サーフェシズ「Sunday Best」はどうやってTikTokから世界中でヒットしたのか?マーケティング的考察
インディーズ発、しかも1年前に発表されたポップ・デュオ、サーフェシズ(Surfaces)の「Sunday Best」という楽曲が、TikTokでバズを起こし、全世界のストリーミングチャートで上昇。2020年4月27日現在、全米全英など25か国以上のシングル・チャートTop40入りのヒットとなっています。
それまではほぼ無名だった彼らがどうやってヒットをつかんだのか? 昨年末でSpotify Japanを退職、在職時はArtist & Label Marketing Managerとして様々なアーティスト・レコード会社のプロジェクトを担当されていた松島 功さんにマーケティングの側面から解説頂きました。
TikTokはもちろん、今や様々なソーシャルメディア上で聴くサーフェシズの「Sunday Best」。実はこの曲は1年前の曲。そしてアメリカ人のアーティストですが、インドネシアからヒットし始めて現在の世界的大ヒットに至っているのをご存知でしょうか。
サーフェシズとは?
サーフェシズは、2019年1月に発表した「Sunday Best」という楽曲がきっかけで一躍注目を浴びた二人組のポップ・デュオ。この曲は、ショートムービー・プラットフォームのTikTokにて「2019 Rewind(2019年を振り返ろう)」というチャレンジがインドネシアで大流行した際に用いられた楽曲。このチャレンジの人気がアメリカにも飛び火したことから、サーフェシズと「Sunday Best」の知名度と人気がともに急上昇。現在までこの楽曲を使ってTikTok内でアップされた動画は74万本にも上り、2020年2月28日にSpotifyでの再生回数が1億回を突破しました。
ではなぜ、彼らはここまで全世界でヒットしたのか。結論を先にお伝えすると「綿密なプロモーションではなく、柔軟かつ綿密なプロモーションプランが重要」ということを立証したのが今回の出来事です。
行動を起こす能力と同じ、いや、それ以上に「気づく力」が重要な時代。「気づいた瞬間に瞬発力高く柔軟に行動する」。明るくポジティブな気持ちになれる「Sunday Best」が、なぜここまで大きなムーブメントになったのか順を追って見ていきましょう
時系列でヒットの流れを振り返ってみよう
2019年1月8日:「Sunday Best」リリース
彼らにとって2作目となるアルバム『Where the Light Is』がリリースされ、このアルバムに「Sunday Best」が収録されていました。つまりリリースされたのは去年の1月。1年以上も前の曲なのですね(!)。
2019年7月11日:MV公開
アルバムリリースから半年後、MVが公開されます。
このビデオの公開でInstagramのフォロワーも1.7倍に成長。YouTubeの登録者数も急増し、この時点では彼らのキャリアで最も著しいバズはこのタイミングでした。歌詞の内容にあったビデオ映像であり、これからのサマーシーズンを彩る内容。この後ツアーを回り始め、シングルリリースも重ねて、少しずつファンベースを増やしていくという王道プランであったのですが、この5ヶ月後、2019年末に驚異的な「#2019rewind」の波が起こるのです。
2019年12月: TikTokで #2019rewind キャンペーンがインドネシアで開始
サーフェシズのプロフィール紹介にもありましたが、ここが大きな転機となります。インドネシア国内で“2019 Rewind!!”のチャレンジがTikTokで始まり、「Sunday Best」に “2019 Rewind!!”という女性の声とリワインド音(アナログレコードを巻き戻す際の音)を加えたバーションが投稿され、それを使って数多くの動画が投稿されました。
このチャレンジそのものが“今年一年総まとめ”を投稿するものであり、
- ユーザーにとっては一年間の楽しかったモーメントを連続で載せるだけでコンテンツが作れる
- 決まったダンスがあるわけでもないので簡単に参加できる
- 過去の自分の動画を再掲できる良いチャンス
過去の投稿をもう一度上げ直すチャンスをくれるということがどれだけTikTokユーザーに嬉しいことかは使っている皆さんはお気づきでしょう。さらに、
- 「Sunday Best」の歌詞の前向きでハッピーな内容
- “2019 Rewind!!”の掛け声が入っている(どんな内容の投稿か一瞬でわかる仕掛け)
これらが混ざり合ってバズを加速させたようです(2019 Rewind!!動画まとめページ)。
@avanii have too many 2019 memories… but i’m all here for it 🙂 ##2019rewind // insta-avaannii♬ Sunday Best – Surfaces
サーフェシズのレーベル10K Projectsはこの兆しが現れた瞬間、インドネシアでAD(広告)キャンペーンを実行するためにマーケティング予算を割り当てます。このADキャンペーンは #rewind2019をさらに広めるためにTikTokとInstagram上で行われました。
