ヤングブラッド、ルックスも音楽性もジェンダーも全ての壁を破壊し続ける異色アーティストの魅力

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Photo by Johnathan Weiner

2020年3月16日に自身初となる来日公演が決定しているUK出身のアーティスト、ヤングブラッド(YUNGBLUD)。ルックスも音楽性もジェンダーも全ての壁を破壊し続け、若者に寄り添いながら彼らの怒りや不安を代弁して、権力者に中指を立てる彼の生き方や音楽性について、音楽ライターの新谷洋子さんに解説いただきました。

*3月4日に来日公演が中止が発表となりました。下記原稿は2020年1月10日時点のものとなります。


ロックンロールの定義が不服従や反逆なのだとしたら、2020年3月16日に初来日公演を果たすヤングブラッドことドミニク・ハリソンこそ、2020年代のロックンローラーとして頭ひとつ抜け出している感がある。“若き血”を意味する名前からして血気盛んな彼は、イングランド北部ドンカスター出身の22歳(1997年8月5日生まれ)。

デビューは2017年4月に遡り、翌年7月にファースト・アルバム『21st Century Liability』を発表済みだが、2019年1年間に全米ロック・チャートで4曲がトップ10入りし、昨秋お目見えした最新EP『the underrated youth』は全英チャート最高6位を記録。世代の代弁者として世界中の若者たちを惹きつけ、満を持して“BBCサウンド・オブ2020”の3位にランクインしている(*BBCが選ぶ期待の新人リスト。ここに選出されるとヒットするといわれる)。今年の音楽界を面白くすること必至の異色アーティストはいった何者なのか、その正体に迫ってみた。

 

どうしても一カ所にじっとしていられない音楽性

祖父は元ミュージシャン、父はギター・ショップを経営していたこともあって音楽に囲まれて育ち、2歳にしてギターを弾き始めたドミニク。11歳の時に曲を書くようになり、ほかの楽器も練習しながら音楽の道を志した彼は、地方都市での生活に息苦しさを感じてロンドンへ――。そしてアーツ・エデュケーショナル・スクールズというパフォーミング・アート専門の高校で演技を学ぶ傍らで地道に音楽活動を続けて、デビューに至った。

そんなドミニクのユニークな折衷志向は、ファーストEP『YUNGBLUD』(2018年1月発表)の時点で明確に打ち出されていた。そもそも幼い頃から彼の関心を引いたのは、型にはまらない、反骨心を備えたアーティストたち。チャック・ベリーにビートルズ、デヴィッド・ボウイにローリング・ストーンズ、ザ・クラッシュにセックス・ピストルズ、オアシスにアークティック・モンキーズにエミネム……と、実に幅広い名前をフェイバリットに挙げており、自らも型破りで、ジャンルの壁など全く意に介さない人だ。オールドスクールなパンクや2トーン/スカから、ブリットポップ、エモ、90年代のミクスチュア・ロック、ヒップホップ、トラップに至るまで、新旧様々な音楽スタイルを好き勝手に混ぜて、自分の音にしてしまう。全てに共通するのはギターの音くらいなのだが、どう転んでも最終的には、メロディックでキャッチーで間口の広いポップ・ソングに仕上げられるところに強みがあるのだろう。

ヴォーカルのアプローチも然りで、歌とラップをフレキシブルに織り交ぜる彼はしばしば、ポスト・マローンや故リル・ピープに代表される、エモ・ラップに並べて語られることが多い。が、そのアナーキックな雑食性はザ・クラッシュからThe 1975まで綿々と受け継がれている非常にブリティッシュな感覚でもあり、ジェイミー・Tやラット・ボーイ、もしくはリリー・アレンといった面々も、音楽的にそう遠くない先輩なんじゃないだろうか?

 

ジェンダー・フリュイド時代に即したヴィジュアル

「型にはまらない」という表現は音楽だけでなく、ヴィジュアルにもあてはまる。少年時代からメイクをしたり奇抜な服装をするのが好きだったというドミニクは、漆黒の髪を逆立てて、目の周りにアイライナーを滲ませ、爪を黒く塗りたくり、ファッションもやっぱりブラックが基調。レザーとレースをミックスし、チェーンのアクセサリーをじゃらじゃらさせ、スカートやワンピースをまとってステージに立つことも珍しくない。これがまた結構似合っていたりもして、そんなスタイルからはパンクやゴス系バンド、マリリン・マンソンにマイ・ケミカル・ロマンス、はたまたレディー・ガガに至るまで、ヴィジュアル・コンシャスでアンドロジナスなミュージシャンたちの影響が窺える。

思えばショウビズ界ではここ数年間に、男性らしさの定義が大きくシフト。男女の境が曖昧になり、メイクをしたりフェミニンに装うボーイズが増えている中、ハリー・スタイルズやジェイデン・スミスと共に、いわゆる“ジェンダー・フリュイド(流動的なジェンダー)”な男性ミュージシャンのムーヴメントをリードする存在なのだ。

