『Green』のセッションが完了したのは、1988年11月に同アルバムが最終的にリリースされるわずか2ヶ月前のことだ。この時のセッションは非常に骨が折れたが、同時に生産的であった。彼らはジャングリーなポップ・サウンドで称賛を受けていたが、アルバム『Fables Of The Reconstructions(邦題:フェイブルズ・オブ・ザ・リコンストラクション~玉手箱~)』収録の「Wendell Gee」で早くもバンジョーを取り入れていたように、そういったジャングル・ポップから脱却したいという意向をかねてから仄めかしていた。ベリー、バック、ミルズの3人は、『Green』のセッション中、自分達の能力をより多方面に広げようと心に決め、しばしばお互いの役割を交換、もしくは普段使っているギターやドラムスを脇に置いて、アコーディオンやマンドリンといったアコースティックの楽器を弾いたりもしていた。
噂によれば、『Green』のセッションが本格的に開始される前、マイケル・スタイプは他のメンバーに、「R.E.M.っぽい曲はもう書かないように」と伝えたと言われている。それは、後にデヴィッド・バックリー(R.E.M.の伝記本『R.E.M.: Fiction: An Alternative Biography』の著者)が、『Green』について「魅惑的なまでに多彩」だと力説したアプローチであった。
『Green』の収録曲には、多彩であると同時に人の心を捉えて離さない説得力があった。思索的な3つのアコースティック曲、つまり「Hairshirt」と仄暗く牧歌的な「You Are The Everything」、そして胸を打つ「The Wrong Child」は、最終的に本作に収録されることになったが、それらは「Pop Song ’89」や、耳障りに軋む「Get Up」、そして軽快なバブルガム・ポップ「Stand」といった、自己主張のしっかりしたロック・ソングと巧くバランスを取っている。同アルバムからシングル・カットされた4曲のうち、第2弾としてリリースされた「Stand」は、全米シングル・チャート6位に食い込んだ。
その他、マイケル・スタイプが政治や環境問題に対して急速に関心を深めていたことから、『Lifes Rich Pageant』や『Document』といったアルバムでも既に、「Fall On Me」や「Cuyahoga」「Exhuming McCarthy(邦題:マッカーシー発掘)」といった幾つかの重要曲が生まれていたが、『Green』でも彼は同様の問題からインスピレーションを得た曲を幾つか書いており、ここでは公害を題材にしたうねるような「Turn You Inside Out」や、アンセミックな「Orange Crush」といった痛烈な楽曲が生み出された。ベリーのせわしないハイハットと歯切れの良いミリタリー風のスネアに駆り立てられている「Orange Crush」の曲題は、モンサント社とダウ・ケミカル社が米国防省向けに生産していた枯れ葉剤『エージェント・オレンジ』に言及。これはベトナム戦争中、積極的に使用されていた製品である。このテーマはスタイプにとっては特に個人的なものであった。というのも彼の父親は米陸軍に勤務していたため、ベトナムは彼にとって葛藤のある問題だったからだ。
だがそれよりさらに両義的なのが、不吉な雰囲気を醸し出している「World Leader Pretend」だ。音的には優美で、ジェーン・スカーパントーニによる圧倒的なチェロ、そしてボブ・ディランやスティーヴ・アールとセッションしていたバックリー・バクスターによる揺らめくペダル・スティールで巧みに彩られているこの曲には、スタイプの筆による興味深い歌詞(ジャケットに掲載)が付けられている。R.E.M.側から1988年に配られた報道関係者用資料『Should We Talk About The Weather?』の中で、スタイプはその歌詞について「政治的な歌だけれども、政府に対する非難演説ではない」としていた。
スタイプは『Should We Talk About The Weather?』の中で、本アルバムのタイトルの意味も明かしていた。「言うまでもなく、そこには政治的な含みがある。今現在、それはこれまで以上に当てはまっていると思うんだ」とスタイプ。「それから自然に関する側面も、確かにあるよ——“グリーン(緑)”と言えば、人は木々を思い浮かべるからね。シンプルな話だろ。それに“グリーン”というのは、このバンドと僕らの現在の立ち位置をすごく明確に表していると思う。僕らはある意味、再出発をしているんだ。そして僕ら全員が、それをはっきり意識しているんだよ」。
さらなる称賛を浴びたのが、貴重な長編ドキュメンタリー『Tourfilm』(1990年にVHSでリリース、2000年にDVD化)で、R.E.M.のUSツアーにおける最も印象的なパフォーマンスの幾つかがそこには収録されている。バンドはエンジン全開で、絶好調のスタイプは実に魅力的であり、シド・バレットの「Dark Globe」や、ギャング・オブ・フォーの「We Live As We Dream Alone」といった、彼が個人的に好きな曲の断片を交えながら曲を紹介する場面もあった。基本的にモノクロ映像で撮影され、手持ちカメラによる距離感の近い映像を数多く収録した『Tourfilm』には、『Green』ツアーにおける極上の瞬間の数々が映し出されており、ロック史上の真に偉大なライヴ・パフォーマンス・ビデオの最高傑作の1つであり続けている。
『Green』により、ロックン・ロール界のメインストリームへと攻め入ったR.E.M.:最強の者だけが生き残れる台風の目の中で、彼らは成功を収めたのだ。ツアー中に「Low」や「Belong」といった新曲を聴いたファンは、ベリー、バック、ミルズ、そしてスタイプが、既に未来を思い描いていることに気づいていた。だがこの翌年、彼らは静養のため長い休息を取り、『Out Of Time』の構想を練り始めたのはその後のこと。同アルバムはやがて、彼らを地球規模のスーパースターダムへと押し上げることになる。