カーディガンズとはどんなバンドだったのか? 大ヒットさせた日本の担当A&Rが語る秘話

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Photo: Martin Bogren

スウェーデンのロックバンド、カーディガンズ(The Cardigans)自身によって編集され、スターリング・サウンドのライアン・スミスによってリマスタリングされたアルバム『The Rest Of The Best – Vol. 1 & 2』が2024年9月6日に発売となった。

このアルバムの発売を記念して、日本でバンドを大成功させた初代A&RのJidoriさんに寄稿いただきました。

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“スウェディッシュ・ポップ”の直前

「ザ・カーディガンズとはどんなバンドだったのか?」

というタイトルで、カタログ担当の方から、原稿依頼を頂いた。あ、ゴメン、オレ通称Jidori は、バンドの初代担当だ。

まず、彼女たちのデビューの経緯だけど、9月6日にリリースされる、レアリティ・コンピ、『The Rest Of The Best – Vol. 1 & 2』には、バンドの才能はもちろん、そしてその後に続くスウェーデン産アーティストたちと、日本マーケットの相性のようなモノが感じ取れる。

“スウェディッシュ・ポップ”というタームが根付く前に、オレとスウェーデン出身アーティストの架け橋になったのは、アトミック・スウィング(Atomic Swing)だった。当時の日本でのリリース先というのは、各テリトリー毎にA&R 担当が振り分けられていて、オレはイギリスがメインで、他ヨーロッパ諸国との連絡、プラニングを任されており、そこにスウェーデンもあったんだよね。今と異なり、担当が、それぞれのマーケットに合うアーティストを、いわば自分勝手に選択できる時代(30年前ですもの)だった事は非常に役立った。

アトミック・スウィングの日本での成功は、スウェーデンにも、もちろん伝わることとなり、先方から大量のサンプルが届くようになった。その中の一枚がザ・カーディガンズ の『Emmerdale』だった。メロディのセンス、特にギタリストのピーターくんのアレンジ能力の巧みさには本当にぶっ飛んでしまった。しかも、そのルーツにはオレの大好物、メタルの要素が大いに含まれる。ブラック・サバスの「Sabbath Bloody Sabbath」…こんなカヴァー誰ができるの? と息巻いてリリースした『Emmerdale』だったのだが、正直、ずっこけ…

 

『Life』の大成功と「渋谷系」

しかし、彼女たちの本国デビューは1994年2月、日本は9月。次作『Life』のリリースは、翌年3月。この非常に短いタイムラグはバンドにとって、非常に有効だったと思う。じわじわ盛り上がるメディアのスウェディッシュ・ポップへの期待感と、当時の日本人オーディエンスとの距離を一気に縮めたのが、セカンド『Life』だった。

全世界売上枚数(レコード会社調べ)で112万枚の内、50万枚は日本でのもの。当時の狂騒ぶりは、“2年で6回の来日を果たす”と、モノのウェブ・ページにあるんだけど、とりあえず、彼女たちはもちろん、こっちもめちゃくちゃに忙しくて、“牛一頭分しゃぶしゃぶ食った”とか、大阪でのライヴ終わって、メンバーがいわゆる心霊スポットと言われる山に行って遭難すると思ったとか、間抜けな思い出しかないのよ。しかし、同作からのシングル、「Carnival」の破壊力たるや…ホント、街中は勿論、TVドラマの後ろでも流れてたもんな。

思うのは、彼女たちの日本でのブレイクの最大の要因は、当時のスウェディッシュ・ポップと、後のJ-Popの始祖となる、例えば小沢健二、カヒミ・カリィら、いわゆる「渋谷系」のアーティスト達との音楽性が、期せずして見事に同じベクトルを向いたことなのではないかと。実際、彼女たちのPV、「Rise & Shine」にはカヒミがカメオ出演しているし、その後、オレは彼女のアルバムに携わってもいる。

初めてのプロモーション来日の際、若い渋谷系の方々が表敬訪問して下さった…のは嬉しいだが、それぞれが山ほど自分のサンプル盤を持って来ちゃったもんだから、車に積み込んだら、前輪が上がりそうに…

 

 