よってルックスのインパクトはかなり強烈なのだが、よくよく見ると、たらこ唇が可愛い男の子。女性ファンからはアイドル視もされている一方で、昨年秋には英国のゲイ雑誌『ATTITUDE』の表紙を飾った。その時のインタヴューによると、セクシュアリティについてはかなりオープンマインドなんだそうで、「俺はどっちかって言うとストレートだけど、重要なのはコネクションだから、相手は限定しないよ」との意味深な発言でちょっとした注目を集めたものだ。

ラウドに叩きつける抵抗のメッセージ

「何かが変わると本気で信じていただけに、闘いに負けたことが悲しくて仕方ないよ」

保守党の圧勝という昨年12月の英国総選挙の意外な結果が判明した時、トム・ヨークやストームジーらと並んで、真っ先に怒りと落胆のリアクションを発信した彼。労働者階級の家庭に育ち、多数派とは相容れないアウトサイダーだという意識を抱いていた人だから、若者を軽んじる大人たち、弱者や少数者を抑圧して搾取する権力者たちはみんな天敵だ。世代の代弁者を率先して引き受けて、そういう自分の信条をはっきり主張することを厭わない

いつも歌詞先行で書くという曲は高い問題意識に裏打ちされ、社会や大人が押し付けるルールへの抵抗を呼び掛けていることに、同世代の熱狂的なファン(彼らは“The Black Hearts Club”と名乗っている)を獲得した所以があるのだろう。何しろ事実上のデビュー・シングル「King Charles」は、17世紀英国の暴君チャールズ1世を譬えにしたプロテスト・ソング。貧しい国民を苛んだチャールズの世と現代を重ねて、ギリギリの生活をしている今の若者たちの境遇を嘆き、不公平なヒエラルキーをひっくり返そうじゃないかと訴えている。

ほかにも銃規制(「Machine Gun (Fuck The NRA)」)から女性に対する暴力(「Polygraph Eyes」)まで幅広く社会問題を取り上げる一方で、メンタルヘルスもドミニクにとって重要なテーマ。「Kill Somebody」では鬱について率直に歌い、「original me」では自分が抱く劣等感と向き合って、弱い部分も自分の一部として受け入れなければと言い聞かせている。つまり、悩みを分かち合って「俺も君らと同じなんだよ」と連帯の手を差し伸べ、ステージに立つ自分と聴き手の目線を可能な限り同じレベルにするのが、ヤングブラッド流なのだ。

 

軽いフットワークでコラボレーションを楽しむ

音楽的アンテナがあちこちに向いている折衷志向のアーティストだから不思議なことではないが、決して長いとは言えないキャリアで彼がこなしたコラボレーションの数、そしてコラボレーション相手の幅広さも、特筆すべき点だ。振り返ってみると、アメリカでのブレイクのきっかけとなった「11 Minutes」もコラボ・シングル。当時交際を始めて間もなかったホールジーとのデュエット曲で、ブリンク182のドラマー=トラヴィス・バーカーの参加を得て、悲劇的なラヴストーリーをドラマティックに描いた。

残念ながらホールジーとの関係は長続きしなかったものの、トラヴィスとは着々と親交を深めたドミニクは、アメリカ人ラッパーのマシン・ガン・ケリー共々、エモ魂を全開にした「I Think I’m Okay」で再び彼と共演。また、前述したシングル曲「original me」にイマジン・ドラゴンズのダン・レイノルズのクレジットを見つけて驚いた人も多いはずだ。これは、「ぜひ君と何か一緒にやりたい」というダンのラヴコールに応える形で実現したコラボで、デモはダンが用意したそうだが、結果的には両者がバランス良く接点を見出している。

そしてさる11月に登場した「Tongue Tied」は、お馴染みのEDMプロデューサー/DJのマシュメロ及び、アメリカ人のヒップホップ・アーティストのブラックベアーとレコーディング。ここでもメンタルヘルスを歌詞の題材に選び、“悩みを一人で抱え込まないでみんなで解決しよう”と訴える内容はいかにも彼らしいし、ロックンロールのスピリットで貫いたエレクトロ・ポップというスタイルも然り。言論の自由をテーマにしたと見られる、ディストピアSF風に仕上げたMVも必見だ。

さらに今年に入って早速ポスト・マローンとのコラボを匂わせる発言が報じられており、アメリカのビッグネームたちの間に交流関係を広げているドミニクだが、他方で自分のルーツも忘れていない。『the underrated youth』のラストを飾るバラード「waiting for the weekend」は、父のギター・ショップの店長で、少年時代にギターを教わった人物シェイン・ギリヴァーと共作。アコギの弾き語りにキーボードでさりげないテクスチュアを加え、かつてなくシンプルでドリーミーで優しいラヴソングを完成させている。ルーツに回帰すると同時に新境地を拓いて、ただ生意気で反抗的なだけの男じゃないことを証明するこの曲は、もしかしたら、現在制作中のセカンド・アルバムを予告しているのかもしれない。

Written by 新谷洋子



ヤングブラッド『weird!』
2020年12月4日発売
日本盤CD(ボートラ6曲) / iTunes / Apple Music / Amazon Music




 

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