クイーン+アダム・ランバート『Live Around The World』:コロナ禍に届いた最高のプレゼント

Published on

ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第41回。今回は10月2日に発売となったクイーン+アダム・ランバートとしての初のライブ・アルバム『Live Around The World』について語っていただきました(これまでのコラム一覧はこちらから)。

<関連記事>
アダム・ランバートがどうやってクイーンを復活させたのか
アダム・ランバートの歌声がクイーンの音楽を新しい世代に伝えていく


2020年1月のジャパン・ツアーがまるで遠い昔のように感じられている今、そんな私たちに届けられたのがクイーン+アダム・ランバートのライヴ・アルバム『Live Around The World』でした。

新型コロナウイルスによるパンデミックは、ライヴを演ることも、観ることも、人と接することさえ制限されています。世界中の人たちがこの8ヶ月間、“生きる”ということに向き合ってきました。疲れも出ています。連日報道される感染者数にため息をつき、第2波が始まったと言われるヨーロッパや減少の目処が見えないアメリカなど、日本だけでなく世界の報道を見ながら不安は募るばかりです。それでも生きていかなくてはいけない私たちは、今後コロナとどう向き合っていけばいいのか、まさに模索している時だと言っていいでしょう。

エンターテインメント業界も、止まることはできません。アーティストは、思うようにライヴが出来なくても、音楽を届け、新しい表現方法を見つけ、チャレンジを続けています。そんなアーティストたちから生まれる音楽があるからこそ、私たちは前を向いて、真っ直ぐ進んでいけるのです。寄り添えるものこそ、音楽であると確信するのです。クイーン+アダム・ランバートが、ライヴ・アルバムを出す理由も、そこにあるのではないでしょうか?

映画『ボヘミアン・ラプソディ』がきっかけではありましたが、当時のクイーンのライヴを観たことのない新しい世代が、クイーンというグループに出会い、まるで新しい音楽を聴くように、夢中になっています。そんな人たちにとって、SNS時代となった今、クイーンを知る情報はいくらでも溢れていて、その相乗効果からか、世界中にクイーン・ファンは増え続けています。

昔は必死になっても知ることができなかった情報が、今では瞬時に手にすることができるのです。私のような、書籍の再版や復刻版は入手しますが、読み始めると、人の意見はいらない、クイーンは自分の思い出だけでいい、という閉鎖的な人間は、あっという間に新しいクイーン・ファンの情報量に追い越されています。新たなクイーン情報は、若い人たちから聞く!なんてこともあります。

ただ、新しいクイーン・ファンにとって、たった一つ体験できなかったのが、映画で観た4人による生のコンサート。もちろん今は過去映像をすぐにチェックはできますが、フレディの生の息遣いや、ジョンのファンキーなステージングから生まれるクイーン・サウンドを、そこから肌感覚で感じ取ることは難しいかもしれません。過去動画は、懐かしい思い出には浸れますが、やはり平面の奥の世界からは、生感は伝わりにくいものです。

ビートルズの音楽が時代、世代さえも超えて聴かれているように、クイーンの音楽も映画『ボヘミアン・ラプソディ』公開以前からその傾向にはありました。ブライアン・メイとロジャー・テイラーは、年々クイーンの音楽が新しい世代に届けられていることを感じ、クイーンの音楽を生の音とともに届けることを始めたのです。これこそ、彼らがやり遂げたかったことなのだと思っています。フレディは存在しないけど、ジョンは引退しているけれど、4人で作った音楽を生の音で届けていく、という活動は、古くからクイーンを愛してきたファンにとっても、嬉しい出来事となりました。

Photo by Brojan Hohnjec / (C) Miracle Productions LLP

以前にも(*こちら)お伝えしていますが、アダム・ランバートこそ、そんなブライアンとロジャーの思いを叶えてくれた存在です。耳にタコができるほど聴いてきたフレディのライヴでの歌い回し、アクセント、どこに力を入れて歌うか、どこでふっと呼吸するか、そんなひとつひとつを忘れることなく覚えています。だから、フレディの代わりになれる人なんていないし、誰が歌っても違和感が残ります。でもアダムは、どこかのタイミングで彼自身が吹っ切ったように、アダムらしくクイーンを歌うことで、安心して耳を傾けることができるし、素直に感謝の気持ちでいっぱいになるのです。もちろん、彼には何度もインタビューしているアーティストへの思い入れもあります。

