“学校にいかない”ホームスクールは成功の近道? その制度、ビリーやオリヴィア・ロドリゴの例を解説

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全世界的ムーブメントを起こしているシンガーソングライターのビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)。そして元々は子役として活躍し、今年1月、17歳の時に発売したデビューシングル「drivers license」が8週連続全米1位、Spotifyで過去最速の1億回再生を突破したオリヴィア・ロドリゴ(Olivia Rodrigo)。

そんな二人のアメリカのティーンエイジャーの共通点は、学校には行かずにホームスクール(=ホームスクーリング)で教育を受けていた点です。では学校に行かないなら成功するのか? そもそもアメリカのホームスクールとはどんな制度で、この二人はどのようにしていたのか等、ライター/翻訳家である池城美菜子さんに寄稿いただきました。

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ホームスクーリングとは?

最近活躍している10代のミュージシャンであるオリヴィア・ロドリゴ、ビリー・アイリッシュなど、「ホームスクーリング」で勉強したスーパースターは多い。そのため、ホームスクーリングって何? との素朴な疑問をもっている人は多いだろうし、なかには学校に行かないで勉強すると才能を開花させやすいの? と思う人もいるかもしれない。字面から「家にこもって勉強するだけ」というイメージをつい思い浮かべてしまう、アメリカのホームスクーリングについて説明してみたい。

ずばり、答えを出してしまうとホームスクーリングとはオルタナティヴ・エデューケーション(代替教育)の一種であり、欧米諸国では合法の学習法である。「オルタナティヴ」からオルタナ・ロックを連想する人もいるだろうが、主流に対してほかの選択肢があるという意味では同じだ。代替教育は公立や私立の学校に通って一斉にカリキュラムをこなす、伝統的な学校教育「以外」の学習法であり、独自のカリキュラムがあるプライベート・スクールや、親や家庭教師から学ぶホームスクーリングなどがそれに当たる。宗教の自由が重んじられるアメリカでは、19世紀半ばに義務教育が始まった当初から、家で親が子供に勉強を教えるホームスクーリングの是非が議論されていたという。広まったのは1970年代で、議会を中心とした議論を経て、1993年にはすべての州でホームスクーリングは合法となり、いまでは全州にサポート・システムがある

 

今、激増する理由

20世紀の後半からホームスクーリングで勉強する生徒は、増加の一途をたどっている。2012年の調査によると、K-12と呼ばれる、幼稚園(キンダーガーデン)から高校に通う5才から17才までの人口の3.4%にあたる、約200万人がホームスクーリングで勉強をしており、カリキュラムを提供するサイトの計算では2019年には250万人になっており、コロナ禍の2021年は激増しているデータもある。控えめに計算したデータでも30人に一人以上の割合なので、かなり多い印象だ。体育や科学など、家で勉強しづらい教科のために週に何回かは校に通っている生徒もいるが、8割以上がまったく登校しない。

ホームスクーリングの是非が議論されていたひと昔前は、親が学校に行かせない理由としてもっとも多かったのが「宗教的、道徳的な理由」だった。たとえば、進化論を認めていないキリスト教の福音派(エヴァンジェリカル・クリスチャン)は、学校で自分たちの信仰と矛盾した勉強をさせられるのを避けるためにホームスクーリングを選ぶ。現在、一番多い理由は子どもの安全と、学校教育にたいする不信である。ホームスクーリングがもっとも多いのは高校生だ。これは、ドラッグの蔓延、ほかの学生からの悪影響、極端だが可能性はゼロではない銃の乱射事件など校内環境の悪さ、教育の質などを問題視する親が多いから。発達障害や病気など学校で勉強するのが難しいケースは6%くらいだ。

