コナン・グレイ、アジア人差別によるいじめで孤独の世界に閉じこもって生まれた音楽と希望の新曲
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第46回。今回は、2020年に発売したデビュー・アルバム『Kid Krow』が新人のシンガーソングライターとして異例となる全米5位を記録したコナン・グレイについて。(これまでのコラム一覧はこちらから)
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また一人、ソーシャルネットワークを通じて才能溢れるシンガーが誕生しました。彼の名前はコナン・グレイ。1998年12月5日生まれの22歳です。YouTubeに投稿したビデオ・ブログやカバー曲がレーベルの目に止まり、2018年にリパブリック・レコードと契約し、同年デビューEP『Sunset Season』をリリースしました。なんとそのEPは、3億回以上のストリーム回数を記録。そして2020年3月、デビュー・アルバム『Kid Krow』をリリース。全米アルバム・チャート初登場5位に輝き、華々しいメジャー・デビューとなりました。
彼の音楽は、テイラー・スウィフト、ビリー・アイリッシュ、ホールジー、BTSのVなどが、SNSなどを通して絶賛!エルトン・ジョン、The 1975、トロイ・シヴァン、パニック・アット・ザ・ディスコ、ルイス・キャパルディなども注目しているという話です。
コナンの歌の世界は、孤独がテーマになっている曲が多く、ポップなサウンドの裏には、彼が経験してきた淋しさが歌として表現されています。コナンが初めて覚えた言語は日本語です。母親が広島出身の日本人ということで、小さい頃に2年間広島に住んだ経験があります。その後、両親の離婚があり、彼は母親とテキサス州ジョージタウンに移住するのですが、学校でのアジア人差別によるいじめに遭い、孤独の世界に閉じこもります。彼の音楽が多くの人たちの心を動かしているのは、彼の切実な心の叫びがリアルに伝えられているからでしょう。
先日、そんなコナンに初のリモート・インタビュー。孤独の中で生きてきたコナンですが、画面越しに見る彼は、笑顔の似合う青年でした。少年時代、独りぼっちで自分の思いをどうしていいか分からずにいただなんて、想像がつきません。
「僕の音楽は、パーソナルな日記のようなもの。友達のこと、片想いのこと、経験したことすべてを歌っています。僕はとても孤独なロンリーチャイルドだった。今でもそうなんだけど、なかなか人と打ち解けられなくて、自分の気持ちをどうやって伝えたらいいか、どうやって友達を作ったらいいか分からなかった。でも、自分が抱えている気持ちをどこかに吐き出さないといけないと思ったんです。それがきっかけで曲を書き始めた。曲を書いて、それを歌って投稿し始めたら、多くの人たちが僕の気持ちを分かってくれるようになって、曲を書くことが自分の気持ちを伝える手段に変わっていった。そしてもう一つの大きなきっかけはアデル。彼女の歌を聴いて、僕は曲を書いてみたいと思ったんです」
また、インタビューでは、母親の影響がとても大きいと話していました。
「人に対して、どのように接したらいいのかを母から学びました。アメリカに移住してからも、和食を食べ、家の中も日本風。でも学校に行くとアメリカン・スタイルで、自分はアウトサイダー、よそ者なんだって考えるようになった。でも音楽が心の拠り所になってからは、日本で育ち、日本人の母親に育てられたことが、自分に大きな影響を与えていたんだって気づいたし、誇りに思えるようになったんです」
日本語は「ちょっとだけ(日本語で)」と言ってましたが、会話は理解できているようです。
アルバム『Kid Krow』リリース後は、大々的なワールド・ツアーが予定されていましたが、パンデミックにより、延期になりました。これから、という時に活動をストップせざるを得ない状況は、どのアーティストも同じでしたが、彼はこのパンデミック期間をこのように捉えていました。
「多くの人たちが、自粛中に、僕のアルバムを聴いてくれたことに感謝しているんです。とても嬉しかった。こんな状況の中であっても、自分は一人じゃないんだって感じることができた。アルバムの全曲は僕のベッドルームで、一人でギターを弾いて書いたんだけど、僕がベッドルームで孤独な中で作った曲を、みんなもそれぞれのベッドルームで孤独の中で聴いてくれた。お互いのシチュエーションが合って、共感し合えたと思えるんです。少しでも僕の音楽がみんなの役に立つことができたんじゃないかって思えました」
