ザ・ウォンテッドの復活:休止前の想い出と最新インタビュー
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第55回。今回は、2014年の活動休止まで4年半の間に1200万枚の売り上げを記録し、メンバーの一人、トム・パーカーが末期のガンと闘いながら2021年に復活を果たしたザ・ウォンテッド(The Wanted)について。これまでの連載一覧はこちらから。
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2021年、ザ・ウォンテッドが再始動しました。このニュースは、7年振りに活動を共にするメンバー5人の強い絆をファンに伝えるためだけの再結成ではありませんでした。末期の脳腫瘍と闘っているメンバーのトム・パーカーと再びステージに立つ、そして彼に生きる力を、そして同じ病で闘っている人たちへ勇気を与える特別な意味がありました。
9月20日、ロンドン・ロイヤル・アルバート・ホールで行われた再結成イベントには、リモートでエド・シーランが、会場にはマクフライ、リアム・ペイン等がパフォーマンスし、ステージに華を添え、彼らの再出発を後押ししました。もちろん、トムの姿もあり、オリジナル・メンバー5人がステージに立つという奇跡を起こしたのです。
大ヒット曲「Glad You Came」では、壮絶な治療を経て、回復へと向かっているトムが、体全体から声を振り絞るように歌う姿に、多く人の心が動かされたはずです。この公演の収益金は、がん治療の支援団体Stand Up To Cancerと神経系の治療をおこなっている病院を支援するThe National Brain Appealに寄付されました。
「このイベントは、脳腫瘍という病気、そしてトムのことを多くの人たちに知ってもらうためのチャリティという特別な意味があった。僕たちも、ゲストも、ファンの人たちも、みんなが同じ目的を持って集まってくれた。がん治療に対する知識をみんなにしっかり知ってもらいたかった。コロナで大変な状況の中だったけれど、多くの人たちが集まってくれてとても感動したよ」
11月に行われたリモート・インタビュー時に、チャリティ・イベントに対するメンバーの思いを聞くことができました。実は、5人揃ってのインタビューが予定されていましたが、当日トムの調子が悪く欠席となりました。現在もトムは治療を続け、再始動は予断を許さない状況の中で行われていることがわかりました。
ザ・ウォンテッドは、2010年「All Time Low」でデビュー。いきなり全英1位となり、ボーイズ・グループの歴史に彼らの名を刻みました。2011年にリリースしたセカンド・アルバム『Battleground』からは、「Glad You Came」が世界的なヒットとなり、UKで1位、アメリカでも3位という記録を打ち立てました。
UKボーイズ・グループのアメリカでの成功はテイク・ザット(Take That)が「Back For Good」で全米7位にチャートインして以来の出来事。その後彼らは、アメリカでのプロモーション活動を積極的に行うようになりました。
「僕たちにとって“Glad You Came”は、世界を見せてくれるきっかけとなった曲。ザ・ウォンテッドはパーティー・ヴァイヴを大切にして、楽しくやろうよというテーマがあったけど、そんな僕たちらしさが凝縮された1曲になった」
実は私が初めて彼らにインタビューしたのもロンドンではなく、ロサンゼルス。MTVでのリアリティ・ショウの撮影で忙しい隙間をぬって行われました。次から次へと分刻みのインタビューをこなし、その忙しさに見ている方が目が回りそう。ホテルの部屋で髪を切っている姿を強烈に覚えています。
「あの頃は、地に足をつけなくてはだめだなんて、考える暇もなかった。忙しくて、目の前のことをこなすだけ。それだけ求められていたということはありがたいことでもあるけどね。頑張ってやっていくうちに受け入れられて、結果に結びついて。今、活動を再開して忙しくなったけど、さっきもホテルで頭を剃ってきたよ。それは変わらない(笑)」とマックス。
そして当時の成功については、
「グループとしては勲章のようなもので、いろいろな賞を受賞できたことは、素直に嬉しかった。でも、しばらく経ってみると、心に残っているのは、ツアーバスでの移動中のことや、スタジオの中でみんなで曲を作っている時、出来上がって初めてファンの前でパフォ―マンスしたことなんだ。ファンの人たちに喜びや素晴らしい時間を与えられたのは、実績よりも僕たちには深い思いとして残している」
