4年前の楽曲、グリフィンの「Tie Me Down」が日本でブレイクし洋楽チャートを席巻している理由

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2018年に発売されたグリフィン(Gryffin)による楽曲「Tie Me Down (with Elley Duhé)」がLINE MUSICの洋楽チャートで1位、Apple Music / iTunes Storeのダンスランキングで1位と日本のストリーミングサイトでヒット記録。

現在日本のストリーミングサイトでは邦楽の楽曲がランキングを占めるなか、K-POP以外の海外の楽曲でしかも4年前の楽曲がヒットと記録していることについて、今の音楽を追うブログ「イマオト」の管理人で音楽チャートアナライザーのKeiさんに解説いただきました。

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グリフィン「Tie Me Down (with Elley Duhé)」がTikTokを機にヒット中…歌手本人の”楽しんだもん勝ち”な姿勢がバズをさらに増幅させる

 

日本の洋楽チャートでグリフィン「Tie Me Down」がロングヒット中

音楽チャートを日々分析すると、Billboard Japan Hot 100の信頼度が日増しに高まっていると実感します。8つの指標で構成されるこのチャートは時代の変化に応じて指標の増加や内容の見直しを行い、真の社会的ヒット曲がより一層可視化されています。K-Popを除く洋楽はそこまで強くはないものの、昨年度の年間ソングスチャートで76位にランクインしたザ・キッド・ラロイ&ジャスティン・ビーバー「Stay」は最新4月6日公開分でも51位にランクイン、真の社会的ヒットに相応しいロングヒットとなっています。

Billboard JAPANは、Hot 100から邦楽およびK-Popを除く洋楽のみで構成するHot Overseasチャートを用意。このチャートにおいて最新4月6日公開分で5位に入っているのが、グリフィン「Tie Me Down (with Elley Duhé)」です。「Stay」が首位をキープし、ジャスティン・ビーバーやエド・シーランがトップ10内に複数曲を送り込む中にあって、「Tie Me Down」は9週連続で20位以内にエントリー。存在感を徐々に高めています。

「Tie Me Down」はLINE MUSICにおいて、2月の月間ランキングで42位となりK-Popを除く洋楽で最高位を獲得。また日本のSpotifyデイリーチャートでは、ソウルでのライブ直後にBTSのパフォーマンス曲が、また藤井風さんのアルバムリリース日以降に収録曲が大量エントリーを果たした中にあって「Tie Me Down」が2月15日付以降200位以内に留まり続けています。Billboard Japan Hot 100のストリーミング指標、その基となるサブスクで強さが際立っているのです。

グリフィン「Tie Me Down (with Elley Duhé)」は元々2018年夏にリリースされながら、今になってチャートを上昇。その背景にあるのがTikTokです。LINE MUSICでは2月の10代トレンドランキングで10位に入るなど若年層を主体に人気となっていますが、TikTokを使ったことがある方ならば老若男女関係なく、一度は聴いたかもしれません。

 

グリフィン「Tie Me Down」はなぜ今日本で人気なのか

これまでカーリー・レイ・ジェプセンやアロー・ブラック等をフィーチャーし、イヤーズ・アンド・イヤーズやマルーン5のリミックスも手掛けてきたグリフィンによる「Tie Me Down (with Elley Duhé)」は2018年夏にリリース。恋の始まりを認めてくれない相手に対し「抱きしめて、縛りつけてて / だってあなたの側を離れたくないから」と歌うEDMソングは、切なくエモーショナルな歌詞やメロディも日本で支持を集める要因かもしれません。

その「Tie Me Down」はリリース当初、日本でヒットしたと言えませんでした。Billbaord JapanのHot Overseasで初めて20位以内にエントリーしたのが今年2月9日公開分であり、ランクインにはリリースから3年半を要しています。

Spotifyのグローバルチャートでは2018年夏のリリース当初から200位以内に登場し、週間では最高101位を獲得した「Tie Me Down」。同年秋までに一度姿を消したこの曲ですが、昨年突如復活し波に乗ると、遂には日本でヒットに至るのです。そのきっかけはTikTokにあります。

昨年5月、「Tie Me Down」をBGMとしてRetroフィルターを用いた投稿動画が東南アジアのユーザーから多数アップ。1980年代のVHS録画画像を思わせる加工映像がバズを起こし、Spotify週間チャートではインドネシアで24位を記録。フィリピン、シンガポール、マレーシアでも200位以内に到達しました。

