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ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ『Burnin’/バーニン』解説:革命的な炎と情熱に溢れた作品

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1973年のミュージック・ビジネスは速いペースで展開していた。ザ・ウェイラーズが初のインターナショナル・アルバム『Catch A Fire』をリリースしたのが5月4日。それから6ヵ月も経たない10月19日に『Burnin’』がリリースされ、大きなレゲエの炎がさらに燃やされた。

ここでもバンドはまだザ・ウェイラーズと名乗っており(*訳注:日本盤での表記はボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ)、ヴォーカルはボブ・マーリー、ピーター・トッシュ、バニー・ウェイラーの3人が務めていた。そこでバンドは、使命感を強めながら、その勢いを増していた。

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『Catch A Fire』に続くセカンドアルバム

『Catch A Fire』はヒットに至らなかったものの、流行の仕掛人や流行りに敏感な人々からの反響は絶大だった。リリース元のアイランド・レコード社長のクリス・ブラックウェルは、ジャマイカン・コミュニティ向けにジャマイカ人アーティストのレコードを車のトランクから手売りしてキャリアをスタートした人物だ。このマーケットに精通していたクリス・ブラックウェルには、何か大きなことが起こる予感があった。

『Catch A Fire』は、レゲエ・ミュージックが持つしなやかなリズムの魅力を世界に紹介しただけでなく、正義を求める貧しきものの叫びや、歴史的に疎外された人々の存在を全世界に警告した。そして『Burnin’』は全ての点でレベルを上げたのだ。

「Burnin’ And Lootin’」と「I Shot The Sheriff」

アルバム・タイトルに近い「Burnin’ And Lootin’」は、全面的な暴動を約束している。アストン・“ファミリー・マン”・バレットによる極めてメロディアスなベースラインと、弟のカールトン・バレットによるワン・ドロップのドラム・ビートを擁した同曲には、独特のグルーヴがあり、葬送行進曲と終夜営業の潜りの酒場の間をさまようようなグルーヴだ。メロディは悲しげで、曲調は怒りと痛恨の念に満ちている。そしてボブ・マーリーは、同胞の窮状についてこう思案している。「俺たちが手にしていたもの、俺たちは全て失ってしまったようだ」。

Bob Marley & The Wailers – Burnin' And Lootin' (Live At The Rainbow 4th June 1977)

一方、アルバム中で最も著名な「I Shot The Sheriff」は、後にアメリカのギャングスタ・ラップを定義づけるような残忍なストリートの物語の先駆けとなった。「俺が有罪ならば、罪は償う」とボブ・マーリーは歌っているが、歌詞のストーリーを追えば、問題の警官による長年の虐待に誘発された正当防衛だったことは、疑いの余地もない。

1974年にエリック・クラプトンが同曲をカヴァーし、アメリカで第1位(イギリスで第9位)の革新的ヒットを記録すると、レゲエ・ミュージックの世界的なイメージと状況は、一気に変化した。

「Burnin’ And Lootin’」と「I Shot The Sheriff」の2曲だけで、『Burnin’』は深刻な社会的・文化的な懸念を真剣に表明したアルバムとなったのだ

Bob Marley & The Wailers – I Shot The Sheriff (Live At The Rainbow Theatre, London / 1977)

 

ジャマイカの貧困と民衆の力

もともとのジャマイカは大半が農村経済によって支えられてきたが、戦後、急速に地方からキングストンへ人口が流入したことで、場当たり的な成長と、首都の内部と周辺で極めて不平等に富が分配される時代が始まってしまった。都市の広い地域がゲットーとなり、そこでは荒々しくも活発な音楽シーンの主要人物たちが、赤貧の人々と緩やかに組織された乱暴な犯罪者のギャングとも交流していた。

厳しくも先鋭的で、心豊かな環境が、ボブ・マーリー、ピーター・トッシュ、バニー・ウェイラーのソングライティングに極めて力強い下地を与えた。そしてその環境かつてないほど表現されたのが、アルバム『Burnin’』である。

アルバムの1曲目「Get Up, Stand Up」は、民衆の力を歌う不朽のアンセムだ。世界中の公民権運動家が使った曲でもある。ボブ・マーリーとピーター・トッシュは、ハイチをツアー中、ジャマイカよりも遥かに深刻な極貧状態を目の当たりにして同曲を共作したと言われている。

その歌詞は宗教的な指導者たちを明確に批判している。彼らが「死後には楽園がやって来る」という約束で煙幕を作っているために、苦しむ人々がこの地球上で人間としての権利を主張できずにいるという理由からだ。

「説教者たちは、天国が大地の下にあると俺に語ることはない」とボブ・マーリーは明らかな軽蔑を含みながら歌う。同曲は、その後ピーター・トッシュとバニー・ウェイラーのソロ・アルバムでも再レコーディングされた。また、ボブ・マーリーのキャリアが終わるまで、彼のレパートリーの中でも重要な曲であり続けた。そして、彼がステージで最後に歌った曲でもある(1980年9月のピッツバーグ公演)。

Bob Marley – Get Up, Stand Up (Live at Munich, 1980)

クリス・ブラックウェルに促され、ボブ・マーリーは『Burnin’』でもザ・ウェイラーズのヴォーカル/ソングライティングの中心人物として活躍した。『Catch A Fire』同様、ボブ・マーリーの作った楽曲がアルバム中の大半を占めたが、ピーター・トッシュとバニー・ウェイラーが『Burnin’』のリリース後にグループを脱退したのは、これが気に障ったかもしれない。

加えて創設メンバーであるピーターとバニーは、初のアメリカ・ツアーで不満を募らせ、バニーはツアーを面倒だと感じており、バンドがジャマイカに戻ってからは、なかなかジャマイカから出ようとはしなかった。

他のアルバム収録曲

イギリスとアメリカでは「新人」バンドだったザ・ウェイラーズだが、1963年からレコーディングを行っていたため、ジャマイカ以外ではほとんど知られていない持ち歌を多数抱えており、『Burnin’』中の数曲は、過去にリリースされた楽曲を再レコーディングしたものである。

穏やかでスピリチュアルなグルーヴに「神よ、あなたに感謝します」というチャントが入った「Put It On」は、1965年にジャマイカのスタジオ・ワン・レーベルからシングルとしてリリースされた曲だ。ダンスホールDJたちが、リリカルなスタイルのチャンティングを“トースティング”と呼びはじめたのはこの頃だ。

Put It On

「Duppy Conqueror」と「Small Axe」の2曲も、ザ・ウェイラーズが過去に出した楽曲の新録である。(最終的にはアルバムに収録されなかった「Reincarnated Souls」、「No Sympathy」、「The Oppressed Song」は、2001年に“Definitive Remastered《決定版リマスター》”エディションのボーナス・トラックとして収録された)

この意味で、『Burnin’』は当時のザ・ウェイラーズの進歩をまとめた作品とも言えるだろう。革命的な炎と情熱に溢れたこのアルバムは、ティーンエイジャーだったバニー・ウェイラー、ピーター・トッシュ、ボブ・マーリーが、トレンチタウンのストリートから身を起こし、世界的なスターダムへと駆け上がる直前までの旅路を抽出した最後の作品でもある。これ以降は、ボブ・マーリーがバンドを主導していくことになる。

Written By David Sinclair



ボブ・マーリー『Burnin’』
1973年10月19日発売
CD / iTunes / Apple Music / Spotify



ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ『Greatest Hits In Japan』
2020年10月28日発売
CD / iTunes / Apple Music / Spotify




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