ナイル・ホーランが過去のインタビューで語ったことと新作について【今泉圭姫子連載】
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第34回。今回は2020年3月13日にソロとしてのセカンド・アルバム『Heartbreak Weather』を発売したナイル・ホーランについて。彼の過去のインタビューを振り返りながら執筆していただきました(これまでのコラム一覧はこちらから)
ナイル・ホーランの第2章『Heartbreak Weather』が発売になりました。アルバムの発売に先駆けて「Nice to Meet Ya」「Put a Little Love on Me」「No Judgement」が配信され、セカンド・アルバムは、ファーストとはまた違った作品に仕上がることを想像することができました。特に「Nice to Meet Ya」は、懐かしいロック・サウンドを彷彿とさせる曲調で、初めて聴いた時は、これぞナイルの新境地だと感じました。彼の新たなる挑戦となる『Heartbreak Weather』は、見事UKチャートの1位に輝いています。
ファースト・アルバム『Flicker』は、アイルランド人としてのナイルのアイデンティティを感じさせるアルバムでした。「自分が音楽に目覚めた子どもの頃によく聴いていたのが60年代、70年代の音楽。特にヴァン・モリソンが大好きだった。ダンス・ビートのポップ・ソングではなく、ギターをもって歌うという憧れのスタイルで表現したい、という思いは、僕の中に流れるアイルランド人としてのアイデンティティからくるものなのかもしれない。アイリッシュ・トラッド・フォークほどじゃないけど、そんな要素もちょっとだけ感じるかもね」と来日時に語ってくれました。
また、レコーディング中は、80年代の音楽もよく聴いていたとのことです。「80年代の音楽って、時代の先を行っていたんだと思う。だから、あの頃の音楽のエッセンスを今もアーティスト達は好んで取り入れているよね。30年前の音なのに!」とナイルの分析です。
ナイルは、自分の音楽活動の中で、ソングライティングすることがとても大きな役割を果たす、と話していました。曲を書くことが、ソロ・アーティスト、ナイル・ホーランが表現できる最も大きな場所である、と。それってアーティストにとって当たり前のことじゃない?と思われる方もいるかもしれませんが、ナイルのように、アイドルという枠組の中で育ったスターにとって、クリエイティヴな作業をやりたいという思いより先に、やらなければならないこと、イメージを保つことが目の前に迫っている状態として長く続けられます。そこからの脱皮こそが大きな飛躍につながるのです。ナイルは、今ようやく、音楽と向き合うことができました。それがソングライティングが大切という言葉に置き換えられているのだと思います。
「ワン・ダイレクションで大きな成功を収めた僕たち4人にとっては、ソロをやる上での達成感のひとつは、現実的なことを考えればワン・ダイレクションの成功をソロで超えるということになるけれど、僕自身は、音楽が大好きで、曲を書き、ライヴをやるということをこのままずっと続けていければいいと思っているんだ。もちろんグラミー賞にノミネートされたら嬉しいけれど、音楽を続けていくことが何よりも重要だと思っている」
ファーストの時には50曲を書き、その中からしっかりと今の自分が表現できる曲を慎重に選んだといいます。「えっ残りの曲?コンピューターの中で眠っているよ。いつか使うかもしれないし、一生聴かない曲もあるかもしれないけどね(笑)」
セカンド・アルバム『Heartbreak Weather』がUK1位になった時、「とても意味のある、価値のある1位。とても嬉しい」とSNSでメッセージを発信していました。前作同様ナイルのアイデンティティを感じさせる曲もありますが、ソングライターとしてパーソナルな歌詞を曲に乗せ、心の痛み、喜びを表現しているところが、今回の成長だといえるでしょう。そして、ソングライターとして、ひと回りもふた回りも成長したパーソナルな作品が、UK1位に輝いたことこそ、何よりも嬉しかったのでしょう。1位に慣れっ子であっても、この1位は、過去の華やかな時代を背負った作品ではなく、ナイル・ホーランというひとりのアーティストが認められた意味のあるものなのです。(ちなみに「Arms of a Stranger」から「Everywhere」に流れる2曲がとても好きです)
先日放映された全米の人気番組ジェームズ・コーデンの「The Late Late Show with James Corden」で、ウソ発見器を試させられたナイル。ワン・ダイレクションの活動再開を問われると、ナイルは間髪を容れずに「イエス!」と答えました。もちろん真実と判定!ファンにとっては嬉しい瞬間でしたね。
それがいつになるかはわかりませんが、楽しみが増えたということです。以前こんな話をしたことがあります。
「あらためてワン・ダイレクションの曲を聴くと、今だからわかることがあるんだ。一人一人の個性がしっかり入っているんだよ。例えば、このビートはリアムが好きだから入れたのかな?とかね。ここはハリーっぽい、ルイっぽい、これは僕かなってね。きっといつかまた一緒にやり始めたら、かなりおもしろい曲ができると思っているよ。それぞれのソロ作品は、ファンにとっては意外性があったかもしれないけれど、7年間僕はメンバーと一緒にいたし、楽屋で彼らがどんな曲を聴いていたかも知っているから、ソロでの意外性は感じなかったよ」と。
ワン・ダイレクションのメンバー4人は、それぞれの音楽スタイルでグループ時代とは違った音楽性を追求して、自分たちがやりたかったことを表現しています。世界を制覇したワン・ダイレクションのようなアイドル・グループがソロとなっても成功している例は少ないです。それは、自分たちが一番やりたいことを妥協せずにやり続けているからでしょう。だから音楽の中にスピリットを感じるし、ストレートにメッセージが伝わってくるのす。ナイルが好むピュアでオーガニックなサウンドは、『Heartbreak Weather』の中に、溢れています。