@mnfalri stay here! #transition #fyp #foryou #TerimaKasihPahlawanHebatku #foryoupage ♬ Tie Me Down – Λ G h i f

その後早回し動画が話題となった「Tie Me Down」は次のフェーズに突入。日本のTikTokユーザーによる和訳動画が昨年末に投稿され話題に。ユニバーサルミュージックジャパンも今年1月下旬に和訳動画を公開し、現在までに390万回再生を獲得しています。

@universalmusicjp_intl “ この曲好きな人?✋🥺” グリフィンのTie Me Down最高…! #gryffin #tiemedown #和訳 ♬ Tie Me Down – Gryffin & Elley Duhé

そして極めつけがTikTokのインフルエンサー、ローカルカンピオーネによる振り付け動画。現在までに450万回再生を記録するこの動画は2月8日にアップされています。和訳動画から振り付け動画までが1ヶ月ちょっとの間に連続で投稿されたことで、グリフィン「Tie Me Down (with Elley Duhé)」が日本で急速に浸透し、Spotifyデイリーチャートに登場するようになったと推測されます。

@localcampione ちょっと難しめだけど挑戦してみてね🧚🏻‍♀️❤️わたしたちはあなたたちを縛り付けて離さないので安心してください🤌🏻✨いいすぎ?@gryffinofficial @elleyduhe #縛り付けチャレンジ #gryffin #elleyduhé #tiemedown #ローカルカンピオーネ ♬ オリジナル楽曲 – ローカルカンピオーネ🗾👑

さらに、ボーカルコーチを務めるSAKIKOさんのYouTubeチャンネル、さきここVoiceで2月末に「Tie Me Down」が取り上げられました。『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日)の登場以降、音楽分析動画が人気となっています。自分も参加した昨年の音楽業界を振り返る音楽ナタリーの座談会では、しらスタ(歌唱力向上委員会)等の分析動画がソングスチャートを押し上げる一因になっていると紹介しました。

BTSの英語詞曲においてはBillboard Japan Hot 100のカラオケ指標が加算されており、洋楽のカラオケニーズが可視化されています。カラオケ配信済の「Tie Me Down」に挑戦したい、歌ってみた動画をアップしたい方もいらっしゃるはずで、そのニーズにYouTubeチャンネルが応えていると言えます。

 

 

TikTok発のブレイク曲、その人気を加速させる“楽しんだもん勝ち”の姿勢

米Billbaord、そしてその集計方法を日本式に踏襲したBillboard Japan Hot 100においては、瞬発力以上に持続力を伴った曲が社会的ヒットの鑑と成ります。Billboard Japan Hot 100では2020年度にYOASOBI「夜に駆ける」、2021年度に優里「ドライフラワー」という、シングルCD未リリース曲が年間チャートを制したのはその象徴でしょう。多くの方に認知されているこの2曲は、共にTikTokでのバズが起点となっています。

優里「ドライフラワー」はメジャー2作目、YOASOBIに至ってはデビュー曲が年間ソングスチャートを制していますが、これらの曲はサブスク再生回数等に基づくストリーミング指標で大きくポイントを獲得しています。実はこのストリーミングと相性が良いのがTikTokであり、Billboard Japan Hot 100の分析に基づく博報堂の研究発表ではTikTokとストリーミング指標との相互作用が指摘されています。

Billboard JapanではTikTokでのヒット曲を示すチャートが今年度リニューアル。そのチャート、TikTok Weekly Top 20において3月に二度首位に立ったのが広瀬香美「ロマンスの神様」でした。1993年リリースの曲にインフルエンサーであるタイガの振り付けが独自の振り付けを施しアップしたところ、興味を持った広瀬さんが自ら踊ってみた動画を投稿したことで人気が拡大。以降は歌ってみたや弾いてみた等のジャンルも増え、2月末には日本のSpotifyデイリーチャートで200位以内に復帰を果たしています。

また、先述したローカルカンピオーネの動画を起点として、Tani Yuuki「W/X/Y」が現在ヒット中。ローカルカンピオーネの振り付けをTaniさんが覚え、ライブで観客と共に披露、その様子をTikTokにアップしたことでストリーミング指標が刺激され、総合チャートでも上昇しました。ヒットの兆しがみられたタイミングでブログにて紹介しましたが、ここまでのヒットというのは想像以上でした。

