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ジョージ・ハリスン『CLOUD NINE』

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ジョージ・ハリスン『CLOUD NINE』

ジョージ・ハリスンが1982年に発表した『Gone Troppo』と、1987年11月の第1週にリリースされた『Cloud Nine』の間には、5年の間隔が空いていた。ELOのジェフ・リンが共同プロデュース(彼は収録曲のうち3曲を共作)を行った『Cloud NIne』で、本格的に調子を取り戻したジョージ。本作収録の「Got My Mind Set On You」は、全米チャートで1位を獲得(シングルとしては3枚目)、全英でも最高位2位を記録した。

「Got My Mind Set On You(邦題:セット・オン・ユー)」のことを、ジョージが書いた曲だと思っている人は多いのではないだろうか。 ジョージはこれを完全に我が物としているが、実際には元々ジェームズ・レイがリリースしていた曲だ。 ルディ・クラークが作詞作曲を手掛けたそのオリジナル・ヴァージョンは、1962年にダイナミック・サウンド・レーベルから発売された。このシングルはジョージにとって15年ぶりの全米No.1となったが、全英チャートでは惜しくもトゥ・パウの「China In Your Hand」に阻まれ、2位の座に4週間留まり続けることとなった。

ジョージ版「Got My Mind Set On You」は、彼のソロ11作目『Cloud Nine』の結びの曲で、 アルバム発売の1週間前にシングルとしてリリースされた。ジョージがアルバムのレコーディングを開始したのは、1987年1月。ジェフ・リンを始め、ジョージの友人の多くが本作に参加しており、その殆どが、これまでにも彼の作品の何れかに手を貸していた。

エリック・クラプトンは表題曲の他、「That’s What It Takes」「Devil’s Radio」「Wreck Of The Hesperus(邦題:金星の崩壊)」に参加。 エルトン・ジョンは後者2曲と「Cloud Nine」でピアノを演奏している。元スプーキー・トゥースのメンバーで、ソロ転向後に米国で大きな成功を収めていたゲイリー・ライトは、「Just For Today」と「When We Was Fab」でピアノを担当している他、「That’s What It Takes」をジョージおよびジェフ・リンと共作もしている。 ドラマーでは、リンゴ・スターと、ジョージのもう一人の長年の友人ジム・ケルトナーが参加。またレイ・クーパーがパーカッションを手伝っている。

本作からシングル・カットされたもう一つの大ヒット曲に「When We Was Fab(邦題:FAB)」があった。この曲のタイトルをリバプール訛りで口にした場合、その意味するところはたった一つのはず。さらに言うなら、どんな訛りで口にしようとも、その意味するところはやはりたった一つ、つまりビートルズのことである。

あのマッシュルーム・カットの愛すべき4人組、愛称“ザ・ファブ・フォー”が世界を支配し、彼らは永遠に続くと誰もが思っていた時代。そんなビートルマニア全盛期が、この曲を聴くと完璧に呼び起こされる。ジョージはこの曲をジェフ・リンと共作。2人が、トム・ペティ、ボブ・ディラン、ロイ・オービソンと共にトラヴェリング・ウィルベリーズを結成したのは、それから間もなくのことだ。

ジョージによれば、「……僕が歌詞を完成させるまで、この曲はずっと「Aussie Fab」と呼ばれていた。そういう仮題が付いていたんだ。この曲で何を言おうとしているのか、歌詞のテーマをどんなものにしようか、自分でも考えついていなかったんだよ。だけど間違いなく、“ファブ”の歌であることは分かっていた。これはファブを基にした曲で、同時にオーストラリアのクイーンズランドでやっていた曲だから、そんな名前で呼んでいたんだ。歌詞を書き進めていくうちに、「When We Was Fab」という題になったんだよ。これはライヴでやるのが難しい曲なんだ。少しずつオーバーダブが行われていたり、チェロやら変わったノイズやらバッキング・ヴォイスやらが色々と入っているからね」

誰であれ、『Cloud Ning』がヒット2曲のみとその他の穴埋め曲から成るアルバムだなどとは、一瞬たりとも考えるべきではない。アルバム全体を通し、曲の質が素晴らしく高いからだ。特に傑出しているのが、まず『All Things Must Pass』に入っていてもおかしくない「Something Else」。恐らくそれと同じことが言えるのが、美しい「Just For Today」で、ジョージのトレード・マークともなっている絶妙なスライド・ギター・ソロによって、よりそう実感させられるはずである。

賞賛すべきは、ジェフ・リンのプロダクション・スキルだ。エレクトリック・ライト・オーケストラ時代、リンがビートルズに触発されていたことは——ちょうどテイク・ザットが“復活”アルバム『Beautiful World』でELOに触発されていたのと同様に——明らかであった。 それこそ、音楽をこれほどまでに影響力の高いものにしている要因の一つである。つまり、何世代にも渡るミュージシャン達が、私達の生きるこの世界をより良い場所に感じさせ続けてくれるであろうものを、いかにして次世代に引き継いでいくかということだ。

『Cloud Nine』は、米国、英国、オーストラリア、カナダ、ノルウェー、スウェーデンでトップ10入りを果たした。 アルバムのジャケットには、ジョージが初めて所有した米国製ギターがあしらわれている。この1957年製グレッチ6128デュオ・ジェットは、ジョージが1961年にリヴァプールで購入しもので、 彼はそれを“昔なじみの黒グレッチ”と呼んでいた。 そのギターは、ジョージから長年の友人クラウス・フォアマンの手に渡っており、彼はそれを20年間保管、ロサンゼルスに置かれ、そこで改造されていた。ジョージはそれを返してもらい、元通りに復元。アルバムとシングルのジャケット写真(ゲレッド・マンコヴィッツ撮影)で使用している。

アルバム再発盤にはボーナス・トラックを追加。シングル「When We Was Fab」のB面で、ジョージとジェフ・リンが映画『上海サプライズ』(原題:Shanghai Surprise)のために書いた「Zing Zag」が含まれている。 また、同映画の表題曲「Shanghai Surprise」も収録。そこにはジョージと共に、ヴィッキー・ブラウンもヴォーカルで参加している。ヴィッキー・ブラウン(旧姓ヘイズマン)は元々、リヴァプールのグループ、ヴァーノンズ・ガールズのメンバーで、ビートルズの友人であった。彼女は後に、英国のシンガー兼ギタリスト、ジョー・ブラウンと結婚。彼もまた、ジョージの親しい(地元の)友達だ。 痛ましいことに、ヴィッキーは1990年、乳がんでこの世を去った。

あなたがしばらく『Cloud Nine』を聴き直していないなら、次に聴いた時はきっと、古い友人と旧交を温めているように感じられることだろう。そしてまだ一度もちゃんと聴いたことがなかったとしても、きっと同じように感じられるに違いない。これはジョージ以外、誰にも作れなかったであろうアルバムだ。思慮に富んでおり、音楽的に豊かで、ユーモアに溢れ、そしてファブ(素晴らしい)アルバムなのである。

- Richard Havers

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George Harrison - Cloud Nine

 

 

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