新曲「Stack It Up」を発売したリアム・ペインとのインタビューを振り返って【今泉圭姫子連載】
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第28回。今回は2019年9月に1年ぶりの新曲「Stack It Up」を発売したリアム・ペインについて過去のインタビューなどの思い出とともに執筆していただきました(これまでのコラム一覧はこちらから)
リアム・ペインが1年振りにシングルを配信しました。タイトルは「Stack It Up feat. A Boogie wit da Hoodie」。リアムといえば、ワン・ダイレクション(以下1D)のメンバーとして、世界のポップ・シーンを席巻した超アイドル! 当時大人気だったジョナス・ブラザーズが、2009年にアルバム『Lines Vines and Trying Times』を発表し、その後3人がソロへと活動をシフトし始め、ポップ・シーンにアイドル不在と言われたその頃、イギリスのオーディション番組「Xファクター シーズン7」から1Dは誕生しました。2010年のことです。
アメリカだけでも、シングル、アルバムの総売り上げは2,500万枚超え、2014年のコンサート興行成績は、大物アーティストを抑えて堂々1位に輝いています。イギリスからやってきた若者たちは、あっという間に世界のトップ・レベルのグループとなり、華やかなポップ・シーンを築き上げました。
1Dに初めて会ったのは、まだアメリカでホール・ツアーをやっていた時でした。サンフランシスコでのショウの前にインタビューしたあと、まだ初々しい彼らのステージを見ました。その時は、あれほどまでに爆発的な人気になるとは想像も出来ませんでしたが、やけにスタッフが厳戒体制だな、とは思ったものです。時代の変化からなのかもしれませんが、SNSなどが普及したことにより、どんな写真もチェックが厳しく、おみやげに持っていった日本のお菓子を嬉しそうに食べている笑顔いっぱいのメンバーのオフ写真は、即NGが出ました。残念です。
そんなデビュー時から、あまり時間をかけることなく、彼らはマディソン・スクエア・ガーデンのステージに立ちました。そのステージを体験した時に、初めて1Dは凄いことになっているという現実に向き合ったのです。マディソン・スクエア・ガーデンの隣には彼らのグッズが売られているポップ・アップ・ショップがあり、連日女の子、親子連れでいっぱい。その混雑の中で手に入れたメンバー6人のお人形。ナイルとリアムが来日した時に、インタビュー時に見せると、懐かしいな〜と手にしていました。
さて、前置きが長くなりましたが、2016年に活動を休止した1Dは、それぞれがソロとなり、自分たちの個性をいかした活動をスタートさせました。リアムは2017年に「Strip That Down」をリリースするのですが、これが500万枚を超えるヒットとなり、幸先良いスタートを切りました。
その後コンスタントにシングルを配信し、2018年にはソロとして初めて、プロモーションで来日を果たします。その時のインタビューは、リアムの音楽に対する姿勢や、率直な意見を聞くことができたので、すべてをサイトに掲載することにします。
(協力:Fm yokohama「Radio HITS Radio」&伴野由里子)
リアム:(1D時代の人形を手にして)わぁ〜懐かしいな〜。今髪は無くなったけどね(笑)。いろいろ大変だったから(笑)
今泉:『POPSPRING 2018』(3月24日幕張メッセで開催)出演のための来日ですが、ステージはいかがでしたか?
リアム:アルバムの発売が遅れていることで、今回のステージではカバー曲もやったんだ。カバーをやることで、自分はこういう曲もイケるんだ、という可能性に手応えを感じることができたよ。1Dの曲を歌った時は、ファンがものすごく盛り上がってくれて、感動して泣いている子もいた。今回あらためて、日本のファンの情熱を感じることができて嬉しかったし、そういう機会があって良かった。
今泉:1Dのメンバーのソロ活動は、それぞれの個性が感じられますが、リアムはその中でも商業的にも成功したと言われていますよね?
リアム:確かにそう言われている。でもその成功っていうのは何が基準になっているのかな。みんな自分たちのペースでやっていて、それぞれの持ち味で、ハリーもナイルもツアーをして、ルイもいい曲を出している。その中で競い合うということではないんだ。僕にとってはグループを離れてから、もっと大きいシーンの中で闘っていることを認識している。周りには、ジャスティン・ビーバーがいて、ジャスティン・ティンバーレイク、ドレイクもいる。その中にいるわけだからね。
今泉:リアムのソロのスタイルというのは?