つまり、この段階では曲のプロモーションではなく「ハッシュタグチャレンジ」そのもののプロモーションを実施。チャレンジを参加する人数を増やすというプロモーションを行います。前述の通りチャレンジそのものは非常に参加しやすいものだったことも影響し、参加者は膨大な数へと成長します。
一方でインドネシアにてSpotifyをはじめとするストリーミングサービスに売り込みをかけます。「#rewind2019」といえばこの曲というほど認知度を上げた後、ストリーミング上の数字も伸び始めます。
2020年1月年明け:TikTokで #Sundaybestchallenge がインドネシアから開始
Capitol Records(ユニバーサル ミュージック)がプロモーションに参加し、年が明けたこともあり、Rewind(振り返り)ではない第2弾のキャンペーン #Sundaybestchallenge をTikTokで実施します。今回はMarion Jola、Brisia Jodieなどのをインドネシアの人気インフルエンサーを起用します。ストリーミングサービス上ではSpotifyではインドネシアのバイラルチャートからTOPチャートにはいり、ここから瞬くまに広がります。
2020年1月17日:Spotifyの「Today’s Top Hits」に取り上げられる
インドネシアでの爆発的ヒットを経て、世界へ飛び火しはじめたこの曲はSpotifyのフラッグシップトッププレイリスト「Today’s Top Hits」に取り上げられます。これがUSではさらなる引き金となり、以降Spotifyのマンスリーリスナーは膨れ上がります。そして以降各国のバイラルチャートを占拠しはじめます。
2020年2月16日:インドネシアのSpotifyチャートで1位獲得
結果として2月16日から3月22日までインドネシアのSpotify TOPチャートで1位を獲得します。完全にTikTokから外部ソーシャルメディアに流出し、ストリーミングプラットフォーム合わせた全世界ムーブメントへ成長し始めます。
2020年2月17日:別バージョンの投稿で現地でも底上げ
TikTokでの広がり、プレイリスティングはもちろんのこと、YouTubeでも新たな派生が登場します。FEEL KOPLOというインドネシアのダンスミュージック系チャンネル(アグリゲートチャンネルに近い)にて原曲のアジア風のRemixバージョンが投稿されます。もちろんこのバージョンを使ったTikTokも投稿されはじめます。#2019rewindから2ヶ月というタイミングです。Content IDはついていますのでレーベル・アーティストはここからも収益化できているようですね。
2020年3月1日:各YouTubeメディアでも取り上げ(TikTokTunes)
TikTokTunesはTikTokで流行っている曲に歌詞をつけて紹介するアグリゲートチャンネル(キュレーションメディアの一種)ですが、こちらはTikTokでよく耳にする早回しではなく、遅回し(ピッチダウン)の手法をとったリミックスバーション。こちらもContent IDはついてますのでレーベル・アーティストはここからも収益化できているようですね。TikTokで曲を知った人がYouTubeで検索、YouTubeの概要欄で詳細を知り、ストリーミングプラットフォームへ移動していくという流れ。
2020年3月7日:全米シングル・チャートにランクイン
そしてリリースから一年、ここに来てついにBillboard Hot 100に98位でランクイン(その後、74位→62位→52位→38位と上昇中)。
2020年3月11日:各YouTubeメディアでも取り上げ(Unique Vibes)
Unique VibesもTikTokTunesと同じようなアグリゲートチャンネル(キュレーションメディアの一種)ですが、どちらかというとファンコミュニティ要素が強いチャンネルです。こちらもContent IDはついてますのでレーベル・アーティストは収益化できていますね。広げる存在が確実にいるのが素晴らしいですね。
2020年3月24日:ジャスティン・ビーバーのTikTok投稿
#2019rewindから3ヶ月経過し、TikTok上では世界的なムーブメントとなりました。そしてここにきてジャスティン・ビーバーが投稿します。その後も彼以外にも世界中のアーティストやクリエーターが投稿し続けています。
@justinbieber ♬ Sunday Best by Surfaces – rapidsongs
2020年4月18日:BTSのVによる「This View」の投稿
そして昨年リリースされたアルバム『Where the Light is』から「This View」を使った投稿をBTSのV(キム・テヒョン)が行いました。この影響でこちらの曲も再び注目されているようですね。こうやって「Sunday Best」以外の曲も使われ始めています。成功方程式のピースが揃ってきました。
— 방탄소년단 (@BTS_twt) April 18, 2020
2020年4月末現在の状況
今年の年明けは350万人だったSpotifyのマンスリーリスナー数は2,300万人超。1月7日週のToday’s Top Hitsに入った後からの伸びが驚異的ですね。
そして全世界で85位のリスナー数です。1年前は50万人ほどのマンスリーリスナーだったのですが、1年で2,300万人まで伸びる、1年前の曲でここまで伸びるという現象です。