6年前のサマーソニックでその姿を見た時、ブライアン、ロジャーが奏でる音を再び聴くことができたという熱い気持ちを懐かしく思い出します。嬉しいことに、このクイーン+アダム・ランバート『Live Around The World』には、サマーソニックでのテイクが3曲収録されています。サマーソニック以降、日本武道館、さいたまスーパーアリーナを含む合計3回のジャパン・ツアーで来日していますが、あえてサマソニのライヴが選ばれたのには、何か特別な思いがあるのでしょうか?

先日、世界配信によるアルバム発売記念の記者会見が行われました。「世界を回ってみて、食べ物が美味しい国は?」の質問には「Tokyo」と答えてくれたり、「“I Was Born To Love You”のような日本でヒットした曲もある〜」など、メンバーの言葉の端々に日本の話が出てくることが、嬉しくて……。サマソニでの「I Was Born To Love You」が収録されているのは、そんな日本への思いからかもしれません。

2012年からクイーン+アダム・ランバートとして世界を周り、クイーンの音楽を生の音で届けてきたブライアンとロジャー、そしてアダム。パンデミックで世界が揺れている今こそ、ライヴを生で感じることができない音楽ファンに、またひとつ最高のプレゼントを贈ってくれたのです。音楽が側にある限り、私たちは前を向いて歩いて行けます。それがクイーンの音楽なら、尚さら大きな力になります。このアルバムは、ライヴ・アルバムとして発表することで、音楽の持つパワーを世界中の人たちに届けてくれました。70年代、80年代のクイーンにこだわる事は、重要ではないのです。

最後に、フレディのソロ名義で発売され、ジョルジオ・モロダーとフレディの共作による「Love Kills」は、(クイーン・ヴァージョンも発売になっていますが)アダムが自然にクイーンの曲を歌っているな、と感じた1曲でした。そしてBlu-rayに特別に収録されているのが、ロジャーと息子ルーファスとのドラム・バトル(日本では2016年のツアーでも見ることができましたね)と、ブライアンのザ・ギター・ソロ「Last Horizon(地平線の彼方へ)」。往年のクイーン・ファンも唸らせる見所です。日本公演だけのスペシャルとなった、ブライアンとロジャーによる「Teo Torriatte (Let Us Cling Together) / 手をとりあって」は、心の奥に素敵な思い出としてしまっておくことにしましょう。

Written by 今泉圭姫子

Photo by Brojan Hohnjec / (C) Miracle Productions LLP


クイーン+アダム・ランバート『Live Around The World』
2020年10月2日発売
CD+Blu-ray / CD+DVD / CD / LP
※日本盤CDのみSHM-CD仕様


今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー


今泉圭姫子(いまいずみ・けいこ)

ラジオDJ、音楽評論家、音楽プロデューサー
1978年4月、湯川れい子氏のラジオ番組「全米Top40」のアシスタントDJのオーディションに合格し、この世界に入る。翌年大貫憲章氏とのコンビでラジオ番組「全英Top20」をスタート。以来現在までにラジオDJ以外他にも、テレビやイベント、ライナー執筆など幅広く活動。また、氷室京介のソロ・デビューに際し、チャーリー・セクストンのコーディネーションを行い、「Angel」のLAレコーディングに参加。1988年7月、ジャーナリスト・ビザを取得し、1年間渡英。BBCのDJマーク・グッドイヤーと組み、ロンドン制作による番組DJを担当。
1997年、ラジオ番組制作、企画プロデュースなど活動の場を広げるため、株式会社リフレックスを設立。デュラン・デュランのジョン・テイラーのソロとしてのアジア地域のマネージメントを担当し2枚のアルバムをリリース。日本、台湾ツアーも行う。
現在は、Fm yokohama「Radio HITS Radio」に出演中。

HP:http://keikoimaizumi.com
Twitter:https://twitter.com/radiodjsnoopy
Radio:Fm yokohama「Radio HITS Radio」

Share this story

Don't Miss

{"vars":{"account":"UA-90870517-1"},"triggers":{"trackPageview":{"on":"visible","request":"pageview"}}}
モバイルバージョンを終了