Columns
ABBAの40年ぶりのアルバムと、“第2のビートルズ”と言われていた40年前
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第54回。今回は、2021年11月5日に40年ぶりのアルバム『Voyage』が発売されたABBAについて。これまでの連載一覧はこちらから。
<関連記事>
・ABBA、40年ぶりのアルバム『Voyage』欧米メディアでのレビューを紹介
・ABBAのフリーダ、再結成やヴァーチャル・コンサートについて語る
40年ぶりのアルバム
ABBAの40年振りの新作『Voyage』が、予想通り世界中で話題となっています。UKでは、10作目のアルバム・チャート1位に輝きましたね。来年5月27日から開催されるLondonのクイーン・エリザベス・オリンピック・パークに設置されるABBAアリーナ(3,000人収容)での公演チケットは、2022年12月まで発売されています。アヴァターによるコンサートは、70年代、80年代を駆け抜けたABBAのヒット曲で溢れ、当時を懐かしむ人たちや、ミュージカル『マンマ・ミーア』でABBAのサウンドに魅せられた若いファンに至るまで、幅広い層のファンで、連日埋め尽くされることでしょう。
新作『Voyage』は、40年の月日を感じさせないABBAの世界観が繰り広げられています。不安など1ミリも感じない、安心して聴くことができる完璧なポップ・ワールドが展開されています。それにしてもアグネッタとフリーダの歌声が、まったく40年の空白を感じさせません。レコーディング・スタジオで2人が歌い始めた瞬間、まるで天国にいるような感覚になった、とビョルンとベニーは話していましたが、まさにABBAがABBAであることに心地よさを感じました。シンプルなメロディに2人の歌声が乗ると、そこはABBAワールド。郷愁を感じるサウンドにも癒されます。
ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト
ABBAは、1972年スウェーデン・ストックホルムで結成されました。2年後の1974年、ヨーロッパで権威ある音楽賞ユーロビジョン・ソング・コンテストに、スウェーデン代表としてエントリーし、「Waterloo(恋のウォータールー)」で優勝。一気にその人気に火がつきました。
ユーロビジョン・ソングコンテストは、1956年から開催されている由緒ある音楽コンテストで、このコンテストで優勝したアーティストには、成功の扉が用意されると言われていました。ABBAの前には、1969年にイギリスのルルが優勝し、トップ・シンガーになっています。
ABBA以降は、アイルランドのジョニー・ローガンが優勝し「What’s Another Year?」がUK1位に、1981年にはABBAを彷彿とさせるイギリスの男女4人組Bucks Fizzが優勝し、その後UK、ヨーロッパで大成功を収めました。1988年にはスイス代表としてセリーヌ・ディオンが出場し、優勝しています。その後のセリーヌの活躍は言うまでもありませんね。ABBAは、ユーロビジョン・ソング・コンテストで優勝者の中で、大成功したグループの1組。ABBAの成功があって、その後のコンテスト優勝者は世界への道が開かれたのですから。
余談です。伝統あるユーロビジョン・ソング・コンテストですが、2000年代に入ると、その権威に陰りが見え始め、昨年は、アメリカ制作映画『ユーロビジョン歌合戦〜ファイア・サーガ物語』がNetflixで公開され、コメディ化されてしまうほどでした。でもとても面白かったです。アーティストを目指す男の子は、ユーロビジョン・ソング・コンテストに出場するのが夢で、大人になってもその夢を捨てきれずに、なんとか母国代表になるために奮闘するという映画です。そういった話題や、2年前にBlueの再結成をユーロビジョン・ソング・コンテストを通してアピールしようという作戦など様々な話題が重なり、今年のユーロビジョンはかなり話題となりました。イタリアの若手ロック・バンド、マネスキンが優勝したことで、再び強烈な個性を持つ新人を世界へ送り出そうという動きが活発となり、ユーロビジョン・ソングコンテスト優勝という冠に輝きが与えられたのです。
第2のビートルズ
