マルーン5はなぜ20年も成功し続けるのか? “セルアウト”と批判されながらもヒットし続ける7つの理由

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2002年6月にデビュー・アルバム『Songs About Jane』を発売して以来、約20年もの間、常にチャートを席巻し、2019年には米エンタメ界で最も栄誉あるスーパーボウルのハーフタイムショーを担当したマルーン5(Maroon 5)。

6枚目のアルバム『Red Pill Blues』を発売して以降、2019年に「Memories」、2020年に「Nobody’s Love」、2021年に「Beautiful Mistakes feat. Megan Thee Stallion」とシングルを発売している彼らがなぜ成功し続けることができるのか? 様々なメディアに寄稿され、単著『アメリカン・セレブリティーズ』でも丸々一章マルーン5を取り上げた辰巳JUNKさんに解説いただきました。

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「悲しいですね。かつて(マルーン5がデビューアルバムを出した頃)にはまだバンドがいたのに、今やどこにもいない。絶滅危惧種のよう」

「まだ沢山のバンドがいて、あまり脚光を浴びていなかったり、ポップのスポットライトを浴びていなかったりするだけなのかもしれませんが、そうした(光があたる)場所にもっとバンドがいることを願います」

2021年、アダム・レヴィーンによる言葉は、当然のように議論をかもした。おおむね現行で活躍しているバンドアクトを挙げる反論が飛び交ったわけだが、一方、この発言は「セルアウト」と批判されつづけたマルーン5のフロントマンとしての勝利宣言としても機能している。

2001年に結成されたポップ・ロック・バンドのマルーン5は、キャリア20周年を迎えた今もチャートの頂点に君臨している。新陳代謝はげしい米Billboardチャートのトップ圏で40代が活躍しているだけでもレアケースだが、真に驚くべきは、その人気の長さだろう。

2018年に「Girls Like You」をキャリア最大級ヒットにしてみせた彼らが全米シングルチャートに送り出したトップ10ヒットは15曲。これは21世紀バンドアクトにおける最高記録とされ、2位についたニッケルバックの倍以上となる数字だ。2017年時点でこうした数字を示したデータエディター兼音楽評論家ダン・コープは、以下のように宣言している。

「認めましょう。マルーン5は21世紀もっとも人気のアメリカン・バンドです」「1960年代と1970年代はビートルズとローリング・ストーンズの時代。2000年代と2010年代にはマルーン5がいる」

それどころか、近作「Memories」が2020年代に全米チャートの2位となるヒットを記録した今、3ディケイド制覇の可能性すら見えてきている。

いったい何故、マルーン5はこれほどまで人気があるのか。華々しくも賛否両論なキャリアとともに成功の秘訣を探ってみよう。

 

1. 画期的だったサウンド:アイドルと誤解された初期

2004年ごろデビューアルバム『Songs About Jane』をメガヒットさせたマルーン5だが、彼らが最初、「アイドルグループ」的な「ボーイバンド」と勘違いされた旨をご存知だろうか。「ボーイバンド」とは、一般的にメンバー全員が楽器演奏せずにボーカルやダンサーを務める男性グループを指す。

マルーン5の場合、アダムがボーカル・ギターを担当し、ジェームス・バレンタインらが演奏を担当する基本スタイルのため「ボーイバンド」認識されたことは少し不可解だ。その理由にサウンドスタイルがあると、アダムは語る。「ネオソウル最初のロックバンド」とも評されたマルーン5の音楽は、R&Bやヒップホップの影響が強い。2000年代初期、そうしたビートでソウル要素も兼ねる白人ポップバンドは画期的であったがために、イロモノ企画のように受け止められる誤解が生じた、というわけである。

 

2. R&Bヒップホップへの愛:ロックの影響は皆無?

前身バンドKara’s Flowers時代はオルタナティブロック作風だったマルーン5であるが、2000年代初頭、高校卒業後に渡ったニューヨークでヒップホップ、R&B、ソウルに出会ったことで改名に至り、ティンバランドやネプチューンズ的なビートを取り込んだ『Songs About Jane』のスタイルに到達した旨が明かされている。

大衆音楽シーンの観点からすれば、彼らには先見の明があった。2000年代から2020年代にかけてジャンル融解が進んだアメリカのポピュラー音楽シーンは、ロックの人気が下がっていった一方、ラップのビート、リズムが主流になっていった時勢である。R&Bやヒップホップからの影響をバンドの核としていたため大局変化に順応できたこと、それこそ20年に渡る玉座の基盤なのだ。

2018年、40代となったアダムは、ティーンのころ愛したロックミュージックに感謝しつつも「まだロックンロールが現役という考えは捨てるべき」と断じ、このように語っている。

「マルーン5の特徴は、最初のアルバムを書いた頃から今に至るまで、常にヒップホップやR&Bといったリズミカルな音楽を見据えていたことです。ロックミュージック(への意識)は皆無です。本当に」

 

3. トレンド適応と一貫した個性:マイナー、ファンク、失恋

マルーン5のヒット街道で忘れてはいけないのが、めくるめくサウンドの変化である。『Songs About Jane』と対照的なアルバムを目標とした2ndアルバム『It Won’t Be Soon Before Long』はマイケル・ジャクソンを意識したダンサブルなポップアルバムとして衝撃を呼んだ。その後、さらに4th『Overexposed』、5th『V』を通してエレクトロ、シンセサイザーに傾倒していく。

「全曲シングルカット可能なアルバム制作」を志すマルーン5は、たとえばリアーナといったポップスターと同じく、シーズンごとにサウンドジャンルを変容させ、トレンドに適応していったことで20年間のチャートヒットキャリアを可能にした。同時に、メガスターの証とばかりに代えがたい個性も確立されている。2012年にリリースしたアンセミック・ポップアルバム『Overexposed』について、ジェームスは「折衷的にうつろうと、アダムの声がスルーラインになっている」と説く。加えて、以下の三点をバンドの方程式とした。

