オールモスト・マンデー、サンディエゴ出身オルタナ・ポップ・バンドが語るZ世代と新作
サンディエゴ出身の(写真左から)ルーク・ファブリー(ベース)、ドーソン・ドハティー(ヴォーカル)、コール・クリスビー(ギター)からなる3人組のZ世代(1990年代中盤から2000年代終盤までに生まれた世代)オルタナ・ポップ・バンド、オールモスト・マンデー(almost monday)。2019年10月にデビュー・シングル「broken people」で注目を浴びたバンドは、2021年7月9日にセカンドEP『til the end of time』をリリース。
“2021年ネクスト・ブレイク”として、People誌やAmazon Musicなどから注目され、大御所エルトン・ジョンやApple Musicの人気DJゼイン・ロウなどから称賛を得ている。また、ロラパルーザやボナルーといった大型フェスにも出演が決定。そんなオールモスト・マンデーについて、音楽ライターの村上ひさしさんにインタビュー&寄稿頂きました。
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「ミレニアル世代とは?」という記事を、ついこの間までよく見掛けるなと思っていたら、すでに時代はZ世代。いまや世界人口の3分の1を占めるという。生まれたときからデジタル機器に囲まれて育ったZ世代の特徴は、ダイバーシティとイクルージョン。つまり多様性が当然であり、「男だから」や「女の子らしく」といった既成概念や、「社会人ならこうすべき」といった十把一絡げな“フツー”から解放された世代だという。完璧は目指さず、自然体を良しとする。絶対的な自己肯定感に則っている。そんなZ世代の生き様を見事に代弁したのが、オールモスト・マンデーの「broken people」という曲だ。
オールモスト・マンデーは、アメリカ西海岸のサンディエゴ出身のオルタナ・ポップ・バンド。メンバー3人の全員が20代初め、正しくZ世代のど真ん中だ。「だって僕らはみんな壊れている。なぜかは知らないけれど」と歌われる「broken people」で、同世代から圧倒的な支持を獲得した。
「あの曲で描きたかったのは、誰もが抱える劣等感や不安など。少なくとも僕たちは、そう感じているんです。ネットやSNSの書き込みを見るにつけ、自分なんかより他の人の方が勝っている、そんな気分にさせられる。そんなことで思い悩むより、もっと自分自身を見つめよう、ありのままの自分を受け入れよう、という提案なんです。いまのまま変わらなくてもいいし、必死で努力している自分でもいいけれど、ありのままの自分を受け入れようってことなんです」と語るのは、ヴォーカル担当のドーソン・ドハティー。
もちろん自身の多様性のみならず、他者の多様性も同様に受け入れる。
「完璧じゃなくてもいいから、それぞれが互いに受け入れ合うことが大切なんです。完璧な人間である必要なんてないし、完璧な彼氏や彼女、完璧な友達なんて目指さなくていいって感じですね」と付け加える。「don’t say you’re ordinary」というナンバーでは、「自分を平凡とか言わないで/そのままの君が好きだよ」と歌いかけ、自然体の相手を受け入れ、称賛する。
そもそも個性や多様性を重じるミュージシャンにとっては、時代や世代を超えて共感できるテーマと言えるだろうか。少々意外かもしれないが、Z世代に限らず、上の世代からも熱いサポートを受けている。たとえば御大エルトン・ジョンが自身のポッドキャストの中でいち早く彼らを紹介したり、BBCラジオの元DJで現在Apple Musicで活躍するゼイン・ロウが彼らの曲をプレイリストに加えたり、ウェブ媒体や雑誌からも<2021年最も注目すべきアーティスト>として頻繁にピックアップされている。青春時代を通った人なら必ず胸を掻きむしられる彼らのサウンド。あのビタースウィートなセツないムードやエモーションも、支持を仰ぐ要因となっているようだ。
オールモスト・マンデーのサウンドを耳にして、MGMTやフェニックス、フォスター・ザ・ピープル、ザ・ストロークスといったグループを思い出す人は少なくないはずだ。実際3人が影響を受けてきたのも、そうしたアーティストたちで、ドーソン曰く「僕たちのサウンドを表すときに、よく引き合いに出されますね」と苦笑い。さらに、もう少し上の世代のゴリラズやデヴィッド・ボウイも3人が共通して好きなアーティストとして挙げている。
