3人組R&Bグループ、FLOが持つ5つの魅力:BBC Sound ofとBrit Awardを受賞した初の女性グループ
2022年にデビュー、平均年齢20.6歳という新進気鋭の3人組英国人R&Bグループ“FLO”(読み:フロー)が、2023年のブリット・アワードの期待の新人部門“ライジング・スター賞”を受賞。また、彼女たちは英国放送BBCが毎年年初に今年期待する新人のリスト「BBC Sound of」の2023年の1位に選出された。
というこれからが期待されるFLOについて、音楽ライターの林 剛さんに解説いただきました。
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・デビュー作が全英1位を記録した新人セレステはなぜ著名人を魅了するのか
1. その経歴とダブル受賞の凄さ
FLOと書いて“フロー”と読む彼女たちは、英ロンドンで2019年に結成されたガールズ・トリオだ。メンバーは、ステラ・クアレスマ、レネー・ダウナー、ジョルジャ・ダグラスという19~20歳の3人で、オーディションや合宿を経て現在の顔ぶれになった。ただ3人は、オーディションが始まる前から、お互いのことをよく知っていたという。
アフリカのモザンビークで幼児期を過ごし、5歳の時に出生国のUKに戻ったのがステラ。ロンドンの名門「シルヴィア・ヤング・シアター・スクール」に通い、そこで1歳下のレネー(ノース・ロンドン出身)と出会う。このふたりが、SNSで歌を披露していたジョルジャ・ダグラスを見つけ、全員がR&B好きということで意気投合、オーディションを経てFLOが誕生した。
アイランド・レコードと契約したのは2022年。MNEKがプロデュースしたファースト・シングル「Cardboard Box」を出したのが同年3月24日だから、まだデビューして1年に満たない。だが、いったん動き出せば早いもので、コンスタントにシングルを発表し、昨年7月にリリースしたデビューEP『The Lead』は、Apple Musicの新人プッシュ企画〈Up Next〉に選出されたタイミングで新曲を加えて再リリースもされている。
そうした人気も受けて、昨年12月には〈Brit Award〉で女性グループとして初めてライジング・スター賞を受賞。年明け早々には、〈BBC Sound of 2023〉で、昨年のピンクパンサレスに続いて1位を獲得した。過去にこのふたつを同時受賞したのは、アデル(2008年)、エリー・ゴールディング(2010年)、ジェシー・J(2011年)、サム・スミス(2014年)、ジャック・ガラット(2016年)、セレステ(2020年)の6組で、この並びを見るだけでも、いかにFLOの実力が買われ、期待されているかがわかる。他にも〈MOBO Awards〉で新人賞にノミネートされるなど、今UKで最も注目されているアーティストであることは間違いない。
2. 2020年代、久しぶりに期待できる女性3人組としての側面
ガールズ・トリオ、女性3人のグループは、存在自体がキャッチーだ。ソロやデュオにはない華やかさがあり、4人以上のグループよりメンバーのキャラも際立つ。R&Bの世界においては、60年代に活躍したシュープリームス以降、見栄えのする女性3人組は最もポピュラーなグループ形態となった。
そして90年代には、TLCやSWVのブレイクを機に、アメリカやヨーロッパで女性R&Bトリオが次々と登場した。702、3LW、ブラック(・アイヴォリー)といったグループを思い出す人もいるだろう。4人組もいたが、デスティニーズ・チャイルドのように3人組として再出発するパターンも少なくなかった。
FLOは、それぞれの母親からの影響もあり、90年代の女性R&Bグループを強く意識している。なにしろFLOという字面からしてTLCやSWVを思わせる(読みは“エフ・エル・オー”ではなく“フロー”だが)。UKのグループなら、エターナル、クレオパトラ、シュガーベイブスの系譜を受け継ぐ存在とも言えそうだ。
2022年にはリトル・ミックスが活動休止を発表したこともあり、FLOはその不在を埋めるガールズ・グループとも言われているが、彼女たちはR&Bに狙いを定めており、いわゆるポップス系のグループとは少し性格が違う。
また、Z世代の彼女たちは、懐かしさより新鮮さが先に立つ90sスロウバックという点でも、ミレニアル世代以前のグループとは感覚が異なる。一時はメインストリームのシーンから消えかかった90年代R&Bのサウンド、そして激減していた女性R&Bヴォーカル・グループの復権を象徴するような存在として現れたのがFLOなのだ。後述するサウンド、また、アートワークやミュージック・ビデオの雰囲気も“あの頃”を意識している。
3. 90年代を感じるサウンド
「私たちは90年代の音楽で育ったから、ブランディやフェイス・エヴァンス、SWVの影響を受けていない音楽を作るのは難しい」とジョルジャは言う。FLOが目指すのは、90年代、とりわけ90年代後半から2000年代前半のY2Kと呼ばれる時代のR&Bだ。彼女たちの楽曲では、R&Bが進歩的なジャンルとしてポップ・チャートを賑わしていた時代の空気を、新しい感覚で現代に持ち込んでいる。
現在のR&Bやポップスのシーンを見渡すと、TLCや SWV、デスティニーズ・チャイルド、アリーヤなどに影響を受けた曲が目立つ。かつてティンバランドやダークチャイルド(ロドニー・ジャーキンズ)、シェイクスピア、ネプチューンズらが作っていたサウンドが再評価され、往時のプロデューサーたちも第一線に返り咲いている状況だ。
