こういったライヴ音源が、1996年9月にリリースされたバンドの10作目『New Adventures In Hi-Fi』の元になった素材の大部分を構成している。しかし同アルバムは、いわゆる標準的な“ライヴ”アルバムとは程遠かった。なぜならその全曲が、ツアー後にシアトルのバッド・アニマルズ・スタジオで行われた実り豊かなセッションの最中に、4人で新たに作曲し直し、さらに膨らませ、録音したものだからである。
1996年9月にリリースされた『New Adventures In Hi-Fi』は、全米チャート2位、そして全英チャート初登場1位に輝いた。加えてこのアルバムからは、3枚の全英トップ20シングルが生まれ、第1弾シングルの「E-Bow The Letter」は全英4位を記録。最終的に同アルバムは、全世界で500万枚以上の売り上げを達成した。このように、本作が受けた反応は決して不十分なものではなく、レビューも熱烈であった(Q誌では4つ星、ローリング・ストーン誌のマイク・ケンプからは5つ星、名高いロサンゼルス・タイムズ紙の音楽評論家ロバート・ヒルバーンは4つ星を付けた)が、90年代前半にR.E.M.が高い評価を受けた『Out Of Time』や『Automatic For The People』を基準とすれば、『New Adventures…』が同じような最先端の作品という名声を得られたとは言えなかった。
気まぐれで奇抜な本作の音楽性は、無数の方向へと散らばっている。シアトルでのスタジオ・セッションから選び抜かれたのは、嘆きと悲しみに満ちた壮麗なオープニング曲「How The West Was Won And Where It Got Us」で、ここではいつになく厭世的なスタイプが、ベリーの緩やかに駆けるビートと、バックが奏でるエンニオ・モリコーネ風バリトン・ギター・モチーフに乗せて、「これは悲しい物語/これまで何度も語られてきた」と歌っている。一方、音数の少ない「Be Mine」や、ザラついたメランコリックな「E-Bow The Letter」(ここではスタイプが長年の憧れであるパティ・スミスとデュエット)には、『Automatic For The People』の憂いを帯びた牧歌的フォークの響きがあった。一方、スタジオ由来の最後の曲である、物哀しい「New Test Leper」では、スタイプが宗教的な信仰に疑問を呈しており、この曲のタイトルは新約聖書の略称となっていて、その真実性がいかにチェックされるべきかを問うている。
陰鬱な「How The West Was Won And Where It Got Us」よりも、恐らくオープニング曲にふさわしいと思われる、荒々しい(デヴィッド・ボウイの「Suffragette City」を思わせる)グラム・ストンプ「The Wake-Up Bomb」では、名声や派手なポップ・カルチャーに対して辛辣な言葉を浴びせており、「Tレックスみたいな動きを練習しなきゃな/人気を得るために」とスタイプは明かしつつ、オアシスのデビュー・ヒット曲「Supersonic」にも言及、そして意地悪な別れの言葉「じゃあな、君みたいにはなりたくないんだ」を投げかけている。