リアム:今も模索中だよ。間もなくリリースのアルバム(『First Time』EP 2018年発売)は、どこかPlaylistっぽい作品になる。今、リスナーはそういう聴き方をしているよね。僕の作品もいろいろな人とコラボして、いろいろなフレイバーを入れて、どんなソロ・アーティストもそうかもしれないけど、デビュー作は自分らしさはなんだろうと追求する。その中で自分が何を発信するべきかを見極めなくてはいけない。これまではグループの中で、人の気持ちを歌ってきたけれど、これからは違う。それを学ぶことができたことも、ソロになったから。グループのように大きく動く機械から、ちょっと距離を置いて、独り立ちして発見することが多かった。だから、いろいいろいろなタイプの音を作ることができたんだ。
今泉:よく、グループの中にいる時に、グループとは違う音楽をやりたい、と思ってソロ制作をする話は聞くけど、リアムの場合は、グループを離れてから見つけ出しているということなのね?
リアム:そうだね。なぜ1Dが成功したかというと、自分たちが自分たちのやっている音楽を信じていたから。当然、自分の好きなスタイルはあったし、それはそれで自分の持ち味として貢献できたと思う。曲も書いていたしね。でもグループを離れた後、あらためて「自分は何ができるんだろう?」と、考えた時に、グループでは踊っていなかったけど、ダンスも結構自分はイケるな、好きだなって思えたし、そういう発見に出会えるんだ。最初のシングルの冒頭の歌詞に「今は自由だ」というフレーズがあるけれど、その自由はいろいろなことを体験し、試してみたい、という意味なんだ。その中で自分らしさをみつけていきたい。大変なことだけど、今はそこから学んでいるんだよ。
今泉: ZEDDのコンサートに飛び入りしたということですが、久しぶりの日本を満喫しているようですね。
リアム:今まではホテルから1歩外をでたら何百というファンが押し寄せて大変だった。お店に入ると入ってきてしまったり。でも今は誰にも気兼ねせず、外に出歩くこともできて、そういう意味での自由もグループを離れて味わえるようになったんだ。
短い時間のインタビューでしたが、たくさん言葉に出して、思いを伝えてくれました。1Dの時は、純朴な青年でしたが、たった5、6年で、責任感溢れる人間へと成長したリアムです。1D時代のこと、ソロと1Dとの違いなど、ここまで話してくれるとは思いませんでした。このインタビューのあと、フル・アルバムではなかったのですが、EPとなる「First Time」をリリース。その後1年経って、ようやくシングル「Stack It Up」を発表したということは、まだまだ彼の中では音楽における自分探しの途中なのでしょうか?「Stack it Up」は、一度聴いただけで、この制作に旧友エド・シーランがいることがわかります。エドとの共作は、リアムの歌詞の世界観がより強く打ち出され、新しいスタイルが生まれたと言えます。そろそろ自分探しの終着点が見えてきたのかもしれません。
Written By 今泉圭姫子
リアム・ペイン「Stack It Up feat. A Boogie Wit da Hoodie」
2019年9月18日発売
iTunes / Apple Music / Spotify
今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
- 第1回 :U2『The Joshua Tree』
- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスのと想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
- 第10回:ディスコのミュージシャン達
- 第11回:「レディ・プレイヤー1」出演俳優、森崎ウィンさんインタビュー
- 第12回:ガンズ、伝説のマーキーとモンスターズ・オブ・ロックでのライブ
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- 第22回:7月に来日が決定したコリー・ハートとの思い出
- 第23回:スティング新作『My Songs』と初来日時のインタビュー
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- 第25回:テイラー・スウィフトの今までとこれから:過去発言と新作『Lover』
- 第26回:“クイーンの再来”と称されるザ・ストラッツとのインタビュー
- 第27回:新作を控えたMIKA(ミーカ)とのインタビューを振り返って
今泉圭姫子(いまいずみ・けいこ)
ラジオDJ、音楽評論家、音楽プロデューサー
1978年4月、湯川れい子氏のラジオ番組「全米Top40」のアシスタントDJのオーディションに合格し、この世界に入る。翌年大貫憲章氏とのコンビでラジオ番組「全英Top20」をスタート。以来現在までにラジオDJ以外他にも、テレビやイベント、ライナー執筆など幅広く活動。また、氷室京介のソロ・デビューに際し、チャーリー・セクストンのコーディネーションを行い、「Angel」のLAレコーディングに参加。1988年7月、ジャーナリスト・ビザを取得し、1年間渡英。BBCのDJマーク・グッドイヤーと組み、ロンドン制作による番組DJを担当。
1997年、ラジオ番組制作、企画プロデュースなど活動の場を広げるため、株式会社リフレックスを設立。デュラン・デュランのジョン・テイラーのソロとしてのアジア地域のマネージメントを担当し2枚のアルバムをリリース。日本、台湾ツアーも行う。
現在は、Fm yokohama「Radio HITS Radio」に出演中。
HP:http://keikoimaizumi.com
Twitter:https://twitter.com/radiodjsnoopy
Radio:Fm yokohama「Radio HITS Radio」