ABBAは、たった8年間の活動でこれまでに4億枚以上を売ったと言われています。こうなるとその数字の凄さがわからなくなるぐらいの桁です。当時は、第2のザ・ビートルズと言われていたのをよく覚えています。まだこの業界に入って1年にもならなかった私は、なぜ第2のザ・ビートルズなのか、と不思議に思ったものです。ザ・ビートルズはバンド、ABBAはヴォーカル・グループなのに…と。業界のプロモーションに慣れていない初々しい時代です。
でも、世界中で成功し、大人から子供までのファン層を持ち、アーティスト・グッズが売れまくり、アグネタのお尻に保険がかけられた(これ今では問題発言かしら?)というほどの異常なまでの熱狂的な人気から、ヨーロッパから生まれた世界のトップスターということで、第2のザ・ビートルズと言われていたのだと今は理解します。もちろんシングル、アルバムの驚異的な売り上げからもそういう比較がされたのだと思います。
日本ツアーはたった一度だけ、1980年3月に行われました。全11公演のうち日本武道館公演は6回開催されています。私は、まだ中学生だった妹の洋楽デビューとなったABBAを、日本武道館の1階の壁に設置された一段上がった席で観ました。やっとの思いで取れたチケット。あの席の前を通るとき、いつもABBAを思い出します。あまりよく見えなかった(笑)。セットリストをアップしている方のサイトを覗くと、これでもか、というぐらいのヒット曲オンパレード。改めてその空間にいたことが良き思い出となっています。
ABBAはこのプロジェクトが最後になるという話も出ています。ABBAアリーナでの公演がいつまで続くかはわかりませんが、ABBA公演を見にロンドンに行こう!と思える状況が、私たちにもやって来ることを祈るだけです。世界中を襲ったパンデミックの中で、ABBAは復活しました。私たちに、天使の歌声と心から楽しめる音楽を届けに!Thank you for ABBA music!
Written By 今泉圭姫子
ABBA『Voyage』
2021年11月5日発売
CD / iTunes Store / Apple Music / Spotify / Amazon Music / YouTube Music
日本盤CDは下記4形態(SHM-CD仕様)
①『Voyage』スタンダード・エディション
②『Voyage』with 『ABBA Gold』(ベスト盤CD)
③『Voyage』with 『ABBA in Japan』(映像商品2DVD)
④『Voyage』with 『Essential Collection』(MV36曲収録DVD)
今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
- 第1回 :U2『The Joshua Tree』
- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスのと想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
- 第10回:ディスコのミュージシャン達
- 第11回:「レディ・プレイヤー1」出演俳優、森崎ウィンさんインタビュー
- 第12回:ガンズ、伝説のマーキーとモンスターズ・オブ・ロックでのライブ
- 第13回:デフ・レパード、当時のロンドン音楽事情やガールとの想い出
- 第14回:ショーン・メンデス、音楽に純粋なトップスターのこれまで
- 第15回:カルチャー・クラブとボーイ・ジョージの時を超えた人気
- 第16回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」公開前に…
- 第17回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」サントラ解説
- 第18回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」解説
- 第19回:クイーンのメンバーに直接尋ねたバンド解散説
- 第20回:映画とは違ったクイーン4人のソロ活動
- 第21回:モトリー・クルーの伝記映画『The Dirt』
- 第22回:7月に来日が決定したコリー・ハートとの思い出
- 第23回:スティング新作『My Songs』と初来日時のインタビュー
- 第24回:再結成10年ぶりの新作を発売するジョナス・ブラザーズとの想い出
- 第25回:テイラー・スウィフトの今までとこれから:過去発言と新作『Lover』
- 第26回:“クイーンの再来”と称されるザ・ストラッツとのインタビュー
- 第27回:新作を控えたMIKA(ミーカ)とのインタビューを振り返って