世界での大ヒット

その後、2000年代の訪れと共に、アメリカ資本を基本に持つメジャー・レーベルは、アメリカで売れるアーティストをプライオリティに置き、ヨーロッパのサブ・レーベルには目もくれないし、日本はJ-Popの進化と同時進行で、徐々に“ガラパゴス化”を招くことになる。

日本でのメガ・ヒット・アルバム『Life』、しかしワールドワイドでのピークは、この作品の勢いを買ってリリースされた『First Band on the Moon』だろう。Mercury Recordsと契約を結び、アメリカでのマネージメントもゲット。シングル「Lovefool」はレオナルド・ディカプリオ先生主演の『ロミオ+ジュリエット』に使用され、大成功を手に入れる。シングル最終売上は約1,700万枚…、スウェーデン出身の少年たちに、ここまでの幸運が舞い込むなんて、いつも一緒にビール飲んでたオレから、想像出来るワケもない。

次作、『Gran Turismo』だが、そこにいわゆるスウェディッシュ・ポップの要素はあまり感じられない。エレクトロな要素を取り入れたりと、新しい次元へと進もうという意欲は充分に感じ取られ、実際、母国スウェーデンのチャートでは初登場1位、イギリスではアルバムチャートに49週連続ノミネート、同国での最大のヒットとなる。

 

活動停止と再会

しかし、バンドの疲労はリミットを超えてしまっており、ベースのマグナスはバンドからの脱退を決意、幸いメンバーの説得で休養を取ることで解決する。オレがレコード会社在籍当時に見たライヴはこの時のモノだったが、何か歯車の軋みのようなものを感じた事を今でも思い出す。そして、しばしの休息へ。メンバーそれぞれが個々での活動をスタートさせる。

折りしも当時の日本の洋楽マーケットは単体でアーティストを売り出すのが困難となり、いわゆる“コンピ”頼みへとシフトチェンジ。その辺がイヤで、オレは会社を離れた。

バンドは2003年に活動再開、復活作として『Long Gone Before Daylight』を発表。同年のスウェーデン・マーケット最大のセールスを記録した。バンドから一歩離れて聴く新作は“大人になったなぁ”という感じ。

2005年、今のところの最新作である『Super Extra Gravity』リリース。その後、ピーターはアメリカに活動拠点を移し、アヴリル・ラヴィーン、アリアナ・グランデ、ジャスティン・ティンバーレイクら、錚々たる顔ぶれに曲を提供している。

時は移って、2011年のサマーソニックで突如来日。ピーターはバンドを離れているので、サポート・ギター・プレイヤーとしてオスカーが参加。来日の経緯について、オレは存じ上げないのだが、メンバーと再会した時に最も印象的だったのは“顔から険が取れたなぁ”というモノだった。突然の大成功、押し寄せるプレッシャー、多忙さから解放されて、リラックスした彼女たちを見て、“この感じが好きだったんだっけ”と思い返していた。

その後、2013年に単独公演が実現、東京、大阪での公演だったのだが、そこで実に20年ぶりに披露されたのが「Carnival」。

 

新作『The Rest Of The Best – Vol. 1 & 2』

さて、ようやく『The Rest Of The Best – Vol. 1 & 2』。膨大な数のシングルからのアルバム未収録楽曲、デモなどを収録した2枚組の本作。冒頭に記したように、ピーターのハード・ロック、メタル好きは有名だが、彼がアウトテイク用にピックアップした楽曲と、カーディガンズのスタイル。音楽性こそ真逆だけど、両者共通のメランコリックなコード進行、メロディ・ライン、これこそオレがバンドのファンになった要因だ。デモ・ヴァージョンでは各楽曲がどの様に完成系に近づいて行ったのかを感じられると同時に、根幹にガッチリ根差す方向性を示している。ニーナのヴォーカルも若々しいものから、自信に満ちて行く様子が伺える。

彼女たちとの交流はもちろん今でもあって(スウェーデン人は皆そうで、アーティスト、レコード会社の連中とも簡単に連絡が取れる)、思い出話に花咲かせたり、現況のビジネスに関しての話を聞いたりしている。30年って、気が遠くなるくらい昔みたいなんだけど、この、ご縁ってオレにとって、とてつもない財産なんだな。と、このアルバム聴きながらビール飲んで思うよ。

Written By Jidori



カーディガンズ『The Rest Of The Best – Vol. 1 & 2』
2024年9月6日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music



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