サム・スミスの最新アルバム『Gloria』と初来日の時に語ったこと
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第68回。
今回は2023年1月27日に最新アルバム『Gloria』を発売したサム・スミスについて、過去のインタビューを振り返っていただきました。
<関連記事>
・サム・スミス『In The Lonely Hour』解説:驚くほど成功したデビュー・アルバム
・耐え難い傷心から生まれサム・スミスをスターにした名曲の背景
・“変貌した”サム・スミスによる「Unholy」:アイデンティティを超越した魅力
最新アルバム『Gloria』
サム・スミスの3年振りの新作『Gloria』がリリースになりました。アルバムに収録されている「Unholy」は、ドイツのシンガー、キム・ペトラスを迎え、サムにとって初の全米ナンバー・ワンに輝いた曲となり、グラミー賞のBest Pop Duo/Group Performanceに、母国イギリスのBrit AwardsでもSong of The Yearにノミネートされています。
ジャマイカで制作された「Unholy」は、UK、アメリカだけでなく、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、ニュージーランド、オランダ、シンガポールなどで1位となり、パワフルなヴォーカルとユニークな歌詞、MVでサムがまとったショッキング・ピンクのドレスからキムが登場するといった映像も話題を集めました。
「最もクリエイティヴな瞬間だった。ルールブックを捨てたかのような実験は、とてもカタルシス的で、自由を感じた。キムと一緒の仕事は、彼女の輝きを目の当たりにし、光栄だった。この曲は他人の秘密の束縛から自分を解放することについて歌っているんだ」とサムは話しています。
アルバムを通してサムは、大人への成長によって、暗い時期を乗り越え、今のサム・スミスを忠実に反映し、セックス、嘘、情熱、自己表現、不完全さなどに関する人間味あふれた歌詞をメッセージとして伝えたいとのことです。アルバムには、エド・シーランがプロダクションに参加し、「Who We Love」でデュエット。穏やかなサウンドに乗ったエモーショナルなヴォーカルが印象的な楽曲です。カルヴィン・ハリス、ジェシー・レイエズが参加した「I’m Not Here To Make Friends」では、80sを彷彿とさせるレトロなダンス・ナンバーが展開されています。
アルバムに先駆けてリリースされた「Love Me More」を初めて聴いた時、歌のうまさは当然ですが、サムのヴォーカルに変化を感じました。これまでのエモーショナルなヴォーカルに力強さが増して、自信に溢れた姿が歌声となって表現されていました。自分自身であり続けることに心地よさを感じ、さまざまなことから解放されたことによるものなのでしょうか。アルバム中の私のお気に入りは「How To Cry」。アコースティックで静かに流れていくサウンド。でもこの曲にも、これまでにはないパワフルなヴォーカルを聴くことができます。切なさと強さを併せ持った楽曲です。また、「Six Shots」では、究極のR&Bスタイルのヴォーカルを聴かせてくれます。
2015年の初来日で語ったこと
初来日時のインタビューで、サムは歌についてこう話してくれました。
「9歳の時からレッスンに通って歌うことに真剣に取り組んできた。11、12歳の時に、父親が買ってくれたマイクとアンプで、キッチンでよく歌っていたんだ。歌うたびに両親は感動してくれた。時には、父親は僕の歌を聴いて泣いていた。人を感動させることをその時に知ったんだ。そして、もしかしたら僕には歌の才能があるのかもしれないって、その時に思った」
子供の頃の歌声、デビューしてからの歌声、そして現在。心の変化と共に、サムの歌声も進化し、父親が感動した時から時を経て、今では世界中の人々に感動を与えています。その感動は、サム自身が自分自身を愛することで、大きな変化をもたらすことができたのだと思います。
「ラヴ・ソングを歌うシンガーであることが重要ではない。ただ音楽を書く上で、愛はとてもパワフルなテーマだと思うんだ。愛には色々な形がある。家族愛、それほど真剣ではない愛でもときめきがあったり、いろいろね」
と、デビュー当時に言っていましたが、きっと今は愛を書くことでも、自身の体験だけでなく、とても自由な発想の中で、愛をテーマに楽しんでいるように感じます。
「音楽を永遠に続けていくことが僕の目標。息の長いアーティストとして、アルバムを作り続けていきたい。音楽を通して世界を旅したい」
そんなサムの思いが、コロナ禍で閉ざされていた時期を経て、2023年再スタートしました。
Written By 今泉圭姫子
「Unholy」収録の最新アルバム
サム・スミス『Gloria』
2023年1月27日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
- サム・スミス アーティストサイト
- サム・スミス『In The Lonely Hour』解説:驚くほど成功したデビュー・アルバム
- サム・スミスのサード・アルバム『Love Goes』全曲本人解説を掲載
- サム・スミスをスターにした名曲「Stay With Me」の背景を探る
- サム・スミスのベスト・ソング20:無数の人の心を動かすラブ・ソング(動画付)
- LGBTQ音楽家たちの歴史:不寛容の時代から、セクシャリティが二の次になるまで
今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
- 第1回 :U2『The Joshua Tree』
- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスのと想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
- 第10回:ディスコのミュージシャン達
- 第11回:「レディ・プレイヤー1」出演俳優、森崎ウィンさんインタビュー
- 第12回:ガンズ、伝説のマーキーとモンスターズ・オブ・ロックでのライブ
- 第13回:デフ・レパード、当時のロンドン音楽事情やガールとの想い出
