『A Kind Of Magic』には、コンセプト的な背景がある。というのも、オーストラリア出身のラッセル・マルケイ監督が手掛けた映画『ハイランダー 悪魔の戦士(原題:Highlander)』の非公式サウンドトラックであったからだ。同映画はアルバム発売の数ヵ月前に封切られ、「Princes Of The Universe」がテーマ曲となっている他、本作収録の何曲かが挿入歌として用いられている。
バンドとプロデュース作業を分担していたラインホルト・マックとデヴィッド・リチャーズは、先端のデジタル技術を利用することに決め、本作はクイーンにとって初のデジタル録音で制作された。だがそれによって進行の速度が上がったたわけではなく、『A Kind Of Magic』がようやく完成を見たのは、1986年4月のことであった。その間、彼らは、ミュンヘンからモントルーのマウンテン・スタジオ、そして慣れ親しんだロンドンのタウンハウス・スタジオへと移動。完成後、本作はクイーンにとって初めてのCDアルバムとしてリリースされた。
本作の第二弾シングルとしてアルバム発売前に先行リリースされた、表題曲「A Kind Of Magic」では、ロジャー・テイラーが連勝の波に乗っていた。クイーンの曲の中でも最も有名かつ最も愛されている曲のひとつであり、映画に登場するヴァージョンは、アルバム/シングルに収録されているヴァージョンとはかなり異なっている。ポップなメロディが、フレディ・マーキュリーらしい芳醇なアレンジと相乗効果を生んでいるこの曲は、全英3位を記録した他、ヨーロッパのほぼ全域でトップ10入りを果たした。
ジョン・ディーコンの「One Year Of Love(邦題:愛ある日々)」には、ストリングス・アレンジと、スティーヴ・グレゴリーのアルト・サックス・ソロ(だが代わりにリード・ギターは全く入っていない)、そしてジョン・ディーコン自身の演奏によるヤマハのシンセをフィーチャー。この時点までのクイーン作品の中では、珍しい部類に属する曲だ。
モータウン風味の「Pain Is So Close To Pleasure(邦題:喜びへの満ち)」は、フレディ・マーキュリーとジョン・ディーコンの共作で、フレディ・マーキュリーが伸びやかなファルセットを聴かせている他は、サンプリング、シンセ、ドラム・プログラミング、メロディアスなリズム・ギターなど、他の全ての要素をジョン・ディーコンが担当。この曲にも12インチのロング・ヴァージョンがあり、ドイツとオランダでシングル・カットされた際にはリミックスが施された。
フレディ・マーキュリーとジョン・ディーコンが再びタッグを組んでいるのが「Friends Will Be Friends(邦題:心の絆)」だ。ピアノ・バラードからロックへと展開するこのアンセムでは、フレディ・マーキュリーの華やかさと、嗜好を同じくするラインホルト・マックの洗練されたプロダクションとが最高の形で結実している。そこから自然な流れで、ブライアン・メイの逸品「Who Wants To Live Forever(邦題:リヴ・フォーエヴァー)」へ。この曲は、映画の中でも極めて感動的なシーンで使われた。他アーティストに何度もカヴァーされているこの圧巻曲は、イージーリスニングの枠には当てはまらない。だが、品位を維持しながらも依頼に基づいた曲を書くという技を、ブライアン・メイとバンドが磨き上げたことがここに示されている。
ブライアン・メイ作の「Gimme The Prize (Kurgan’s Theme)」では、ブライアン・メイとフレディ・マーキュリーがデュエット。ブライアン・メイのギターによってメタルに傾いているものの、本アルバム中、サウンドトラックであることを最も意識した曲となっているのは、主にマイケル・ケイメンのオーケストレーションが理由だ。
ロジャー・テイラーの「Don’t Lose Your Head」は、最も多種多様な要素が盛り込まれている曲だ。『A Kind Of Magic』は、収録曲の多様性により、アルバムとしての統一感が減じられていると言うことも出来る。この曲にはゲスト・ヴォーカルにジョーン・アーマトレイディングが参加。またスパイク・エドニーがキーボードを追加している。
(映画でしか使用されていない)「Theme From The New York, New York」の短い断片を挟んだ後、クイーンは「Universe Of Princes Of The Universe」で本作のアナログ盤LPを締め括った。この強靭なヘヴィ・メタル・チューンの作詞・作曲はフレディの単独名義となっており、パンチの効いた歌詞と獰猛なギター・ソロは、かつてのグラム・サウンドが復活しているかのようだ。
1986年にリリースされた本作は好評を博した。また、CD盤には3曲のボーナス・トラック:「A Kind Of “A Kind Of Magic”」と「Friends Will Be Friends Will Be Friends」、そして「Forever」(「Who Wants To Live Forever」のピアノ・ヴァージョンにオーケストラの伴奏を加えたもの)が収録されていたことから、CDプレイヤーの売り上げにも貢献。この3曲を加えたCD盤はアナログ盤よりも12分以上も長くなった結果、それを再生する機械を所有していない人々の羨望の的となった。「Theme From New York, New York」の素晴らしいカヴァーを収録しない選択をクイーンが下したのは、実にもどかしいことである。