FLOに近い世代のガールズ・グループでは、韓国の女性5人組NewJeansも「Attention」でストレートな90s R&Bオマージュをやっていたり、最新曲「OMG」でも近年リバイバル著しいアトランタ・ベース風のサウンドに乗って歌っていた。アメリカではジョイス・ライスがカーゴ・パンツやローライズ・デニムなどのファッションも含めてY2K R&Bを再現しているが、UKの女性グループとしてはFLOがその先陣を切った格好だ。
「Immature」や「Not My Job」を聴くと、90年代後半にシェイクスピアが手掛けたデスティニーズ・チャイルドの「Bills, Bills, Bills」やTLCの「No Scrubs」のようなシンコペイテッドなビートのR&Bを連想する。また、官能的なリリックを含む「Feature Me」にはミッシー・エリオットが関わった702あたりの雰囲気が感じられる。
これらの曲をメインでプロデュースしているのはMNEK。シュガーベイブスやリトル・ミックス、ビヨンセ、アリ・レノックスなどを手掛けてきたロンドンの才人で、尖鋭的なビートにポップなフックを乗せて新しさとノスタルジックな雰囲気を両立させるのが上手いシンガー/クリエイターだ。
そんなMNEKが作るFLOの曲を、ミッシー・エリオットやブランディ、ケリー・ローランドらが称賛したというから、狙いは見事的中したと言っていい。なお、2023年後半にリリースを予定しているデビュー・アルバムには、MNEKとともにダークチャイルドが関わっているとも言われている。
4. アカペラも最高な彼女たちの歌唱力
自分たちのことを何よりも“ヴォーカル・グループ”だというFLOにとって、最大の売りは甘美なハーモニーだ。FLOという名前は“flow”にかけているのではないかと思いたくなるほど、3人それぞれがリードをとりながら、美しいハーモニーを淀みなく奏でていく。
主に高音域をステラ、中音域をジョルジャ、低音域をレネーが担当し、中でもジョルジャはグループ内で“ハーモニー・クイーン”と評されるほど声にこだわりを持つ。なにしろ彼女は14歳の時にCBBCの子供向け歌唱コンテスト番組『Got What It Takes』で優勝したほどの実力派なのだ。
また、かつてはホイットニー・ヒューストンやマライア・キャリーのようなスターになることを夢見ていたというステラの美声も心地よい。歌い回しは時折ビヨンセを思わせるが、親族の結婚式などで(ビヨンセも歌った)エタ・ジェイムスの「At Last」を歌ってほしいとリクエストされるというほど、周囲からも歌の実力はお墨付きだ。そのステラがサビで高音の美声を放つのが、2022年最後のシングルとなった「Losing You」。SWVのバラードにも通じるこの曲には、彼女たちのハーモニーの魅力が凝縮されている。
アコースティック・ギターのみをバックに歌うバラード「Another Guy」でも瑞々しい歌声とハーモニーを聴くことができるし、ストームジー「Hide & Seek」のリミックスに添えられた彼女たちの歌も美しかった。
ライヴ・パフォーマンスの機会も増えつつある。昨年はTV初出演となった〈Jimmy Kimmel Live!〉や〈MOBO Awards〉で「Cardboard Box」などを披露し、まだ初々しさは残るが、アカペラで歌い始める3人のハーモニーは、往時のデスティニーズ・チャイルドを思い起こさせた。ビヨンセがアルバム『Renaissance』に因んだツアーの英国公演にFLOをサポート・アクトとして検討しているらしいという噂が立ったのも納得だ。
5. 同世代に向けた力強いメッセージ
FLOは自分たちの曲で、同世代、特に若い黒人の女性に自立を促すようなメッセージを投げかけている。男に振り回されず、自分自身を強く持ち、堂々とした女性になれるよう、リスナーを鼓舞しているのだ。
デビュー・シングルの「Cardboard Box」が、まさにそんな曲だった。浮気した恋人を突き放す曲で、「家にあるアナタのものはダンボール(Cardboard Box)にしまって」「携帯の番号も、家の鍵も変えるから」「あなたは泣いているかもしれないけど、私はそうじゃない」と、失恋ソングではあるが未練がましいセリフは微塵もない。
そのリリックは、シュガーベイブスの「Overload」やビヨンセの「Irreplaceable」の流れも汲んでいるが、90年代後半にダメ男をバッシングしたTLCの「No Scrubs」やデスティニーズ・チャイルドの「Bills, Bills, Bills」にも通じるものだ。「Not My Job」も含めて往時(Y2K)を思わせるサウンドは、男に媚びない女性の自立を謳ったリリックと連動させているのかもしれない。
「Summertime」も、元カレに囚われないで女友達と楽しい時間を過ごそうと自立を促す歌だ。エッチな連想をさせても、決して気品を失わない。そんな部分も好感度を高めている理由なのだろう。
レコード会社は当初デビュー・シングルを「Cardboard Box」にすることを躊躇していたようだが、これも彼女たちが押し切るかたちでリリースを実現させたという。そうした自立心がどこで培われたのかという問いに対して、「3人ともシングルマザーのもとで育ったから」と答えるあたりも頼もしい。力強いメッセージを投げかけて、同世代のロールモデルになろうとしているFLOなのだ。
2022年の活動は序章に過ぎない。2023年は3月から単独のライヴも行われる。FLOが羽ばたくのはこれからだ。
Written By 林 剛
FLO「Cardboard Box」
2022年3月24日
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