- 第28回:新曲「Stack It Up」を発売したリアム・ペインとのインタビューを振り返って
- 第29回:オーストラリアから世界へ羽ばたいたINXS(インエクセス)の軌跡
- 第30回:デビュー20周年の復活作『Spectrum』を発売したウエストライフの軌跡を辿る
- 第31回:「The Gift」が結婚式場で流れる曲2年連続2位を記録したBlueとの思い出
- 第32回:アダム・ランバートの歌声がクイーンの音楽を新しい世代に伝えていく
- 第33回:ジャスティン・ビーバーの新作『Changes』発売と初来日時の想い出
- 第34回:ナイル・ホーランが過去のインタビューで語ったことと新作について
- 第35回:ボン・ジョヴィのジョンとリッチー、二人が同じステージに立つことを夢見て
- 第36回:テイク・ザット&ロビー・ウィリアムズによるリモートコンサート
- 第37回:ポール・ウェラー、初来日や英国でのインタビューなどを振り返って
- 第38回:ザ・ヴァンプスが過去のインタビューで語ったことと新作について
- 第39回:セレーナ・ゴメス、BLACKPINKとの新曲と過去に語ったこと
- 第40回:シン・リジィの想い出:フィル、ゲイリーらとのインタビューを振り返って
- 第41回:クイーン+アダム・ランバート『Live Around The World』
- 第42回:【インタビュー】ゲイリー・バーロウ、7年ぶりのソロ作品
- 第43回:コロナ禍にステイホームで聴きたい新旧クリスマス・ソング
- 第44回:ジャスティン・ビーバー、成長が垣間見えた約3年ぶりのライヴ
- 第45回:アルバムが控えるポール・スタンレーとKISSの想い出を振り返って
- 第46回:コナン・グレイ、孤独の世界に閉じこもって生まれた音楽と希望の新曲
- 第47回:グレタ・ヴァン・フリート、“ツェッペリンらしい”と言われることを語る
- 第48回:クイーンの隠れた名曲:映画で彼らを知った人に聴いて欲しい楽曲
- 第49回:ブルー(Blue)「The Gift」の魅力:今も日本で愛される名曲の想い出
- 第50回:「ハイスクール・ミュージカル」シリーズとは?
- 第51回:ブライアン・メイ初のソロアルバムを振り返る
- 第52回:離婚を歌ったケイシー・マスグレイヴスが3年前に語っていたこと
- 第53回:ロジャー・テイラーのヴォーカルと楽曲
今泉圭姫子(いまいずみ・けいこ)
ラジオDJ、音楽評論家、音楽プロデューサー
1978年4月、湯川れい子氏のラジオ番組「全米Top40」のアシスタントDJのオーディションに合格し、この世界に入る。翌年大貫憲章氏とのコンビでラジオ番組「全英Top20」をスタート。以来現在までにラジオDJ以外他にも、テレビやイベント、ライナー執筆など幅広く活動。また、氷室京介のソロ・デビューに際し、チャーリー・セクストンのコーディネーションを行い、「Angel」のLAレコーディングに参加。1988年7月、ジャーナリスト・ビザを取得し、1年間渡英。BBCのDJマーク・グッドイヤーと組み、ロンドン制作による番組DJを担当。
1997年、ラジオ番組制作、企画プロデュースなど活動の場を広げるため、株式会社リフレックスを設立。デュラン・デュランのジョン・テイラーのソロとしてのアジア地域のマネージメントを担当し2枚のアルバムをリリース。日本、台湾ツアーも行う。
現在は、Fm yokohama「Radio HITS Radio」に出演中。
HP:http://keikoimaizumi.com
Twitter:https://twitter.com/radiodjsnoopy
Radio:Fm yokohama「Radio HITS Radio」
- クイーン アーティスト・ページ
- クイーン結成50周年記念、全アルバムのデラックス盤が日本のみ再発決定
- 「ヒット曲の裏側:ロジャー・テイラー編」クイーン結成50周年記念シリーズ第7話
- クイーン:アルバム制作秘話:15枚の全スタジオ・アルバムについて
- クイーンの歴史を紹介する映像全50本が約1年間かけて毎週公開
- クイーンによるライヴ・エイドでの21分間の伝説的パフォーマンス
- フレディ・マーキュリーの言葉:クイーンの伝説的シンガーの発言を振り返る
- 絶対に観るべきクイーン過去最高のライヴ・パフォーマンス15選
- クイーンの楽曲ベスト20ランキング:世界を魔法にかけた名曲たち
- 映画『ボヘミアン・ラプソディ』関連記事まとめ