今泉圭姫子連載第5回:クイーン『世界に捧ぐ』

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ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第5回です。コラムの過去回はこちら


連載第5回:クイーン『世界に捧ぐ』

まもなく11月24日がやってきます。毎年やってくるこの日を、いまだに平常心で過ごすことができないでいます。きっとクイーンファンのみなさんも同じ気持ちでしょう。

2017年は、アルバム『世界に捧ぐ』(原題:News Of The World)の発売40周年にあたる年。寂しい気持ちは続いていても、70年代のクイーンを振り返る時間がプレゼントされたような、そんな気分も味わえそうです。

『世界に捧ぐ』は、1977年にリリースになったクイーンにとって通算6枚目にあたるオリジナル・アルバムです。邦題がかっこいいですよね。クイーンのアルバム邦題は、時にはオリジナル・タイトルの印象を上回るほど印象的なタイトルになっています。『オペラ座の夜』、『華麗なるレース』そして『世界に捧ぐ』と続き、オリジナル・タイトルの意味を損なうことなく、クイーンにぴったりの日本語がはまっていて、”これぞ邦題”というべきものでした。当時のレーベル担当ディレクターの松林天平氏は、文才のある方として知られていました。私が初めてクイーンのアルバム・ライナーを書かせていただいたのは81年発売の『グレイテスト・ヒッツ』。まだまだライターとして経験が浅い私に、ベスト・アルバムだから、クイーンへの思い入れの強い方に書いていただきたいと松林氏から連絡をいただき、新人だった私にチャンスが巡ってきたのです。

悩みに悩んで、原稿用紙に向き合い(当時は原稿用紙で手書きでしたよ〜)クイーンの思いをぶつけるような原稿を持っていくと、「これでは伝わらない」といくつかの指摘を受けて、小さなレコード室に通されて、1時間以上もこもって書き直しをした記憶があります。松林氏は「クイーンという大きなバンドの初のベストですから、何度も何度も書き直して、いいものにしましょう」と最後に言ってくれたこの言葉が今でも忘れられません。新人時代に厳しく接して頂いた経験は決して忘れるものではないのです。

『世界に捧ぐ』には、クイーンを象徴する楽曲「ウィ・ウィル・ロック・ユー」「伝説のチャンピオン」(この邦題も好きでした)が収録されています。ライヴのアンコールには欠かせない2曲として、そしてクイーンのライヴを締めくくる曲として大切な存在の楽曲です。実はクイーンは75年、76年と来日公演を行っていますが、『世界に捧ぐ』のリリース時には来日公演がありませんでした。ワールド・ツアーは行われていましたが、ヨーロッパと北米だけでした。私たち日本のファンが、アンコールにこの2曲を演奏するコンサートを観たのは、1979年4月のジャパン・ツアーからでした。つまり78年リリースの『ジャズ』発表後のツアーからだったのです。その後は81年、82年、85年とワールド・ツアーのたびに来日公演がありましたが、最後の「カインド・オブ・マジック・ツアー」は残念ながら来日公演は実現されませんでした。

さて、そんな2大ソングが収録されている『世界に捧ぐ』には、実は印象的な良い曲が多く収録されているんです。なかでも、ジョン・ディーコンが書いた「永遠の翼」は、「マイ・ベスト・フレンド」に続くジョンらしい暖かいメロディーの曲。彼のポップ・センスが光る曲です。ソングライターとしてメキメキ力を発揮し始めたジョンが、次作でついに「地獄へ道づれ」を世の中に送り出し、全米1位の快挙を成し遂げます。ブライアンの「オール・デッド」もシンプルなサウンドと美しいコーラスに包まれた良い曲です。そしてライヴでライティングをフルにいかしたパートで演奏される「ゲット・ダウン・メーク・ラヴ」もこのアルバムに収録されています。この曲は、フレディしか歌うことができないと思わせる難しい楽曲なので、あらためて聴くと特別な歌であることを感じます。そして大きなシングル・ヒットにはなりませんでしたが「イッツ・レイト」は、クイーンらしい壮大な曲です。アメリカで大ヒットした『ザ・ゲーム』の序章的な実験もありましたが、クイーンが新しい扉を開ける瞬間に発表したアルバムが『世界に捧ぐ』といえます。

発売40周年記念スーパー・デラックス・エディションには、オリジナル・アルバムにプラスして、CD2ロウ・セッションズ、CD3ボーナス・トラックス、そしてアナログ盤がセットになっています。特にロウ・セッションズは、アルバム制作過程のレコーディングされたテイクが収録されていて、フレディの歌い方がオリジナルとは違っていたり、メンバーの会話が入っていたり、ギターリフが違っていたり、オリジナルはブライアンが歌っていたけれど、フレディ・ヴァージョンで録音されている曲があったり、と新鮮な感覚が残るテイクが収録されています。まるで、すぐそこでレコーディングをしているかのような気分になり、フレディの生き生きとした歌声を聴き、また切なくなるのです。




そしてCD3は、BBCセッション、ライヴ・テイクなどで構成されています。ライヴ・イン・トーキョーとして1982年の「ウィ・ウィル・ロック・ユー」が収録されていますが、ロック・ヴァージョンは珍しいですね。また最新DVDとして私たちが見ることができなかった『世界に捧ぐ』のワールド・ツアーのドキュメンタリー映像「クイーン・ジ・アメリカン・ドリーム」も収録されています。まさに40周年記念盤ならではのスペシャルになっています、

(C) Chris Hopper

次回は11月です。命日に向けて偉大なるヴォーカリスト、フレディ・マーキュリーについて書こうと思います。


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『世界に捧ぐ(40周年記念スーパー・デラックス・エディション)』
2017年11月17日、全世界同時発売!!

名曲「ウィ・ウィル・ロック・ユー」「伝説のチャンピオン」「シアー・ハート・アタック」を生んだ、ロック史に燦然と輝くクイーンの歴史的名盤!


今泉圭姫子(いまいずみ・けいこ)
ラジオDJ、 音楽評論家、音楽プロデューサー
1978年4月、湯川れい子氏のラジオ番組「全米Top40」のアシスタントDJのオーディションに合格し、この世界に入る。翌年大貫憲章氏とのコンビでラジオ番組「全英Top20」をスタート。以来現在までにラジオDJ以外他にも、テレビやイベント、ライナー執筆など幅広く活動。また、氷室京介のソロ・デビューに際し、チャーリー・セクストンのコーディネーションを行い、「Angel」のLAレコーディングに参加。1988年7月、ジャーナリスト・ビザを取得し、1年間渡英。BBCのDJマーク・グッドイヤーと組み、ロンドン制作による番組DJを担当。
1997年、ラジオ番組制作、企画プロデュースなど活動の場を広げるため、株式会社リフレックスを設立。デュラン・デュランのジョン・テイラーのソロとしてのアジア地域のマネージメントを担当し2枚のアルバムをリリース。日本、台湾ツアーも行う。
現在は、Fm yokohama「Radio HITS Radio」に出演中。

HP:http://keikoimaizumi.com
Twitter:https://twitter.com/radiodjsnoopy
Radio:Fm yokohama「Radio HITS Radio」

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