- 第14回:ショーン・メンデス、音楽に純粋なトップスターのこれまで
- 第15回:カルチャー・クラブとボーイ・ジョージの時を超えた人気
- 第16回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」公開前に…
- 第17回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」サントラ解説
- 第18回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」解説
- 第19回:クイーンのメンバーに直接尋ねたバンド解散説
- 第20回:映画とは違ったクイーン4人のソロ活動
- 第21回:モトリー・クルーの伝記映画『The Dirt』
- 第22回:7月に来日が決定したコリー・ハートとの思い出
- 第23回:スティング新作『My Songs』と初来日時のインタビュー
- 第24回:再結成10年ぶりの新作を発売するジョナス・ブラザーズとの想い出
- 第25回:テイラー・スウィフトの今までとこれから:過去発言と新作『Lover』
- 第26回:“クイーンの再来”と称されるザ・ストラッツとのインタビュー
- 第27回:新作を控えたMIKA(ミーカ)とのインタビューを振り返って
- 第28回:新曲「Stack It Up」を発売したリアム・ペインとのインタビューを振り返って
- 第29回:オーストラリアから世界へ羽ばたいたINXS(インエクセス)の軌跡
- 第30回:デビュー20周年の復活作『Spectrum』を発売したウエストライフの軌跡を辿る
- 第31回:「The Gift」が結婚式場で流れる曲2年連続2位を記録したBlueとの思い出
- 第32回:アダム・ランバートの歌声がクイーンの音楽を新しい世代に伝えていく
- 第33回:ジャスティン・ビーバーの新作『Changes』発売と初来日時の想い出
- 第34回:ナイル・ホーランが過去のインタビューで語ったことと新作について
- 第35回:ボン・ジョヴィのジョンとリッチー、二人が同じステージに立つことを夢見て
- 第36回:テイク・ザット&ロビー・ウィリアムズによるリモートコンサート
- 第37回:ポール・ウェラー、初来日や英国でのインタビューなどを振り返って
- 第38回:ザ・ヴァンプスが過去のインタビューで語ったことと新作について
- 第39回:セレーナ・ゴメス、BLACKPINKとの新曲と過去に語ったこと
- 第40回:シン・リジィの想い出:フィル、ゲイリーらとのインタビューを振り返って
- 第41回:クイーン+アダム・ランバート『Live Around The World』
- 第42回:【インタビュー】ゲイリー・バーロウ、7年ぶりのソロ作品
- 第43回:コロナ禍にステイホームで聴きたい新旧クリスマス・ソング
- 第44回:ジャスティン・ビーバー、成長が垣間見えた約3年ぶりのライヴ
- 第45回:アルバムが控えるポール・スタンレーとKISSの想い出を振り返って
- 第46回:コナン・グレイ、孤独の世界に閉じこもって生まれた音楽と希望の新曲
- 第47回:グレタ・ヴァン・フリート、“ツェッペリンらしい”と言われることを語る
- 第48回:クイーンの隠れた名曲:映画で彼らを知った人に聴いて欲しい楽曲
- 第49回:ブルー(Blue)「The Gift」の魅力:今も日本で愛される名曲の想い出
- 第50回:「ハイスクール・ミュージカル」シリーズとは?
- 第51回:ブライアン・メイ初のソロアルバムを振り返る
- 第52回:離婚を歌ったケイシー・マスグレイヴスが3年前に語っていたこと
- 第53回:ロジャー・テイラーのヴォーカルと楽曲
- 第54回:ABBAの新作と、“第2のビートルズ”と言われていた40年前
- 第55回:ザ・ウォンテッドの復活:休止前の想い出と最新インタビュー
- 第56回:アンとナンシーのウィルソン姉妹、ハートの想い出
- 第57回:80年代後半に活躍したグラス・タイガーを振り返る
- 第58回:ブライアン・メイのソロ2作目『Another World』を振り返る
- 第59回:ブライアン・メイ復刻盤『Another World』の聴き所
- 第60回:ポリスのドキュメンタリー『Around The World』とインタビュー
- 第61回:フィル・ライノットの生涯と音楽を振り返るドキュメンタリー映画
- 第62回:10代のジャネット・ジャクソンとのインタビューを思い返して
- 第63回:ブロンディのデボラ・ハリーとUK音楽シーンの女性達を振り返る
- 第64回:セバスチャン・イザンバールが語る新作や、故カルロス・マリンへの想い
- 第65回:クイーン『The Miracle』当時の想い出と未発表の新曲「Face It Alone」
- 第66回:『ビー・ジーズ 栄光の軌跡』で描かれる3兄弟と『小さな恋のメロディ』」
- 第67回:アリアナ・グランデとのインタビューを振り返って
今泉圭姫子(いまいずみ・けいこ)
ラジオDJ、音楽評論家、音楽プロデューサー
1978年4月、湯川れい子氏のラジオ番組「全米Top40」のアシスタントDJのオーディションに合格し、この世界に入る。翌年大貫憲章氏とのコンビでラジオ番組「全英Top20」をスタート。以来現在までにラジオDJ以外他にも、テレビやイベント、ライナー執筆など幅広く活動。また、氷室京介のソロ・デビューに際し、チャーリー・セクストンのコーディネーションを行い、「Angel」のLAレコーディングに参加。1988年7月、ジャーナリスト・ビザを取得し、1年間渡英。BBCのDJマーク・グッドイヤーと組み、ロンドン制作による番組DJを担当。
1997年、ラジオ番組制作、企画プロデュースなど活動の場を広げるため、株式会社リフレックスを設立。デュラン・デュランのジョン・テイラーのソロとしてのアジア地域のマネージメントを担当し2枚のアルバムをリリース。日本、台湾ツアーも行う。
現在は、Fm yokohama「Radio HITS Radio」に出演中。
HP:http://keikoimaizumi.com
Twitter:https://twitter.com/radiodjsnoopy
Radio:Fm yokohama「Radio HITS Radio」