卒業資格を得るためのホームスクーリングの規定は、州ごとに異なる。規定には、親が高卒以上の学力をもっていること、定期的なレポートの提出や学力を測るテストを受ける義務などがある。リサーチしてすぐに気がつくのは、ホームスクーリングを選択した家庭には、ふつうに通学させるよりも親が自由になる時間や家庭教師を雇う金銭的な余裕がないと難しいこと。つまり、教育熱心であるのが大前提なのだ。どの州もホームスクーリングをしている家庭向けにカリキュラムやカウンセラーを用意しており、ビジネスとしてサポートする専門機関もあり、さらに学習のオンライン化がよりハードルが下がっている。ただし、アメリカは13才以下の子どもだけで留守番をさせてはいけない法律があるので、中学の半ばまでは親が在宅勤務か、家事専業でないとホームスクーリングは難しい。

 

ホームスクーリングとビリー・アイリッシュ

家で勉強する分、時間は自由だし、校外学習など様々な体験ができるプラスがある。芸能やスポーツなど、特定の分野の才能を伸ばすためにホームスクーリングで学習する人たちもいる。2020年に18才でグラミー賞主要4部門を制したビリー・アイリッシュは、しばしば「ホームスクーリングのポスターガール」と呼ばれる。兄のフィアネス・オコネルとともに学校に行かずに家庭で勉強をし、ビリー曰く「下着をつけているように(ごく当たり前に)、ずっと歌っていた」そう。ビリーは両親が40代に入ってから生まれた子どもであり、父親のパトリック・オコネルと、母親のマギー・ベアードは俳優で、子どもの学業を優先させやすかった背景も大きい。両親の経歴を確認したところ、お母さんは私が大好きだったドラマ『シックス・フィート・アンダー』に出演していたので、見覚えがあった。ちなみに、ビリーは同名の曲を作っている。

小さなベッドルームにこもって兄と仕上げた音楽で世界の頂点に立ったのだから、何かしらのマジックを彼らの生い立ちに求めたくなるが、30人に1人がホームスクーリングで学んでいるのだから、ホームスクーリング“だから”才能が開花したのではなく、たまたまオコネル兄弟にとっては必要条件だっただけである。当たり前のことを書くと、ホームスクーリングで勉強したからといって一芸に秀でるとはかぎらないし、逆にヒップホップ界隈で大きく売れたラッパーには、ホームスクーリングができるほど余裕のある家庭環境に育っている人はほとんどいない。ビリーの場合、トゥレット症候群を患っていた点を考えても、家で勉強するのが向いていたとは言える。

 

ホームスクーリングとオリヴィア・ロドリゴ

ビリーとは異なるケースでホームスクーリングを体験したのが、オリヴィア・ロドリゴだ。フィリピン系アメリカ人の父親と、ドイツ系とアイルランド系の母親をもつ彼女は、小学校は普通に通学し、7年生からホームスクーリングで勉強したと語っている。小・中・高が6・3・3年と固定されている日本とは違い、アメリカは4・4・4年や、5・3・4などの場合もある。オリヴィアの学歴に記録されているドロシー・マッケルヒニー・ミドルスクールは6年生から8年生までの中学なので、小学校にあたるエレメンタリー・スクールは5年生まで通い、ミドルスクールは1年だけ通ったのだろう。興味深いのが、この学校がカリフォルニア州内で学力が高い、「ビジュアル&パフォーミング・アーツ・スクール」とついた芸術系の学校であること。

オリヴィアは、ギャップの姉妹ブランド、オールド・ネイビーのモデルを皮切りに芸能活動を開始、2016年から2019年までアジア系の女子ふたりをメーンに据えたディズニー・チャンネルの『やりすぎ配信! ビザードバーク』に出演した。撮影は2015年から始まっていたはずで、それを機会にホームスクーリングに切り替えたと考えるのが自然だ。2019年にはディズニー・チャンネルの大人気フランチャイズ『ハイスクール・ミュージカル』の最新シリーズの主役、ニニに抜擢されている。00年代、このシリーズは爆発的な人気を博し、ザック・エフロンとヴァネッサ・ハジェンズというふたりのスターを生み出したので、聞き覚えがある人も多いだろう。『やりすぎ配信! ビザードバーク』と新『ハイスクール・ミュージカル』のファースト・シーズンの出演期間は、家で勉強するのとセットで家庭教師が待機するパターンの組み合わせだったと思われる。

