ストーナー・ロックの同僚でもあるドゥーム・メタルは、同じような催眠効果を目指してはいるものの、そのために利用するサウンドは遥かにヘヴィで、より大仰で図太いリフを持ち、しかしハンマー台のようにヘヴィなプレイ、と言っても決して耳障りなところまでは行かない。何とも奇妙なさじ加減だが、21世紀に入ってからのキャンドルマスの作品などを聴いてみるといいだろう。あれは一種のトリップである。
また、ヘヴィ・メタルのサブジャンルの中では際立って70年代フレンドリーなそのサウンドは、圧倒的に男性優位のシーンにあって、昔から一貫して女性と親和性が高いのも特徴的だ。コーヴェンのむせび泣きやベル・ボトム的スウィング・ヴァイヴにしろ、Jex Thothによるジェファーソン・エアプレインの泥臭いヴァージョンにしろ、あるいはキング・ウォマンの現代版戦士や、それよりもう少しヴィヴィッドな色を使ったプルソンのアプローチにしろ、この分野では女性らしいエッジの利いた、実に多くのぶっ飛びモノのメタルに出逢うチャンスがある。
ここでちょっと脱線。グレン・ダンジグの悪魔的なセンスは、タイプ・オー・ネガティヴあたりのバンドへと向かう第一段階と言えよう。ダンジグの低音域の利いたセクシュアルなグルーヴと壮大なイマジネーションに加え、不気味な歌詞を見事なストーリーテリングで聴かせてしまう魔術師のような彼の手腕により、彼らの最初の2枚のアルバムは、ドゥーム・メタルの手際の良さと五感を刺激するグルーヴが、ドゥーム・メタルを好きになる最初の試練の扉の役割を果たしている。
■プログレッシヴ・メタル
顎を撫で回しながらじっくりと鑑賞したり、プログレッシヴ特有の転調や変拍子の連発を奨励し、更に奇天烈な方向に持って行くことを許容するプログレッシヴ・メタルはヘヴィ・メタルのサブジャンルの中でも極めて稀な領域である。曲をかけながら洗い物をし、終わったところでプレイ時間をチェックしたら、まだアルバム1曲目の残り時間が20分以上もあるということに喜びを覚えられるような人向きだ。
比類なきミュージシャンシップを誇るトゥールは、何冊もの分厚い本とめまいがするような高い演奏技術で、不思議に満ちた自己発見の旅に連れて行ってくれることだろう。オーペスはデス・メタルの野蛮さに70年代のハモンド・オルガン大虐殺的グルーヴをブレンドする手腕を持っている。そしてドリーム・シアターはTV番組より長い曲を作ることができるバンドだ、彼らの最長トラックは実に42分ある。
プログレッシヴ・メタルにおいて最も興味を惹かれる事象は、どうやって大勢の若いオーディエンスに共感を広げていったかという点である。アヴェンジド・セヴンフォールドは、どんどん長くなる曲をレコーディングするに当たり、元ドリーム・シアターのドラマー、マイク・ポートノイを起用するなど、一貫してプログレッシヴ・メタルと関わりを持っていたバンドだ。だが最新アルバム『The Stage』では、彼らはそのサウンドを、これまでにないほど一段と深いプログレッシヴ・メタルの世界へと踏み込ませているのだ。気持ちをワクワクさせると同時に映画『ターミネイター』の世界を思い出す部分やA.I.の無限の可能性といったコンセプトに、バンド史上最も複雑かつ音楽的に野心的な楽曲を組み合わせ、既にゴシックなカメレオンの如きこれまでの作品群に更なる彩りを加える成果を挙げている。
Written By
【入手困難盤復活!! HR/HM 1000キャンペーン】
歴史的名盤からヘヴィ・メタルのサブジャンル各種まで、ヘヴィ・メタルのプレイリストのフォローはこちらからどうぞ。