そんな音楽嗜好が彼らを結び付けているのは確かだが、もうひとつ、3人に共通しているのがサーフィンだ。幼なじみのドーソン・ドハティーとルーク・ファブリー(ベース担当)のふたりが、コール・クリスビー(ギター担当)と出会ったのもサーフィンを通じて。コールの父親はプロサーファーだったこともあり、彼もそうとうの腕前だとか。3人にとってのサーフィンは、もはや趣味というよりライフスタイルと言えそうだ。「live forever」のMVには、地元の人気サーファー、ロブ・マチャードも顔を覗かせる。
「全員がサーフィン好きだし、実際にやってます。サンディエゴ出身だから、学生時代からクールなサーフ・ミュージックが常に周りにあったし、僕たちがバンドを始めたのも、そういう下地があったからだと思うんです。その上で次第に自分たちらしいサウンドを創造していったという感じですね。そこで育った自分たちとしては、環境的な影響をどれくらい受けてきたかは、なかなか自覚できないものだけど。でも、すごく興味深いと思う。育った環境の影響は、必ず僕たちの音楽のどこかに聴こえてくるはずです。でも普段はそんなこと全然考えないし、音楽を作るときに“地元ルーケディアな感じをどう出そうか?”とは考えたりしないよね。自然と聴こえてくるものだと思うんです」(ドーソン)
「live forever」のオルタナティブ・ヴァージョンでは、サーフィン旅行の様子が収録されている。少し遠出をしようかと、3人で海に出たときの映像だという。
「深くは考えてなかったけれど、ちょっと違ったことをやってみようかと思って。ボートの上で5日間、たっぷり余暇を楽しませてもらったんです。そのときに防水8ミリのビデオカメラで撮りまくった映像なんだ。でもビックリしたのが、編集も何もしない撮りっぱなしの映像だったのに、それがピッタリ曲に嵌ったんです」(ルーク)
「come on come on」というナンバーでは、メキシコへの逃避行が歌われる。実際彼らの住むサンディエゴからメキシコまでは、車で45分くらい。「ロサンゼルスに行くより、メキシコの方が近いよ」とドーソン。「サーフィンをしに行ったり、よく日帰りで遊びに行ったりするんですよ」とコール。そんな海辺の自然に囲まれて育ったことも、彼らの音楽性や人間性に大きな影響を及ぼしている。
「僕たちが育った場所はビーチが近くて、だからみんな穏やかなのかも。そういったライフスタイルを反映させるのも僕たちの目指す音楽というか、テーマだと思うんです。与えられた環境を当たり前だと受け止めるのではなく、常に“もっと楽しもう”、“最大限に謳歌できないか”と考えてきた。ひとつひとつの曲のテーマは違っているけれど、全体を通して一貫しているのが、そういう点じゃないかと思うんです」(ドーソン)
7月9日にリリースされた“当たり前のことを当たり前と思わないこと”がテーマのセカンドEP『til the end of time』には、ジャスティン・ビーバーの妻ヘイリー・ビーバーのニックネームが冠された話題の曲「hailey beebs」(「でもヘイリーについて歌ってるわけじゃないよ[笑]」とドーソンはコメント)、表題にもなっている新曲「til the end of time」なども収録。
また、若者の大人への成長を歌った楽曲「this is growing up」のニュー・ヴァージョンも加わった。この楽曲についてバンドは次のように語った。
「あの曲で歌っているのは、誰もが人生のある時点で経験してきたこと。たとえば僕たちの場合だと、このバンドを本気でやるために学校を辞めたとき“わっ、これって一大決心だぜ”と思ったけれど、いま振り返ると、それこそ成長するってことじゃないのかなって思うんです。誕生日会でもいいし、傷ついたことだっていいけど、そういうひとつひとつの経験を大切にしていきたい。全てが成長の一過程であり、どこへ到達するかは問題じゃない。人としての営みってことだよね。6歳から5年生になり、大学に通ったり結婚したり。そういう全ての経験が素晴らしいと思うんです」(ルーク)
Written by 村上ひさし
2021年7月9日発売
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