テイク・ザット&ロビー・ウィリアムズによるリモートコンサートと、テイク・ザットとの30年の想い出【今泉圭姫子連載】
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第36回。今回は先日のリモート・コンサートで4人が再結締を果たしたテイク・ザット(Take That)について。彼らとの思い出を振り返りながら執筆していただきました(これまでのコラム一覧はこちらから)
ソロでのリモート・コンサート
テイク・ザット! なんて素晴らしいグループなんでしょう!
日本時間2020年5月29日明け方4時に、彼らの粋な計らいによるスペシャル・コンサートが配信されました。Stay Homeをテーマに、世界中のミュージシャンが、さまざまな形で歌を届けている日々。ツアーができない、プロモーション活動もままならない、そんなアーティスト達が率先して、SNSを通じて、世界中に勇気と希望と応援の歌を贈り続けています。
テイク・ザットのメンバーも、この数ヶ月さまざまな取り組みをしてきました。ゲイリー・バーロウは、「Crooner Sessions」と題して、ウィークデイの夕方5時に、豪華ゲストを迎えてのリモート・デュエットを披露。約40組にも及ぶセッションの後半では、ゲイリーの使命感の強さからか、かなり疲労度が顔に表れていましたが、その姿を見ながら、がんばれ〜と心のなかで応援しながら楽しんでいました。
ローナン・キーティングに始まり、リック・アストリー、キーン、オリー・マーズ、ウエストライフのシェーン、ジェイソン・ドノヴァン、トニー・ハドリー、クリフ・リチャード、ブライアン・メイ、ジェイムズ・ベイ、ナイル・ホーラン、ジェイムズ・ブラント、クリス・マーティンなどなど。ポップ、ロック・フィールドだけでなく、クラシック界、オペラ界からもゲストを招き、ゲイリーの交友関係の広さを感じました。
もちろん、マーク・オーウェン、ハワード・ドナルド、そしてロビー・ウィリアムズもLAから参加した日もありました。私のお気に入りは、マークとの「The Whole of The Moon」。ザ・ウォーターボーイズのヒット曲を、マークとゲイリーの歌声で聴くなんて、とても新鮮でした。ブライアン・メイと演奏したビートルズの「Get Back」もカッコよかったし、クリフ・リチャードがバリバリな歌声を披露してくれたのも素晴らしかったです。
マークは、時々お料理を配信し、ハワードは毎晩子供達に絵本を読んで聞かせる動画を配信していました。就寝前に聞くハワードの語りで、いつのまにかぐっすりという夜もありました。テイク・ザットの3人は、世界中でストレスを抱えながら自粛している多くの人たちに、楽しいStay Homeの過ごし方を提供してくれたのです。ロビーも、マクフライのダニー・ジョーンズとナイル・ホーランと3人でリモート・ライヴを配信したり、自宅で過ごしているユモーア溢れる動画を配信していましたね。
そんな4人が、<Meerkat Music presents A World Exclusive TAKE THAT &ROBBIE WILLIAMS>と題したコンサートを、世界のファンの自宅に届けるという企画を突然発表しました。ゲイリーの<Crooner Sessions>が終わってしまって寂しい思いをしていた時ということもあり、もう大興奮でした。それもテイク・ザット&ロビー・ウィリアムズですから。ロビーがテイク・ザットに復活したの?とかそういう話ではなく、テイク・ザットは3人でもテイク・ザット!ロビーが入ってもテイク・ザットなのですから。
結成30周年
