新作を控えたMIKA(ミーカ)とのインタビューを振り返って【今泉圭姫子連載】
ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第27回。今回は2019年10月4日に5枚目となるニュー・アルバム『My Name Is Michael Holbrook』を発売するMIKAについて過去のインタビューなどの思い出とともに執筆していただきました(これまでのコラム一覧はこちらから)
36歳になったMIKAが、5枚目にあたるアルバム『My Name Is Michael Holbrook』を2019年10月4日にリリースします。なんと4年振りです。2007年に発表したデビュー・アルバム『Life In A Cartoon Motion』が世界的なヒットを記録し、MIKA独特のカラフルなポップ・アートを音楽に表現した世界観は一気に注目されました。そしてその素晴らしいパフォーマンスは、渋谷の小さなライヴハウスで行われたショウケースでも、その後の新木場スタジオコーストやNHKホールでも、どんなところでも感じ取ることができました。「すべて計算している」と言うMIKA。完璧なショウとして演出することが、彼が目指すエンターテインメントの世界です。
親日家としても知られ、何度も来日していますが、その度にインタビューに応じてくれて、自分自身の音楽観を熱心に話してくれました。いつかMIKAとのインタビューを読んで頂ける日が来たらいいな、と思ってたので、この機会にご紹介できて私自身も嬉しいです。実は日本の熱烈なMIKAファンのみなさんが、いつも私のラジオ番組宛に、MIKA情報を送ってくださっています。その情報を読みながら、MIKAの変わらぬ活躍を嬉しく思っていました。この場を借りてファンのみなさんに感謝の気持ちをお伝えします(書き易いMIKAペンは大事に使っております)。
MIKAは、デビュー当時フレディ・マーキュリーと比較されることがよくありました。比較という言葉がいいのかどうかわかりませんが、後継者的な見方だったかと思います。フレディ・マーキュリーの凄さを、今あらためて語る必要はありませんが、その凄さに影響を受け、新しい伝説を作ろうとしているアーティストとの出会いは胸をときめかせます。フレディの生き様や、ヴォーカル・スタイルなどは唯一無二ですが、影響を受けたアーティストたちも、クイーンをステップに、独自の世界観を作り出しているから面白いのです。当然私はデビュー当時のMIKAのパフォーマー振りを観てドキドキしたものです。
前回紹介したザ・ストラッツのルークも、その中のひとりですが、実はザ・ストラッツのファンの方から、「ザ・ストラッツはクイーンのものまねではない」というご指摘を受けました。もちろんそうです。私が伝えたかったのは、クイーンに限らず、影響を受けたUKロック・グループの伝統を受け継ぎ、自分たちのサウンドとして消化していき、その上でロック・スター然としている姿に、フレディを重ねたり、ザ・ストラッツの魅力を感じたりする、と言いたかったのです。ザ・ストラッツはザ・ストラッツの魅力を十分にもっているUKの宝だということです。MIKAは、レバノン人の母親とアメリカ人の父親から生まれ、ロンドン育ちというバックグラウンドをもちます。そのエキゾチックな顔立ちと、パフォーマーとしてのシアトリカルなステージが、どこかフレディを彷彿とさせたのだと思います。音楽的には異なる世界を持っていますが、そのステージングやアプローチが比較されることになったのでしょう。
クラシックへのアプローチもそのひとつです。2015年、MIKAはモントリオールで、これまでの自身のヒット曲をモントリオール交響楽団の120人のミュージシャンを従えて、クラシカルなコンサートを3日間行いました。1年をかけて曲のアレンジや準備に時間を費やし、歌唱方法もビブラートはあまり入れないようにし、2、3ヶ月間特別なレッスンをしたそうです。「ただ僕のヴォーカル・スタイルはこうでなくてはいけないというリミットがないので、ストーリーラインや歌詞、メロディを大切に歌うことを心がけた」とMIKA。クラシックとMIKAの融合は、特別かけ離れたものではなく、自然の流れで進められたということなのでしょう。当初はライヴ・プロジェクトとしての企画でしたが、最終的にはアルバム『MIKAとモントリオール交響楽団』として発売することになりました。
「有名な交響楽団の120人のミュージシャンをバックにしてのコンサートはもちろん緊張した。オーケストラとのリハはたったの2時間だけだったからね。興奮したし、怖いぐらいの緊張を味わった。その怖さが気持ち良かったりした。僕はピアノに向かっての演奏だったのだけど、ピアノって、リードする楽器であり、リーダーになる楽器。パーカッションの要素もあるんだ。パフォーマンスはオーケストラがいるからといって制限はなかったよ。フロアーを自由に動いて、120人の前で歌っているというよりも、オーケストラの中に僕が入っている感じだった」とMIKAはその時の様子を話してくれました。そして「以前、ブライアン・メイが僕のショウを見にきてくれたことがあったんだ。僕は周りが言うほどフレディに似ているとは思っていないのだけど、僕の“ピアノでリードするパフォーマンス”に対して、フレディととてもよく似ているって言われたんだ。最高の褒め言葉をもらった気分だよ」と。
(編駐:デビュー当時に出演した番組で「Killer Queen」をちらっと演奏するMIKA→こちら / 審査員として出演していたThe Voiceフランス版で他出演者と「Bohemian Rhapsody」を歌う映像 / イタリアでの自身の番組で「I want to break free」を歌うMIKA→こちら)