ザ・ウォンテッドの再始動のスタートは、『Most Wanted :The Greatest Hits』のリリースでした。彼らのデビューからの3年間のヒット曲と待望の新曲2曲が収録されました。このグレイテスト・ヒッツを通して彼らのヒット曲に触れていると、ポップスとしての魅力に溢れた作品が数多くあることを改めて知るのです。2013年にリリースされたサード・アルバム「Word of Mouth」からは「We Own The Night」「Show Me Love (America)」といった名曲も生まれました。
そして、ヒット曲を連発していた人気絶頂時の2014年1月に、彼らは今後ソロ活動をしていくと発表したのです。短期間に世界で成功を収めた5人にとって、自分自身を取り戻したいという思いが強くなることは否めません。ボーイズ・グループに必ず訪れる試練でもありますから。彼らも休みが欲しかったのです。でも、いつかまた一緒にステージに立ちたいという思いは偽りではなく、2021年以前にも何度か再結成の話が出たことを認めています。
インタビューの最後に、ベスト・アルバムから好きな曲をピックアップしてもらいました。マックスとジェイは「We Own The Night」、シヴァは「Heart Vacancy」、ネイサンは「I Found You」「Glad You Came」。ちなみに私は「We Own The Night」です。
新曲「Rule The World」は、4年前にマックスが作った曲で、彼のデモに、ネイサンがロンドンでパートを入れて、LAでシヴァとジェイがレコーディングしたとのこと。「ヴォーカルはバラバラでレコーディングしたけれど、ミックスしたらまさにザ・ウォンテッドの曲に仕上がったんだ」と。
「Rule The World」は、時が止まっていたことを感じさせない、これぞザ・ウォンテッドというべき新曲です。たった3年間で、彼らはザ・ウォンテッドとしてのパーティー・ヴァイヴ・サウンドと楽しもうというメッセージを掲げた彼らの音楽に対するアティテュードを、しっかりと創り出していたのです。
2022年は、ツアーが予定されていますが、今の彼らは目の前のツアーを楽しみむこと、そしてその他の活動については話し合いながらゆっくり進めていきたいとのことでした。
Written By 今泉圭姫子
ザ・ウォンテッド『Most Wanted: The Greatest Hits』
2021年11月19日発売
CD&LP / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
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- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
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- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスのと想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
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今泉圭姫子(いまいずみ・けいこ)
ラジオDJ、音楽評論家、音楽プロデューサー
1978年4月、湯川れい子氏のラジオ番組「全米Top40」のアシスタントDJのオーディションに合格し、この世界に入る。翌年大貫憲章氏とのコンビでラジオ番組「全英Top20」をスタート。以来現在までにラジオDJ以外他にも、テレビやイベント、ライナー執筆など幅広く活動。また、氷室京介のソロ・デビューに際し、チャーリー・セクストンのコーディネーションを行い、「Angel」のLAレコーディングに参加。1988年7月、ジャーナリスト・ビザを取得し、1年間渡英。BBCのDJマーク・グッドイヤーと組み、ロンドン制作による番組DJを担当。
1997年、ラジオ番組制作、企画プロデュースなど活動の場を広げるため、株式会社リフレックスを設立。デュラン・デュランのジョン・テイラーのソロとしてのアジア地域のマネージメントを担当し2枚のアルバムをリリース。日本、台湾ツアーも行う。
現在は、Fm yokohama「Radio HITS Radio」に出演中。
HP:http://keikoimaizumi.com
Twitter:https://twitter.com/radiodjsnoopy
Radio:Fm yokohama「Radio HITS Radio」
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