2019年、テイク・ザットは結成30周年を迎え、その前祝として2018年11月に『Odyssey』をリリースしました。このアルバムは、シングル・ヒットを寄せ集めたベスト盤ではなく、30年の輝かしい彼らの歴史を、思い出を綴るかのように、1曲1曲の間に、当時のメンバーの声などを効果音とともにからませながら構成した新たなアプローチによるベスト・アルバムです。そしてUK&ヨーロッパでは<オデッセイ・グレイテスト・ヒッツ・ライヴ・ツアー>を行い、ウェールズの首都であるカーディフのプリンシパリティ・スタジアム(ミレアニアム・スタジアム)で、約7万5千人を集めて行われたショウがハイライトとなりました。このコンサートは、Blu-ray/DVD化されているので、ぜひ多くの音楽ファンに見ていただきたいです。
2020年、テイク・ザットは前年の結成30周年の勢いにのって、さまざまなプロジェクトが待っていたことかと思います。しかし新型コロナウィルス感染拡大により、予定されていたものは全て白紙。世界の人たちは、その苦難のなかで、未来を見据えての新しい生活を考える時間を余儀なくされました。そしてテイク・ザットの意識は、Stay Homeの中で、楽しく音楽を聴いてもらいたいという思いに代わり、音楽を提供する立場として、できる限りのことをやり続けているのです。
テイク・ザット&ロビー・ウィリアムズの全曲
そして、この<Meerkat Music presents A World Exclusive TAKE THAT & ROBBIE WILLIAMS>のリモート・コンサートが生まれました。お洒落なブルーのシャツを着たゲイリーはいつもの自宅スタジオから、イエローにまとめたヴィンテージのシャツを着たマークは自宅ガレージから、ハワードは自分の部屋なのでしょうか、とてもリラックスできるような場所から登場。部屋の隅にあったELOのアナログ盤が妙に気になりました。
まずは3人で<オデッセイ・グレイテスト・ヒッツ・ライヴ・ツアー>のオープニングでもある「Greatest Day」を披露。マークがギターを弾き、自分たちで風船を飛ばしたり、クラッカーをパーンしたり、舞台効果も自分たちで演出。楽しむことを知っている3人です。
続く「Shine」では、マークがガレージにある脚立の上に登り、歌い始めます。顔が画面から切れてしまっているのがなんとも手作り感があっていいです。歌の途中で、LAにいるロビーが準備中である映像が流れ、メンバーのために紅茶をいれています。その紅茶はイギリスのPG。庶民派の紅茶です(でもこれが一番!by me)。「LAに住んでいてもPGなのね」と、小物系の発見が楽しいです。そしてロビーは「Shine」を口ずさんでいます。そのシチュエーションだけで、ザッターはワクワクしちゃうんですね。
「Shine」が終わると、LAからロビーが自分のロゴ入りマグカップにいれた紅茶をメンバーに差し入れ(この辺りの演出はぜひ見ていただければ)。そしてロビーの遅刻をみんながミニコントのように攻めると「前回は15年遅刻した!」とのロビーに大笑い。「あ〜、こんな冗談まで飛び出すようになったのね」とまた感無量。そしてこれまではジェイソンがギターを担当していましたが、マークがギターの腕を上げ、「Back For Good」をギター演奏。この曲は、テイク・ザットを代表する1曲。ゲイリーがメイン・ヴォーカルで、3人はバック・コーラスなのですが、今回の4人でのスタジオ・ライヴを聴くと、このバック・コーラスこそ「Back For Good」の醍醐味で(もちろんゲイリーの歌の凄さは語るまでもないですが)、3人(当時4人)の個性があったからこそ生まれたものだ、と実感するのです。あの当時を振り返ると、ロビーは不満があったと話をしていましたが、今楽しそうにこの曲を歌う姿を見て、メンバーそれぞれの役割の大きさをあらためて感じました。もちろんジェイソンがいてくれたら、さらに嬉しいのですが……。
次はスペシャル・ステージとなり、衣装を着替え、ロビーがメインの「The Flood」へ。全員がスタンド・マイクに向かって、画面は縦ヴァージョンとなります。そしてそのまま「Pray」へ。マークとハワードのダンスは当時の振り付けのまま。ロビーは恥ずかしいのかな?踊りませんでしたが、最後にゲイリーまで踊ってくれて、振り切ったゲイリーに、さすがだねっと!
