29年ぶりのテイク・ザット来日公演レポートとメンバーとの会話
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第91回。
今回は、2024年11月に29年ぶりの来日公演を行ったテイク・ザット(Take That)について。
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29年も待った日本公演
「Greatest Day」のイントロが流れ、ゲイリー・バーロウ、ハワード・ドナルド、マーク・オーウェンの3人がステージ中央に登場したその瞬間、やっと実現された日本公演が始まる、と胸躍る気持ちでいっぱいになりました。
29年も待った日本公演。その間『Beautiful World』(2006)でのプロモーション来日はありましたが、「Beautiful World Live」(2007)、「The Circus Live」(2009)、「Progress Live」(2011)、「Take That Live Ⅲ Tour」(2015)、「Wonderland Live」(2017)、「Greatest Hits Live」(2019)と大規模なツアーを成功させていた彼らのステージが、日本の地を踏むことはありませんでした。そんな状況の中で、日本の多くのテイク・ザット・ファンは、待ちきれずに海外公演に足を運ぶことになったのです。
テイク・ザットの本国でのツアーは、大掛かりなショウが展開され、エンターテイメントの世界観を存分に楽しむことができるゴージャスなステージです。ロビー・ウイリアスが戻り、オリジナル・メンバーでの「Progress ツアー」をロンドン・ウェンブリー・スタジアムで観ましたが、これぞエンターテイメント!といった見応えあるショウで、数多くのヒット曲に華を添える視覚要素が、これでもかとばかりに構成に組み込まれた2時間でした。それでも、やはり日本のファンは、日本で彼らのステージが観たいのです。規模は本国ほどでなくてもいい、3人が日本のファンのために歌い、踊り、語りかけるステージを。
全員幸せそうだった一夜限りの公演
その思いが通じて、ついに29年振りの来日公演が発表になってからというもの、現役バリバリのザッター(ファンの呼称)さんたちが中心となり、しばらく音楽から離れていたザッターのみなさんを目覚めさせ、たった1回の公演に集結するように呼びかけが始まりました。
私のラジオ番組では、ゲイリー・バーロウのインタビューをオンエアーし、ゲイリーを通じて、3人がいかに日本に行くことを楽しみにしているかを伝え、さらにファンの気持ちは盛り上がりました。そして、ツアーの最終公演地である東京は、テイク・ザットにとっても、ファイナルとしてのスペシャルがある、とゲイリーは話してくれました。
テイク・ザットの3人は、エンターテイナーです。ステージの上で、ファンを楽しませ、喜ばせることに熟知しています。次々とヒット曲を歌いながら、彼らのヒストリー、楽曲にまつわるエピソードなどを、ストーリー性を持って披露していき、テーマである“This Life”を表現。そしてダンスも、ファンが絶対に観たい振り付けのパートは、必ず披露してくれるサービスは忘れません。
「Pray」での3人のダンスを観た時は、初めてシングルチャートの1位に輝き、ウェンブリー・アリーナで披露した初々しいダンスや、再結成で久しぶりに観ることになった同じくウェンブリー・アリーナでのステージを思い出してウルウル。あまりにもお似合いの祭りの法被姿にも目を細めて喜んでしまいました。
次々と披露される楽曲には、その時代の思い出があり、解散することになったラスト・シングル「How Deep Is Your Love」が流れると、ちょっとセンチメンタルになったり、次の「Patience」では、復活した喜びに心がウキウキしたり、私たちのテイク・ザットとの人生ストーリーも同時に展開されていくような、そんな時間でもありました。
そして「These Days」ではコンサートを目一杯楽しんいる自分に気づき、「Never Forget」で会場が一体化した様子を肌で感じ、「Rule The World」では、ラスト曲と知りながらも、すでに100%満足していたのです。
1時間半、19曲は短いのではないか、と予習段階では思っていたのですが、とても濃い、深い、熱い、楽しい1時間半だったので、全く短いという思いはありませんでした。これが彼らのスゴイところです。ロンドン公演では28曲も披露していますが、28曲でも、40曲でも、19曲でも、曲数ではなく、十分に堪能させてくれるエンタメ力が彼らにはあるのです。もちろん28曲聴くことができれば、それはそれで嬉しいですが。幕が閉じると、終わってしまった、という思いはありましたが、彼らのマジックを目一杯浴びたファンの人たちが、全員幸せそうな表情をしていて、笑顔でいたのがとても印象的でした。
17年振りの対面
実は、コンサートが始まる5分前に、ステージ裏でメンバーと再会ができました。3人を目の前にするのは、プロモーション来日以来のこと。その後は、アルバム・リリースの度に、電話インタビューだったり、コロナ後はリモートだったり、とインタビューはしてきましたが、なんと17年振りでした。月日が流れるのはあまりにも早い!3人とも、とても素敵に年齢を重ねていました。
マークとは、ただただ久しぶりと笑顔で、ハワードは「プロモーション以来?本当に久しぶり」と。ゲイリーはリモート・インタビューしたばかりだったので、ゲイリー・バーロウ・ワインは美味しかったと感想を伝えると「美味しいでしょ!」と、自慢げでした。
「日本公演はスペシャルと言っていたけれど、今夜のスペシャルは?」と聞くと、「毎回、毎回スペシャルだよ」と。来年は曲作りの年になるとのことです。それが新しいテイク・ザットのアルバムとなり、またここ日本で、29年も待つことなく、彼らの姿を見ることを祈るばかりです。
2024年、多くのコンサートを堪能してきましたが、テイク・ザットのコンサートは、私にとって間違いなく“Greatest Day”となりました。
Written By 今泉圭姫子
来日公演の模様がセットリストで公開中
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著者の新刊
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今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
- 第1回 :U2『The Joshua Tree』
- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスのと想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
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