またラジオでのエアープレイもストリーミングでの広がりを追いかけるように増大しています。Spotifyでは1月頭から増加傾向に突入し、1ヶ月遅れの2月頃から増加傾向に突入しています。TikTokから外部ソーシャルメディア、ソーシャルメディアからストリーミング、ストリーミングからオフラインへ。
こうやって時系列で追って見てくると、消費者動向があきらかになりますね。様々なメディアを通してこの曲が世界に広がっていったことが見えてきます。なにより彼らの楽曲のポジティブさが原動力であることは間違いありませんが。
気になること
実は時系列の中では紹介しなかったのですが、2019年の5月にすでにTikTok上で「Sunday Best」は使われ始めていました。リリース後、MVを出すまでの間にすでに上がっていたのです。
2019年5月11日:FlighthouseがTikTokに投稿
Flighthouseは動画制作とメディアエージェンシーを兼ねるTikTokメディア。Flighthouseの成り立ちは非常に独特で、元々は有名曲のピッチアップ(早回し)バージョンを大量にアップし、その楽曲が使われるに従ってアカウントのフォロワーが増え、強大なメディアチャンネルに成長。以降はオリジナルコンテンツをアーティストと作り投稿し続けるメディアチャンネルと変貌をとげました。
2019年5月に公開されたこちらの映像でもFlighthouseお得意の原曲ピッチアップ(早回し)リミックスが使われました。当初はここではそれほど大きなバズとならなかったのですが、曲のヒットに伴って再びこのバージョンも多く使われていますね。
@flighthouseOmg……I feel so bad for him 😫💔 ##AwkwardPromPose ##foryou♬ Sunday Best by Surfaces – flighthouse
彼らの成功から何を学ぶべきか
1. 常にデータ上でのリサーチを欠かさず些細なタイミングを見逃さなかった。そして適切なタイミングで予算も投じたキャンペーンを実行。新作がでるタイミングがプロモーション・タイミングではなく、その後に起こった兆しにいち早く気づき全力投資。オーガニックに伸びることを予想し、あえてムーブメントにAD投資。
2. 様々なプラットフォームを組み合わせてバイラルにしていく事、TikTok、Instagram、YouTubeで増幅させストリーミングサービスへの落とし込みに成功。インフルエンサーマーケティングに加え、TikTokメディアチャンネル、YouTubeアグリゲートチャンネルの存在。
3. 国をまたいだ場合でもその国の配信プラットフォームサービスに適切に営業活動を行った。今回でいうとインドネシアに向けて(この辺りは10K Projectsの力と、引き継いだユニバーサル ミュージックの強みでしょうかね)。
4. アーティストからの直接の声としてビデオコメントは課金広告も含めて、適切なタイミングで投稿。どんなアーティストであってもファンエンゲージメントは重要(インドネシアのファンに現地の言葉で伝える)。
5. #2019rewind のキャンペーンも年が明けて一旦落ち着いたが、新年の雰囲気が終わったあたりで第2のキャンペーン #Sundaybestを実施。地元のインフルエンサーを使用し、わざと簡単にできる #Sundaybestチャレンジダンスを設定し世界中に広がる。
6. 現在の社会状況、つまりはビルボードチャートにランクインする今年の3月頭あたりから、この曲は別の側面をみせ始めています。世界で起こっている共通の状況の中、
Feeling good, like I should
いい気分、こうでなくちゃ
Everyday can be a better day despite the challenge
毎日きっといい日になるはず、大変なこともあるけどね
という歌詞がここに来て、さらに人々の共感度を上げているようですね。ジャスティン・ビーバーのTikTokがまさにそうであるように。今こそ家で聴くべき作品な気がします。景色がカラフルに見える素敵なポップソングですし。なにより何度も聞きたくなる曲であることが強みですね。
まとめ
サーフェシズはあくまでいわゆる新人アーティストなのですが、TikTokをきっかけにチャンスを逃さず「気づいた瞬間に瞬発力高く行動にうつす」事ができたのが大きいと思います。アメリカ人のアーティストとアメリカのレーベル(10K Projects)がインドネシアで起きたチャンスを他の国にも広げ、もう一度アメリカまで持ち込む。リリースするときにこんなこと誰も予測してなかったでしょうし、綿密なプランがあったわけでもなかったと思います。過去の曲であったとしても、いち早く兆しに「気づく力」があったことで、“柔軟に”プロモーションプランを策定し、”綿密に”練り直し、走り抜けたように思います。
「柔軟かつ綿密に」。それを痛感したヒットです。そしてそれが出来るチームに未来を感じました。
“兆し” 見逃していませんか? そして “兆し” に柔軟に対応できるチームでしょうか? 今回の件は本当にたくさんの事を学べる成功例だと思います。
Written By 松島 功
サーフェシズ「Sunday Best」
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