ちなみに、ナイルの2度のインタビューで感じたことは、彼自身ソロとしての活動に誇りをもちつつ、ワン・ダイレクションとして活動してきたことをとても大切にしているということ。アーティストによっては、アイドル時代の質問はNGということが多いのに、まったくそういうことがないのです(リアムもそうでした!)。それが清々しくて、好感度アップ! 以前ニューヨークで買ったフィギュアを見せると、箱のサインをみて、「これ本物じゃないよ」って。もちろんプリントだってわかっていたけれど、箱の裏にちゃんとサインをしてくれました。
全米ホール・ツアー時代に、初めてサンフランシスコでインタビューした9年前と、ナイルの印象はまったく変わりません。日本から持って行った新製品のお菓子を誰よりも嬉しそうに食べていたあどけない姿を今でも思い出します。
インタビューから得たナイル情報
*カラオケで歌う曲
オアシスの曲や「La Bamba」、ドン・ヘンリーの「The Boys Of Summer」にも挑戦!
*自分の性格
とてものんびりや。自由で、形にとらわれない。成り行きにまかせて、ゆったりと落ち着いているところがあるけれど、時にはハイパーにもなる。「いい組み合わせだろう!?」By本人
Written by 今泉圭姫子
ナイル・ホーラン『Heartbreak Weather』
2020年3月13日発売
CD / iTunes / Apple Music / Spotify
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今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
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- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスのと想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
- 第10回:ディスコのミュージシャン達
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- 第12回:ガンズ、伝説のマーキーとモンスターズ・オブ・ロックでのライブ
- 第13回:デフ・レパード、当時のロンドン音楽事情やガールとの想い出
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- 第16回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」公開前に…
- 第17回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」サントラ解説
- 第18回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」解説
- 第19回:クイーンのメンバーに直接尋ねたバンド解散説
- 第20回:映画とは違ったクイーン4人のソロ活動
- 第21回:モトリー・クルーの伝記映画『The Dirt』
- 第22回:7月に来日が決定したコリー・ハートとの思い出
- 第23回:スティング新作『My Songs』と初来日時のインタビュー
- 第24回:再結成10年ぶりの新作を発売するジョナス・ブラザーズとの想い出
- 第25回:テイラー・スウィフトの今までとこれから:過去発言と新作『Lover』
- 第26回:“クイーンの再来”と称されるザ・ストラッツとのインタビュー
- 第27回:新作を控えたMIKA(ミーカ)とのインタビューを振り返って
- 第28回:新曲「Stack It Up」を発売したリアム・ペインとのインタビューを振り返って
- 第29回:オーストラリアから世界へ羽ばたいたINXS(インエクセス)の軌跡
- 第30回:デビュー20周年の復活作『Spectrum』を発売したウエストライフの軌跡を辿る
- 第31回:「The Gift」が結婚式場で流れる曲2年連続2位を記録したBlueとの思い出
- 第32回:アダム・ランバートの歌声がクイーンの音楽を新しい世代に伝えていく
- 第33回:ジャスティン・ビーバーの新作『Changes』発売と初来日時の想い出
今泉圭姫子(いまいずみ・けいこ)
ラジオDJ、音楽評論家、音楽プロデューサー
1978年4月、湯川れい子氏のラジオ番組「全米Top40」のアシスタントDJのオーディションに合格し、この世界に入る。翌年大貫憲章氏とのコンビでラジオ番組「全英Top20」をスタート。以来現在までにラジオDJ以外他にも、テレビやイベント、ライナー執筆など幅広く活動。また、氷室京介のソロ・デビューに際し、チャーリー・セクストンのコーディネーションを行い、「Angel」のLAレコーディングに参加。1988年7月、ジャーナリスト・ビザを取得し、1年間渡英。BBCのDJマーク・グッドイヤーと組み、ロンドン制作による番組DJを担当。
1997年、ラジオ番組制作、企画プロデュースなど活動の場を広げるため、株式会社リフレックスを設立。デュラン・デュランのジョン・テイラーのソロとしてのアジア地域のマネージメントを担当し2枚のアルバムをリリース。日本、台湾ツアーも行う。
現在は、Fm yokohama「Radio HITS Radio」に出演中。
HP:http://keikoimaizumi.com
Twitter:https://twitter.com/radiodjsnoopy
Radio:Fm yokohama「Radio HITS Radio」