最後は「Never Forget」。ハワードは王冠のようなものをかぶり、毛布を体に巻いて、雰囲気を出し、メンバーから拍手喝采。私は、明け方に「ネーヴァ」っと振りとともに歌っていました。「Back For Good」でもそうでしたが、この曲もロビーにとっては当時の苦い思い出の曲。レコーディングにほとんど参加できなかったと、ソロで来日した時に愚痴をこぼしていましたが(というか脱退したロビーにテイク・ザットの事を聞いてしまう自分にもびっくりですが)、この曲もロビーのパートはとても印象深いのです。
「このパートはロビーらしさがでているじゃない」と思わず説教モード。当時はそれぞれの思いがあったかもしれないけれど、第一期の作品には、5人の個性がガンガンに伝わってくる素晴らしいレコーディング曲ばかりです。今では自信たっぷりに自分のパートを歌っているロビーは、この曲への思いを新たにしているはずです。
テイク・ザットとの30年
デビューから30年、イベントの司会も含め、日本、イギリス、オランダ、ドイツ、パリ、ロサンゼルスとテイク・ザットとロビーのインタビューを続けてきました。最近は電話インタビューが多くなってしまいましたが、新作をリリースするたびに彼らの近況やアルバムへの思いを聞き、テイク・ザットとして活動していない10年間も、ソロでのインタビューを試みてきました。復活の数ヶ月前には、マークがソロで来日していたのですが、復活劇がUKでそれほど大事になっていたとは知らずに、気軽にロンドン復活公演のチケットを頼んでしまったなんていうこともありました。
強烈な印象として残っているのは、初来日での大阪の小さなライヴハウスでのイベント。私はMCでした。ミニ・ライヴでのステージでは、底が抜けるほど激しくメンバーが踊るので、舞台に穴があきそうだということで、会場側が一旦中止しろ、と私に命令。レーベルの人たちは必死にファンの方が怪我をしないようにガードしていて、判断が下せない状況のなかで、私は曲終わりで一旦メンバーをステージから下ろしました。そのことに対して今度は、ツアマネが激怒して、私を攻め立てたのです。
パーフォーマンスはその後続けられて無事に怪我する人もなく終わったのですが、ツアマネは終わってからも私に詰め寄りガーガーと。会場側から責められ、ツアマネから怒られ、踏んだり蹴ったりでうっすら涙の私。UKレーベルの方は「スヌーピーは悪くない」とかばってくれて、その話を聞きつけたメンバーも打ち上げの席にツアマネをはずし、しょぼくれていた私を盛り立ててくれたというエピソードがあります。そこから私も含め、スタッフとメンバーとの一体感が生まれたのでは、と!ロビーは自分のTシャツを破って頭にかぶり、おどけてくれたり、ゲイリーは「ツアマネはスヌーピーのそばには行かせないから」と宣言してくれたり、マークはお菓子をそっとくれたり、かわいい絆が生まれました。そんな時代を経ての30年間、貴重で大切な思い出がいっぱいあるテイク・ザットなのです。
ロンドン・ウエンブリー・アリーナでコンサートを開催するまでに成長し、その雄姿を見た時、日本では代々木体育館を埋めての初公演、なんともいえない感動を覚えました。その後解散を発表し、オランダで最後の記者会見に参加した時の寂しさ、10年後に復活しウエンブリー・アリーナで再会した時の嬉しさ、4人でプロモ来日して、私の番組のイベントにサプライズ登場してくれた時に見せてくれた昔と変わらない姿、ロビーが参加して、第二期の成功が第一期を上回り、さらに大きくなったテイク・ザットをウエンブリー・スタジアムで見た時の興奮。そして『Odyssey』で聞かせてくれた素晴らしいアプローチによるベスト・アルバム。
昨年の電話インタビューでは、「アルバム出すのは、スヌーピーと話すためにやっているようなもんだよね」というゲイリーの辛口冗談さえもすんなりかわせるようになり、30年前と同じように接していられる彼らに感謝の気持ちでいっぱいになります。
<Meerkat Music presents A World Exclusive TAKE THAT &ROBBIE WILLIAMS>はアンコールなし。アンコールを希望するMeerekatに、リモートをプツッと切ってしまうメンバー。最後もふふふっと笑ってしまう演出でした。ところがアンコールはあって、「Rule The World」「Everything Changes」を歌って終わりとなりました。このコンサートが発表になり、業界のザッター仲間の新谷洋子さん、元担当S嬢とメールでやりとりし、リアルタイムでみたいけど起きることができるか、アーカイヴが残ってなかったらどうしよう、などど、少女のような会話を楽しみました。そして朝イチで連絡を取り合い感想を述べ合いました。私たちがあらためて思ったことは、テイク・ザットって本当にすごいグループ!でした。