「マイナーキー、ファンク、悲嘆」

マルーン5の楽曲を聴いたことがあるなら、すぐにピンとくるだろう。

 

4. メガポップな多人数制作:己の限界を認めての協力

じつは、マルーン5にも苦境があった。2013年、3rdアルバム『Hands All Over』のセールスが思うようにいかなかったのである。招致したプロデューサーを遠ざけるかたちで自己完結的、つまりバンドメンバー主体で楽曲制作を行っていたアダムは、そこで自分の限界を認めたという。

こうして、マルーン5は、変化を絶やさぬ目的のもと、外部のソングライターと率先的に共作する多人数体制へと舵を踏み切ることとなる。そこで生まれたのが、シェルバックらポップ畑のプロデューサーを迎え入れたクリスティーナ・アギレラ客演「Moves like Jagger」である。

もともと女性ポップスター向けに書かれたディスコなエレクトロポップを採用するのは大きなリスクでもあった。これをセクシーでファンクな「マルーン5流」に昇華した結果、完全復活にふさわしいキャリア最大ヒットを達成し、メガポップスターバンドとして玉座を築いたのだ。

 

5. スターコラボ:安易な若者ウケは避ける

スター同士のコラボレーションも、キャリアを語るに欠かせない。2nd『It Won’t Be Soon Before Long』時点でカニエ・ウェスト、リアーナとタッグを組んだ彼らだが、2017年の6th『Red Pill Blues』では、原点とばかりにケンドリック・ラマー、フューチャーといったラップのスターとの共演を果たしている。

「クラブに遊びに来た年寄りみたいに、年をとったからといってヒップなアーティストと共演して若者ウケを狙ったら、誰にとっても最悪の結果になる」というのがアダムの弁だが、ふさわしい理由で組めば素晴らしい結果を得られる、とも呈する。その立証となったのが、17年目にして生まれたキャリア最大ヒット、カーディ・B客演「Girls Like You」だろう。ディケイド末期の発表にもかかわらず、全米シングルチャートの2010年代全体チャートでトップ5に入っているのだから、凄まじい成果だ。2021年4月現在、アダムが絶賛するミーガン・ジー・スタリオンを迎えた2021年新曲「Beautiful Mistake」も、ラジオヒットが見込まれている。

 

6. 普遍的な大衆主義:かつてのロック魂の体現者?

マルーン5が貫くのは「世界とつながる普遍的な音楽」だ。メンバーが強調するのは「レトロアクトになる気はない」意志であり、アダムが定義する「自分たちのバンドで最もクールなこと」は、いかなる時代にも関連づけられない音楽、つまり過去を想起させるノスタルジックアクトとは扱われない普遍性である。事実、ラジオ人気の高い彼らの楽曲は、「Sugar」が結婚式の定番になるなど、大衆の生活に根づくアンセムとして親しまれつづけている。

今回議論を呼んだ「ポップ領域で活躍するバンドは絶滅危惧種」発言にしても、こうした「ポピュラリティと普遍性」を望む価値観のもとにある。ポップサウンドを追求する彼らは、キャリアを通じて「セルアウト」だと批判も呼んできたわけだが、アダム・レヴィーンは、むしろロックファンの観点から、名声を渇望するバンドの出現を待望しているようだ。

「レッド・ツェッペリンやザ・フーのようなバンドは、有名になることを望みました。名声を渇望したのです。かつて、全員にレコードを聴いてもらいたいというのがロックンロールでした。いつかはわかりませんが、おそらく1991年ごろから(ロックコミュニティでは)成功することがクールではなくなってしまいました。もっとも愚かしいことだと思いますよ」

彼からすれば、大衆を魅了することを貪欲に望む姿勢こそロック・スピリットなのだ。

ロックからの影響は皆無と語ってきたアダムだが、近年は、そのアンアポロジェティックな態度、ひいてはロックコミュニティへの愛憎が軟化した様子も見られる。たとえば、娘から2000年代初期のポップロックを改めて聴かされることで、例えばアヴリル・ラヴィーンの旧作に落涙するほど感銘を受けた旨を明かしている。さらには、新曲「Beautiful Mistake」は、彼が「過小評価されている」と語るBlink-182に近いサウンドだとして紹介された。

 

7. 刺激的なコンサート:音源とは異なるロックショー

実は、ポップの覇者とされるマルーン5にも、ロックバンドらしい面が炸裂する領域がある。アダムが至上の場所とするコンサートだ。ラジオリスニングのために楽曲をつくりつづけて20年の玉座を達成した彼らは、同時に、ファンのために音源とは異なる「ロックショー」を提供する使命を打ち立て、それを果たしつづけてきた。

そのパフォーマンス姿勢は、バンドルーツを感じさせるサイケなLAセットで行われた2021年3月バーチャルコンサート「American Express Unstaged」でも健在だった。

「ロックンロールの終焉」を象徴するバンドかのようにチャートに君臨するマルーン5であったが、結局のところ、今も昔もロックバンドなのだ。ちなみに、同イベントにて、アダムはピンク色の「ハローキティ」ギターで激しい演奏を披露。荒々しいロックなプレイと相反するポップな茶目っ気、その意表を突くようなバランスも、彼らしいと言えるだろう。

Written by 辰巳JUNK


亡き友、マネージャーに捧げる最新アルバム

マルーン5『JORDI』
2021年6月11日発売
国内盤CDデラックス / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music








『アメリカン・セレブリティーズ』
辰巳JUNK/著
2020年4月30日発売

 

 

 

 

 

 

 

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