新作『star-crossed』で離婚を歌ったケイシー・マスグレイヴスが3年前に語っていたこと

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Photo by Adrienne Raquel

ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第52回。今回は、2021年9月10日に、新作アルバム『star-crossed』が発売されたケイシー・マスグレイヴス(Kacey Musgraves)について。これまでの連載一覧はこちらから

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3年半振りにリリースされたケイシー・マスグレイヴスのアルバム『star-crossed』。これは、ひとりの女性の愛の物語。ハッピーエンドを迎えるラヴ・ストーリーではなくて、一つの愛を乗り越えた愛の物語です。愛って乗り越えるべきものなのかどうか、私にも分かりませんが、人生に何度か巡ってくる出会いがあるとすれば、ケイシーが『star-crossed』で表現した音楽は、明確に始まりと終わりがある愛。それは、まるで映画のストーリーのように、喜び、悲しみ、葛藤、別れを描き、最後は人生に起こった数々の経験に感謝する、そんな感情が3部構成となったアルバムになっています。

1曲目「star-crossed」では、愛の結末を歌い、2曲目の「good wife」から、数年間を回想していきます。ケイシーの身に起こった体験に、こうすればよかったのに、ケイシー尽くしすぎ、もっと自分をさらけ出したらよかったのに、と映画の感想を語るかのようなリスナーの声が聞こえてきそうです。3曲目の「cherry blossom」は、大の日本好きの彼女が、散りゆく桜の花びらと自分自身を重ねわせた歌になっています。

2018年、初来日した時のケイシーは、宮崎駿作品のファンで、スタジオジブリのポップアップ・ストアを訪れた時のことを楽しそうに話してくれて、憧れの日本での休日を堪能していると、興奮気味に話してくれました(ちなみにケイシーはスタジオジブリ最新作『アーヤと魔女』では声優としてアーヤの母親役で出演しています)。

「トトロのグッズを買ったの。私と妹はトトロを観て育って、宮崎駿監督の映画も全部観てます。原宿では、原宿ガールになって遊んで、カワイイモンスターカフェではレインボーパスタを食べて、ステージに上がって踊ったんです」

その印象は、エネルギッシュで明るい、元気一杯の女性でした。指には、豪華なダイヤモンドの指輪が光り、「素敵ね〜、ゴージャスね」と言うと、「結婚指輪よ」と嬉しそうに見せてくれました。日本デビュー・アルバム『Golden Hour』は、透明感のある癒しの歌声と、ほどよくブレンドされたカントリータッチのサウンドが心地よく耳に残る作品でした。

「音楽家族だったわけじゃないけれど、自然に歌うようになったんです。7、8歳の頃には、教会やイベントで歌っていました。もちろん、両親のサポートがあってのことだけど。祖父母、両親からは、将来は好きなこと、やりたいことをやりなさいって、言われてきました。ヒントはもらっていたけどね。例えば、私は12歳のクリスマスにギターをプレゼントしてもらって、レッスンにも通わせてもらったんです。それからギターが好きになったし、妹は、カメラをプレゼントしてもらって、今では私のアートワークの写真、デザインをやってくれてます。テキサスで育ったから、自然とカントリー・ミュージックは耳にしていて。シャナイア・トゥエイン、デキシー・チックス、パッツィ・クライン、ドリー・パートン……..でもラジオから流れてくるポップ・ミュージックも好きだったんです。インシンク、スパイス・ガールズとかね。両親が女性ヴォーカルが好きで、ジュエルやシャーデーもよく聴いたんです。ニール・ヤング、トム・ペティも好きだった」

筆者とケイシー

そんなケイシーは、19歳の時にナッシュヴィルに移り、オーディション番組「ナッシュヴィル・スター」に出演し、7位となり、その後2012年にマーキュリー・レーベルと契約し、デビューしています。

「私が好きなカントリーミュージックは、必ずしもモダン・カントリーではなくて、どちらかというとルーツ・カントリーが好き。心が折れたり、葛藤があったり、失恋、ワーキングクラス層の話を取り上げるの曲が好きなんです。だから自分の曲の核となっているのは、そんな要素に影響を受けた曲が多いんです」

私がインタビューした2018年のあの時には、3年半後に自分自身のリアル・ライフを全編にわたって書くとは想像すらしなかったでしょう。彼女は、自然な流れの中で、自分のストーリーを『star- crossed』で表現し、次に向かっていく上でのステップとしたかったのかもしれません。

ラスト曲「gracias a la vida」は、スペイン語で歌われています。それはまるで映画のエンディングのように、一つの物語を終わらせてくれています。ケイシーは、今新作を完成させ、どんな思いでこのアルバムと向き合っているのでしょうか? オープニングから悲しいヴォーカルが響き、彼女の辛い日々が想像できます。『Golden Hours』でのヴォーカルとは明らかに違いますが、『star-crossed』では、彼女が聴き続けてきたルーツ・カントリーのように、日々の生活の中での出来事を綴るアルバムとなったことは確かです。

「グラミー賞受賞は、私の人生を大きく変えることになったけど、私の使命は、カントリーを好きな人にも、好きじゃない人にも、カントリー・ミュージックのアンバサダーとして、音楽の素晴らしさを伝えていきたい。自分の言いたいことを音楽に託して、自分流に、この道を進んでいきたいんです」

Written By 今泉圭姫子


ケイシー・マスグレイヴス『star-crossed』
2021年9月10日発売
CD&LP / iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music

<トラックリスト>
01 Star-Crossed
02 Good Wife
03 Cherry Blossom
04 Simple Times
05 If This Was a Movie…
06 Justified
07 Angel
08 Breadwinner
09 Camera Roll
10 Easier Said
11 Hookup Scene
12 Keep Lookin’ Up
13 What Doesn’t Kill Me
14 There Is a Light
15 Gracias a la Vida


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今泉圭姫子(いまいずみ・けいこ)

ラジオDJ、音楽評論家、音楽プロデューサー
1978年4月、湯川れい子氏のラジオ番組「全米Top40」のアシスタントDJのオーディションに合格し、この世界に入る。翌年大貫憲章氏とのコンビでラジオ番組「全英Top20」をスタート。以来現在までにラジオDJ以外他にも、テレビやイベント、ライナー執筆など幅広く活動。また、氷室京介のソロ・デビューに際し、チャーリー・セクストンのコーディネーションを行い、「Angel」のLAレコーディングに参加。1988年7月、ジャーナリスト・ビザを取得し、1年間渡英。BBCのDJマーク・グッドイヤーと組み、ロンドン制作による番組DJを担当。
1997年、ラジオ番組制作、企画プロデュースなど活動の場を広げるため、株式会社リフレックスを設立。デュラン・デュランのジョン・テイラーのソロとしてのアジア地域のマネージメントを担当し2枚のアルバムをリリース。日本、台湾ツアーも行う。
現在は、Fm yokohama「Radio HITS Radio」に出演中。

HP:http://keikoimaizumi.com
Twitter:https://twitter.com/radiodjsnoopy
Radio:Fm yokohama「Radio HITS Radio」

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