アルバム『No Place in Heaven』に収録されている「Last Party」はフレディに捧げた曲と言われていました。「この曲のすべてではないけど、一部にそんな思いを入れ込んでいる。この曲は、30代の男として、音楽を作っているものとして、何が重要になっているのかという、コミュニケーションの手段を表した。複雑さを取り除いていくことの重要性かな」。MVは、カラフルでポップなMIKAのこれまでのイメージとは異なっています。ワンカメで撮られたシリアスな表情のMIKA。強烈な印象を残してくれました。「コンサートでも、デートをしていても、注目を浴びるのは何なのか、と突き詰めて考えたところ、何も飾らないことだって気づいたんだ」。
MIKAは、音楽だけでなく、ファッション、アートにも彼の世界観を展開しています。「今まで作り上げてきた世界観に僕は満足している。僕のユニークな世界が反映されているからね」というMIKA。完璧主義者独特のセンシティヴな一面も彼の魅力です。彼とクリエイティヴな世界で活動を共にしている人たちは、同じスピリット、同じアティテュードをもっている人たちであることが大事だと言っています。その中から、独特の世界観が生まれるのだと。
新作からは、すでに先行シングルとして「Ice Cream」「Tiny Love」が配信されています。「Ice Cream」は、MIKAのカラフルでブライトポップに溢れたサウンド。そして「Tiny Love」は、ピアノマンである彼の魅力とドラマチックなコーラスワーク、そして“僕は83年生まれのマイケル・ホルブルック〜“という歌詞から、新作に対するテーマが見え隠れします。MIKAの作品は、アルバム全楽曲を聴いてこそ、彼のメッセージが伝わってきます。今回は、自分自身のアイデンティティに立ち返った作品となっているのでしょうか? その想像が膨らみます。前回のインタビューで、「次のプラン?それは今は教えられない。2つのプロジェクトを考えているんだ。サプライズになるから、絶対に今は言えないよ」と笑いながら話をしていましたが、そのプランのひとつが新作であることは間違いないわけで、その新作に、どんなサプライズが隠されているのかがドキドキです。今からアルバムの到着が楽しみ!!
最後に、前回のインタビュー中に、自分のアー写にイラストを書き始めたMIKA。そのイラストを見ていると、彼のアートのセンスを感じることができたので、ぜひ見てください。
Written By 今泉圭姫子
MIKA『My Name Is Michael Holbrook』
2019年10月4日発売
CD / iTunes
今泉圭姫子のThrow Back to the Future』 バックナンバー
- 第1回 :U2『The Joshua Tree』
- 第2回 :バグルス『ラジオ・スターの悲劇』
- 第3回 :ジャパン『Tin Drum』(邦題:錻力の太鼓)
- 第4回 :クイーンとの出会い…
- 第5回:クイーン『世界に捧ぐ』
- 第6回:フレディ・マーキュリーの命日に…
- 第7回:”18 til I Die” ブライアン・アダムスのと想い出
- 第8回:ロキシー・ミュージックとブライアン・フェリー
- 第9回:ヴァレンシアとマイケル・モンロー
- 第10回:ディスコのミュージシャン達
- 第11回:「レディ・プレイヤー1」出演俳優、森崎ウィンさんインタビュー
- 第12回:ガンズ、伝説のマーキーとモンスターズ・オブ・ロックでのライブ
- 第13回:デフ・レパード、当時のロンドン音楽事情やガールとの想い出
- 第14回:ショーン・メンデス、音楽に純粋なトップスターのこれまで
- 第15回:カルチャー・クラブとボーイ・ジョージの時を超えた人気
- 第16回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」公開前に…
- 第17回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」サントラ解説
- 第18回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」解説
- 第19回:クイーンのメンバーに直接尋ねたバンド解散説
- 第20回:映画とは違ったクイーン4人のソロ活動
- 第21回:モトリー・クルーの伝記映画『The Dirt』
- 第22回:7月に来日が決定したコリー・ハートとの思い出
- 第23回:スティング新作『My Songs』と初来日時のインタビュー
- 第24回:再結成10年ぶりの新作を発売するジョナス・ブラザーズとの想い出
- 第25回:テイラー・スウィフトの今までとこれから:過去発言と新作『Lover』
- 第26回:“クイーンの再来”と称されるザ・ストラッツとのインタビュー
今泉圭姫子(いまいずみ・けいこ)
ラジオDJ、音楽評論家、音楽プロデューサー
1978年4月、湯川れい子氏のラジオ番組「全米Top40」のアシスタントDJのオーディションに合格し、この世界に入る。翌年大貫憲章氏とのコンビでラジオ番組「全英Top20」をスタート。以来現在までにラジオDJ以外他にも、テレビやイベント、ライナー執筆など幅広く活動。また、氷室京介のソロ・デビューに際し、チャーリー・セクストンのコーディネーションを行い、「Angel」のLAレコーディングに参加。1988年7月、ジャーナリスト・ビザを取得し、1年間渡英。BBCのDJマーク・グッドイヤーと組み、ロンドン制作による番組DJを担当。
1997年、ラジオ番組制作、企画プロデュースなど活動の場を広げるため、株式会社リフレックスを設立。デュラン・デュランのジョン・テイラーのソロとしてのアジア地域のマネージメントを担当し2枚のアルバムをリリース。日本、台湾ツアーも行う。
現在は、Fm yokohama「Radio HITS Radio」に出演中。
HP:http://keikoimaizumi.com
Twitter:https://twitter.com/radiodjsnoopy
Radio:Fm yokohama「Radio HITS Radio」