ちなみにコナンのベッドルームは、典型的なアメリカン・スタイルのようで、狭い部屋に、ベッドがあって、ギターがあって、床には洋服が散らばっていて、白い壁には、ロード、カート・コバーン、テイラーのポスターと故郷のジョージタウンのポストカード、友達の写真が飾っているそうです。
テイラー・スウィフトは、「このアルバムのすべてに夢中。騒ぎ立てるわけじゃないけれど、一生リピートし続けると思う」とSNSで絶賛しました。このことに対してコナンはこう笑顔で答えていました。
「テイラーの言葉に感動しました。彼女の音楽をずっと聴いてきたからね。彼女と同じように、僕もカントリーミュージックをたくさん聴いてきた。テイラーからの言葉が嬉しくて、思わず友達に電話しちゃいました。今でも信じられない出来事。テイラーに限らず、多くのアーティストから評価されたことはとても嬉しいことです」
新曲の「Overdrive」は、ハッピーソングです。
「新しい年が明けて、みんなが希望を持って、前向きな気持ちになれるような曲を書きたかった。毎日が、淡々とドラマチックなことが起こるわけでもなく、新しい出会いもない。退屈な日々を送っているけれど、何かワクワクするような、現実逃避ができるような楽しさを表現してみたんです。少しでも目の前のことを忘れるような曲を作りたかった」
孤独を表現することだけでなく、ソングラライターとして、新たな世界観を歌に託すことができるようになったことは、コナンが大きく成長し、孤独に打ち勝ったからでしょう。
最後にコナン・グレイとしてやり遂げたいことを聞くとこう応えてくれました。
「多くの人たちに、僕もみんなも同じだって思ってもらいたい。共感してもらいたい。僕の使命は、音楽を通じて、みんなに独りぼっちじゃないよって感じてもらうことなんです」
Written By 今泉圭姫子
コナン・グレイ「Overdrive」
2021年2月19日発売
iTunes / Apple Music / Spotify / Amazon Music
今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
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- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスのと想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
- 第10回:ディスコのミュージシャン達
- 第11回:「レディ・プレイヤー1」出演俳優、森崎ウィンさんインタビュー
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今泉圭姫子(いまいずみ・けいこ)
ラジオDJ、音楽評論家、音楽プロデューサー
1978年4月、湯川れい子氏のラジオ番組「全米Top40」のアシスタントDJのオーディションに合格し、この世界に入る。翌年大貫憲章氏とのコンビでラジオ番組「全英Top20」をスタート。以来現在までにラジオDJ以外他にも、テレビやイベント、ライナー執筆など幅広く活動。また、氷室京介のソロ・デビューに際し、チャーリー・セクストンのコーディネーションを行い、「Angel」のLAレコーディングに参加。1988年7月、ジャーナリスト・ビザを取得し、1年間渡英。BBCのDJマーク・グッドイヤーと組み、ロンドン制作による番組DJを担当。
1997年、ラジオ番組制作、企画プロデュースなど活動の場を広げるため、株式会社リフレックスを設立。デュラン・デュランのジョン・テイラーのソロとしてのアジア地域のマネージメントを担当し2枚のアルバムをリリース。日本、台湾ツアーも行う。
現在は、Fm yokohama「Radio HITS Radio」に出演中。
HP:http://keikoimaizumi.com
Twitter:https://twitter.com/radiodjsnoopy
Radio:Fm yokohama「Radio HITS Radio」