海外でも本人が乗っかった作品が話題に。象徴的なのが、フリートウッド・マック『Rumours』(1977年)に収録され、米Billboard Hot 100を制した「Dreams」の再燃でした。この曲はTikTokのインフルエンサーがスケートボードに乗りながらジュースを飲むという動画のBGMに使われていましたが、フリートウッド・マックのメンバーであるミック・フリートウッドがその動画を再現したことでバズが発生。一昨年秋、米ビルボードソングスチャートで最高12位まで再浮上したのです。

これらはいずれも、本人が“楽しんだもん勝ち”という姿勢が動画の認知浸透につながり、バズをさらに増幅させたと言えます。無論ご本人登場とまでいかなくとも、TikTokで話題になれば元々のリリース時期に関係なくフックアップされるのですが、ご本人登場でバズがより増幅されたと捉えていいでしょう。

実はグリフィンも、TikTokに積極的に乗っかっています。たとえばRetroフィルターを用いたTikTokの投稿動画をコンパイルし、公式ビデオとしてYouTubeにアップ。TikTok投稿者は本人に届いたことを嬉しく思っているのではないでしょうか。

グリフィンは和訳動画についても公式YouTubeチャンネルに投稿。投稿日が今年2月5日であることを踏まえれば、レコード会社の和訳動画を意識したと考えられます。動画の概要欄には日本語でメッセージが添えられていますが、母親が日本人であり来日公演も行ったことのあるグリフィンならではの心遣いが感じられます。

さらには同月、愛犬ジジを従えて「Tie Me Down」をプレイする動画をYouTubeにアップ。これらはいずれも、楽しんだもん勝ち動画の一種と言えるかもしれません。

TikTokの可能性を理解し、音楽業界は迅速に行動することが必要

ともすればTikTokを利用し、“狙って”バズを起こしたいという方は少なくないでしょう。かつてアメリカではドレイクがリリース前の「Toosie Slide」の音源をインフルエンサーに渡し、未発表の新曲として踊ってみた動画をアップしてもらったという経緯があります。実際「Toosie Slide」は米Billbaord Hot 100を制することになるのですが、ともすればその手法は今では炎上ギリギリのラインに当たるかもしれません。

ならば、投稿者が曲を用いたタイミングで、その鮮度が落ちないうちに歌手やレコード会社側がしっかり乗っかることが重要です。その姿勢が今回紹介したような好事例を生み出したことは間違いありません。また投稿者側も使いたい曲をTikTokで探すだろうこと、その際は海外の動向も参考にするものと考えるに、アンテナをより広く張り巡らせ迅速に対応することが大切です。積極的に参加し動画を拡充させれば、ユーザーへさらにリーチされていくことでしょう。ユーザーが曲に親しみを抱きTikTok以外でも聴くようになる流れは、Billbaord Japanのチャートが証明しています。

その点において日本で長けていた動きといえば、冒頭で紹介したザ・キッド・ラロイ & ジャスティン・ビーバー「Stay」。TikTokで海外ユーザーの腰振りダンスがミーム化したことを踏まえ、チョコレートプラネットの松尾駿さんを起用しています(現在動画は削除)。踊ってみた動画は松尾さんのキャクターも相俟って、曲の中毒性を視覚化させることに成功しています。

この動画における日本人を狙ったリーチ手法は、和訳動画にも当てはまることです。ユニバーサルミュージックが和訳動画をアップしたことでグリフィン「Tie Me Down (with Elley Duhé)」の認知がさらに上昇し、ともすればローカルカンピオーネがその動画を見て振り付けすることを決めた可能性も考えられます。

今回紹介したグリフィン「Tie Me Down (with Elley Duhé)」はTikTokを介してバズが発生。様々な動画も相俟って、4年前のリリースながら現在人気となっています。また例に挙げた曲の中には昭和時代のリリース作品もありますが、TikTokでヒットする曲はたとえどんなに懐かしいものであったとしても、ユーザーは投稿動画に触れ気に入った瞬間、その曲を新鮮に受け止めることでしょう。

自ら参加することでバズの増幅につなげたグリフィン、そしてユニバーサル ミュージックジャパンの姿勢は、K-Pop以外の洋楽のフックアップにおける好例となるはずです。

Written By Kei



グリフィン「Tie Me Down」
2018年10月24日配信
iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music




 

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