2021年はデビュー30周年の年。先のことはまだまだ見えないし、多くを望むつもりはないけれど、デビュー30周年を華々しく、日本のザッターの人たちともお祝いできる時間を作ってもらえたら嬉しいのです。
Written By 今泉圭姫子(Special Thanks to Hiroko Shintani & Eri Sasano)
今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
- 第1回 :U2『The Joshua Tree』
- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスのと想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
- 第10回:ディスコのミュージシャン達
- 第11回:「レディ・プレイヤー1」出演俳優、森崎ウィンさんインタビュー
- 第12回:ガンズ、伝説のマーキーとモンスターズ・オブ・ロックでのライブ
- 第13回:デフ・レパード、当時のロンドン音楽事情やガールとの想い出
- 第14回:ショーン・メンデス、音楽に純粋なトップスターのこれまで
- 第15回:カルチャー・クラブとボーイ・ジョージの時を超えた人気
- 第16回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」公開前に…
- 第17回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」サントラ解説
- 第18回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」解説
- 第19回:クイーンのメンバーに直接尋ねたバンド解散説
- 第20回:映画とは違ったクイーン4人のソロ活動
- 第21回:モトリー・クルーの伝記映画『The Dirt』
- 第22回:7月に来日が決定したコリー・ハートとの思い出
- 第23回:スティング新作『My Songs』と初来日時のインタビュー
- 第24回:再結成10年ぶりの新作を発売するジョナス・ブラザーズとの想い出
- 第25回:テイラー・スウィフトの今までとこれから:過去発言と新作『Lover』
- 第26回:“クイーンの再来”と称されるザ・ストラッツとのインタビュー
- 第27回:新作を控えたMIKA(ミーカ)とのインタビューを振り返って
- 第28回:新曲「Stack It Up」を発売したリアム・ペインとのインタビューを振り返って
- 第29回:オーストラリアから世界へ羽ばたいたINXS(インエクセス)の軌跡
- 第30回:デビュー20周年の復活作『Spectrum』を発売したウエストライフの軌跡を辿る
- 第31回:「The Gift」が結婚式場で流れる曲2年連続2位を記録したBlueとの思い出
- 第32回:アダム・ランバートの歌声がクイーンの音楽を新しい世代に伝えていく
- 第33回:ジャスティン・ビーバーの新作『Changes』発売と初来日時の想い出
- 第34回:ナイル・ホーランが過去のインタビューで語ったことと新作について
- 第35回:ボン・ジョヴィのジョンとリッチー、二人が同じステージに立つことを夢見て
今泉圭姫子(いまいずみ・けいこ)
ラジオDJ、音楽評論家、音楽プロデューサー
1978年4月、湯川れい子氏のラジオ番組「全米Top40」のアシスタントDJのオーディションに合格し、この世界に入る。翌年大貫憲章氏とのコンビでラジオ番組「全英Top20」をスタート。以来現在までにラジオDJ以外他にも、テレビやイベント、ライナー執筆など幅広く活動。また、氷室京介のソロ・デビューに際し、チャーリー・セクストンのコーディネーションを行い、「Angel」のLAレコーディングに参加。1988年7月、ジャーナリスト・ビザを取得し、1年間渡英。BBCのDJマーク・グッドイヤーと組み、ロンドン制作による番組DJを担当。
1997年、ラジオ番組制作、企画プロデュースなど活動の場を広げるため、株式会社リフレックスを設立。デュラン・デュランのジョン・テイラーのソロとしてのアジア地域のマネージメントを担当し2枚のアルバムをリリース。日本、台湾ツアーも行う。
現在は、Fm yokohama「Radio HITS Radio」に出演中。
HP:http://keikoimaizumi.com
Twitter:https://twitter.com/radiodjsnoopy
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