ホームスクーリング以外のオリヴィア情報を少し。日本では「無名の新人アーティスト」と紹介されることが多いが、正確には「アーティストとしては無名だが、子役としては一定の知名度があった人」である。今世紀に入ってから、ディズニーやニコロデオンといったアメリカの子ども向けチャンネルは「スター製造機」の様相を見せている。ブリトニー・スピアーズ、ジャスティン・ティンバーレイク、ライアン・ゴスリング、マイリー・サイラス、アリアナ・グランデと、枚挙に暇がないほどに。子どもとはいえ、とんでもない倍率のオーディションを勝ち抜いたところが彼らのスタート地点であり、そこから歌唱やダンスの訓練を受け、さらに自分の見せ方を含めたスター性を身につけてカメラの前に立つ。そのため、レッスンやオーディションに時間を費やせるように完全にホームスクーリングで勉強したり、理解のある芸術系のミドルスクールかハイスクールに通ったりするのだ。

 

システムを利用する子役スターたち

筆者の友人の娘に、時々、芸能活動をしている17才がいる。彼女に尋ねたところ、ふだんは学校に通い、オーディションで仕事が決まった場合、撮影期間だけセットで学習するのだという。平日は、収録しながら午後1時から5時まで家庭教師と勉強するのが義務付けられており、その証明書を学校に提出することで休学扱いにならない。これもホームスクーリングの併用の一種で、未成年が働く場合、学業をおろそかにしないシステムとして機能している。彼女によると、家庭教師と1対1、もしくはそれに近い少人数で勉強を教えてもらえるため学力が伸びやすい反面、ほかの生徒の意見と聞いたり、休み時間に遊んだりといったことができない点がマイナスだと教えてくれた。

ひとくちにホームスクーリングといっても、ビリー・アイリッシュのように親が能動的に選んだ人と、オリヴィア・ロドリゴのようにまず本人が希望して仕事を始めた結果、学校に通うのが困難になって切り替える人がいるわけだ。アメリカン・フットボールといった、学校でチームに所属するのが前提になっているスポーツのアスリートでも、ホームスクーリングで勉強をして、それ以外の時間を地元のチームに属して大学のスポーツ推薦を狙う人もいる。

オリヴィアに話を戻すと、コロナ禍で自主隔離期間が始まり、『ハイスクール・ミュージカル』の撮影が中断したことから曲を書き始め、それが大ヒット曲の「drivers license」を生み出したそう。「自主隔離期間以前から、私は家で勉強をしていたから」と本人が言っているので、時間に余裕ができたため演技以外の創作活動ができるようになり、それが記録破りのヒットにつながったわけで、やはり並外れた才能の持ち主であることには変わりはない。

テニスのヴィーナス、セリーナ・ウィリアムズ姉妹やスノーボードのショーン・ホワイト、ジャスティン・ビーバーやテイラー・スウィフト、セレーナ・ゴメスらもホームスクーリングで勉強した人たちである。早いうちにプロになる道筋が見えたので、その活動の時間を取るための手段としてホームスクーリングを選ぶのだろう。

ホームスクーリングには、親の考えで学校に通わず、本人が判断のつく年齢になった際に学校生活を体験していない点をどう感じるのかなどの問題もある。ただ、基本的に選択肢が多いのはいいことなので、オンライン学習をもう一歩先に進めるケースも含めて、日本も柔軟な学習方法を提示する時代に来ているかもしれない。

Written by 池城美菜子


ビリー・アイリッシュ『Happier Than Ever』
2021年7月30日発売
国内盤CD / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music

オリヴィア・ロドリゴ『SOUR』
2021年5月21日発売
CD / iTunes / Apple Music / Amazon Music



 

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